後始末屋の特異点   作:緋寺

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潜入方法

 軍港にやってきたおおわしは、ここで少しだけ休息の時。これから行なわれる超難関の調査のために、一息入れる。

 実際にその調査を実行するのは諜報妖精さんではあるのだが、まず襟帆鎮守府の近くまで組織全体で移動すること、そして妖精さんを安全に送り込むことが、最初の難関。

 襟帆鎮守府がどれほどの守りに徹しているかはわからず、また、所属している艦娘の半数がカテゴリーKということもあり、こちらの知らない未知の力を持ち、接近を感知してくる可能性もある。

 

「空から向かうのはまずやめた方がいいな。ンなモン、撃ち墜としてくれっつってるようなモンだ」

「最寄りの鎮守府に停めさせてもらうのも危険でしょう。私達はまだしも、その鎮守府が危険に晒される可能性があります。海から行けるという利点も、相手が相手なので危険です」

 

 軍港都市で手に入れた土産物を食べながら、昼目提督と秘書艦鳥海が策を巡らせる。今は阿手の研究成果からは離れて、この作戦を確実に成功させるために力を尽くしていた。

 

 襟帆鎮守府がどれほど周辺警戒をしているかはわからない。今でも侵入を防ごうとセンサーを張り巡らせているかもしれないし、襟帆提督自身が上手く隙間を作ってくれているかもしれない。その辺りが全く見えてこないというのもあり、攻め方は慎重に行かねばならなかった。

 空路は論外。そんな目立つ向かい方は、狙ってくださいと言っているようなモノだし、今から侵入しますよと宣言するようなモノ。海路も難しい。おおわしを近海、もしくは最寄りの鎮守府の近場に停留させたとしても、相手はこちらと同様、海が主戦場の者達だ。返り討ちに遭う可能性だってあり得る。

 

「となると、やっぱ陸路だな」

「はい、それしかありません。襟帆鎮守府の近くの地図は調べてあります」

 

 そう言う鳥海は、タブレットに地図を表示させた。

 

 基本的には、鎮守府周辺にはどのような建物も置かれていない。そこが戦場になる可能性があるのだ。一般人が危険に巻き込まれてしまっては困る。守りながら戦うことも難しいのだから、最初からいてもらわない方がいいだろう。

 それが逆に、侵入者避けとなっている。近付くモノがすぐにわかるため、慎重に行こうにも、間違いなくバレる。何か用がある者でなければ、受け入れられることもなく、警戒態勢を敷かれた挙句、最悪始末まで考えられる。

 

 そして、襟帆鎮守府の周辺がどうなっているかと言えば、やはり何も無いというのが一言で表せる言葉になる。

 軍港鎮守府のように、あえて人通りを良くしているような立地ではなく、完全な海沿いであり、さらには少々岬のような場所に建てられているようで、鎮守府に向かう道は1本だけである。

 

「……まぁ、やり方はあるか。ただなぁ、オレぁ顔が割れすぎてる」

「そうでなくても、ここまで人相の悪い業者というのはちょっと」

「違いねぇ」

 

 その道を最も使うであろう存在は、鎮守府にいろいろと運び込む業者だ。外れの方に建つ場所となれば、自ら物資を手に入れに行くようなこともおそらくない。鎮守府で生活する者達は、滅多なことでは外に出ず、運び込まれた物資によって生活しているだろう。

 そして、海経由で物資を運ぶことはほぼ無い。艦娘達が活躍しているとはいえ、海路を物流の要にすることは、万が一のことを考えるとあり得ない。安全な陸路があるならそちらを使う。

 

 そのため、考えられたのはその業者を装って近くまで行き、そして物資に紛れさせて諜報妖精さんを送り込むこと。

 しかし、調査隊であり、秘密裏に動く事が多いとはいえ、ここ最近の活動のせいで、あちらには昼目提督の顔が完全に割れている。強面の彼は、変装も何も出来たモノではない。

 

「となると……民間に手伝ってもらうことになっちまうのか」

「危険ですが……それに、いつ業者が入るかもわかりません。そのあたりから調査になりますね」

「だな。そもそも、その業者が鎮守府の近場にあるかっつー問題もある。流石に遠くは無ぇだろうけどな」

 

 例えば、1週間に一度、物資を運び入れるというタイミングを使わせてもらうとかになるだろう。だが、まだ懸念点はある。

 

「各地に賛同者がいる……でしたっけ。伊豆提督が仰っていました」

「ああ、そこなんだよ。だから、その業者も怪しいんだよ。全部が出洲と関係持ってんじゃねぇかなって、どうしても思っちまう」

 

 一般人ですら、出洲の手の者なのではないかということ。カテゴリーKだけでなく、出洲の信念に賛同する者はまだまだいる。

 そもそもが、艦娘の配属担当が出洲一派の一員である可能性が非常に高い点からして、ただの人間であっても疑いの目を向けなくてはならない。それこそ、軍港都市に住まう者の中にも、いるかもしれないのだ。

 

「あんだけ隠れて研究を続けるってヤツが、自分の周りに賛同者以外を置くとは思えねぇ。まぁ、襟帆は従ってるフリをしてるだけみたいだけどな」

「だとしても、叛旗を翻すのは無理なのでしょう。だからこそ、秘密裏にメッセージを送ってきたくらいなのですから」

「その辺りに詳しいヤツがいりゃあいいんだけどな」

 

 お菓子を口に放り込んで、腕を組んで天を仰ぐ。どうしたものかと頭を巡らせるが、考えれば考えるほど隙がない。

 しかし、襟帆提督自身が、息子に声をかけてと伝えてきたのだ。間違いなく隙がある。いくらなんでも、出来ないことは言ってこないだろう。

 

 そう悩んでいる時、突如通信端末が鳴り響く。おおわしに連絡をしてくる者となると、かなり数が限られてくる。

 

「ん、誰だ……って、こりゃあ……」

「有栖提督……?」

 

 その連絡相手は有栖提督。大本営、瀬石元帥の懐刀。デキる男であることは証明済み。

 そんな彼から連絡が来るという非常に珍しい状況に驚きつつ、昼目提督はそれを受け取る。

 

「あいよ、こちらおおわし」

『有栖だ。今、大丈夫だろうか』

「ああ、問題ない。そっちから連絡してくるなんて珍しいじゃねぇの」

 

 タブレットで顔を見ながらの通信。有栖提督は眼鏡を少し上げながら、しかし軍港で顔を合わせた時より幾分表情が柔らかく見えた。何故なら、近くに愛娘である桜の姿がチラリと見えたからである。

 そこまで大切な通信ではないという体裁を見せつつも、真剣な表情であることには変わりない。むしろ、そんな相手がこうして連絡をしてくること自体が、重要な案件である事を物語っている。

 

「お、桜が元気そうで何よりだ」

『ああ、ここでの生活も楽しんでくれている。また後でいいが、治療方法の進捗も教えてほしい』

「あいよ。まぁ、オレもこれは又聞きに近い部分はあるけどな。ひとまず、本題入るか」

『ああ』

 

 桜の話で花を咲かせたかったが、今の本題はそれではない。

 

『襟帆鎮守府に対して調査を仕掛けると聞いているか、間違いはないか』

「おう、間違いねぇぜ。今どうやって仕掛けるか考えてるところだ。業者に紛れようかと考えてんだけどな、それも息がかかってるかもしれねぇだろ」

『流石は調査隊だ。その通り、襟帆鎮守府に出入りしている業者にも、出洲の息がかかっている』

 

 やっぱりと舌打ちをするが、気になるのはそこではない。

 

「おう、その情報、どうやって手に入れたよ。オレ達がまだ動いてねぇってのはあるが、タイミング良すぎやしねぇか」

 

 有栖提督側も、打倒出洲のために動いてくれているのはわかる。瀬石元帥に代わって、さらに秘密裏に動くことすらあるだろう。

 だが、出洲一派の賛同者が一般市民の中にもいるという情報が手に入って僅かな時間で、調査隊が欲しい情報をいち早く手に入れているというのは疑問を覚えるところ。

 

『確実に信用が出来る……()()()()()()()からの情報だ』

「ジャーナリストだぁ? それこそ部外者……いや、ちょっと待て、そのジャーナリストってまさか」

『ああ、お察しの通りだ。襟帆提督の夫、鎮守府とはあまり縁のないところで働いている彼のことだ』

 

 まさか自分に接触してくるとはと、有栖提督自身も複雑な表情をしていたが、今はそれが信用出来る情報だと考え、調査隊にも情報共有をしているということである。

 

「襟帆の旦那が、危険を覚悟でリークしてきたってことかよ」

『裏で動こうとしていることを、妻に教えてもらったのだろう。唯一外で行動している者だ。行動力が違う』

 

 そこは感心出来るところではあるが、まずその情報が手に入ったというところから、どうしていけばいいのかはここから。

 

『全てに出洲の息がかかっているわけではない。隙がないというわけではないということを教えてもらえた。それ自体が罠だと言われたら話にならないが、信憑性のある情報だ。故に、信じることとした』

「そうかい。例えば、食い物のところは息がかかってるが、雑貨のところにはかかってない、とかか?」

『まさにその通りだ。その隙をつくべきだろう。その情報を後からそちらに送る。そこから上手く入り込ませてくれ。そちらも、()()()()を使うのだろう』

「おいおい、それも知ってんのかの。マジであの爺さんに信用されてんのな」

 

 作戦としては、鎮守府に出入り出来る業者が運ぶ物資の中で、出洲の息がかかっていない雑貨類の荷物の中に諜報妖精さんを忍ばせ、現場に侵入させるということになる。

 成功するかはまだ何とも言えない。しかし、手段はこれくらいしかないと言っても過言ではない。

 

『以上だ。業者の情報はこの後送る』

「おう、ありがとな。上手く行くように願っててくれや」

『そうさせてもらう。特異点に願えばよかったか?』

「へへ、優しい願いなら叶えてくれるらしいぜ」

 

 

 

 

 非常に危険な任務だが、進めないわけには行かない。ここからが勝負どころである。

 




動き出したのは、調査隊だけじゃない。
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