後始末屋の特異点   作:緋寺

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その時が来るまで

 諜報妖精さんが襟帆鎮守府に潜入を成功させたことは、おおわしに届いている。モールス信号による一方的な通信を受信し、そこから得られた情報を、片っ端から記録していた。

 

「ブロックワード……死を乗り越えてるが、完全には乗り越えられちゃいねぇってことだな。言葉だけでも混乱させちまうことが出来るってこった」

 

 昼目提督はその事実を知って、小さく溜息を吐く。カテゴリーKの明確な弱点であり、正気を失わせる最も手軽で残酷な手段。死を乗り越えているようで、そんなことはないという、カテゴリーKの在り方を表しているモノ。

 黒深雪と雷はそれすらも乗り越えているようだが、それ以外──残りの7人には、それが設定されてしまっている。

 

 しかし、それ自体が出洲の優しさでもあるのだろう。死を乗り越えたのだが、死に背中を掴まれている状態。それを脱却させるため、ブロックワードを設定して普段の生活を可能にしている。

 艦娘という時点で普通ではないかもしれないが、とはいえトラウマに苛まれることなく、笑顔を取り戻しているのだから、それはそれでいいことなのかもしれない。肯定も出来はしないが。

 

「これはハルカ先輩にも伝えておかねぇといけねぇな」

「ですね……おそらく、()()()()()()戦うことになるでしょうから」

 

 うみどりの面々のやり方はわかっている。弱点を知ったことにより、そこを突くのではなく、それを避けて戦うことを。

 本気の戦いになることはわかっている。しかし、正々堂々と戦うためには、わざわざ嫌がらせのようなことをすることはない。弱点を突くと言っても、艤装の欠点などを利用するのはわかるが、精神的に追い詰めるようなことは間違いなくしない。そんなことをしたら、敵と変わらないと思うだろう。

 

 当然、プライドだけで勝てるモノではないだろう。しかし、少しでもそういう手段を使ったならば、鬼の首を取ったかの如く非難してくるだろう。あちらからは使ってくるのにもかかわらず、だ。出洲配下はどちらかと言えば正々堂々来るような気がしないでもないが、だとしても。

 そのため、卑怯なことと思われそうなことはしない。事前に知ることで、相手を苦しめることなく、真正面からぶつかる。

 

 だが、それを知っていることで、最悪それを使って止めることも出来るだろう。知っているのと知らないのとでは大違い。

 

「つっても、カテゴリーK……難儀な連中だぜ……。出洲はどうせ、可哀想だからとかそういう理由で蘇らせたんだろうけどな、結局それを利用して好き勝手やってんだ。余計なトラウマぶち込んでな」

「ですね……そのまま眠ったままの方が良かったのかもしれません……一概にそうとは言えないかもしれませんが」

「黒い深雪の死因が死因だからな……そりゃあ生き返られるなら生き返りてぇだろうよ。その上で……今やってることを自覚してもらわにゃならねぇ」

 

 この世界が間違っていると考えるのも仕方がないことかもしれない。しかし、それをどうにかするための手段がよろしくない。出洲はまだマシかもしれないが、ヒトの命を何だと思っているのだという点は近しいモノだ。止められたはずの阿手の所業をスルーしているのだから、尚よろしくない。

 悪事に巻き込まれて命を落とし、幸いにもその命を拾うことが出来たというのに、その結果同じように命を奪う者の仲間とされていることについては、各々反省してもらわねばならないのだ。

 

「アイツらが全部悪いってこたぁ無ぇんだろうさ。でも、その後がダメだ。一番嫌なヤツと同じになってどうすんだっつー話だ」

「はい、その通りです。可能ならば、私もそう訴えたい。理解していたとしても、もう止められないというのなら、それはもう傲慢です。自分達がそうなったのだから、他の者達もそうなれと考えることは、良いこととは言えませんから」

「だな。最後の戦いでどうなるかはわからねぇが、そこは理解してもらわねぇと」

 

 昼目提督も溜息を吐くしかなかった。

 

 

 

 

 現在絶賛調査中であることを昼目提督から連絡を受けた伊豆提督は、予想通りの反応をする。ブロックワードを事前に知ることはよかった。そして、それを使うことなく戦いたいと。

 使うことで危険になるかもしれない。暴走は本来以上の力を発揮させる可能性があるのだから。正気を失ったら、そのまま命にまで繋がるかもしれない。可能ならば救いたいのだから、極力その手段は使いたくない。

 

 美談ではあるのだが、使わないことで仲間達がピンチになるようならば、容赦なく使う。後始末屋にも当然、優先順位というものがある。命に順序を付けたくはないが、手が届くところからという物理的な制限もあるのだ。そこに文句を言われる筋合いもない。

 

「ハルカ先輩は相変わらずだったが、まぁ、そうなるとは思う。カテゴリーKだって救ってやりてぇって考えるのがあの人だ。最初から予想出来てたことってもんだぜ」

「ですね……我々が参加出来そうなら、黒い役目は私が受け持ちます。あちらは躊躇うでしょうが、私は躊躇いません」

「……悪いな、そういう役目を持たせちまって」

「いえ、それが一番合理的……一番傷つく者が少ない手段なら、私はそれを選択しますよ。悪役くらい、いくらでもやります」

 

 鳥海の覚悟の決まった目に、昼目提督は苦笑することしか出来なかった。

 

「つっても、ここからどうなるかだ。オレ達が島から離れて3日だ。今頃終わりに向かってるだろうよ。オレ達はしばらくここに滞在するけど、一旦合流することになるとは思う。そこから、どう戦っていくかになるわけだが……」

「諜報妖精さんからの情報次第、ですかね」

「だな。今は工廠妖精として潜り込んでるらしいし、何か他の情報が手に入りゃな」

 

 弱点以外にも、鎮守府の行動方針などを手に入れることが出来れば、それに合わせて攻め込むことが出来るだろう。

 メンテナンスのタイミングだけは既に来ているため、それを視野に入れて作戦を考えていくことになるか。

 

「アイツの頑張りに賭けるしかねぇ。今は新人として疑われていないみたいだけどな」

「最後までバレなければいいですがね」

「念の為、神通は近場で待機させといてくれ。脱出せざるを得なくなる可能性も無いとは言えねぇからな」

 

 諜報妖精さんの動向は、ここからは見えない。故に、連絡を待つ以外に出来ることはない。準備を整えて、その時が来るのを待つのみだ。

 

 

 

 

 襟帆鎮守府で作業をする諜報妖精さんも、初めてながらいい仕事をすると、周りの妖精さんから信用を得ている。同時に、カテゴリーKの艤装についての知識をモリモリと吸収していった。

 襟帆整備士から言われていた通り、相反する機能を1つに組み込んでいるため、結合の部分が全く違う。白と黒を無理矢理混ぜて、しかし灰色にならないように維持しているような、そんな無茶が利いている艤装である。

 深雪や電が深海棲艦化した際に使っている艤装は、無理なく混ざり合い、綺麗な灰色を作り上げているのだが、ここには無理矢理感がどうしても出てきている。

 

 そのせいで、メンテナンスが常に必要となっている。同じ極の磁石を接着し続けているような矛盾を押し通すには、一朝一夕では上手くいかないということだ。

 

「上手くやれてるかな」

 

 諜報妖精さんの作業を、新人教育の一環として、襟帆整備士が見に来ると、その作業の丁寧さに少し驚いていた。

 調査隊から派遣されてきた妖精さんであることを知っているのは襟帆整備士のみ。そして、本業では無いことをやらせているということも。それなのに、並の整備士としての作業は完璧にこなせている。

 妖精さんは生まれた時からその作業をほぼ確実にこなすことが出来るため、出来ていないと違和感と疑いが向けられるようになるのだが、それすら無いという点から、ここまで過酷な訓練を受けていたのだろうとすぐに理解出来る。

 

「うん、上出来。普通だと難しいかと思ったけれど、上手く出来ていて何よりだよ。他の工廠妖精さんと同じだ。ここで生まれた子達は、大体似たようなものだね」

 

 さりげなく情報を提供している。襟帆鎮守府で生まれた妖精さんは、基本的にはその鎮守府に準じた力を得ているようで、工廠妖精さんも生まれたばかりであってもこの矛盾艤装を整備することが出来たらしい。

 そういうところから、この諜報妖精さんに疑いの目が向けられないように仕立て上げていく。襟帆整備士のちょっとした策だった。

 なるべく多くの情報を提供し、この鎮守府を解放してくれることを手助けするために。

 

「班長、新人の妖精さんも、普通に作業出来てますね」

「お、そうかそうか。なら、手が回らないところにつけてやってくれ。戦艦のデカい艤装はどうしても必要だからな」

「了解です。1人増えるだけでもありがたいですからね」

 

 班長からの信用も得られている。これならば、不安なく潜入を続けられそうだ。

 諜報妖精さんは罪悪感を割り切り、今はこの鎮守府の作業員なのだと自分に叩き込み、その作業を続けていく。敵に塩を送るような行為ではあるが、だからといってわざと故障させることもしない。

 あくまでも違和感を持たせないように、完全に馴染む。ただそれだけ。

 

「近々デカい戦いがありそうなんだとよ。うちの鎮守府もどうなるかわからないからな。しっかりメンテして、守ってもらわないとな」

「ははは、確かに。戦う力がない僕達は、守ってもらう他ないですからね。そのためにも、完璧な裏方に徹しますよ」

 

 そんな世間話すら、やはり情報になっている。鎮守府の者達全員が、特異点との戦いを理解している。その際には、鎮守府自体を攻撃される可能性も危惧している。

 出洲派であろうがなかろうが、非戦闘員達は艦娘に身を守ってもらわなければならない。そして、班長の口ぶりからして、カテゴリーKであっても、真面目に鎮守府を守るような戦いはやってくれているようだ。

 本当に、出洲さえ絡まなければ、何も疑いようもないくらいに普通の鎮守府であるということである。

 

 

 

 

 戦いまでの準備は、表でも裏でも進む。調査隊の調査、諜報妖精さんの潜入が、どこまでの効果になるだろうか。

 




調査隊の話はここまで。ここからはひたすら探りを入れるだけですからね。一方島ではもう2日経過しているので、何かが進んでいます。
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