後始末屋の特異点   作:緋寺

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降り立つ戦士

 諜報妖精の任務は、日が変わっても続く。その日が終わった時には、車両の中。まだ襟帆鎮守府には到着していない。

 この夜が明ければ、後始末は23日目に突入。今頃はより発展を遂げ、彼岸花に彩られた島となっているだろう。彼はまたあの島に行ける時が来るのだろうかと思いを馳せながら、それより先にこの重要な任務を完遂させようと意気込む。ここで生きて帰ることが出来なければ、共存出来る深海棲艦が作り上げた、考え得る限りで最も平和な島を、再び目にすることは出来ないのだ。

 あの島は、それだけでも作戦のモチベーションに繋がった。楽しくも不思議なあの地に、作戦など関係なく足を踏み入れてみたいモノであると。

 

 午前1時。車両が一度停まる。走り通していたことから、休憩を取っているのだろう。バタンと扉が開閉する音が聞こえる。だが、荷物の方を見に来るようなことは無さそうだった。

 万が一を考えて周囲を見回すようなことなく段ボールに収まっている彼は、ここぞとばかりにおおわしへの通信を試みる。小型の通信機の電源を入れ、一方通行の通信。モールス信号によって、いくつかの情報を送る。

 

『じゅんちょうである』

『にもつのぎょうしゃのなまえをおくる』

 

 周囲の荷物から確認出来た、襟帆鎮守府に食糧などを補充している業者の名前を、簡略的に送っておいた。

 時間が遅いため、それを確認するのは翌朝になるかとは思われるが、やらないよりはマシである。それに、早めに送れば早めに動く。調査隊はそういう組織だ。

 

 事が済んだら、次は休息を取る。水分を含み、チーズを一欠片。必要最小限の栄養を摂取し、息を吐いた後に仮眠を取る。ついさっきまでも少し眠っていたものの、この車両が襟帆鎮守府に到着してからが本番だ。体力の温存は必須事項。

 彼は特殊な訓練を受けている妖精さんだ。もし外で不測の事態が発生した場合、眠っていてもすぐに目が覚める。そして、即座に万全な態勢となって警戒は出来る。

 作戦中なのだから、常に気が張っているのは当然のことだ。失敗が許されないのだから尚更だ。

 

 やがて、再び扉の開閉音。運転手も休憩を終えたのだろう。この場所が何処かはわからないが、時間にしては数十分。夜食か何かと考えるのが妥当か。

 ご苦労様だと思いつつも、この運転手は出洲の息がかかっているのかと少し考える。運び屋なだけならば、鎮守府の実情なんて考えない。ただ持っていってほしいと言われた荷物を運び、現場で降ろして帰るだけ。

 結果的に巻き込まれているだけの可哀想な一般人という可能性はいくらでもあった。故に、疑いをかけるとか、始末するとか、そういう物騒なことは考えない。する必要もない。

 

 

 

 

 午前7時。車両が再度停止。アレからもう6時間も経過したのかと、彼は気を引き締める。仮眠と栄養補給を繰り返している内に、ついに現場に到着したかと身構えるが、音を聞く限りまだらしい。

 おそらく運転手が朝食を摂りつつも、近場のコンビニあたりで用を足しているのだろうと推測出来た。長期間の運転なんて、誰だって催すモノだろう。彼には縁のない話ではあるが、人間の生理的な話は、彼だって尊重する。我慢しろだなんて言わない。

 

 このペースならば、あと小一時間程度で到着するのではないかと予想する。事前に頭の中に入れた、襟帆鎮守府への地図を思い返すと、この車両はおおよそ予想通りの道筋を走っているのではないかと考えた。外の様子が見えないために、本当に走っている道はわかるわけがないのだが、時間経過的にはおそらくドンピシャ。渋滞なども無いのならば、最短ルートで走っていることだろう。

 

 もう何度目かわからない補給。水分とチーズ。こういう作戦の際には、同じモノしか食べられないというのが少しだけ残念だと、彼は苦笑する。

 彼も妖精さんであるため、甘味も好物だ。金平糖辺りを齧りながら、仲間達と談笑するのも楽しい時間の一つ。

 幸い、今は周囲の荷物から香る食糧、果物の匂いがあるため、それをオカズに水分を取れば、少しだけでも気が晴れる。ただ飲むだけではこうはいかない。とはいえ、実際にその味を口に含むことが出来るかどうかで考えれば雲泥の差だ。

 あの甘さを再び得るためにも、この作戦はしっかり終わらせなければと、また決意を新たにした。

 

 

 

 

 午前8時。車両が停止、いや、何処かの敷地に乗り入れて、完全に駐車された。エンジンまで切られたことで、ついにこの時がやってきたかと、彼は本格的に作戦開始の準備をする。

 外が慌ただしい。荷物を降ろすのだろうと察することが出来るくらいには人が集まってきている。それがどういう立ち位置の者なのかは、今はわからない。

 

 荷台が開放された。そして、手前の荷物から降ろされ始めた。自分がこれから何処に運ばれるかはわからない。だが、雑貨扱いとされているので、食糧と同じ場所では無いだろうと予測される。

 外からは会話も聞こえてくる。運転手と鎮守府の者の会話。そのどちらもが男性の声。荷物の内容を聞きながら、チェックしているのだろう。何が入ってきたか、必要なモノがどれだけ入ってきたかを、直にチェックしている。

 となると、用途不明と言える物資である彼の入る段ボールは、どういう扱いになるのかが気になるところである。この鎮守府にはよくあることなのかもしれないが、ならばどのようにチェックされるのか。

 

 すると、ついに自分が持ち出され始めることを知る。丁寧に持ち上げられて、何やら軽車両に積み込まれた感覚。その近くには自分とは違う物資も一緒にありそうである。おそらくは、()()()()の荷物に加えられている。

 この鎮守府、外部からやってきた用途不明の荷物は、大概が()()()()()()()()として考えられる。今回は鎮守府に勤めている艦娘に向けての細やかな贈り物という扱いでここまで来ているが、配達する側もされる側も、外見だけ見てそれが判断出来るとは思えない。

 そのため、箱を開いて初めてそこがわかるのだ。出洲の欲するモノは、どう考えても鎮守府では不要なモノ。注文したモノとは違うモノがあれば、それは全てあちらのモノとカウントされるだろう。

 

 運び出され、誰もいない内に、ここから脱出しなければならない。そしてそれを誰かに見られるわけにもいかない。

 

 

 

 

 午前9時。荷物が運び出され、倉庫のような場所へと移された。安定した場所に辿り着いたことで、彼はついに行動を開始する。

 その前に、簡略的だがおおわしに通信を送る。

 

『せんにゅうにせいこうした』

『こうどうをかいしする』

 

 周囲に意識を集中させる。誰もいないことを確認し、そして箱の中で着替えておいた。

 何処の鎮守府も、鎮守府の妖精さんというのは作業着で働いているモノである。潜り込み、さらに違和感なく行動出来るようにするには、その姿となるのが最も良い。変装はお手のものだった。

 

 問題は、ここまで来た時の段ボールをどうしておくかだ。持ち運んで行動することは難しい。そのため、上手く隠せる場所が無いかを確認する。外に誰もいないならば、少しだけ大胆に、箱から外に出てこの場所の状況を確認出来るだろう。

 慎重に箱を開け、周囲を眺めると、少し暗いが倉庫であることがすぐにわかる。そして、そのおかげで都合のいい場所を見つけた。バラした段ボールが束ねられている棚。後から使ったりするつもりがあるのかはわからないが、来たからといって全てを廃棄するわけでもなさそうであるため、一部そのように保管しているようだ。

 

 彼はこれはラッキーだと思いながら、自分の入ってきた段ボールを綺麗に畳み、その棚の、特に似たようなサイズの段ボールの束に隠した。遠目で見たら違和感はないが、そこにそれがあるとわかる彼にとっては、それが自分のモノであると即座に判断出来るくらいのモノとなっていた。

 情報を手に入れた後、脱出する時にそれを持ってくることが出来れば御の字。しかし、当然ながら潜入より脱出の方が難しい。潜入は荷物として入り込めたが、脱出は妖精さんとして行動している中での流れになるのだから。

 

 さぁ準備万端だとなったところで、改めて一息吐く。そして、ここからやらねばならないことを思い返す。

 この鎮守府に潜入した理由は、大きいモノ1つ。この鎮守府の整備士、襟帆提督の息子と接触すること。あちらにもおそらく話は行っていることだろう。

 妖精さんとして行動し、何かあった場合に対話する。周りの妖精さんが敵か味方かはわからないため、そこは上手く状況をコントロールしながら。

 さらに、この鎮守府の全容がわかるのならば知っておきたい。艦娘の数はわかっていても、誰がカテゴリーKであり、ここではどのように生活しているか。出洲とはどのように接しているか。対話は出来なくても、どんな話をしているか。

 

 知っておかねばならないことは沢山ある。諜報妖精として、それを余さず手に入れたい。そうすれば、これから行われる決戦に必ず役に立つ。

 責任重大だが、ストレスにはなっていない。プレッシャーは大きいが、それがやる気に繋がる。

 彼は、気合を入れるために深呼吸。そして、この倉庫から出ていくために行動を開始した。

 

 

 

 

 襟帆鎮守府の実情を知るため、この小さな戦士は動き出す。何処となくだが、その背には不思議と優しい力を感じた気がしていた。

 




ついに潜入開始した諜報妖精さん。ここで得られる情報次第では、一気に有利になれます。



この投稿日2/16で、後始末屋の特異点、ついに3周年です。こんなに長く続くなんて誰が予想したか。作者も予想していないよ。
その記念すべき日、艦娘すら出ない話というね。
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