後始末屋の特異点   作:緋寺

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綺麗な亡骸

 まだ日を跨いでいないくらいの時間、大規模の後始末が終わりを迎えようとした最後の最後に、海底に沈んでいた大物を発見。それは潜水艦と海上艦の連携によって引き揚げられることとなったのだが、それが潜水棲姫──まさかの3体目の姫だった。

 この後始末は事前に鎮守府から報告があり、1体目の姫を撃破したところで2体目の姫が乱入してきたということが明確になっている。その上、2体目は空母棲姫なのに魚雷を扱うという人為的な改造が施された個体。

 しかし、この3体目は報告には無い。しかも、潜水艦の亡骸は基本的に損壊が多いのだが、この潜水棲姫は()()()()()。傷がないとは言わないが、だとしても五体満足の状態というだけでレアすぎる。

 

「戦闘に現れていない上に綺麗な亡骸の3体目……戦いが起きる前からここにあったと考えるのが妥当ね」

「前に来た時には無かった。断言出来る」

 

 工廠に来ていた伊豆提督に伊203がキッパリと伝えた。この場所は深雪が発見された海域であり、その時には絶対に無かったと。

 この海域が前にも来ている海域であることは、イリスも気付いているし、そこから伊豆提督も把握している。それもあって、伊203の言っていることは正しいとすぐに判断出来る。つまり、ここ最近にここに現れたということに他ならない。

 

 しかも、ここで戦闘をしている鎮守府には気付かれないうちに現れて、()()()()()()()()()()()()()()。ここが不可解である。

 

「今日は夜も遅いから、事後処理を終えたら明日また考えましょ。でも、本当にかなり綺麗な亡骸ね……」

 

 ここまで綺麗な潜水棲姫の亡骸を見るのは、伊豆提督でも初めてである。特に生身の方。これは不可解を極めた。

 

「……流石に寝てるだけなんてことはないよな」

 

 深雪が物騒なことを言い出したが、それはないと言い切ったのは、伊26と伊203。

 海中から引き揚げる時に鎖を巻きつけたりするのはどうしても潜水艦の仕事になるわけだが、その時にあまりに傷が少なかったので念のため脈を測ったらしい。

 深海棲艦が人間と同じように生きているかはわからないが、血が流れるのだから心臓のようなモノはあるはずだと解釈して、ひとまず完全に息絶えていることは確認出来ている。

 

「この子もしっかり祈ってあげましょ」

 

 端的に指示を出す。深海棲艦の残骸は穢れを出さないように処置をすることになるが、ヒト型の亡骸が大きい場合は、カテゴリー Mと同様の()()()()()をする。

 相手が深海棲艦であろうが関係ない。眠るように息絶えているのならば、この場で冥福を祈って送ってやるのがうみどりのやり方。

 

「時雨、お前もやってくれねぇかな」

 

 深雪が何の気なしに時雨にも話を振った。今の光景を遠目に見ていた時雨は、突然話を振られて首を傾げる。

 

「敵の亡骸に祈りを捧げるのかい?」

「ああ、同じようなのが出てこないようにって願ってな」

「後始末の時からも思っていたけど、君達は何というか……律儀だね」

 

 小さく苦笑しつつ、しかしその在り方を否定することは無かった。ここまでその仕事を見てきたことで一定の理解を示しているため、その行動に関しては悪いと断じることは無い。不思議だとは考えているようだが。

 

 

 

 

 夜は更け、そのまま朝へ。普段より少しだけ遅い朝ではあるものの、まだ総員起こしはされていない。夜までかかった後始末の翌日は、いつもこのような感じである。

 その夜の間、最後に回収された潜水棲姫の亡骸は、うみどり深部の立ち入り禁止区域で妖精さんによる徹底的な解析がされていた。その観点に関しては、伊豆提督がおおよその部分を指示。そこにイリスの意見も加えた状態で。

 

「……なるほどね、ありがとう」

 

 その調査結果を目にしたイリスは、小さく溜息を吐くと、夜通し調査解析をしてくれていた妖精さん達を労った。

 穢れや呪いを浄化しつつ、その亡骸に起きたことを事細かく徹底的に調べ尽くしたその内容は、あまり嬉しいことでは無かった。

 

「ハルカ、解析結果が出ているわ」

 

 すぐにその結果を伝えるために、食堂で朝食を作っている伊豆提督の元へ。

 

「ありがとう、どうだった?」

()()()()()()()()よ」

 

 それを聞き、伊豆提督はイリスと同じように溜息を吐いた。その予想は外れていてほしかったと言わんばかりである。

 

「マークちゃんに連絡するのが一番早いかもしれないわね。アタシ達だけでどうにか出来る話じゃない」

「それは賛成。私達にも仕事があるし、首を突っ込みすぎると本質を忘れてしまうわ」

「困ったモノだけれど」

 

 調査隊の力を借りなければ、この事件の真相には辿り着くことは出来ない。そう考えた伊豆提督は、朝食の後すぐに連絡することとした。

 勿論、調査隊に依頼を出すということは、大本営にもその旨を連絡しなくてはならない。それに、今回の後始末の依頼を出してきた鎮守府にもいろいろと話を聞かなければならなくなっている。

 

「今日一日はこの件に奔走しそうね。ハルカ、ちゃんと身体は休まってる?」

「勿論よ。不健康は肌艶に一番影響を与えるんだから。むしろアナタの方が心配よイリス」

「私はこれが生活リズムになっているの。貴方もわかってるでしょうに」

「定期的に聞いておかないと、無茶しすぎて倒れるかもしれないじゃない。アナタが倒れたら、うみどりは終わりよ」

 

 カテゴリーを見分けられる目もそうだし、細々とした実務が常にうみどりをいい方向に進ませている。それを失ったら、うみどりという組織は瓦解していくだろう。伊豆提督だけでもダメ。イリスだけでもダメ。2人揃って初めて、うみどりを維持することが出来るのだ。

 

「心配しないで。私はいつでもすこぶる元気だから。さ、今日を始めましょ」

「ええ。それじゃあいつものお願いね」

 

 こうしてうみどりの1日がまた始まる。いつもより遅くても、いつも通りに進めるために。

 

 

 

 

 総員起こしにより、うみどりの艦内は少しずつ活性化していく。そのうちの一部屋の前に立っているのは深雪と電。

 

「あいつ、ちゃんと寝てんのかな」

「どうなのでしょう……」

 

 その部屋にいるのは、一時的にうみどりの一員となっている時雨。呪いに苛まれるカテゴリー Mであろうと、疲労を感じたら睡眠は必要である。休み無く憎しみに駆られて動き回るなんてことは出来ない。

 この時雨はうみどりの内情を理解したことで、休息は素直に取ることを選んだ。伊豆提督から、正しく休息を取らなければ、まともな判断も出来ないと言われたからである。

 人間を観察するためにここにいるのだから、正しい判断力は維持しておきたい。それ故に、如何にカテゴリーMであろうとも、その言葉には素直に従っている。ここでの1日で物分かりが良くなっているというのもあるが。

 

「もしかしたら嫌な夢とか見てるかも」

「それだと困るのです。悪夢は辛いのです」

「あたし達は嫌ってほどに知ってるもんな」

 

 いろいろと思いながらも、時雨の部屋の扉をノックした。起きているならいいが、まだ寝ているというのなら叩き起こさなくてはならない。

 

「おう時雨、もう起きてっか?」

「朝なのです。朝ご飯の時間ですよー」

 

 その声に反応したか、室内からバタバタと音が聞こえた。ちゃんと起きているようで、2人はまず安心。

 そして、扉を開けて出てきた時雨は、きちんと制服姿で現れた。よれよれになっていない辺り、与えられた寝間着はちゃんと着ていた模様。

 

「おはようさん、ちゃんと寝れたか?」

「お陰様で。今はここのやり方に従うことにしたからね」

「そいつはよかった。眠れなかったから人間はクソとか言い出したらどうしてやろうかと」

「君は僕をなんだと思っているんだい」

 

 苦笑する時雨。そんな表情も普通に出せるようになっているのは、早速うみどりに順応してきている証拠とも言える。

 人間への怒りと憎しみはまだまだ失われていない。呪いによってそういう存在として生まれてしまっているのだから仕方ない。しかし、深雪と電がこうして接していることによって、確実に一歩ずついい方向へと向かっていた。

 

 

 

 

 朝食後、いつものように今日の日程を報告される。時雨も勿論それは聞くことになる。

 

「わかっていると思うけれど、今日は清浄化率の維持を確認する時間にあてるわね。だから、丸一日自由な時間よ。出発は明日の早朝。次は小規模が一件あるだけ。それが終わったら、一度軍港に立ち寄るわ」

 

 軍港という言葉が出たことで、艦娘達からは歓喜の声があがる。時雨にはその理由がピンと来ていないが、深雪が笑顔を見せたため、それはいいことなのだろうと察した。

 

「でも、今日は自由とはいえアタシとイリスは少しバタバタするかもしれないの」

 

 ここで少しだけ空気が変わる。

 

「昨日の最後に発見された潜水棲姫のことを調査した結果が出たから、ここで伝えておくわね」

 

 喜びも束の間、一気に緊張が走る。ここでこうやって言うというくらいなのだから、その調査結果はこれからに関わること。

 

「調査の結果わかったのは、まず潜水棲姫は改造されていなかったということ。ここ最近見かける、人の手が加わった深海棲艦では無かったわ」

 

 それは艤装を少し解析すればわかること。外見からは見えない改造が施されている可能性があったが、それも無かったようなので、あそこで見つかった亡骸は純粋な深海棲艦であった。

 だが、ただそれだけで伊豆提督の表情があそこまで真剣になることはない。調査結果はそれだけではない。

 

「ただ、あの潜水棲姫の死因が()()()()()()()()()()()がわかったわ」

 

 深海棲艦とて生き物だ。侵略によって艦娘達に討伐されるということが基本となっているものの、何もせずに衰弱死なんてことだってあり得る。それこそ、艦娘だって何も食べていなかったりしたらそのまま餓死だってあるのだから。

 

「死因は衰弱死。なんだけれど、自然死じゃないことが判明した。まるで、()()()()()()()()()()かのようだったって。妖精さんの調べではそういう結果が出たわ」

 

 命が搾り取られる。この言葉から予想出来るのは一つしかない。過去、純粋な艦娘から命を搾り取って技術の一端とした悪辣な人間達の所業。それの犠牲者と考えてもいいほどだった。

 深海棲艦を改造するようなことまでしているのだから、過去に艦娘にしていたように、深海棲艦すらも私利私欲を満たす道具として考えていそうなのはすぐにわかった。

 

 これを聞いて途端に空気をヒリつかせたのは、やはり時雨であった。人間のやった悪辣な行為の一端が、今自分の目の前で起きてしまったようなモノ。

 だが、ここでこれだから人間はと言い出さなかっただけ時雨は成長している。隣に深雪がいたからというのもあるが、あの亡骸に対してうみどりが100%関わりがないことがわかっていたから。その上、元凶の悪意に対して明らかに怒りを覚えているのがわかったから。

 深雪ですら、静かに怒りを携えていた。艦娘のみならず深海棲艦も利用して、一体何をしようというのか。だが、ろくでもない目的なのは確かである。そんな人間のことを考えると、如何にカテゴリーWであろうとも怒りが湧き上がるものであった。

 

「この件は調査隊に連絡して、あの海域近辺を調査してもらうつもりよ。何せ、あの亡骸が元凶に繋がる可能性が出てきたんだもの」

 

 今日いっぱいはその件でいろいろと動くからそのつもりでと話し、朝の報告は終了となった。

 

 

 

 

 元凶へと繋がる道がここで見え始める。まだか細い一本かもしれないが、ここから今でも暗躍し続ける悪辣な人間に攻勢を仕掛けていきたいところだった。

 




艦娘のみならず深海棲艦からも命を搾り取るようになったということは、何が起きるかは予想がつくかと思います。
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