後始末屋の特異点   作:緋寺

1086 / 1165
別の正義

 打ち上げは進み、少しずつ陽が落ちてくる。これまでの後始末であった鬱憤を話し、それを笑い話に変えながら、仲間達は未来を見据えて楽しい時間を過ごしていた。

 そして、打ち上げが終わった後に行われることになったのが、集大成ともなる出洲への宣戦布告。都合がついたら連絡を寄越せと言ってきた出洲に、正々堂々と殴り込みに行くことを伝えるという、真面目だが敗北した時に文句の一つも言えなくなるやり方。

 これには深雪以外にも参加者が現れそうな状態に。出洲に言いたいことがある者は沢山いる。一般人代表である黒井母はその良い例であり、戦うことが危険であるため、その代わりに言いたいことを言ってやろうという考えである。

 

「一度マークちゃんに連絡してみましょうか。宣戦布告をするにしても、いつ行くかのタイミングを考えなくちゃいけないわ」

 

 現在裏側で諜報妖精さんを使って襟帆鎮守府に探りを入れている調査隊。そこから今後のための情報を貰い、最も攻め込みやすい時を決める。

 相手が最も力を発揮出来るタイミングを狙うわけにはいけない。こちらも正々堂々と立ち向かうとは決めているが、だからといってあちらの都合に全て合わせる理由はないのだ。

 

 打ち上げはまだまだ続いているが、伊豆提督含む組織のトップ達は、タブレットから昼目提督に連絡を取る。

 

『お疲れさんです、ハルカ先輩。まだ打ち上げ中っすか』

「ええ、でもそろそろ終わりが近付いてきているわ。それが終わったら、出洲に宣戦布告をするつもり」

 

 その言葉に、昼目提督はなるほどと相槌を打つ。

 

「そちらで情報がどれだけ手に入ったのかはわからないけれど、ひとまずいつ向かうかだけは決めておきたいの。今なら一番知っているはずのアナタなら、何処で仕掛けるかが判断出来ると思ってね」

『うす、こちらも逐一情報は入ってきてますからね。詳細は軍港でやるとして、一番重要なことだけはお伝えしときます』

 

 そこからは、簡単だが情報共有の時間。と言っても、襲撃をいつにするかという点に必要な情報のみが伝わる。

 

『あちらさん、艤装もそうですが、カテゴリーK自体にもメンテナンスがいるっぽいです。艤装は週三、身体は週一、二度ってところらしいっすね』

「構築のバランスとかあるのかしらね……無理矢理死人を起こしているようなモノなのかしら」

『だと思いますね。なので、狙うならそれをする直前になるかと思います。まぁ、襲撃をすると言ったら、その周期をずらして万全な態勢で待ち構えてそうな気がしますがね』

 

 それは当然である。自分達だって同じ状況なら、周期をズラして最高の状態で迎え討つだろう。命を懸けた戦いなのだ、それくらいは誰だって考える。

 宣戦布告というのは、そういうリスクがあるのだ。不意打ちのようなメリットは一つもない。ただひたすら、高潔な魂を見せるだけの行為である。互いに十全の状態で戦うというだけ。

 

『現在の周期的に、狙うなら7日後、丁度1週間後がいいんじゃないかなと思いますね。カテゴリーK自体のメンテナンスが明日らしいんで』

「周期的なことよね。週に二回とすれば、1週間後は丁度メンテナンスの日にぶつかるかもってことかしら」

『そういうことですね。で、宣戦布告をしたら、メンテナンスを前倒しにするんじゃないかと』

 

 うみどり側には移動時間というのもあるので、補給をしてから向かうとなれば、最低3日は欲しい。そこから万全の準備をするために2日を見るとして、余裕を持って1週間。あちらにも準備の時間を与えているのだから、文句はないだろう。

 設定した日にちを訝しんでくるなんてことがあったら、何をしたところで文句ばかりということになる。阿手ならともかく、出洲ならばそういうことは言ってこないのではないかと考えられた。歪んでいるとはいえ、平和を求めている者なのだから、この戦いでそんな難癖は流石にナンセンスだと理解しているはず。

 

「丁度1週間と言えば、それらしく聞こえるわね。キリよくしているだけ。後始末の後の休息も必要だろうと、出洲は納得するんじゃないかしら」

『変なところ律儀っすねアイツ。歪んでるけど真面目っつーか。やってることは取り返しがついていないのに、悪というより()()()()っつーイメージになってきましたよ』

「そう、ね。別の正義……それが一番正しい言い方なのかもしれないわ。奴は奴なりに考えた結果がコレなんでしょうから。まぁ、阿手を野放しにしたことを忙しいの一言で済ませたのは許せないけれど。そこは確実に汚点ね」

 

 平和を目指すカタチが違うだけと言われればそうなのかもしれない。本当に犯罪が起きなくするのならば、管理社会にするのが手っ取り早いというのもわからなくもない。だが、ディストピアを平和と言っていいのか。

 それに、そうするための手段、全員が強い力を得て高次の存在へと昇華させるというために、何人も、何十人も、いや、数え切れない程の犠牲者を出しているのは、決して許されることではない。それが犠牲者が自ら望んだ結果だとしても。

 

『ともかく、オレとしては1週間後を推しときます。軍港で打ち合わせする時間も取れますしね』

「そうね、ありがとう。それで行かせてもらうわ。明日から移動すれば、その翌日には軍港に到着できるかしら」

『そうっすね。大体そんなもんかと。軍港には3日くらい滞在して万全にして、そこから移動に2日くらいかければぴったり1週間っすね』

 

 予定はほぼこれで決まった。だが、次の問題が出てくる。

 

「出洲の本拠地に乗り込む前に、襟帆さんを解放する必要もあるわ。挟み撃ちを受ける可能性があるもの」

『そうっすね。なので、やるならまず襟帆鎮守府を襲撃。それを終わらせた後、少し休んで出洲の島って感じになるんじゃないっすかね』

 

 直接出洲の本拠地である島に乗り込むのは流石によろしくない。近くにある鎮守府の存在をこちらが把握していることは、当たり前だが出洲も理解している。

 そもそも伊豆提督側から襟帆提督に連絡をしているのだ。報告されていないわけがない。盗聴されていると言われているくらいなのだから。

 敵が二手に分かれている。それを理解した上で戦いを挑むのだ。あちらがそれに対して対策しないわけがない。

 

 襟帆鎮守府襲撃の時に、出洲の島から誰かが援軍として訪れることも考えられる。どちらを狙っても挟撃は避けられない。

 出洲自身が動いてくることは稀だろうが、それでも可能性としては捨てきれない。それが一番厄介である。

 

「そこはもう少し後に考えてみましょう。今は、1週間後に決戦ということだけ考えておけばいいわね」

『それでいいと思います。こちらではまだまだいろいろ調査している最中なので、日にちはそれで、そこまでに出来そうなことは全部共有しますよ』

「ありがとう、頼もしいわ。詳細は軍港でお願いね」

 

 昼目提督との通信はコレにて終了。これでリミットは作られた。

 

 

 

 

 この伊豆提督の話は、打ち上げの最中の艦娘達の耳にも入る。宣戦布告はこの後、そして決戦は1週間後。途端に緊張感が増してくるが、それ以上に、ついにこの時が来たのだと昂る者もいる。

 

「1週間後……ようやくケリつけられるな」

「なのです。もう、終わりにしなくちゃいけないのです」

「だな。ここまで酷い目に遭ってきたんだ。絶対に終わらせてやるよ」

 

 深雪と電は、それを聞いてやる気を出す方。グレカーレと白雲も、2人に追従するようにやる気を見せる。

 

「あたしもいろいろと恨みがあるからね。責任とってもらわないと。命でね」

「ええ、阿手の罪は出洲の罪。この白雲も、艦娘で無くされた恨みがあります故、ケジメをつけてもらいとうございます」

 

 阿手のせいでこうなった、嫌な記憶を持つことになったという者達は、その全員が出洲に対しても恨みを持っていた。

 阿手の仲間であり、最終的には敵対したとしても、こうなる前に止められる立場にいながら、自分と反する思想を持っていたのに放置した罪を、命を以て償わせるために、各々やる気が漲ってくる。

 

「フム、宣戦布告ヲスルノダナ。デハ、余モソレニ参加サセテモラオウ」

 

 さらには、決戦に参加はしないが、出洲への宣戦布告にはテミスも参加すると言い出した。理由は非常に簡単。先代のやらかしについて追及するためだ。

 

「コノ島デ多クノ命ガ失ワレタ。ソレニツイテ、何ヲ思ッテイルノカ、聞イテオキタイ。仮ニモ平和ヲ目指ス者ノヨウダカラナ。サゾ、素晴ラシイ思想ヲ語ッテクレルダロウ」

 

 既に嫌味が出るくらいには、テミスも出洲のことを少し理解していた。あのメッセンジャーとして島に訪れた黒深雪と雷のことを考えれば、その上にどのような者がいるのかは多少は想像がつく。

 島を統治するテミスとは、立ち位置は少しだけ似ている。だが、あまりにも思想が違いすぎるため、一度直に話をしてみたいとテミスは考えていた。

 

 このテミスの発言は、島民達にも火をつける。この島をこんなカタチにし、人間すらも辞める羽目になった元凶の仲間、むしろ親玉と言ってもいいような相手への宣戦布告を、統治者であるテミスが直々にやるというのだ。

 自分達には出来ないことであっても、テミスならば臆さずやってくれると信じられる。これまでの行動力と発言からして、この島で最も信頼されている存在と言っても過言ではない。

 故に、島民は皆、口を揃えてテミスによろしくお願いします、ぶちかましてやってくださいと声援を送った。テミスも悪い気分ではないようである。

 

「言いたいことある奴は全員何かしら言っておいた方がいいのかもな。憂さは誰にだってあるだろうし」

「あの場所にそんなに余裕が無いというのはありますけどね」

「問題はそこだったか」

 

 あの小さな部屋に入れる人数なんて限られている。だが、廊下に並ぶ程に文句を言いたい者は出てくるだろう。

 結果的には代表者が赴くことになるのだが、ここにいる者達の思いは一つだった。

 

 

 

 

 この後、宣戦布告が行われる。どうせ出洲の心には何も刺さらないだろうが、それでも、言いたいことは言ってやろうという精神で、それをぶちまけることになる。




テミスもこの島を管理するという点では出洲と近しいところはあるかもしれないけど、その思想が明らかに違うので、何も問題はないのです。だって管理っていっても一緒に楽しく過ごしていこうの精神なんだもの。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。