後始末屋の特異点   作:緋寺

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調査隊最大の任務

 有栖提督からの情報提供により、諜報妖精さんは出洲の息がかかっていない雑貨類の荷物に身を忍ばせ、業者に運ばせて鎮守府に潜入することとなった。

 ここからは妖精さんの一人旅となり得るのだが、ここでそれ相応の準備も必要になる。ただ送り込むだけではなく、連絡が取れるようにすること、戻ってこれるようにすること、安全に事を起こせるようにすること、ここが大事である。

 

「まず何の雑貨を業者に頼んでいるかっつーのがあるが……」

「情報来ました。日用品ばかりですね、当たり前ですが」

「そういうところは、オレ達と何も変わらねぇっつーことだな」

 

 有栖提督から送られてきた業者の情報を一通り眺めると、その品々は特別なモノなどない。わかりやすい消耗品ばかりである。人が人として生きるために最低限必要な、それこそおおわしでも使われているようなモノ。

 ティッシュペーパーや洗剤、生活用品の数々が並べられているところに、何だコレはと感じるモノは何一つとしてない。

 

「ここからどうやって忍び込むか……だが、簡単なのは段ボールの中に入ってもらって輸送するくらいか」

「むしろ、それしかありませんね。ギリギリまで荷物として向かってもらって、現場に到着したらそこから行動になるでしょう」

「荷物の検査でバレるってこともあるな……あっちはその辺も慎重じゃねぇか?」

「どうやっているかわからない以上、あらゆる危険は考えておいた方がいいでしょう」

 

 例えば、入ってくる荷物をセンサーなどで管理しているとかがあるならば、その時点で存在がバレるというのもある。少なくともおおわしではそのようなことはやっていないが、襟帆鎮守府はどうかわからない。それも加味して、潜入も慎重にいかねばならないだろう。

 

「偽装用の段ボール……あったか?」

「はい、諜報妖精さんのためのアイテムはいくつか作ってありますから。秘密裏に」

 

 調査のためにいろいろな道具を用意しているおおわし。使わないに越したことはないが、あればあったで役に立つこともあるだろうと。

 今回の段ボール、使用するのは初めてのこと。諜報妖精さんの力を借りないといけない調査が一度も無かったということはないが、それを使って妖精さんだけ先行させるということは一度も無かった。万が一のためにと準備していたモノは、ここで大いに役に立ちそうである。

 

「すぐに準備するぞ。業者が鎮守府に入るのがいつかって決まってたか?」

「それについては有栖提督から伝わって……いえ、提供された情報の中に、追記されていましたね……。2日後……だそうです」

「なら、早いうちに準備しねぇとダメだな。その業者に荷物運んでもらわねぇといけねぇし」

「ですね。すぐやりましょう」

 

 2日後に鎮守府に潜入するためには、今日中、遅くても翌日朝には、雑貨に紛れ込ませなくてはならない。準備は一刻を争う。

 

 おおわしが慌ただしくなる。だが、これは勝利のための布石。最大の戦果を上げるためには、やらねばならない。

 

 

 

 

「これを運べばいいんですね」

「ああ、場所はそこに書いてある。頼めるか」

「問題ありません」

 

 準備を終えた昼目提督は、その荷物──違和感なく溶け込んだ段ボール1つ──を、神通に渡した。持った感覚はそこまで重くなく、しかし軽いわけでもない。また、内側で荷物が偏っているというわけでもない。触り心地も何も変わらず、普通の荷物である。

 これが、諜報妖精さんのために作られた潜入用段ボール。小型のコンテナというわけではないが、息を潜めて周囲に気取られないようにすることを可能にするため、出来る限り快適に設計されている。

 

「あまり揺らさない方がいいですね。中には妖精さんが入っているのですよね?」

「ああ、その重さも分散されるように出来てる。持ってもわからねぇだろ」

「ですね。これは、現地で乗り捨てですか」

「回収は難しいだろうからな。ここからウチの技術をパクられる可能性が無いとは言わねぇが、可能なら持ち帰ってはもらうだろうよ。最悪、燃やしゃいい」

 

 それが出来るかはさておきと前置きするが、この段ボールは基本使い捨て。痕跡を残さないようにするのは、諜報妖精さんの腕の見せ所。潜入したことがバレたとしても、見つからなければどうということはない。

 襟帆提督が既に宣戦布告しているのだ。あちらは何をされてもおかしくないと考えているはず。それも込みにすれば、警戒態勢はかなり強めだろう。しかし、それ専門の妖精さんがいることは、おそらくは知らない。その警戒の隙間を縫うことだって出来るはずだ。

 

 神通はその段ボールを貰い、軍港都市で借りたレンタカーにそれを載せる。ここからは少しだけ別行動。荷物を業者に運ぶだけ。

 軍用の車で行ったら警戒されるし、何事だと思われるだろう。だが、レンタカーであれば、それが軍の作戦の一環であるとは思われにくい。雑貨の業者からの忘れ物、もしくは追加で注文を受けたなど、いろいろな言い訳が考えられるようにしてある。

 神通も今は艦娘と思われないような私服姿であり、髪型なども変えている。あくまでも荷物運びのお姉さんという体裁を取り繕っている。真正面から堂々と行っても、誰かがわからないくらいには。

 

「では行ってまいります。すぐに帰ります」

「おう、頼んだ。何かあったらすぐに連絡しろよ」

「勿論。私とて調査隊の端くれですので。逆に、連絡が無かった場合は」

「すぐに救援を出す。よろしく頼むぜ」

 

 神通が車に乗り込み、そしてこの場から去っていく。迅速に、そして丁寧に、その仕事をこなしてくれるだろう。

 

「私や白雪では出来ない仕事だね」

 

 神通が向かった後、その様子を見ていた響がニュッと首を出してきた。その後ろには白雪の姿もあった。

 この大事なミッション、調査隊の中で気にならない者はいない。しかも、あの段ボールを初めて使うというのだから尚更だ。

 

「妖精さん潜入ミッションとか、面白そうじゃないか。私がピッキングを教えた甲斐はあるかな」

「私もハッキングを少し教えていますよ。アナログもデジタルも万全だと思います」

「だね。でも、まずは中に入り込めるかどうかだよ。それには私達の技術とかあまり関係ないからね」

 

 何処かワクワクしているような口振りの響に、昼目提督は少し呆れていた。鳥海も苦笑している。

 

「私が免許を持っていたら、確実に行ったのに」

「お前だと見た目からして捕まるんだよ。ガキンチョなんだからな」

「そこなんだよ。艦娘の厄介なところだよね」

 

 実年齢はさておき、見た目だけなら中学生である。車の運転なんてしていたら、まず間違いなく厄介ごとになる。

 それに比べて、神通は大学生ですということも可能。しかも、今の顔で免許証を()()してあり、これが罷り通るように裏で全て準備してある。

 任務中は法を超越出来るという調査隊でしか出来ない裏技みたいなモノだが、流石に見た目だけはどうにもならないため、車を運転する者は数が限られているのだが。

 

 なお、響はこの女子中学生のような外見で、平気で酒を飲んだりする。実年齢はヒミツと絶対口外しないが。

 

「あとは待つだけだ。何事もないことを願ってろ」

「了解。神様仏様特異点様に願っておこう。何事もなく作戦が成功しますようにとね」

「特異点大人気だな」

 

 もう、優しい願いならば神や仏より面識のある特異点だという認識が拡がっているようだった。

 

 

 

 

 諜報妖精さんが入った段ボールを輸送するために、独りおおわしを離れて運転中の神通は、どうしても緊張感からは逃れられなかった。

 業者に急にやってきて、これも一緒にお願いしますというだけ。ただそれだけでも、そこから作戦がバレる可能性が無いとは限らない。出洲の息がかかっていないところだからこそ、逆に違和感を覚えられたら困る。

 

「……これまでにない作戦ですからね。正面から向かって全員薙ぎ倒す方が余程簡単ですよ」

 

 その独り言の物騒さに、自分で言って苦笑する。

 

 そんな神通に向けてか、荷物の段ボールの中から、小さな音が鳴る。短音と長音、モールス信号だ。

 

『はこんでくれればいい』

『そこからは、おれのしごとだ』

 

 何処かクールな諜報妖精さんの言葉に、神通は頼もしさより面白さが先行した。クスリと笑みを浮かべた後、神通はその言葉に返す。

 

「ええ、勿論。私の仕事は、貴方を確実に送り届けること。そこからは、貴方に任せるしかありませんからね」

『ああ、まかせろ』

 

 諜報妖精さんのやる気は誰よりもあるようだった。ここまで重要な任務は、調査隊史上でも無かったことだ。緊張感よりも、その難易度に対しての期待が大きい。

 成功させた時の喜びは、コレまででは考えられないくらいの興奮になるだろう。失敗した時は命の保証はないが、それもまたスリルとして昇華されている。

 

「私達に出来ないことをやってもらうんです。私達の思いは、全て貴方にかかっています。緊張させたいわけでは無いんですが、今の言葉からして、そういった言葉があると、余計にやる気が出るタイプですよね」

『よくわかってるな、おじょうさん』

「お嬢さんて」

 

 何処かでスパイ映画でも見たのかわからないが、そのキャラクター性に神通は話すのが楽しくなってきたようだ。

 

「現場まで、少し話しましょうか」

『もーるすでよければ』

「はい、大丈夫です。すぐに解読出来るようにしていますからね。ここまで殆どノータイムで話してこれたでしょう」

『いわれてみれば』

 

 諜報妖精さんも、こうして話してみると、思ったより饒舌だった。人と会話が出来るというのは、妖精さんからしても嬉しいことなのかもしれない。

 

 

 

 

 調査隊最大の任務が今始まろうとしている。その責任は、小さな小さな妖精さんにかかっているが、当の本人はプレッシャーすらも力に変えるタイプだった。

 




諜報妖精さん(cv大塚明夫)
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