翌日に慰霊碑広場の式典を控え、後始末屋総出のチェックは完了。夜にかかってしまって少し暗くなっていたモノの、人海戦術によって端から端までを目視で確認し、陸上には穢れが完全に失われたことがわかった。
特筆すべきところは、やはり特異点の彼岸花の効果である。見えるところだけでなく、見えないところの穢れも吸い取っていき、その影響が顕著に現れていた。穢れを吸い取ってしまっていた樹木すらも、少しずつ浄化されていたのだ。
これにより、森も確実に綺麗になっている。すぐに全てが失われることはないけれど、穢れは着実に処理されていた。
「みんな、本当にお疲れ様。長かった後始末作業は、これで終わりと言っても良い状態になったわ」
工廠厨房での夕食時、伊豆提督のその言葉に、後始末屋は歓喜と安堵の声が漏れた。23日という長かった作業がついに終わる。他の作業を全て後回しにして、ここ1つに集中して、それだけの時間をかけるだなんて、前例のない作業だ。
最初は終わるとも思えなかった程の膨大な量の作業も、沢山の協力者と共に、ほぼゼロまで持っていけたことは、伊豆提督すら安堵させるモノである。
「明日はテミスちゃんが慰霊碑広場で式典を開くから、みんな参加してちょうだいね。クロトちゃんが供養の儀式をすることがメインになると思うけれど、それ以外にもいろいろとすることがあるわ。今回後始末を手伝ってくれたみんなで、打ち上げをしましょう」
後始末をした後に打ち上げなんてすることはこれまで無かった。だが、それをしたいと思えるくらいには、今回の作業は重かったのだ。全員賛成し、明日は作業も何もなく、全員で休息するというつもりで挑むこととなる。
「明日ノ食事ハ任セテチョウダイ。私ト、コノ子達デ、全員分ノ料理ヲ作ッテオクワ」
式典で振る舞われる食事は当然、セレスとラ級姉妹によるモノとなる。ラ級姉妹も、任せろと言わんばかりに腕を振り上げた。
うみどりに保護されてからこれまで、セレスの下でずっと鍛えられ続けてきたおかげで、数々のレパートリーを手に入れ、人に振る舞うことが出来る程の腕前となっている。うみどりが去った後は、集落でその腕を振るい続けることになるだろう。当人達も、そうすることを望んでいた。
セレスからは離れることになるが、これもまた独り立ち。ラ級姉妹は3人いるのだから、お互いを支え合って生きていける。それに、この島の者達が優しく頼るだろう。仲良く共に暮らしていけるはずだ。
「うみどりの出発は明日の夜のつもりだったけれど、それじゃあ味気ないからね。明後日の朝とすることにしたわ。みずなぎとうみねことも相談済み。こだかはうみどりについてくるカタチで一度軍港に移動して、休息の後、一緒に決戦に向かうわ」
残り1日だと思われていた島での生活も、式典の後に余裕を持って出ていくということで、アディショナルタイムを設けられた。
後始末完全終了は2日後の朝。そこで、他の後始末屋とも別れることとなり、決戦に向けての行動が始まる。
夕食が終わってからは、長い自由時間とされた。式典は翌日の朝、早朝というわけでもないのでかなり時間がある。夜更かしは控えた方がいいが、明日の朝は総員起こしも無し。これからの時間をある程度自由に過ごしても良いということになる。
少しだけ慌ただしいのは工廠だ。工廠厨房もこれにて終了。明日の朝からは各々が本来あるべき場所で食事を摂ることになるだろう。そのために、片付けと移動の真っ最中だった。
島民達は、港にある家屋を改造して造られた、ラ級姉妹の開く食堂をメインにする。港はこの島でも交通の便が最も良い場所であるため、深海棲艦やカテゴリーY達からも、店を開くならここにすれば良いとオススメされた場所。ラ級姉妹も喜んで受け入れたという経緯がある。
そこの準備も既にある程度終わっている。インフラ整備の後は、各種必要なモノの点検、物資の格納から調理場の確保まで、出来そうなことは全て完了。むしろセレスが、この場は良いと太鼓判を押すほどとなっている。
「夜だけど、少し忙しそうだな」
「お片付けもありますけど、明日の準備を今からやってるみたいなのです」
深雪と電は、お風呂の後にチラリと工廠を覗いていた。そこでは、夜だがせかせか動く者達が数人見受けられた。
式典の際に、訪れる者達全員が食べられるようにと港側に移動させている。全員をうみどりに入れるのも難しいため、式典が終わった後は広い港で立食パーティーだ。
慰霊碑広場の立地が非常に良いため、港からでも慰霊碑が見えるというのは非常に良い。今やりたいことを忘れることなく、みんなで楽しむことが出来るだろう。時折慰霊碑を眺めて、この島の発展を体感しつつ、これからのことを思う。それだけで充分すぎる。
幸いにも、天気予報は明日も晴天。外で食べるにはもってこいの環境。夜も降ることはないため、既にテーブルや椅子などがいろいろと準備されているくらいだ。
「……ついに、終わったんだな。長かった、マジで長かった」
「なのです……むしろ他の現場がどうなってるのか気になるくらいなのです……」
「後始末屋が行けないから、他の鎮守府にも少し頼んでたんだよな。それでも、完全に片付けられるわけじゃねぇし……決戦前にむしろそっちを片付ける方がいいんじゃねぇかな」
うみどりが島にかかりっきりだった間、他の海域で戦闘が行われなかったわけではない。となると、そこの後始末はずっと放置していたことになる。
島の後始末の最中は、後始末屋が出られないということで、深海棲艦を撃破した鎮守府が、簡易的ではあるが後始末をするように心掛けている。とはいえ、素人の片付けになってしまうため、どうしても完璧とは行かない。溜まりに溜まった作業は、なんだかんだまだまだあったりするのだ。
最終決戦が間近に迫っているが、そちらも大切な仕事である。後始末屋としての信念が根付いている深雪や電としては、出洲なんかより海を綺麗にすることの方が大切だったりする。
軍港での休息は必要ではあるのだが、後始末も間違いなく必要なのだ。
「そこはハルカちゃんに任せるしかないな、うん」
「なのです。電達は、そこに口出すほど権利がないのです」
そこは弁えている2人。意見は言うが、最終決定は任せることとしている。艦娘としてはそれが普通。
「よし、じょあ明日に備えて、さっさと寝るか。あたし達も結構疲れてるしな」
「なのです。明日はいっぱい楽しみましょう」
後始末の終わりを喜び、皆でそれを分かち合い、そして楽しむ。それが最高の結末と言えよう。
「配置転換もしなくちゃいけないヒト達は全員終わったわね。やってないのは、この島でなく、軍港で待機するヒトだけとなったわ。そちらは、軍港に近付いたら処置をさせてもらいます。軍港の妖精さんとアクセスしなくちゃいけないので」
保護されたカテゴリーY達を集めて、伊豆提督はひとまずの終了を伝える。
このままうみどりになったまま軍港に向かう配置転換が必要な者は、杏と杏の母である紫苑、そして黒井兄妹の母、それだけ。残りは全員、この島に残留することを希望した。
元々配置転換の必要もない者達──最古参の平瀬達──も、軍港で降りることを決断。その中でも希少な、戦力として行動出来るトラと居相姉妹だけは、本人たっての希望により、うみどりに乗ったままで行動を共にすることとなった。
「川内ちゃん達とも話をしたのよね?」
「はい……軍港に少しの間滞在させてほしいと伝えたところ、喜んでと言われました……」
移動するカテゴリーYの代表として、平瀬がその件を伝える。うみどりに乗ったまま最終決戦は流石に危険であり、うみどりの艦娘達も家にすることになるのだから、何処かで待機したい。しかし島ではいろいろとある。そのため、軍港を使わせてくれないかと、その軍港から出向している3人の艦娘達に相談していた。
川内はほぼノータイムで承諾。綾波と暁も、是非と推してくれている、軍港は安心安全、特異点の力で角を隠すことも出来ているので、外を出歩くことも可能。それならば、軍港を楽しんでほしいと大歓迎であった。
「アタシゃ出洲とかいうのに面と向かって文句の一つや二つ言ってやりたかったけどね。危ないってなら仕方ない」
「母さん……そろそろ諦めて」
「ホント勘弁してよ……殴り込みはヤバいって」
息子と娘に呆れられても、黒井母は平常運転である。そんな姿に苦笑しつつ、伊豆提督はここにいる者達の選択を尊重し、そしてその安全を保証する。
「アタシ達はこれから、本当に危険な戦いに赴くことになる。戻ってくるつもりしかないけれど、万が一の時に、皆さんを守ることが出来なくなる。だから、安全な場所で待っていてくれることは、皆さんのためでもあり、アタシ達うみどりのためにもなる。その辺は、ご了承してくれるとありがたいです」
「わかってるさね。だからアタシも折れたのさ。あの時雨に面と向かってボロクソに言われたからね。それが正論であることも重々承知さ。確かに、アタシゃ素手だが相手は容赦なくミサイルぶち込んでくるような奴なんだろう。危なっかしすぎるね」
納得してもらえているならよかったと、改めて安堵した。
「杏ちゃん、最後まで悩んでたみたいだけれど、もう大丈夫?」
「は、はい、もう大丈夫、決めました。私は軍港で、みんなの無事を祈っています」
ギリギリまで決まらなかった杏も、軍港待機という道を選び取った。うみどりに乗ると言ったらどうしようかと思っていた伊豆提督も、これには内心ホッとしていた。
「皆さん、これまで本当にありがとう。また明日話すかもしれないけれど、残り少ない時間、共に楽しみましょう」
全員の道は決まった。あとは、残された時間を有意義に過ごすのみ。
島の後始末完全終了まで残り僅かとなりました。式典も必要ですが、もう一つ、出洲への宣戦布告も翌日中にすることになるでしょう。