後始末屋の特異点   作:緋寺

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記録としても

 王たるテミスの演説、巫女たるクロトの供養、そして歌姫たる深海玉棲姫による鎮魂歌により、慰霊碑広場での式典は幕を閉じた。今はここに集まった者達が続々と慰霊碑を参拝し、この地に眠る魂に安寧を願った。

 人間も、艦娘も、深海棲艦も。ここにいる者は、誰もが思いを一つにしている。荒ぶる魂を鎮めたい。これからずっと、何事も起きませんように、と。

 

「皆、祈リハ済マセタカ」

 

 慰霊碑広場の出入り口、テミスはその姿をじっと眺めていた。ここにいる者達全てが、この島の未来を案じてくれている。それが本当に嬉しいようで、ここまでずっと笑みが絶えない。

 王として、この島は自分が統率すると考えているテミスは、この慰霊碑広場を造り上げたことで、ここまでのヒトを集めることが出来たことに喜びを感じていた。

 クロトの供養も、深海玉棲姫の鎮魂歌も、本当に心に響いていた。この島の民が、ここまでやってくれた。そう思うと、少し涙目になってしまうほどだった。

 

「デハ、次ハ後始末屋ノ打チ上ゲトヤラヲ始メルガイイ。港ニ用意サレタ食事ヲ、皆デ食べ、楽シム時間トイウコトダナ」

「ええ、そういうことになるわ。今日は……いや、今日も、だけれど、セレスちゃんを筆頭に、みんながご馳走を用意してくれているわ。打ち上げだもの、目一杯楽しみましょう。いつもは話さない面々とも、これを機に交流してみるのもいいわね」

 

 テミスから目配せされ、伊豆提督はここに集まった者達にそのまま港に行くように促す。今頃、大量の料理が用意され、この晴天の下、みんなで楽しく会食が出来るようになっていることだろう。

 むしろ、慰霊碑広場はここから港も見えるのだから、その様子も確認しようと思えば出来る。テミスがそちらの方を見ると、これまでの工廠厨房とは比べ物にならない程のテーブルと食べ物が、所狭しと並べられていた。

 

「ウム! デハ皆ノ者、打チ上ゲダ! 今日ハ作業ナドヤラズトモ良イ! 後始末ノ終ワリヲ祝オウ!」

 

 テミスの鬨の声が響き渡り、主に島民達がワッと盛り上がった。うみどりの、いや、後始末に参加した者達全員は、長かった後始末の終了を心の底から喜んだ。

 

 

 

 

 港という広い場所を使うことで、一堂に会しても余裕がある程の立食パーティーが開かれる。テーブルはうみどりが提供しているが、それだけでは足りないとわかっていたため、港にあるモノ全てをこの場所に集めた。

 一部は、今後ラ級姉妹が食堂として使っていく店のモノ。この打ち上げが終わったらまた店の中に戻すことになるのだが、ラ級姉妹もこういう時だからこそ全部使わなければと、出せるモノは全て出している。出張型工廠厨房だけでは調理の手も足りなかったため、早速食堂のキッチンを隅から隅まで使っている程だ。

 

 なお、この食堂の設備を整えたのは、我らが社長である。明石にはわからない庶民的な実用性を存分に再現した。むしろ明石は感嘆の息を吐く程。

 

「サァ、私達ガ腕ニヨリヲカケテ作ッタワ。みずなぎトうみねこカラモ食材提供ガアッタカラ、全員分用意出来テルト思ウワ。思ウ存分、食ベテチョウダイ」

「私達モ、頑張ッタ」

「ミンナ、食ベテ」

「口ニ合ウモノ、ダト思ウカラ」

 

 セレスとラ級姉妹がさぁどうぞと言わんばかりに皆に振る舞い始めた。今日だけは大盤振る舞いだと、肉も魚も野菜も、ご飯もパンも麺すらも用意されていた。子供達の好きなモノから、大人が好むようなモノまで、セレス達が出来得る範囲で、何種類も取り揃えられている。

 流石に酒だけは置かれていないが、それ以外は全てそこにあった。子供達もジュースを飲めて大喜びである。

 

「すげぇな……これ全部用意したのか」

「全員分余裕でありそうなのです」

 

 100人以上がこの場に集まっているのに、おそらく全員分は賄えるであろう料理の量。深海棲艦やカテゴリーYの面々は早速その料理に手をつけ始め、美味い美味いと喜んでいる。艦娘達もそれに続いて食べ始めた。

 工廠厨房でこれまでずっと食べていたモノとは、また少し違った味に思える。これは、セレスが軍港で学んだことを実践していた。食べる環境によって味の変わるということを。

 1人で食べるのと、仲間と食べるのとでは、感覚は違う。それに、達成感がさらに上質なスパイスとなっていた。同じモノを食べても、こうも違うモノかと感動すら覚える。

 

「せっかくだから、この風景を写真に収めることにするよ」

 

 そう言いながら、時雨が自前のカメラを用いて、立食パーティーの様子を撮影していく。テミスから許可を貰い、先程の慰霊碑広場での式典も一部撮影していたくらいなのだが、これもまた後始末屋としての思い出として連なることになるだろう。

 この写真、後々伊豆提督の手によって現像され、テミスの元へと送られることになるのだが、それはまた別の話。

 

「記念撮影は大事だろう?」

「だな。一生会えないってわけじゃあなくても、そういうのが残っているだけでも嬉しいもんだ」

「というわけで、深雪、撮るよ」

 

 急すぎて深雪は何も出来ず、たまたま持っていた唐揚げを頬張ろうとしていた瞬間だった。

 パシャリと音が鳴れば、もうその瞬間は切り抜かれる。それは、ここでの仕事を終えて安心し、張っていた気が緩んだことを証明するモノとなった。

 

「お前、急はやめろよな急は」

「素の表情を撮りたいのさ。自然体でなければ、絵にならないだろう」

「あたしにゃ写真はよくわからねぇけど、お前の場合はなんか違うようにしか思えねぇんだよ」

「あとは君の間抜けヅラを絵にしたかった」

「やっぱりじゃねぇか!」

 

 などと話しながらも、深雪と時雨はどちらも笑顔だ。今のこの場はそういう場。何をやっても大概許される。時雨も悪意があるわけではない。ここにいる者達の、着飾らない表情を写真にしたいというだけ。

 深雪だけでなく、周りの者達をさらに写真に収めていく時雨。夕立は子日と肩を組みながら満面の笑みでピースをしながら写り、グレカーレと白雲は小さく手を振る。そして、テミスはドンと構えて撮れと言わんばかりであった。

 

「……長かったよ、本当に」

 

 写真を撮りながら時雨が呟き、深雪と電も小さく頷く。純粋種の中では、時雨も後始末屋の中では古参となっている。それでも、こんなに時間をかけた後始末は初めて。そもそもうみどりのメンバーですら、こんな作業はこれまでに無かったのだから、当然と言えば当然なのだが。

 

「まさか、あの海賊船の時より長い現場があるとはね」

「ホントだよ。あの時ですら長いと思ったのにな」

「しかも、これだけの人数を集めてだ。そもそもここまでの人海戦術を使った後始末なんて前代未聞なんじゃないかい」

 

 全て後始末屋が集結して片付けなくてはならない、1つの島の総浚いなんて、後にも先にもここくらいではなかろうか。

 いや、もしかしたら出洲の陣取る島も後始末をしなくてはならないかもしれない。そう考えると、またこのようなことが起きるかもしれない。

 

「こうやって集まった記念も残しておかないとね」

「だな」

 

 時雨の撮影は、うみどりの者だけでなく、他の組織の者にも向かっていく。

 

「お、記念撮影でちか?」

「可愛く撮ってくださいって!」

「君達が手伝ってくれた証明を残しているのさ」

 

 伊58と呂500が時雨のカメラに気付いた。時雨の隣に深雪と電もいることで、小さく笑って手を振る。

 

「こんな現場初めてでちよ。広いところはあったけれど、島の周囲全部とか頭おかしいでち」

「おかしいですって!」

「そりゃあ、あたしも思ってる。後始末っつーか、尻拭いだからな」

「本当でち。人が汚した場所を片付けるなんて、後始末屋の仕事じゃないでち」

 

 伊58も苦笑。しかし、これもいい経験にはなったと、ポジティブに捉えていた。

 

「あ、深雪さん達! 面と向かうのは初めましてです!」

「お前達、みずなぎの潜水艇の海防艦か!」

「はい、択捉です!」

 

 そこにみずなぎの海中作業隊、潜水艇の択捉型海防艦達も集結。時雨がカメラを向けると、佐渡がニッと歯を見せながらピースを向ける。

 

「長かったですが、いつもとは違う現場で働けたこと、その経験を私達の海でも活かしたいと思います」

「エトは真面目だなぁおい。でも、佐渡様も結構楽しかったぜ!」

 

 姉妹4人の撮影。松輪は少し恥ずかしげ、対馬は何処か含みのある笑みを浮かべ、でも全員楽しげに撮影に応じている。

 

「おう、せっかくだから、潜水艦組全員来い来い! 全員で撮ろうぜ!」

「深雪、僕はちゃんと許可を取ったわけじゃあないんだけれど?」

「どうせ撮るだろ。ガンガン行こうぜ。もう撮れないわけでもないだろ?」

「容量はまだまだいっぱいさ。まぁいいか、撮れるだけ撮ってあげるよ」

 

 どうせそのつもりだったんだろうと突っ込むと、ふふふと含んだ笑いを浮かべた。

 

 立食パーティーは、そのまま撮影会のような流れにもなっていく。ここにいる面々は、今しかここにいられない者達が何人もいるのだ。だからこそ、ちゃんと記録を残しておきたいと考えている。時雨が後から見返すために、後始末屋であったことを証明するために。

 ここでの後始末は、元を辿れば苦痛とも言えるモノである。思い返すのも嫌なところもある。だが、勝利した思い出ならばまだマシだ。それならば、気楽に残しておく価値もあるというもの。

 

 

 

 

 この後始末は、後世にも残るようなモノとなるだろう。その資料には、時雨の撮影した写真も、掲載されることになる。

 




時雨のこの趣味は、大本営公認となり、唐揚げ食ってる深雪の顔も後世に伝えられることに……。
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