後始末屋の特異点   作:緋寺

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宣戦布告

 打ち上げも進み、宴もたけなわ。用意された食事は殆ど食べ尽くされ、集まった者達は満腹、そして満足感に満ち溢れていた。後始末という作業の終了、美味しい料理、あとは眠るだけという解放感に、多幸感を強く感じる時間。

 子供達はもうおねむとなっており、離島棲姫がこの島で使わせてもらえるという家に連れていく。この島に残ることを考えている者達は、もううみどりには戻らない。島の居場所を手に入れていた。

 

 港の近海には、うみどりのプールに棲んでいた、穢れを失ったことで小型化していたイロハ級なども放されている。

 これからの戦いには流石についてくることが難しい。そして、この島には友達となった子供達もいる。殆どペット同然となっているものの、その生活を楽しんでいる節もあるため、この島での生活も苦ではないだろう。

 また、イロハ級も穢れが抜ければそれなりに賢い。島から離れるようなこともせず、子供達と遊ぶために、ずっとここにいる。時にはレーナや鮫と共に、海中の管理の手伝いもすることだろう。

 

「うみどりからも人が減ってくんだよな。安全のためだから当たり前なんだけど、ちょっと寂しさはあるな」

「なのです。でも」

「もう会えないわけじゃあないもんな」

 

 戦いが終われば、またこの島にも来れる。だから、今生の別れではない。またうみどりに乗せる、ということは無いかもしれないが、この島で楽しく過ごしてくれればいい。

 深海棲艦化の治療方法が見つかれば、それを施すためにここにも来ることになる。特に子供達は、なるべく早く処置をしてあげたいところだ。安定すれば、ここにいる全員の姿を元に戻すことも夢ではない。

 とはいえ、今の力が便利すぎて、戻らないという選択をする者も現れるかもしれない。そこは、治療法が出来上がってから個々人で決めることだ。もう管轄から外れる。

 

「またここで、のんびり過ごせるように、絶対勝たないとな」

「なのです!」

 

 島の光景を見ていると、また決意が強くなる。出洲との戦いを終え、またこの場に立ちたいと。

 

 その前に、宣戦布告だ。戦いの場を用意するための最初の準備。正々堂々と、正面から挑むための通過儀礼である。

 

 

 

 

 暗くなる中でも、その道は明るく照らされている。インフラの復旧により、学校まで向かう道も、学校の中も、当然地下施設の中までもが、しっかりと電気によって灯りを取り戻している。

 伊豆提督は勿論のこと、今回はイリスも同行。記録係として、出洲への宣戦布告を記録する。

 

「参加希望者があんなに多いとは思わなかったわ。流石に人数は減らさせてもらったけれど……部屋に入り切れるかしらね」

 

 伊豆提督とイリスの後ろにズラリと並ぶ宣戦布告の時に文句を言いたい者達。深雪と電、特異点は参加するのが確定として、グレカーレと白雲も2人の付き添いではないが、言わねばならないことがあると便乗。最初から絶対に行くぞと言っていた黒井母とテミスの他にも、時雨や神風の姿もあった。そして、丹陽と明石まで。

 これでも減らした方である。本当なら全員が言ってやりたいという気持ちでいっぱいだ。掃除の手伝いをしないどころか邪魔をするような連中に、物申したいことはいくらでもある。だが、今はここにいる者達が代表ということで、多くの者達から任されている。

 

「入り口も部屋も小さいということで、私が加工します。床の改造くらいなら簡単でしょう」

 

 その通信設備がある場所は、小鬼群の姿でしか入らないようなやたらと小さく狭い部屋。妖精さんが奥に向かって後始末をした程である。その場所で話がしやすいように、明石が床を『改造』して、伊豆提督も話しやすいように加工する。明石がいるのはそのためというのもある。

 

「最悪、壁も拡げて全員入れるくらいにしてもいいですよ。この場所をこのまま使うことも今後無いでしょう」

「ウム。余程ノコトガ無イ限リ、使ウコトハ無イナ。壊スト島ニ影響ガアルトイウコトガ無イナラバ、好キニシテクレテ構ワン。ソノ設備トヤラハモ、余ニハ必要無イカラナ」

 

 島以外の仲間と通信出来るならまだしも、出洲と話す通信設備なんて全く必要がない。

 とはいえ、改造して外部との通信が可能に出来るのならば欲しいということで、完全破壊とまではいかないが、機能を停止して置いておけばいいかというところに落ち着く。

 

 その場に近付くにつれ、少しずつ緊張感が漂い始める。またあの声を聞かねばならないという不快感もあれば、ついに言いたいことが言えるぞという喜びもある。ようやくこの時が来たという昂揚も。

 

「あちらが対話を拒否する可能性もあるから、全部ぶち撒けることは出来ないかもしれない。それだけは覚えておいてね」

 

 

 伊豆提督の言葉はごもっともである。言いたいことだけ言って勝手に通信を切るような相手だ。こちらの言葉は聞く気がないかもしれない。自分だけに発言権があるような振る舞いである。

 だが、それならそれで、こちらから言える文句が増えるだけだ。対話も出来ないような奴が、世界の平和なんて叶えられるものかと。

 

「さ、泣いても笑っても、これが最後の戦いの始まりとなるわ。気を引き締めていきましょ」

 

 緊張感が漂う中、一行は地下施設を降りて行った。

 

 

 

 

 その場所は、穢れ一つ無い程に清掃が終わった場所。小さな階段の扉は開いたままにされており、その奥までもがちゃんと綺麗にされている。発生抑制装置の効力が行き届いているとはいえ、ここから深海棲艦が生まれるなんてことがあられても困るからだ。

 

「床、加工します」

 

 明石がすぐに動き出す。人が入ることが出来ない階段の入り口に触れると、まるで粘土を捏ねるかのように床が持ち上げられていく。

 掻き分けられ、引き離され、見えてきたのは小鬼群サイズの通信設備。小型ではあるが、普通の通信設備と同様に扱える代物。

 この場所の掃除をしていた頃、グレカーレが天井を引っ剥がしたいと言っていたが、それが実現したということになる。

 

「これなら全員が話すことが出来るでしょう。部屋は狭いですが」

「私は部屋の外で音だけ聞いておくわ」

 

 記録係のイリスは部屋の外で待機。視るモノがないため、室内にいる必要はない。話すこともないので、記録に集中する。

 

「あたしの妖精さんに動かしてもらう。一度見てるしな。ハルカちゃん、それでよかったかな」

「ええ、お願い。設備そのものが小さいから、アタシの指だと上手く操作出来ないかもしれないもの」

「了解。んじゃあ、よろしく頼むぜ」

 

 深雪のサポート妖精さんが通信設備を操作し始めると、すぐに何かしらの動きが見え始める。電源は既に入っており、小型のディスプレイにいろいろと映し出された。

 そして、出洲と通信が出来そうな項目を選択可能になったところで、サポート妖精さんは、準備はいいかと振り向いてきた。

 

「ああ、やっちまえ。宣戦布告の一発目だ」

 

 サポート妖精さんはサムズアップして、勢いよくボタンを押した。通信開始である。

 

 ディスプレイには通信中を示すようなシンボルがクルクルと回っている。あちらが受け取らないという可能性も無くはないのだが、今は受け取られるのを待つしかない。

 三回目、四回目とコールが続くと、緊張感が一気に増す。深雪は生唾を呑み込み、その瞬間を今か今かと待ち構える。

 

 そして──

 

『そちらから連絡をくれたということは、つまりはそういうことなのかな?』

 

 通信開始のいの一番にこの発言。間違いない、あの出洲である。

 

「出洲……ええ、ここから連絡してこいと、深雪ちゃんに伝えたそうじゃない。だから、真正面からぶつかりに来てあげたわよ」

 

 対するは伊豆提督。その声に臆することなく、堂々と言葉を紡ぐ。

 

『これはこれは、伊豆提督が直々に話をしてくれるとは。てっきり特異点が宣戦布告をしてくるものだと思っていたよ』

「深雪ちゃんはアタシの仲間で、アタシはその上司に当たるんだもの。アタシが出来ることなのに、部下を矢面に立たせるなんて出来なかったわ。だから、()()()アタシがこうして話しているの。構わないわね」

『ああ、相手が誰であろうと、お互いにやることは変わらないだろう』

 

 出洲はあくまでも余裕綽々といった声色だ。このタイミング、夜に入ろうとしている時間帯に連絡をされても、文句の一つも溢さない。全てを受け入れている。

 高次の存在であるが故の心の広さなのか、それとも全てを下に見ている傲慢さなのか。それは声色からはわからない。

 

『後始末はキリがついたのかい? そうでなければ、我々との戦いを決めようだなんて思わないか』

「ええ、おかげさまで。ようやく目処がついたわよ。人海戦術で、どうにかね。全く、アナタが阿手を止めていれば、ここまで汚くなることはなかったわよ」

『そうか、それはよかった。我々素人では、そこまで早く後始末をすることは出来なかっただろう。感謝しているよ、後始末屋』

 

 相変わらずの態度。自分には責任が無いと言っているようなもの。話していなくても、深雪は苛立ちを抑えるために深く深く深呼吸。

 

「感謝なんて必要ないわ。アナタの仲間のやらかしを止めなかった罪を悔い改めなさい」

『君も特異点と同じようなことを言うんだね。確かに、私は阿手さんを止めなかった。その時に私はこの世界の平和のために動いていたのだから、仕方あるまい』

「……アナタの仕方ないで、どれだけの命が失われたと思っているのよ。止められたのに動くこともせず、よくもまぁそんな口が利けたものね」

 

 通信機の向こう側から、溜息のような息遣いが聞こえた。

 

『気の毒だと思っているさ。阿手さんは平和を望んではいなかったからね。それに巻き込まれた人々には、追悼の念は消えない』

「口ばっかりじゃないの。そんな気持ち、カケラもないでしょうに」

『そんなことはないさ。平和のために自ら身を犠牲にしたのならともかく、巻き込まれて失われた命に対しては、一定の念はある。行けるのならば、供養でもしたいものだ』

 

 のらりくらりと、心にも無いことを言っているようにしか聞こえず、この場にいる者達はひたすらイライラするしかなかった。

 

 

 

 

 出洲への宣戦布告は始まったばかりだ。ここから精神的にも疲労が蓄積させられることだろう。

 




やっぱり出洲って狂ってるんじゃないかな。
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