調査隊──諜報妖精さんが行動を起こしている間に、島では作業が続けられ、今は後始末もなんだかんだで23日目。
今では、特異点の彼岸花も増え続け、山頂からその勢力をガンガン増やし、山道をハッキリと刻みつけるように咲き乱れている。それらはキッチリと島から穢れを吸い出しており、時間をかけてでも、この地を綺麗にしようとしてくれていた。
そして山頂に咲く彼岸花のうちのいくつかは、慰霊碑広場へと移植されようとしていた。その作業をしているのが、本日の深雪達である。
増殖の仕方もある程度把握出来たため、広場に造られた彼岸花のための花壇の大きさも完璧に設計されている。拡がりすぎず、狭すぎず。周辺の穢れをしっかりと取りつつも、見た目で鬱蒼としないくらいの程よいサイズ。
「ちょいと持ってかせてもらうぜ」
「少しだけ我慢してほしいのです」
彼岸花に語りかけながら、その一部を掘り返す。分球して増殖した彼岸花は、土を掘り返すと球根から根をビッシリと地面に伸ばしており、地下の水脈にその手を伸ばしているかのようにも見えた。
増えてくれてありがとうという感謝と、他にも必要な場所があるのだという懇願、そして、本来の花としての在り方──咲き誇ることで彩りを豊かにするその姿への期待を込めて、根を傷つけないように数本を抜いた。
まるで彼岸花自身がそれを手伝ってくれるかのようにスルリと抜け、花壇のために必要な分、現状は8株ほどを手に入れて、一輪車に積み込む。花弁にも土がつかないように丁寧に。
「花壇の方でも増えてくれそうだし、これで大丈夫だと思うんだが、どうよ」
「問題ないかと。あちらで用意されていた場所は、この花達ならばすぐに埋め尽くしてくれましょう」
「だねー。そんなに広いとこじゃないし。穢れがどんだけあるかにもよるかもだけど、まぁ、この島ってば、そこら中がえらいことになってるわけだしさ」
白雲もグレカーレも、これだけあれば充分と同意。これまでの増え方からして、むしろ1株だけでも全部埋め尽くせるのではと思える程である。
そして、この山頂、抜いたところをちゃんと土を被せると、すぐにでも残された彼岸花達がそこを埋めるような増殖を開始。少しすれば、何処から持ってきたかもわからなくなるのではないかと考えられた。
それだけ穢れが多いということに他ならないのだが、今はその増殖のスピードには大助かりである。
「そーいやさ、海の中の花ってどうなってんの? 陸から見えないところに植えたでしょ」
グレカーレの素朴な疑問に、深雪と電は思わず笑みが溢れる。
「なんつーか、すげぇことになってるよ、うん」
「そうとしか言えないのです。ここと似たようなモノなので」
そう聞いただけで、今の港付近の海底がどうなっているかがよくわかる。下手をしたら、陸からでもそれがわかるようになるかもしれない。
「こことは違う感じですごい風景だせ。一面に彼岸花がバァーッて咲いてんだからな」
「海の中に咲く花……一度白雲も見てみとうございます」
「潜水艇とかありゃあ見に行けるんだけどな。それか普通に潜ってみるとかになるか?」
プールで泳ぐのとは話が違うため、いくらカテゴリーWとなっている深海棲艦の身体を持つ白雲であっても、潜るのは難しそうではある。スキューバダイビングの要領で潜水出来るのならば、一度楽しんでみるのもいいかもしれない。
「少なくとも、みずなぎの海防艦達は呆気に取られてたよ。少し目を離したら増えてるっつーか、植えてちょっとしたらもう花が咲いてるってのを見ちまったからな」
綺麗な風景ではあるが、その増殖速度はなかなか恐ろしいところもある。みずなぎの潜水艇を操る海防艦達の中でも、択捉と松輪はその光景に声もあげられなかった。佐渡は大盛り上がり、対馬は意味深な笑いが漏れる程度。
現在は潜水出来る者達が確認しては、少し管理をしている。レーナと鮫が率先してそれを行なっており、一部イロハ級で潜れる者達もそれを手伝っていた。
洗浄により穢れが抜け、縮んだことでプールに滞在していたイロハ級も、久しぶりに海に入ってそれらを見てきている。小さくなったイ級達も、その光景を楽しんでいるような仕草を見せており、この島周辺をのびのびと泳いでいた。
「写真とか撮っていきたいな。海の中で使えるヤツ、あったっけか」
「無くてもアカシに頼めばいいよ。作ってって言えば作ってくれるっしょ」
「かもな。この島に写真って文化もあってもいいかもしれねぇや」
生きていくための復興はもう完了している。今はもう、文化を取り入れていくだけ。発展の道を突き進んでいる。
彼岸花を運んだ先、慰霊碑広場は、数日の工事で既にカタチになっていると言えた。地面は綺麗に整備され、一部はタイル張りのように石が敷き詰められている。
これも『工廠』の力で加工が出来たことが功を奏しており、明石とダウナー飛行場姫、そして明石の力を『量産』したフレッチャーによって用意された。それを民間企業妖精さんと深海棲艦達が好きなように作り上げている。
人海戦術が見事なまでに機能しており、また、技術力のある民間企業妖精さんと、自分達のことだからとやる気満々な深海棲艦達が力を合わせていることで、夜通しとまでは行かずとも、明るいうちは楽しげに作業が進んでいる。
「彼岸花持ってきたぜー」
「ウム、御苦労。助カッタゾ」
慰霊碑広場の建設を取り締まっているのは、やはりテミスである。王として、この島の象徴となり得るこの場所をキチンと管理しておきたいと、自分でも手を動かしながら、配下達と作業を進めている。
彼岸花が植えられるのは、この慰霊碑広場でもほぼ中央に位置する、慰霊碑建立場所の周囲。真正面は供養のためのモノが置かれるため、正面以外の周りを囲うカタチで植えられる。
「クロトヨ、念願ノ花ダゾ」
「アア、待ッテイタ。ダガ、植エル前ニ、慰霊碑ヲ運ンデコナクテハナ。ツイニ完成シタ」
タイミングよく、クロトの自信作とも言える慰霊碑が運び込まれてくる。ヌ級監修の道を、春星が戦艦棲姫の艤装を使って慎重に持ってくるのは、おおよそ2m近くのサイズを誇る、モノリスのような石碑である。
その中央には、『この地に眠る全ての魂へ』と全ての被害者に向けた言葉が刻まれていた。『安らかに眠りたまえ』『二度と同じ過ちは繰り返さない』と、定番ではあるが一番伝えたいことが、達筆で並べられており、何処か荘厳で、しかし温かな雰囲気も伝わってくるモノ。
この言葉を考え、自らの手で刻んだのは、勿論クロトだ。このために人間の言葉を学び、そしてカタチにしたのだから。
「緊張感やべぇ……こいつも壊すわけにはいかねぇし、道も崩すわけにはいかねぇし……」
「頑張レー、負ケルナー」
「お、おう、ヌキューは呑気だなぁ本当に」
絶対に失敗出来ないという緊張感から冷や汗が流れている春星を、ヌ級が応援している。さらにその後ろ、駆逐水鬼や軽巡棲姫が頑張れ頑張れと冷やかすような応援していた。ここはかなり仲良くなっているようである。
「クロトの姐さん、向きとか見といてくださいよ」
「大丈夫ダ。ソノママ真ッ直グ建テテクレ」
「うす……支えてるうちに根元埋めてくれ!」
慰霊碑が広場の中心に置かれる。地面の中に埋められるであろう部分は、土でしっかりと埋められれば風が吹いても倒れるようなことがないように加工されており、押さえているうちに、深海棲艦達が一斉に土を被せていった。
一枚の石で作られているのも、『工廠』と力のおかげ。そんな石を即座に用意することなんて不可能だったのだが、複数の石を溶け合わせるかのように加工し、都合の良い形状にしてしまうことが出来たのは良かった。
「……ヨシ、コレナラバ、コノ島ノ魂達モ、少シハ鎮マッテクレルダロウ。我々ノ思イガ込メラレタ、鎮魂ノカタチダ」
そこに聳え立つ慰霊碑を見て、クロトは何も無くても手を合わせる。ここを中心とした、鎮魂の儀式がこれから行なわれることになるだろう。それが、この島で命を落とした者達への気持ちだ。
「花はこの周りでいいんだよな」
「アア、穢レヲ払ウ花デ、慰霊碑ヲ清メルコトニナルダロウ。浄ラカナ地デ、鎮魂ヲシタイ」
「あいよ。上手いこと花壇も作ってあるな。よし、植えるぞ」
慰霊碑が建てられれば、あとは周囲に彼岸花を植えていくのみ。最初は点々と生えているのみだが、少しすればすぐにでも花壇を埋め尽くす勢いで生えることだろう。
完成まであと少しということになるだろうが、それも本当に残り僅か。明日には、この広場は理想的な場となることだろう。
「……たった数日で、ここまで出来ちまった」
「すごいのです……ここでなら、穏やかに過ごせますよね」
「ああ、そう思うぜ」
この島の象徴となり、この島の港を一望出来る広場。穏やかになった海を眺められる、穏やかな雰囲気の場所。
彼岸花により、穢れも失われているため、空気も澄んでいるように思える。ただここにいるだけで、心が落ち着いてくるようにすら感じた。
「皆ノ力ニヨリ、コノ地ハココマデ綺麗ニ発展シタ。王トシテ、礼ヲ言オウ。先代ノ
広場と道の整備に手を出していたことで、土まみれのテミス。だからこそ、民はついてくる。統率しつつも、民と同じ視点でこの島を見ているのだから。
慰霊碑広場の完成によって、この島の後始末はほぼ完了と言っても良くなった。
残すところは、最終的なチェックと、今後のことのみ。
ぱっと見の穢れも失われ、必要な後始末もほぼ全て完了。やり残しがないかを確認した後、島の今後を王と相談しつつ、ついに後始末終了と言える段階まできました。