時雨が記念ということで打ち上げの光景を撮影をしている頃、あまり顔を合わせて話すことも少なかった後始末屋のトップ達も一堂に会していた。そのうちこの場も撮影されることだろうが、ここでの会話は各々の海域の話で大盛り上がり。仕事のことも世間話として語れるいい場である。
なお、式典にリモートで参加していた昼目提督や瀬石元帥は、各々の仕事のために欠席。式典までは仕事だが、打ち上げはそうはいかない。というより、ご飯の風景をただ眺めるだけということになるので、むしろ参加している方が苦行になりそうではある。
そんな中、伊豆提督に対して、うみねこの多摩が溜め息を吐きながら語る。皿に盛られているのは魚のフライ。
「陸の作業なんてもう懲り懲りにゃあ。うちの海域ではありがたいことに、陸上施設型が出てきても島を占拠することなんてないにゃ」
「いやいや、それはうちでも同じだよ。陸上施設型がここまで大規模な後始末を用意してくることなんてないね」
「アタシだって初めてよぉ。こんなのが当たり前になられちゃ困るわ」
後始末屋を統率する者としては、このようなとんでもない規模の後始末が次に起きた時にどのようにしていきたいかというのも話題の一つ。
梨田提督も、ここまでの作業は初めてだと笑いながら語る。皿に盛られているのはラ級謹製焼きそば。
「うみどりの艦娘は噂通り手際がよかったね。僕達も負けてはいないと思うけれど、やっぱり何処か練度が違うなぁ」
「アタシの自慢の子達なの。やってることはそちらも同じなんじゃないかしらね?」
「艦の構造は似たようなモンにゃ。だから、何か秘密があると思うにゃ。どうせだから、ここで聞き出すしかないにゃあ」
梨田提督もそうだそうだと多摩と共に伊豆提督に詰め寄る。どうやったら艦娘の練度を今以上に上げられるのだと。後始末屋として、もう数段階上に行きたいと思っているからこそ、そんな質問責めに遭うのだ。
伊豆提督は、他の後始末屋のやる気に満ち溢れたトップ達に感心しつつも、大概やっていることは似たようなことなのだから、大して差はないと語る。自慢の子ではあるため胸は張るが。
「機会があったら演習とかで実際に見てみたいもんにゃあ」
「僕もそれは考えた。この戦いが終わったら」
「王子ちゃん、フラグ立てるのやめてちょうだいね」
今回はあまりにも普通ではない案件が来てしまったから、人海戦術のためにこうして集まったが、次はそういうこと無しで、後始末屋が集まれるようなタイミングを作りたいものだ。
その時には、後始末だけでなく、こうして顔を合わせて話が出来る時間と空間、そして演習などで艦娘同士の交流をより深くしていきたいなと展望を語った。
「敵の居場所はもうわかっているんだろう? それなら、明日くらいから突撃するのかな」
「事前に準備をしてからぶつかるわ。あと、宣戦布告もしっかりしてね」
そう、宣戦布告である。
出洲との戦いは正々堂々、ちゃんと真正面からぶつかる。アレだけ汚い真似をしてきた阿手と共に研究を続けてきた男のやり方なんて信用出来ない。これまでは真摯な態度を見せていたが、時と場合によってはそれが変わることだって考えられるのだ。
故に、そして逆に、うみどりはずるいことなどしないと宣言をするような戦いを挑む。重箱の隅をほじくり返すような文句を言われても、ひたすらにお前らに言われたくないと言えるような。むしろこちらから重箱の隅から叩き壊すくらいには文句が言える。
「宣戦布告は律儀すぎないかにゃ」
「あちらがそうしてきたんだもの。こちらも返してやらないと、また難癖つけられるわ。こちらは堂々と名乗ったのに、暗殺紛いのことをするのは語るに落ちるとか言ってきそうじゃない」
「僕達はその出洲っていうのをよく知らないけれど、これまでうみどりがどういう扱いを受けてきたのかはよくわかった」
特異点を有するという理由だけで、ただの海の掃除屋がここまでの仕打ちを受けている。梨田提督も多摩も、これには同情した。
「この打ち上げが終わった後……夜に近いくらいかしらね。この島の地下施設に、出洲と直通の通信機があるの。そこから、宣戦布告をぶちかましてやろうかなって思ってるわ」
「時間帯で文句を言ってこない?」
「知らないわよそんなの。あっちだって電力が復旧したってなったら、こっちのこと考えずに通信してきたんだもの。こっちの都合がついたのが今ってだけよ」
もう今なら何を言われても全部返せる自信があった。それものらりくらりと避けられ、自分の都合のいいように解釈されるのは目に見えているのだが、それでも言いたいことは言えそうなので、一旦それでよし。
重要なのは、どのタイミングで向かうか。伊豆提督は、この島の後始末が終わったことで減った資源を補充し、万全の状態で戦いを挑む。あちらに準備の時間を与えているのだから、こちらもそれくらいの権利がある。
ただし、出洲も軍港に停泊している最中に攻撃してきたという前例があるので、休息、補充中に攻め込んでこないとは限らない。宣戦布告から時間を空けることで、何処で何をしているかは当然予測出来ることだろう。
「こちらから手を出していないんだもの。来たら当然、迎撃もするし、むしろ返り討ちにしてやるわよ。まずは口で、その後は実力で……と行きたいところだけれど、アタシ自身が戦うわけじゃあないから、そこはちゃんとみんなと相談してから」
「そりゃそうにゃ」
「でも、一度やられているからね。みんなある意味でやる気満々なのよ」
もし軍港都市を襲撃するようなことがあれば、今回は徹底的にやることになるだろう。あの時と違って全員が経験を積んでいるため、あの時よりは抵抗も出来るだろう。
しかし、出洲を含むカテゴリーK達は、未だ未知数なところが多い。唯一わかっているのは、中柄の第三の腕。あのような異常な攻撃を仕掛けてくるという時点で、定石は何も通用しない。
考えられる全てを想定していっても、想定外からの攻撃があり得ることを考えると、必要なのは臨機応変な行動を取る瞬発力だ。
「多摩達はそこに参戦することは出来ないけれど、思い付くこと全部纏めといてあげるにゃ。それこそ漫画みたいなことが起きてもおかしくないにゃ?」
「そうね、三本目の腕が生えてくるとか、艤装が訳わからない変形するとか、ほぼ全裸で襲ってくるとかあるんだから」
「最後のはよくわからないけど、そういう敵とは戦いたくないね。初めて現れた深海棲艦を相手にするよりも面倒そうだ」
「ええ、深海棲艦がやってくることだけをやってほしいものよ」
伊豆提督も苦笑するしかなかった。だが、第三者の視点で何か考えてもらえることはありがたい。
今はいろいろな意見が貰えることが勝利に繋がる可能性があるのだ。突飛な考えでも、それが正解の場合が出てくるかもしれないのだから。
「ここまで来たら、一蓮托生にゃ」
「だね。そしてもう少し貸しを作っておこう」
「にゃ。うみどりさんに何を返してもらおうかにゃあ」
「お手柔らかに頼むわね」
仲がいいことはいいことである。ギスギスしているより全然いい。
この打ち上げの後に宣戦布告をするというのは、深雪の耳にも入ってくる。地下施設の最奥、あの小さな空間の通信設備。あそこからまた、アレと話すこととなる。
「……いよいよか」
「なのです。この後始末が終わったんだから、次はそうなりますよね」
「次は不意打ちでもねぇ。ぶちかましてやりたいな」
その宣戦布告の場に、深雪達も同席するつもりではいる。むしろ、他にも出洲に一言言いたい者は沢山いるだろう。
景気付けに、気に入らないことを全部ぶちまけて、正論パンチをぶちかましたい。そんな気持ちが、今のこの打ち上げの場で込み上がってくる。
「あたし達は絶対行く。でも、他にも誰か来るのかな」
「どうでしょう……でも、来ていいって言ったら、みんなが来る気がするのです」
安全な場で文句が言えるというのならば、この人も黙ってはいない。
「時雨やい、戦場に来るなとは言っていたが、宣戦布告で文句を言うくらいなら構わないだろう?」
そう、黒井母である。最後までうみどりに乗ると言い続けていたが、時雨の説得によって軍港で降りることにしたこの人も、公式に文句を言える場だと聞いたら、やらない理由がなかった。
「君は本当に……まぁ、ここで文句を言うくらいなら別にいいのか。でも僕に言われても困るけれどね。最後に決めるのは僕じゃあない」
「でも、アンタには一応聞いておいた方がいいだろうに。アレだけアタシのことに難癖をつけたんだからね」
「難癖じゃなくて、事実を突きつけただけだよまったく。でも、ここでストレスを溜めるよりは、思い切り口に出した方がいいか。ハルカちゃんに許可を貰って、行っていいか聞くんだよ」
どちらが大人かわからないような問答だが、時雨が言うことも一理あった。鬱憤を溜めたまま軍港待機は、黒井母にはストレスになるだろう。ならばせめて、ここで言いたいことをさんざん言った方がスッキリするはずだ。
あと、このおばさんは出洲にも口論で勝てるのではないかと、根拠は無いが思えてしまう。時雨は内心少しだけニヤついた。あの出洲が、おばさんの勢いに圧倒される様子を想像して。
流れは宣戦布告へ。打ち上げの最後の大一番。そこに行く者は、その鬱憤を晴らすことが出来そうである。
ついに出洲に向けての宣戦布告の時。安全圏から言えるので、母ちゃんも黙っちゃいない。