少しだけ時が経ち、後始末21日目が終了。夜となり、島にはいくつもの電気が点灯する。遠目で見れば、もう島は侵略を受けていたとは思えない程に復興していた。
電気も通っていれば、水道ももうまともに使用出来るため、家の中で水を使うどころか、飲むことすら出来る。民間企業妖精さんが駆け回り、集落各所のインフラをしっかりと整備し続けた結果だ。
その民間企業妖精さんは、日に日に数を増している。この島が楽しいという証左であり、作業員が増えれば増えるほど、よりこの島が豊かになっていた。
「後少しで終わりなんだよな……ここの後始末も」
「なのです。もう、うみどりで手を出さなくちゃいけない場所は殆どないのです。後始末というよりは、もう発展になってきてますしね」
作業も終わり、お風呂も終わらせた深雪と電は、夕涼みも兼ねて、うみどりのデッキで寛いでいた。
この島の後始末もそろそろ終わりということもあり、深雪達だけでなく、仲間達はたびたび島の全景をその目に収めるためにこの場所にやってくる。
夜の風景は、特に復興を感じさせるモノだ。何せ、最初は真っ暗闇だった島が、何処に何があるかわかるくらいには明るいのだから。
「慰霊碑広場、すげぇ速さで造られてんだよな」
「なのです。明石さんと社長さんが力を合わせて設計して、もうカタチにしていたのです」
「クロトが自分で書くんだって碑文も考えてたな。そういうところで字を覚えようって思えるからすげぇよ」
クロトは後始末が終わった後は、この島に残る。まだまだ供養が足りない、この島には彷徨える魂が沢山いるのだと語り、また、慰霊碑広場の管理人として巫女をやり続けるとその意志を話していた。
テミスもそれでいい、いや、それがいいと、クロトの在り方を全面的に肯定。この島で先代が引き起こした大惨事の被害者が、それで鎮まるかどうかはわこらないが、だとしても、その強い思いはきっと届く。そう信じている。
慰霊碑広場が完成した後は、少しだけ山を切り崩して、神社を造ろうという案も挙がっている。詳細はまだ不明だが、この島には現在、神を祀る施設がないようだ。
その理由は、おそらく阿手の仕業。トラが言うには、祠などはあったらしいのだが、それすらも自分の研究には不要と罰当たりなことを宣っていたらしく、自分を守り神と思わせるために、信心深いモノは撤去していたと考えられる。
「お、あれって学校か?」
「ついに学校にも電気が完璧に通るようになったのですね。なら、王様達も自分の居城を手に入れるのに、一歩近付いたのです」
うみどりのデッキから見える高台の部分、深海棲艦発生抑制装置が備え付けられている学校の姿が確認出来る。以前は真っ暗闇であったため、何処に何があるかなんてわかりはしなかったが、今はついにそこにも灯りが点いたため、そこにあるのだという存在感が出来ていた。
今この時間に学校で電気が灯るということは、そこを住むと言っていたテミスとテイアが、ついに寝床として活用し始めたということになる。人が住むにはまだ少々使い勝手は悪そうだが、民間企業妖精さんの力を借りて、使いやすそうな一室を集落の家の中のように改造していると考えられる。
最終的には、屋上のライブステージと共に、この島の象徴となることだろう。何せ、王が住む場所だ。
「ここはマジで平和になったな……軍港と同じくらいって言ったら言い過ぎかもしれねぇけど」
「そう、かもしれないのです。過言じゃないかもなのです」
「だよな。みんなが手ェ取り合ってさ、仲良く暮らしてんだ。あの灯りだって、平和の証拠みたいなもんだぜ」
夜の灯りが失われることなく島の集落を埋め尽くしているのは、まさに平和の証。それがあるからこそ、この島にいる者達がキチンと共存出来ているとわかる。
しかし、この共存を破壊しかねない存在はまだいる。今のところは動いていないが、何か癇に障るようなことが起きた時点で、自分の目指す平和にそぐわないと排除に動き出す可能性がある出洲一派だ。
「してくるとは限らないけど……やっぱちゃんと戦いは終わらせておかないと、この島も危険かもしれねぇ」
「なのです……せめてその島だけは、ずっと平和であってほしいのです」
それは特異点の心からの願いだ。優しい、優しすぎる願い。しかし、それが絶対に叶うという保証は何処にもない。
叶えるためには、ただ願うだけではいけない。みんなで力を合わせて、実力で掴み取るしかないのだ。
「……今、調査隊がヤバい任務をやってんだよな。それが成功したら、出洲の野郎と最終決戦だ」
「なのです……電達には、何をやろうとしているのかはわからないのですけど、でも、きっと最後の戦いがしやすくなるための任務なのです」
「だな。わざわざ艦を動かしてまでやってることだ。あたし達には想像が出来ないようなことなんだよな」
その実力で平和を掴み取るという行為の先駆けとなるのが、今の調査隊の行動。その作戦により、厄介な状況を覆そうとしている。
それは、うみどりには出来ないこと。特異点ですら出来ないことだ。
諜報妖精さんのことは、深雪達にも教えられてはいない。なので、調査隊のその任務は、極秘任務としての認識となっている。誰もそれを追求することはないため、業者の運び込む荷物に紛れ込み、襟帆鎮守府に妖精さんがスパイとして潜入する、なんてことは思い浮かぶこともない。
「あたし達も何か出来ることがありゃいいんだけどな。でも、あたし達には、まだ足りないモノばかりだ」
「だから、ここで成功を願うのです。きっと、ううん、絶対上手く行くって」
「だな。あたし達には、それしか出来ないんだからな」
島の夜景を眺めながら、深雪と電は成功を願う。何をしているからわからずとも、それが上手くいってほしいと願うことは、間違っていない。
『提督、諜報妖精さんの送り出し、完了いたしました』
おおわしに届く神通からの連絡。最初の段階は無事に成功したという報せに、昼目提督は少し胸を撫で下ろす。
「よくやった。上手く話はつけられたか?」
『あまり褒められた方法ではないかもしれませんがね』
その方法とは、これから送ってもらう鎮守府に、自分の家族が艦娘として勤めている、しかし、縁を切られるカタチで離れてしまい、それをあまり表立って言えず、それでもどうしても支援がしたい、というあまりにも嘘八百な理由。とはいえ、襟帆鎮守府も秘密裏に表立って言えないことをさせられている以上、この辺りは許容されていると考えた。結果、何も知らない業者は、神通の思いを汲んでくれて、秘密裏に運んでくれると約束してくれた。
騙すようで気が引けると思いつつも、手段としては仕方ない、むしろこれが一番的確であると神通は割り切っている。法を超越出来る調査隊だからこその、少し無法な解決方法。
勿論、その業者は協力してもらったということで、知られないようにその身を守るようにしている。巻き込んでしまったのだ、この戦いが終わるまで、ケジメはつける。
ケチをつけられないように、今後大本営に秘密裏に護衛を頼むことになるだろう。巻き込まれた業者は堪ったモノではないだろうが。
「了解だ。あとはアイツの手腕に任せるしかねぇ」
『はい、彼ならやってくれるでしょう。ひょうきんで、でも力強い妖精さんでした。目的地まで語り明かしましたが、なかなかどうして、楽しいヒトでしたよ』
「へへ、そりゃあよかった。アイツは度胸も凄けりゃ技術もすげぇ。それだけ仕込んだし、アイツも頑張ったからな。きっと上手く行くぜ」
昼目提督も太鼓判を押している程の存在。諜報妖精さんはそれほどまでに期待されている。
『上手く行ってほしいですね。おそらく、皆さんがそれを願ってくれています。深雪さんや電さんも』
「特異点に願ってもれえてれば百人力だな。これ以上ない後押しじゃねぇか」
『はい。気休めかもしれませんが、充分すぎますね』
島の平和に思いを馳せながら、この作戦の成功を願ってくれているとは知らずとも、そうしてくれているのではとは思える。特異点の優しさは、もうおおわしにも浸透していた。
『私は念のため、近場で待機します。帰投を援護出来るように』
「おう。あちら側にバレないようにな」
『勿論』
これで通信は終わる。神通は少しの間おおわしから離れ、諜報妖精さんの帰還を待つこととしている。事が上手く済んだとしても、帰ってこれなければ意味がない。現場で通信をしてこれても、だからといって戻れるとは限らないのだ。
見殺しにする理由もないし、むしろ仲間、そしてここまで送り届ける時に話もしている。情もより一層湧いているというモノである。
「さて……頼んだぜ」
昼目提督もその成功を願った。神様仏様特異点様と。深雪達にこれ以上の重荷はどうかと思いつつも、最も身近で、願いを叶える存在となれば、どうしても思い浮かんでしまうモノである。
諜報妖精さんの作戦成功は、その存在を知る者も知らぬ者も、島でも軍港でも大本営でも、いつでも何処でも願っている。
その優しい願いは、きっと叶うことだろう。同じ願いを持つ者が、これだけの数いれば。
島だって復興出来たのだ。ならば。
次回、少し趣向を変えた話になると思われます。