後始末屋の特異点   作:緋寺

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異常なる増殖

 たった一晩で畑の周りに群れを成した蒼い彼岸花。穢れを吸い取るために増殖し、島に貢献している姿をテミスが気に入り、この島の象徴とするとまで言い出した。その光景を素晴らしいと絶賛しており、彼岸花の力も非常に有用だと期待している。

 そして、その効果を見込んで、クロトから生まれた場所の清浄化を深雪にお願いした。

 その場所とは、この島にある山の頂。種族問わず亡骸を投棄されていた凄惨な現場である。

 

「山のてっぺんって、今どうなってんだ? あたし達もある程度後始末したけど」

「どうなのでしょう……畑とかになっているわけではないと思うのですけど」

 

 山の森を後始末し、途中までみずなぎの面々と顔を合わせて、さらなる人海戦術をしたことがあったが、山頂がどうなっているかというのは見ていない。むしろ、それをやったのが10日は前のことであり、それ以降は水爆の解体があったり、地下施設を掃除したりと、そちらの方に構っていられなかったというのがある。

 

「うみねこが受け持ってたってのは聞いたかな。ね、シラクモ」

「はい、お姉様と別行動で後始末をしている時に、あちらの艦娘が山を登っていくのを確認しております」

「で、ちょっと聞いたらそっちの方やってんだって。うみねこ、いろんなところに手を出してくれてるよねー」

 

 今はどうかはわからないが、少なくともクロトがうみどりに保護され、供養の道を進むようになってからは、そちらの方にはあまり足を踏み入れていない。うみねこに任せっきりとなっていたのは間違いないので、一度そこは確認するべきだとは思われる。

 テミスは島の見回りをよくしているので、何も苦言を呈さなかったあたり、うみねこの後始末は的確で、かつ島のことを考えたやり方だったのだろう。

 

「流石にやらなくちゃいけないことは大概終わってると思うし、同じ後始末屋なんだから酷い状態で放置してるなんてこともないでしょ。今誰もいないとしても、かなり綺麗になってるんじゃないかな」

「ひとまず行ってみるか。今も誰かいるかもしれないしな」

 

 話しているだけでは進まない。まずは現場を見てから考えることにする。

 

 

 

 

 持っていく彼岸花の球根は、畑の時よりも少し多めに7株。手元に残っている分から半分を使うことにした。

 畑の繁殖を考えると、1株でもガンガン増えていって辺り一面を覆い尽くしそうにも思えるが、山頂は穢れの温床であり、かつ地中にある穢れまで吸い出そうとすると、1株では流石に足りないのではと考えてしまう。むしろ、つい最近まで亡骸が乱雑に放置されており、それが土壌に長い時間悪影響を与え続けていたのだから、畑以上に念入りにやっておきたい。

 

「周り以外は木とかもあんまり無いんだよな、ここ」

「なのです。捨てやすいように切り捨てられたのか、ただあまり無いからここに捨ててたのか……」

「どちらにせよ、花も植えやすいってもんだぜ」

 

 やってきた山頂は、木々に囲まれつつも、少し広めの空間が出来上がっていた。クロトが埋葬による供養をしようとしていた場所でもあるため、あの艤装が入れるくらいのそれなりの場所ではあるのだが、それでもやろうと思えばちょっとした広場にはなりそうな場所である。

 しかし、正直そこまで風景がいいとは思えない。島が一望出来そうな場所ではあるが、木が邪魔をしているため、そこまでいい眺めには出来なかった。それもあって、空間自体も少し鬱蒼としており、穢れも相まってこの場所に長居することを無意識に拒みたくなるような感覚に陥る。

 

「日が当たらなくても育つのかな」

「どうでしょう……畑とは勝手が違いますが、ただ吹雪様の念が込められた花でございますし、海中でも育つような花ですし……」

「そうだった。これ海の底でも普通に育つんだった。光いらないじゃん。洞窟でも育つんじゃないのコレ」

 

 確かにと深雪も納得した。この花、体裁は花であるがやはり何かが違う。意思を持っているような挙動もするため、花に似た何かという考え方の方がいいのかもしれない。

 

「とりあえず植えてみるか。広場のど真ん中でいいよな。ハルカちゃんもテミスもそうしてみようって話してたし」

「なのです。ぶわーって拡がっていくなら、真ん中の方がいいのです」

 

 その広場の中央。花畑の1株目として、彼岸花の球根を埋めた。そしてその周囲、少し離しながら、残りの6株も埋める。星のようなカタチを作るように埋めたそれは、水すら与えられないのはどうかということで、ここまで運んできたちょっとした水を軽くかけられる。

 

「畑の時と同じような感じで植えたわけだが……」

「アレと同じなら、ここから少ししたらすぐに育つのです」

「だな。流石に見てるってわけにはいかないから、少ししたらまた戻ってくるか」

「それがいいと思うのです。それに、さっきグレカーレちゃんが話してたこと、実践してみるのはどうでしょうか」

 

 電が提案したのは、洞窟のような場所でも育つのではないか、というところ。植えられる場所があるのならば、光の届かないような場所でも大丈夫という考え。

 洞窟といえば、あのラ級姉妹が生まれた洞穴。光があまり届かないそんな場所で、深海棲艦が生まれるくらいの穢れもあるのだから、そこにも1株は植えた方がいいのではと考えた。

 

「岩を突き破ってまで育つってことは無さそうだけど……いや、やってみないとわかんねぇな。しかも吹雪のお墨付きの花だ。多分常識的に考えちゃダメなヤツだよな」

「なのです。試す価値はあると思うのです」

「なら、一度うみどりに戻って貰ってくるか」

「なのです」

 

 この場所からうみどりに戻り、洞穴に行くまでにはそこそこ時間がかかる。その間に、山頂に植えた彼岸花が何か変わっている可能性もあるため、時間を置くという意味でも行動を開始。

 

 そして、この短期間で山頂がとんでもないことになることを、今この時から割とみんな予想出来ていた。

 

 

 

 

 山からうみどりへ。そして伊豆提督に事情を説明した後、1株を持って外に出たところでテミスと合流。洞穴にも植えてみるという話をしたところ、是非頼むと快く受け入れてもらい、かつ山頂にも植えた話をしたことで一度見てみようということになり、共にその場所に向かった。

 途中、慰霊碑広場建設に関わっていたクロトも、自分の生まれた場所の穢れを吸い取ってくれる彼岸花を植えた件がどうなっているか知りたいということで合流。そもそも植えることを頼んだのはクロトなので、その願いが叶っていることを心なしか喜んでいるようにも見えた。

 

「畑トハ違ッタカタチデ成長シテイル可能性ハ?」

「あり得るな。穢れの量が違う。畑も大概だけど、あの場所は供養してもしきれないくらいの穢れだったんだ。全部吸い取るにも時間が絶対かかるだろ」

「アア、ソレハ私モ予想ハシテイル。ダガ、コレデ少シハ嫌ナ空気デハ無クナッテクレレバイイ。弔イノ花トナレバイイガ」

 

 彼岸花を植えて、まだそこまで時間は経過していない。行って話して帰ってきて、少しゆっくりと向かっているくらい。畑の時よりも短い時間だ。しかし、穢れの量が段違いであるため、彼岸花も本腰を入れて穢れの除去に動き出している可能性は大いにある。

 それに、クロトが少し危惧している、畑とは違う育ち方をしているかもしれないという点。畑では島民の意思を汲み取り、畑を邪魔しないような群れ方をしてくれているが、山頂はそんなことを言っていられないような場所だ。

 

「あそこは短い時間でも育ちそうだよねぇ……もうあの広場埋め尽くしてたりしない?」

「無いとは言えませぬ。目の前で茎を伸ばした程なのですから」

「だよねぇ。今まさに増えてたりして……うん」

 

 言葉が尻窄みになったのも無理はなかった。山頂までの道を歩いているだけなのに、すでに山頂付近に()()()()が見えたのだ。

 

「ミユキ、あの空間のど真ん中に植えたよね」

「おう……端には植えてねぇよ。だから、道すがら見えるようなところには引っかからないはずだぞ」

「でもさぁ……あれ、確実に……」

 

 その場に行かずとも蒼が見えるということは、つまり、()()()()()()である。

 

「恐ロシイ繁殖速度ダナ。ダガ、ソノ分、穢レヲ無クシテクレテイルトイウコトナラバ、アリガタイコトダロウ」

 

 前向きなクロト。穢れから生まれた者かもしれないが、穢れが在り続けるのも困る。いつまで経っても供養は終わらず、むしろ新たな供養が生まれかねない。それを無くしてくれるのは万々歳だ。

 

「実ニ素晴ラシイ。島ノ悪性腫瘍ヲ取リ除ク、立派ナ島民デアロウ。余ハコノ働キニ敬意ヲ表スルゾ」

 

 テミスもこの在り方を受け入れ、島の未来を明るくしてくれる仲間だと認めている。自給自足を邪魔する穢れという悪性腫瘍を、ただ植えるだけで時間をかけてでも取り払ってくれるのだから。自分達の出来ないことをやってくれるだけでありがたい存在である。

 

「こんな短い時間で増えるってことは、ここの穢れが相当だったってことだもんな。むしろ、早々にやっておいてよかったってことだよな」

「なのです。放置していたら、また何か起きていたかもしれないのです」

 

 畑の時よりも短期間で増殖しているくらいの穢れなのだから、これ以上の放置はよろしくなかっただろう。それを取り除けただけでも良しと出来るはずだ。

 

 その光景が凄まじいものであっても。

 

 

 

 

 そして、山頂にまで登っていた一同が見たのは、たった7株から始まった彼岸花畑。

 山頂の空間を埋め尽くす程にまで増殖した、真っ青な花の海である。

 




それだけ穢れが酷いということである。
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