後始末屋の特異点   作:緋寺

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次に向けて

 後始末の最後に発見された潜水棲姫の亡骸は、戦闘の中で命を散らせたのではなく、衰弱死をしていたということが調査の結果判明した。

 そこから考えられるのは、過去に艦娘の命を搾り尽くした元凶が、同じことを深海棲艦相手にもやっているということに他ならない。艦娘だけでは飽き足らず、深海棲艦ですら私利私欲を満たすための()()として見ている元凶のやり方に、うみどりの面々は驚きや怒りに震えた。

 

「君達のように、元凶の人間に対して怒りを持ってくれる人間もまたいるということが、今回の件でよく理解出来たよ。なるほど、悪い人間ばかりではないね」

 

 冷静を装っている時雨ではあるが、この報告は特に呪いによる感情を掻き立てるものとなっている。落ち着こうと強がりを言っているようなもの。

 

「だろ。だから、少なくともここの仲間達だけは信じてくれ。それに、多分会うことになる外から来る人間も、ハルカちゃんの後輩なだけあって信用出来る人間だから」

 

 深雪は先んじて、この後顔を合わせる可能性が高い人間である昼目提督のことを教えておく。調査隊への依頼をするということは、あの昼間提督ならば直にこの海域にやってくる可能性が高いと踏んでいるからだ。

 伊豆提督より時雨との相性は悪いかもしれないが、あの人間の熱い思いはホンモノ。元凶に対して裁くという気持ちも信頼出来る。

 

「君はどうなんだい、電」

「……電も、昼目司令官は信頼出来ると思うのです。ちょっと怖いですけど」

 

 電としては、どうしても人相に引っかかる部分があるようだが、伊豆提督への態度や信念から、間違いなく信頼出来ると確信している。

 

「なるほど、深雪はともかく、電がそう言えるということは、信用に値するということだ」

「なんだとこの野郎」

「言っちゃ悪いけど、深雪より電の方が僕に近い()()()()()をしているだろう。だからだよ」

 

 深雪のように最初に人間の素晴らしいところをしっかり見た後に真実を知ったわけではなく、うみどりしか知らない状態で真実を知ったことで、かなり強めの不信感を持ったのが電だ。そこに深雪がいなければ、最悪カテゴリーMと同じになっていた可能性すらある。

 そんな電の人間に対する目は、時雨に近いものがある。深雪基準で信じるか信じないかを決めるところもあるが、内向的な分、人を見る目は深雪よりも上である可能性は高い。時雨はそこに気付いていた。

 

 深雪もそう言われるとそうかもしれないと素直に受け入れる。そして、時雨からそういうところだよと追撃。

 他人の言うことを割と鵜呑みにしやすいのが深雪だ。信念は勿論あるため、それから外れるようなことをいう輩──元凶のような明確な悪人の言葉は信じることはないのだが、そうでなければ相手の意見をしっかりと受け入れる。それを疑わないのが、時雨から見る目が電よりは無いと思われている理由。

 

「ともかく、会ってみてから決めてくれよな。あたし達は、あの人が悪人じゃあないって保証出来るってだけだ」

「なのです。だから、時雨ちゃんも信じてほしいのです」

「見てから決めるよ。ここの人間達は裏表が無いのはわかったけど、結局のところ人間はその数だけ中身があるはずだからね」

 

 これについては何も言い返せない。見てみなくてはわからないことだし、見たところで信じられるかもわからない。ちゃんと対面して、話をして、その上で時雨の中で決めればいい。

 

 

 

 

 午前中、艦娘達が自由に鍛えたり休んだりしている間に、伊豆提督とイリスは執務室で今回の件を報告していた。

 参加者は伊豆提督に昼目提督、そして瀬石元帥である。うみどりからの調査依頼ということで、かなり重要性が高い事案だと判断され、まずはこの3人から。

 緊急性もあったため連絡がつくか不安ではあったが、昼目提督はさておき、瀬石元帥もちょうど時間が空いていたために、段取りよく進むことが出来そうであった。

 

「……ということになります。昨日の後始末で、ここまで大事になってしまいました」

 

 秘密組織のことはまだ抱えておくが、一時的とはいえ一員となっているカテゴリーMに関しては、カテゴリーW以上に報告しておかなくてはならない存在。隠し通そうと思っていても、こればっかりは調査隊との兼ね合いもあって話しておかなくてはならないだろう。

 結果として、2人に伝わったのは、元凶に使い潰された潜水棲姫と、和解に成功したカテゴリーM時雨のこと。前者は素晴らしい情報となるのだが、後者がとんでもなかった。

 

『……胃が痛くなってきちゃったのう』

 

 その報告を聞いた瀬石元帥は、苦笑しながら冗談交じりに口走る。

 

『なんつーか……先輩のところは最近すげぇっスね』

 

 昼目提督も少々表情が引き攣っていた。尊敬する伊豆提督が偉業を成し遂げたのだと思っていても、カテゴリーMすら仲間に引き入れることが出来たとなれば、それはもう予想外を超えて呆れてしまった。

 まるでこの世界を悪くしている原因が集約してきていると思えるほどに、事がうみどりに集まる。この10年何も無かったのに、今になって急にだ。

 

「今は大人しくしてくれてますし、深雪ちゃん達の話はよく聞いてくれています。経過観察としておいてよかったですか」

『うむ、今はそうしておいておくれ。儂もそんなことすぐに許可なんて出せやせんよ。これまでの常識が一気に狂ったんじゃからな』

 

 カテゴリーMを説得することは理想ではあったが、それが上手く行く可能性は限りなく低いとも考えられていたため、見つけたらほぼ即殺がセオリーとなってしまっていた。悲しいが、ドロップ艦がそうなってしまったのは過去の人間の罪。それを納得した上で、沈めなければ平和は維持出来ないと理解しているため。

 それが今回上手く行ったとなれば、そのやり方も変えなくてはならない。うみどり、延いては深雪と電が完全に常識の外にいる存在であるとわかっていても、その在り方に世界が合わせていかなくてはならなくなる。

 

 この事態には流石に瀬石元帥ですら頭を抱えていた。他の鎮守府にカテゴリーWのことは広まっているが、カテゴリーMが説得出来た事例を伝えるか否か。うみどりに倣って説得に努めろというのは、それこそ余計な被害者を増やすことになりかねない。

 特殊な存在が在籍しているからこそ可能な所業であるため、何処の鎮守府でも真似をすることが出来ないのだ。ただでさえそこにいる者のカテゴリーが見えるのはイリスしかいないというのに、運だけでどうにか出来るとは到底思えない。

 

『ひとまず、この件は儂が腹に抱えておくよ。偉業かもしれんが、誰にも出来んとなるとそれは知らない方がいいことにもなるじゃろ』

「そう……ですね。それは否定出来ません。うみどりにはカテゴリーWがいるからこそ、それが出来ているだけでしょうから」

『うむ。拡まって余計な正義感で被害者を増やすのは控えたいからの。すまんが、時雨のことは我々だけの……いや、もう1人知っておいてもらわねばならんか』

 

 もう1人というのは当然、軍港都市の保前提督。補給のために軍港に訪れた時、見知らぬ艦娘がいれば鎮守府として問い質してくるだろう。それを円滑に行なうためには、事前に知っておいてもらわなくてはならない。

 しかし、今の軍港都市は元凶に繋がる可能性がある分、時雨の存在を明らかにしておくのは危険かもしれない。信用も信頼もしたいが、疑いをかけないわけにもいかないのが今の難しいところである。

 

『保前君には伝えておくべきじゃろ。時雨が軍港都市で何かしでかした時、円滑に事を収めるためには鎮守府の力も必要になるかもしれん』

「ええ……少し不安要素はありますが」

『なら、オレ達も同時に軍港に入りますよ。おおわしもそろそろ補給が必要だったんで、都合がいいっス』

 

 調査は勿論するが、軍港都市の調査も必要なのは間違いない。うみどりはここから一旦小規模の後始末を実施した後に軍港に向かうため、早くとも3日は先となる。それまでに調査を進め、タイミングを合わせて二艦共に入港というのがベストではと、昼目提督は提案した。

 これまでに軍港で二艦がかち合ったことは何度かあるため、同時入港を断られる心配はない。むしろ、何か理由をつけて断ってきた時の方が怪しい。

 

『ならば、そこの連携は任せようかの』

『うす。もうおおわしは現場に向かわせてますんで、今日の午後……夕方に近いくらいの時間に合流出来るかと思います。その時にまた話をさせてください』

「ええ、そうしてちょうだい。時雨ちゃんと直に話をしたいとも思っているんでしょう?」

『流石ハルカ先輩、よくオレのことをご存知で』

 

 ニッコリ笑う昼目提督に、伊豆提督もクスリと笑みを浮かべた。

 

『さて、あとは命を搾り尽くされた潜水棲姫というのがあるが……おそらくそれが過去の元凶の仕業であることは間違いないじゃろうな』

「はい……ですが、何故あの場所にあったのか。まさか元凶がわざわざあの場所に投棄したのでしょうか」

『無くは無かろう。うみどりに発見させることで事が有利に働くとあればな。じゃが、正直なんとも言えんのが実情じゃよ。それを調べるのが』

『オレ達調査隊っスね。もしかしたら、前にオレ達が見つけた潜水艦の輩が捨ててんのかもしれねぇっス』

 

 伊豆提督は気付かれないようにしていた。その潜水艦、おそらくタシュケントが属する第二世代の秘密組織の拠点なのだから。敵性組織がいるのは元凶という観点からいえば確かなのだが、潜水艦がその拠点であるかは違う可能性が出てきている。

 だが、これだけは公表出来ない。大本営が裏で糸を引いている可能性が非常に高いとはいえ、この場でそのことを話すのは何か違う。伊豆提督はそう考えている。

 

 そして、潜水艦の話題が出た時、ほんの僅かだが瀬石元帥の表情が変化したようにも見えた。伊豆提督ではなく、イリスがそれを見逃していない。

 映像であってもリアルタイムで彩が見えているからこそ、そこに目が行った。前回は気にしていなかったが、今は大本営に繋がりがあるかもというところがあり、イリスは注視していたのだ。

 

「ハルカ、元帥は多分()()()

「そう、ありがとう」

 

 マイクに拾われないくらいの小声でそれを伝えると、伊豆提督は小さく頷いた。

 

「こちらは後始末屋のやり方を違えず、今日は清浄化率の維持を確認します。マークちゃん、その間に来れそうなら、後からまたこちらに来てちょうだい」

『うす。今まさに全速前進中っス』

『ではそのようにしておいてもらおうかの。保前君には儂から伝えておけばいいかね』

「いえ、こちらから伝えておきます。この後に入港のことを連絡するついでに話しておきますよ」

 

 それならばと、瀬石元帥は伊豆提督に任せた。

 

 実際は、大本営に通達を任せた場合、軍港都市以外の場所にもカテゴリーMが説得出来た旨が伝わってしまう可能性があったからである。うみどりと軍港都市の直通通信ならば、他に聞かれることは無い。その通信を傍受されていたら話は変わるが。

 

『伊豆君、苦労をかけるのう』

「いえ、これも後始末の一種でしょう。少なくとも、これでまた解決に一歩進めたんですから」

 

 ここからの流れは決まった。そして、この少しだけの通信でうみどり内部でも進展があったと考えられる。堂々と話を振ることはしないが、タシュケントが属する秘密組織と繋がりがあるのは、おそらく瀬石元帥であることがわかったのだから。

 

 

 

 

 調査隊の調査によって、潜水棲姫の亡骸の出所がわかるかどうか。これでこの事件の進退が決まると言っても過言では無い。

 




ほんの少しだけ調査隊と行動を共にする可能性が出てきました。軍港都市調査は、現状必須事項。
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