後始末24日目の朝。正確には、本日は後始末作業はない。島での作業終了を祝した打ち上げ、そしてその前に慰霊碑広場完成の式典を開くことになる。
午前中は式典準備。と言っても、そこまで仰々しいことをするわけでもなく、慰霊碑広場を軽く掃除し、そこに人が集まることを許容出来るようにするだけ。せっかくの式典を少しでも汚れた場所でやるのは惜しいと、クロトを中心に率先して掃除をしている。
慰霊碑広場は広場と言っても膨大な面積があるわけでもない。うみどり一同が全員入ることくらいは出来るかもしれないが、ここには今、こだか、みずなぎ、うみねことその数倍の人数がいる。その上、島民である深海棲艦とカテゴリーYもいるのだ。
そのため、全員が一堂に会するというよりは、代表者が広場に、それ以外は広場に向かう道でその式典の様子を知る、みたいなことになる。場所に対して人数が多すぎる。
「掃除が終わり次第、式典を始めるそうよ。みんな、準備だけはしておいてね」
朝食時に伊豆提督が艦娘達に説明をする。その朝食も本日は少し遅め。後始末が終わったということで、総員起こしをやめたところ、なんと全員が寝過ごした。たかが数分の話ではあるのだが、それでも疲れが蓄積していたことは間違いない。解放されたことで安心して、眠りが深くなったことは容易に想像がつく。
「これまでの作業の集大成。これを以て本当に後始末のおしまい。アタシからしてみても長い、本当な長い作業だったけれど、実際に動いていたみんなはもっと長く感じたと思うわ。みんな、本当にありがとう。今日は作業もなし。式典と打ち上げを満喫してちょうだい」
休息と言えるかはわからないが、この島の行く末を見届ける最後の時間。当然ながら、またここには来ることは出来るだろうが、その時には、今とは違う、より発展した島を見ることになるだろう。今の島は、今しか見えない。
アミューズメントパークというわけではないが、今の島を満喫するため、後始末屋は今日一日を完全に作業もない自由な時間として過ごすことになった。
そして、早速始まる慰霊碑広場の式典。掃除が終わったことで、代表者となる者達が次々と入っていく。代表と言っても、本当に数人なんてことはない。あまりに多いとパンクしてしまうため、ある程度数を絞っているというだけである。
深雪や電は代表者として選出されている。特異点であり、阿手との戦いの功労者であることが大きく、感謝されることも沢山ある。中心とは言わずとも、是非この場にはいてほしいと、テミスやクロトからも推されている。
また、伊豆提督やイリスは、タブレットを持ってその地に立っていた。別件により先んじて島から撤退している調査隊、おおわしと通信を繋ぎ、昼目提督にも式典に参加してもらうためである。また、テミスと既に画面越しに顔を合わせている瀬石元帥も、是非ともということで参加してもらうことになった。
「皆ノ者、コノ地ニ集マッテクレタコト、感謝スル」
ある程度人数が集まったところで、テミスが慰霊碑の横に立ち、話し始めた。マイクが無くても澄んだ声が広場に、そして道の方まで響き渡る。王としての威厳は、それだけでも感じ取れた。
「皆ノオカゲデ、コノ島ハココマデ復興ヲ遂ゲルコトガ出来タ。後始末屋総出デ確認ヲシテモライ、目ニ見エル穢レハ、モウ何処ニモ見エナイソウダ。始マリハ見ルニ堪エナイ有様ダッタヨウダガ、皆ノ力デ、コノ綺麗ナ島ヲ取リ戻スコトガ出来タノダ」
この慰霊碑広場から見ても、島はもう何処も汚れていない。陸も、海も、全てが綺麗だ。
テミスはその風景を見回すように動き、そして慰霊碑をスッと見つめる。
「シカシ、コノ島ニハ数エ切レナイ程ノ犠牲者ガイル。種族ヲ問ワズ、アリトアラユル者達ガ、先代ニヨッテソノ命ヲ奪ワレタ。ソレハ許シ難イ事実デアル。ダカラコソ、余ハ、我々は、ソレヲ忘レルコトナク、ソレヲ背負イ、前ヲ向イテコノ島ヲヨリ良キモノニセネバナラン」
島民達が小さく頷いた。テミスのそのやり方を肯定し、共にその意志に従おうと。
「散ッタ命ハ、弔ワネバナラン。ソノ尊キ命ガ、魂ガ、安ラカニ眠リ続ケルコトガ出来ルヨウニ。ヨッテコレヨリ、鎮魂ノ儀ヲ執リ行ウ。クロト、ココカラハ任セルゾ」
「アア、私ガヤロウ」
テミスに代わって、クロトが慰霊碑の前に立つ。常に巫女服を着ているクロトだが、今日はこの時のためにか、いつものモノとは少し違う、より厳かなモノを着ていた。
深海棲艦の巫女というのは異様なモノであろう。しかし、供養をしたいという気持ちは、人間よりも大きなモノにすら感じる。今着ている巫女服も、その思いの現れだ。
「以前、話シタトハ思ウガ、私ノ供養ハ本来ノヤリ方トハ違ウダロウ。スルベキコトヲシテイナイ、シナクテモイイコトヲシテイル。ソウイウコトモアルダロウ。ダガ、コノ島デハコノヤリ方デ行コウト思ウ。テミスニモソノヨウニ話シテアルカラナ」
テミスは当然と頷く。礼儀やマナーはあるのかもしれないが、この島にそんなことは通用しない。深海棲艦に人間のやり方を説いたところで、それか本当に正しいかなどを決めるのは、結局のところ、この島の者達である。
そして、根本となるのはやり方では無く心。安らかに眠ってほしいという優しい願いを体現する方法に、固定化された手段など存在しない。クロトは心の底から鎮魂を望むのみ。
「デハ、供養ノ儀ヲ始メサセテモラウ。皆、ココニ眠ル魂達ニ、優シイ願イヲ、ヨロシク頼ム」
ここからはクロトの独壇場である。見様見真似でもない、独自の方法で、その魂に向けて、祈りを捧げる。
慰霊碑の前で膝をつき、祈る。線香があるわけでもないため、その穢れを祓うという意味を込めて、森の木々から枝を拝借し、それに火を点けた。
事実、その枝にはまだ穢れが浸透していた。だが、火に焚べたことで穢れは清らかな炎により浄化され、失われる。
後始末屋のやってきたことの再現をしているようなモノであり、この島だからこそ必要な儀式。その煙は魂を送るかのように立ち昇り、そして空高くでふわりと消える。
舞うわけでもなく、祝詞を呟くわけでもない、ただひたすら、心からの祈りを魂に捧げるのみ。静かで、しかしそれゆえに荘厳なその場に、参列した者達は息を呑む。
独自の進化を遂げた深海棲艦の祈りがあまりにも眩しくて、中には涙を流しそうな者も存在した。
人間よりも純粋にそれを成し遂げる。その思いを強く抱いているからこそ、周りの者の心を震わせる。
「私ガ出来ルノハ、ココマデ。ココカラハ、音色ニヨッテ、鎮魂ヲ成シタイ」
続いてクロトは、来テクレとこの島のアイドル──深海玉棲姫を手招きする。
「鎮魂ノ歌、頼メルカ」
「ウン、大丈夫。那珂チャンカラ、教エテモラッタ」
深海玉棲姫は自信を持って前に出る。着飾っているわけでもない、ありのままの姿で、慰霊碑に向かって一礼。
そして、口を開いた瞬間──シンと空気が静まり返り、震えた。
「……那珂ちゃんの鎮魂歌と同じだ……」
深雪は直にその歌を聴いたことがある。荒ぶる魂のために那珂が後始末の現場で歌ったそれを、深海玉棲姫は完全に再現していた。
いや、実際は違う。那珂よりも拙い。まだ技術はそこまで辿り着いていない。だが、思いは人一倍込められていた。だからこそ、心に響いた。
こちらもクロトと同じだ。ただ、魂に届けと、心の底から歌を紡ぐ。だからこそ、響く。
那珂もうんうんと頷いている。ちゃんと出来ている。予想以上に出来ている。そんな深海玉棲姫の成長に、心の中でガッツポーズである。これなら、この島のアイドルを任せられると。
「……アリガトウ、ゴザイマシタ」
ひとしきり歌い終えると、深海玉棲姫はもう一度一礼して、その場から立ち去った。
本当ならば拍手喝采と行きたかったが、供養の最中だ。それはみんなでグッと我慢する。
「コチラコソアリガトウ、コレナラバ、コノ地ニ眠ル魂モ、荒ブルコトハナイダロウ。素晴ラシイ歌ダッタ」
クロトに褒められ、深海玉棲姫は少し恥ずかしそうに、しかし笑顔で頷いた。また頼むこともある。その時はよろしく頼むと言われ、勿論と快諾する。
「供養ノ儀、コレデ終了トスル。皆、コノ慰霊碑ニ向ケテ、ソノ安ラカナ眠リヲ願ッテクレ」
儀式は終わるが、最後はここに集まった者達の祈り、願いで、真に終了となる。
一同、目を瞑り、手を合わせ、犠牲者の魂に安らかな眠りが与えられるように、優しく願った。
特異点の力に縋っているわけではない。ただただ、失われてしまった者達を思うのみ。
参列者は各々、慰霊碑を前にして祈る。この地で家族を失った者は、特に念入りだっただろう。
全員が慰霊碑広場に入れるように、順々に歩く様は、まさに参拝。その誰もが、心が篭っていた。
タマちゃんの鎮魂歌は、学校でのライブではやらない、ここでしか聴けないモノ。