裏側で特異点の彼岸花の調査が始まった頃、深雪達は最後の7株をどうするか迷っていた。勿論だが全部植える必要はないし、山頂の大増殖を考えると、そこから一部を植え替えるということをしてもいい。いくつかは念の為残しておくということも考えられる。それこそ、1つは研究に使うというのも。
とはいえ、球根を調べて特異点の力が追求出来るかと言われても、まず無理だろう。特異点の力は、あまりにもオカルトが過ぎる。普通の技術力では及びもつかないことばかりだ。
それでも解析して黒深雪に移植されているのだから、出洲は研究者としては超がつくほど一流なのだろう。悔しいことに。
「さて、どうすっかね。陸にはまだまだ植えるところは沢山あるぜ」
「陸は陸で、今ある分を増やすだけでもいいかもなのです」
今は洞穴の彼岸花がどうなったかを見に向かっている最中。山頂はこれ以降の流れが読めるため、また後からとして、陽の全く当たらない場所での育ち方、しかも1株のみを植えた状況を確認する。
それを見た後は、残った7株をどうするかを本格的に考えることになる。植える場所が思い浮かばないなら、これはこの島で保管しておいてもらうというのが良さそうではある。
「いっそ海の中とかもいいかもねー。ミユキとイナヅマは中見てきたんだし、どっか植えたほうが良さそうってところなかった?」
グレカーレの提案は、吹雪達が育てているように、海中、海底に植えるということ。陸の穢れは酷いものだが、海中も相当である。今でこそ残骸の後始末が殆ど終わっているということもあり、この島に戻ってくる時の雰囲気が良くなっているように感じたが、海中となると話が変わるかもしれない。
そもそも、海中だってこの島と地続きなのだ。山頂から染み込んだ穢れが、地下水路などを伝って海底にまで届いてしまっている可能性も高いし、そもそも残骸が投棄されていたのは海底も同じこと。そういう意味では、陸と同じように酷いことになっている。
「あー……あるな、うん、ある。深海棲艦の亡骸が埋まってた穴とかあったんだよ。あれ、ここで生まれて、そこから出られずにそのまま死んじまったってタイプだと思うんだよな。つーことは、そこの穢れはすげぇってことだろ?」
「確かにねぇ。それ、どの辺?」
「港の辺……だったはずだ。地下施設の外壁が出ちまっててさ。で、残骸も酷いことになってたんだよ」
「じゃあもう決定じゃん。海の底に植えていこうよ。あたしとシラクモには出来ないことだけどさ」
満場一致で、残りの株を使う場所が決まった。後はそれを伊豆提督に報告し、正式に決定したら実行するのみ。
とはいえ、まずは洞穴の具合である。これで上手く咲いていなかったら、海中でも育たないということになる。
だが、それは杞憂に終わった。
「なんと、素晴らしい」
白雲が感嘆の息を吐いた。洞穴の入り口辺りから蒼がチラつき、奥に向かえばそれが認識出来た。洞穴の中、陽の光がほぼ届かないその場所で、たった1株から始まった彼岸花は、既に群生と言える域にまで増殖していたのだ。
一面が埋め尽くされるとまでは行かない。山頂とは違い、根を伸ばすことが出来る場所ばかりというわけではないから。だが、余程硬い岩場でなければその根を伸ばし、そこから穢れを吸い出すために凛と咲く。
「すげぇな……やっぱここも穢れが多かったか」
「なのです。この場所はそれはそれで穢れの温床みたいになってしまっていたと思うのですが、彼岸花のおかげで大分変わっているのです」
眼鏡で確認すると一目瞭然。表面上の穢れは、殆ど見えないと言っても過言ではない。地中はどうしても見えないため彼岸花頼りになってしまうのだが、凝視すればその茎が地面から穢れを吸い出していることも確認出来た。
「時間をかければ、この場も穢れ無き場となるのでしょう」
「ああ、全く、こいつら様々だぜ」
彼岸花を労うような言葉を出すと、それに反応するかのように群生した花達が風に身を揺らす。
特異点の、島民の労いは、彼岸花達の活力にもなるだろう。その優しい願いを叶えるため、出来ることは穢れを無害化するのみだが、それが今最も必要なこと。
「これでわかったな。陽の光が届かなくても、こいつらは育ってくれる。あたし達じゃあ出来ない、手が届かない場所の穢れも取ってくれるってことだ」
「だねー。じゃあ、やっぱり海の中がいいんじゃない?」
「なのです。陸も海も、全部綺麗になってもらいましょう」
これにより、この島の穢れを消すための最後の作業が決定した。
その足で何度目かわからないうみどりの帰投。そして、伊豆提督に彼岸花の株の最後の使い道を伝えると、可能ならばそれがいいと快く許可。ただ1株は念の為残しておこうということになり、6株を海底に植えることとなる。
深雪と電が直々に植えに向かうということで、深海棲艦化の後、水着に着替えて登場。これにはグレカーレも白雲もニッコリである。
「相変わらずお美しい……実用性の中にお姉様の美しさが凝縮されているのですね」
「イナヅマもいいねぇ。後から揉んだろうかな」
「やめれ。お前掴んだまま海ん中行くぞこの野郎」
「流石にWになってても海の中はダメなんだよなぁ。そこはやっぱり特異点特権だよね、うん」
やんややんやと騒ぎ立てているが、ここからは海の中の作業。グレカーレと白雲は海上からその場所を確認することになり、深雪と電は早速海中に潜っていく。
そこでは潜水艦隊の面々が話を聞きつけて待ち構えていた。海の中に花を植えるという、後始末屋としても前代未聞のことを実行に移すのだから、興味が無いわけがない。
「さっき陸の洞穴でも育つことは確認してんだ。海の中でも行けると思うぜ」
「ん、私もそれは行けると思う。吹雪の彼岸花見てるし」
「フーミィはそうだったな」
しかし、伊203はあまりいい顔はしない。触手が敵を絡め取って海底に引き摺り込み、そのまま肥料に変えて育つところを見ているのだから。それはこの場では口にしなかった。行動が遅くなりそうだから。
『花の球根を海に植えるなんて、初めて見ます!』
『すげー! じゃあ、海ん中が花畑になるってことか!?』
潜水艇で来ているみずなぎの択捉と佐渡も、初めての作業に少し興奮気味。ただ残骸を片付けるのではなく、花を植え、そして穢れを取るだなんて、ここまでの活動の中でも聞いたことがない。
「海藻以外で海の中に生えてる植物なんて聞いたことがないでち。それも、ちゃんと花が咲くんでちよね?」
「おう、しかも、結構な数が咲くと思うぜ」
「すごいですって! そのおかげで、この島も綺麗になるんですって!」
伊58と呂500も興味深そうに球根を見ていた。見た目は普通の花の球根なのだが、それは植物のような別の何か。触れたところで違うようには思えないのだが、やはり特異点の使う未知のモノであるため、細かいことは考えないことにした。
「レーナ、鮫、あたし達がここから離れることになったら、海の中はお前らに管理してもらうことになる。こいつらの世話、よろしく頼んでいいか?」
「任せて。アタシは割と数少ない潜水艦みたいだし、世話って言っても、変な風に育ってないか見るだけでしょ」
「なら、あたいにも出来るか。定期的に見て回ればいいなら、うん、あたいやるよ」
元より協力的なレーナと、この島での活動で改心した鮫は、島民である潜水艦として、海中の彼岸花の管理人となる。陸の者達には出来ない仕事を与えられたということで、少しやる気が表に出ている。
「まずは穢れが特に多いところにやりたい。となると、やっぱ港だよな?」
「そう、あそこは酷いから、早く綺麗にするならあそこからがいい。植えにくかったら、少し魚雷で耕す」
「あー、うん、陸と違ってふかふかな土ってわけじゃないんだよな。最悪、魚雷でちょっとやるか」
物騒ではあるが、確実ではある。港が壊れなければそれでいい。手作業だと難しいところも、今は人数もいるし、潜水艇の力もある。やろうと思えばいくらでもやれそうだった。
現場は港の海底。伊26の『ソナー』によって良さげな場所を探しつつ、スキャンプの『スクリュー』による水流で、邪魔なモノは少しどかし、ちょうど良さそうな土の場所を作り上げる。
ここが海底の彼岸花畑の基点。ここからどんどん増えていくことになる。
「基本的には、一度植えたらそこまで気を遣わなくてもいい。ただ、よろしく頼むって気持ちだけは持っていてほしい。こいつらは、あたし達に出来ない穢れ取りをやってくれるんだ。感謝はしておこうな」
「花を人間みたいに扱うんだな」
スキャンプが何処か訝しげな目で言う。相手が妖精さんだったりすれば感謝というところに行き着くだろうが、彼岸花は植物である。その気持ちが少し乗りづらい。
「そりゃあな、こいつら花だけど意思みたいなモンがある」
「マジかよ」
「大マジだよ。畑に植えたら、人が通れるような道を残しつつ、畑の中に入り込まないように育ってんだぞ。山のてっぺんに植えた時も、全部埋め尽くすんじゃなくて、ちゃんと足を踏み入れる場所を作ってくれてる。こいつら、ちゃんと考えてんだよ。妖精さんがその意思を汲み取れるみたいだしな」
「じゃあ、カタチの違う妖精さんじゃねーかよ」
確かになと深雪は笑った。彼岸花はカタチの違う妖精さん。特異点の力によって生まれた、妖精さんの力を持った植物であり、どのような形状となってもその力は遺憾無く発揮出来る。
「特機みたいなモノって思えば納得は出来る」
「まぁ、そうなる、のか……? いや、深く考えるのはやめる。特異点って時点で考えるのが面倒臭ぇ」
「その方が早い。納得が難しいなら。理論的に考えない方がいい」
伊203ですら、スピーディーに納得するために、深く考えるのをやめている。それが特異点の力だとして。
「じゃあ、植えるぜ。みんなも願ってくれ。ここの穢れが無くなりますようにってな」
6株の彼岸花が海底の基点に植えられた。優しく土を被せ、あとは育つのを待つだけとなる。
『深雪さん、これ、どれくらいで育つんですか? 私達がここから撤収する前には見られるといいなって』
「それは大丈夫だ。島をぐるっと回って、戻ってきたら咲いてるだろうよ」
『早すぎません!?』
択捉もそうだが、潜水艇の海防艦達は、もう言葉も無かった。それもまた、特異点の力である。
彼岸花畑最終章。海の中に群生させることで、ひとまず穢れ取りについて決着がつきます。