後始末屋の特異点   作:緋寺

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穢れを吸う花

 穢れを吸い取る彼岸花を植えた島の山頂は、予想以上に増殖を繰り返した彼岸花によって、真っ青に染まっていた。木々に囲まれて陽当たりが良い訳ではない広場が、少し離れていた時間でここまで覆い尽くされていることに、驚きを隠せない。

 それは、この場所に多過ぎるほどの穢れがあったことを意味する。亡骸の投棄場にされていたことから、集落の畑とは比べ物にならない程の穢れが土壌を汚染し続け、それを吸い出そうとした彼岸花が、短期間でここまでの成長をしてしまったようである。

 

 広場中央に植えた最初の株まで、足を踏み入れることが出来そうにないくらいの花畑。しかし、今深雪達がここまでやってきた山道の方には生えようとしておらず、むしろ周囲を歩けるように一定の幅を持ったスペースを用意しつつ、空間から少し離れたところから生え始めているほど。

 この島の民との共存を目指しているためか、本当に埋め尽くすようなことはしていない。空間は真っ青に染まっているが、だからと言って歩けない程というわけではないのである。

 

「すげぇな……本当に。こんな短い時間でコレって、目を離したらもっと増えるってことだろ」

「目を離さなくても増えそうなのです」

 

 電の言う通り、見ていたところでその仕事っぷりは変わらない。山頂の空間を埋め尽くした彼岸花は、少し手を伸ばして木々の隙間からも咲き始めている。地中で行われていることであるため、何が起きているかはわからない。しかし、確実にその数を増やし、周囲の穢れを吸い取る。それほどまでに、この地の穢れは多く、これでも全てを消し去るには相当な時間がかかると思われる。

 

「フム、本当ニ素晴ラシイ。コレホドマデニ穢レガアルコトハ気ニ食ワンガ、コノ者達ノ活躍ニヨリ、我々ノ出来ヌコトヲ確実ニ進メテクレテイルコトニハ、感謝シカナイゾ」

「コレダケ多ク咲クノハイイガ、花1ツデ吸イ出セル穢レニハ限界ガアルノデハナイカ?」

 

 クロトの疑問は当然のものであり、ぱっと見でもそれはどうなるのかと考えてしまうことである。

 

 花が咲き続けて、穢れを取ってくれているのは見てわかるが、彼岸花1輪がどれほどの穢れを取ってくれているのかはわからない。そして、咲いているだけで常に取り続けているのかもわからない。花の吸収量に限界があって、それを超える穢れがあった場合は増殖を繰り返すというイメージではあるが、ならば今咲いている彼岸花は役目を終えているということになるのだろうか。

 その場合、ある程度は摘んでいかなければ次の穢れを取ることが出来ない可能性もある。限界を超えた彼岸花は、枯れずにそこにそのまま在り続けるかもしれないが、そうだとしたらこの空間を埋め尽くすだけ埋め尽くした後、もう穢れを吸うことなくそこに鎮座し続けるということになりかねない。

 

 風景というところから無駄というわけではないものの、これ以上吸えませんという状況を作られるのは少々厳しい。

 

「今この花がどうなってるか、だよな。咲いてる状態でも穢れを吸い続けて、例えば、全然害がない何かに変えて、外に出してるとかだといいんだけどさ」

「あー、二酸化炭素吸って酸素に変えるみたいに?」

「穢れを吸って、新鮮な空気にしてくれてる、とかな。見てわかるモンじゃないけどさ」

 

 光合成の如く、穢れから別の物質を作り出して空気中に放出しているとかならば、彼岸花はこのまま放置でも問題はないだろう。むしろ、多くあればあるほど、その効率が鰻登りである。

 しかし、それが出来ていないとなると、穢れに相当する空間が必要だ。今のペースで行ったら、島全土を埋め尽くしても、下手したら足りない。となれば、剪定も確実に必要だ。

 

「なぁ、お前らってどうしていけばいいんだ?」

 

 意思があることをいいことに、深雪は試しに彼岸花に問いかける。今後どのように管理をしていけばいいか。

 妖精さんと同じように話が出来るわけではなく、妖精さんのようにジェスチャーで意思を伝えてくることも出来ない。特異点としての力で何かわかればいいかなぁ程度の行動である。

 

「……うん、わからん」

「流石のミユキも、花とお話は出来なかったかー」

「当たり前っちゃ当たり前なんだけどな」

 

 しかし、当然だがそれはわからない。わかるわけがない。意思は持てども花は花である。

 

 だが、ここで少しだけ予想外のことが起きる。それは、特異点の深雪ではなく、その特異点のサポート妖精さんである。

 カテゴリーWとして活動している深雪以上に、妖精さんという立ち位置から、彼岸花に近い場所にいた。そのおかげで、その意思を解読することが出来そうだったのだ。

 特機、忌雷の意思を読み取るかのように、彼岸花に寄り添って、耳を傾ける。すると、深雪のサポート妖精さんは小さく頷く。

 

「お、どうした?」

 

 サポート妖精さんから服を引っ張られた深雪は、導かれるままに彼岸花畑の中へ。足の踏み場も無いかと思われた場所だったが、よく見れば進めそうな場所があり、そこをずんずんと歩いていく。

 

 そして、広場の中心、最初に植えた7株へと辿り着いた。その彼岸花は、これだけ増えてもまだまだ元気いっぱいに咲いており、その色は瑞々しさまで感じるモノ。

 ここで、念の為持ってきている穢れを見ることが出来る眼鏡をかけるように示唆される。妖精さんがそうしてほしいというのなら、それを実現するのみ。

 

「えぇと……ん、見えるぜちゃんと。って、あ、そういうことか」

 

 眼鏡をかけて、彼岸花の表面をしっかりと確認見ると、それがわかる。その茎の部分、穢れをゴクゴクの呑むように脈動しており、そして花弁の部分がそれを浄化するように消滅させていた。

 眼鏡越し、かつ凝視しなければわからない挙動。イリスも畑の時に見ていたが、ぱっと見では気付かなかったレベル。むしろ、この場所の穢れが異常に多いこともあり、ここまでの脈動をしなければならないということかもしれない。

 

「咲かせっぱなしで、穢れをガンガン吸って消してくれるってことだな」

 

 サポート妖精さんはそういうこととサムズアップ。なので、剪定は不要、そのまま放置で大丈夫ということの証左である。

 これだけ大量に咲いているのは、地中に根深く刻み込まれている穢れを強めに吸い出すため。範囲も広いために多く咲いているに過ぎない。やはり、ここまでしなくては島の穢れは取れないということだろう。

 

「テミス、これ、このままでいいみたいだ。地面の中から穢れを吸い出して、この花びらが穢れじゃなくしてくれてるようだぜ」

「ホウ! ナラバ、コノモノ達ニハ好キニ彩ッテモラウトシヨウ。ドウシテモ摘マナクテハナラナクナッタ時ノミ、花達ニ感謝ヲ込メテ摘マセテモラウヨウニスルサ」

「それがいいと思う。今のままなら摘む必要も無いみたいだし、どうしてもって時が来るかはわからないけどな」

 

 彼岸花を摘むことは、余程のことが無ければ起きないこと。ならば、今は彼岸花の好きにさせるのが一番島のためになるだろう。

 

「どうなっていたのです?」

「花が茎使って地面の中の穢れをゴクゴク呑んでた。んで、花びらのところで呑んでた穢れがスーッて消えてってたんだよ。アレかな、花びらんトコで浄化してんのかな」

「かもしれないのです。電達がお風呂に入るようなことを、花の中でやってくれているのかもですね」

 

 そう見ると、彼岸花の花弁部分が顔になり、茎がストローのように見えてくる不思議。

 

「ふーん、花で浄化かぁ。それじゃあさ、その花の部分、薬か何かにしたら、身体の中の穢れとかも取ってくれそうだね。直に身体に効く! みたいな」

 

 そんなグレカーレの発言に、深雪は苦笑する。彼岸花が毒であることはちゃんと聞いており、口に含むのは御法度。根や茎は特に強いが、花弁だって安全なモノでは無い。

 

 だが、この効能──穢れを吸うという力を体内に使うことが出来れば、もしかしたらカテゴリーYを元に戻すことすら出来るかもしれない。研究し甲斐のあるアイテムであることは間違いない。

 その毒性を抜くことが出来て、口に含んでも問題がなく、実験に実験を重ねたら、もしかしたら。そういう薬として運用出来るかもしれない。

 この戦いの後、いや、最中であっても、この彼岸花を研究し始めることは、何かに繋がるのではないだろうか。

 

「ねえねえ、ここで咲いたの、1輪持っていかない? 今後のためにさ、アカシに研究してもらうっての、どうかな」

 

 グレカーレのその提案に、他の者達はいいのだろうかと少し悩む。せっかく増えたこの彼岸花、今後のためという名目があるが、摘んでもいいものか否か。

 

「余ハ構ワント思ッテイル。ソレガ貴様ラノ望ム結果ニ繋ガルカモシレナイノナラバ、ヤッテミルトイイ。コノ島ノ先代ノセイデ、本来ノ生キ方カラ逸ラサレタ者達ノタメナラバ、コノ花ノ持チ主モ、快ク提供スルダロウ。他デモナイ、貴様ラナノダカラ」

 

 吹雪でも同じ問いをされたなら、二つ返事でいいよと言いそうではある。そして、この島の王となる者も同じように許可を出した。ならば、お言葉に甘えて、1輪摘んでいきたいところ。

 

「じゃあ、持っていかせてもらうか。良さそうか?」

 

 サポート妖精さんに尋ねると、小さく頷いた後、これがイイと最初に植えた7株のうちの1輪を指し示した。

 おそらく、ここで最初に咲いたことで、穢れを吸収することに最も熟れているから。

 

「悪いけれど、困ってるみんなのために使えるかどうか、調べさせてくれ」

 

 断りを入れてから、1輪を摘む。パキリと小気味イイ音と共に、彼岸花を1輪手に入れることになった。

 だがそれだけでは終わらない。折れた茎がすぐさまニョキニョキと再生し、新たな彼岸花へと成長していったのだ。

 

「えっ、おま、これ、無限に咲くんじゃないのか……!?」

 

 これをすぐさま摘むことは無いだろうが、新たに咲き変わった彼岸花は、相変わらず地中の穢れを吸い出して、無害なモノへと変換し始める。凄まじい光景に、深雪は呆気に取られるしかなかった。

 

 

 

 

 特異点の彼岸花の凄まじさを、改めて実感させられることとなった。そしてここで摘んだ1輪が、新たなステージへと導くことになる。

 




彼岸花の毒性は有名だけれど、漢方にもなってるらしいですね。
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