後始末屋の特異点   作:緋寺

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島の後始末の終わり

 出洲への宣戦布告を終わらせ、精神的にも疲れたところに、セレスが用意してくれていた夜食が身に染みる深雪達。温かいご飯はこういう時にはよく()()ものである。

 

「はぁ、あったけぇ……」

「スープが身体に染みるのです……」

 

 用意されていた温かい野菜スープを啜り、ほうと息を吐く。周りでは、後始末屋もこの島の住人もみんながそれで心を落ち着けていた。

 打ち上げの後夜祭とも言えるこの場所で、全員揃ってまったりとする。昼の打ち上げの時は、ワイワイも騒いでいたものだが、今は非常に静かで穏やかだ。

 

 この面々がこの場に揃って、こんなことが出来るのは、もう今日で最後だろう。

 同じ後始末屋であるみずなぎとうみねこは、本来の担当海域とは全く違うこの場所に来ることはそう簡単には出来ない。うみどりだって、通常業務に戻ることが出来た後にこの島に来る余裕があるかもわからない。出洲に勝利したところで、なかなか難しいとなりそうである。

 

「正直、すごかったな、この島」

「なのです。いろいろありましたし、すごく長い後始末でしたけど、すごかった、という言葉にしかならないのです」

 

 歴代最長であり、この記録が更新されることはおそらく無いと考えたい、最長期間の後始末。片付け始めて24日、戦闘まで含めればプラスで1日。そんな長い時間を同じ場所で過ごすという、深雪達には考えられないような出来事。

 最初は片付くかもわからなかった島が、援軍が増え、島民が増え、かつて敵だった者達も改心して、みんなで力を合わせることによって、ここまで成し遂げることが出来たのだ。

 

 こうしてみんな集まっている港だって、最初はこんなことが出来るような場所ではなかった。海中は悲惨なモノだったし、陸だって穢れが凄まじいモノである。外で食事をするということそのものが憚られるくらいの、汚すぎる場所だった。

 だが、今はそれが夢であったかのように綺麗な場所だ。この場所に寝転がってもいいくらいに綺麗であり、実際ヌ級が寝そべっていたこともある程。

 

「今じゃあこんなに明るくなって、楽に過ごせるような場所だ。普通の街と、何にも変わらねぇ」

「電気も水もあって、不憫なモノはもう無いのです。あとは、畑とかになりますね」

「それもきっとすぐに出来るようになるだろうぜ。彼岸花もあるしな」

 

 畑仕事に関しても、既に取り掛かっているわけだが、その成長はそれなりにゆっくりだ。特異点の彼岸花が異常なだけであって、それが普通なのだが。

 これは基本、島民全員で進めていく巨大プロジェクト。集落だけでなく、テミスとテイアが居城とする学校のグラウンドも今や大きな畑となっており、大規模な自給自足スペースへと生まれ変わっている。

 

 それに伴い、子供達がのびのびと遊べる場所が失われるかと思いきや、集落の一部家屋のうち、老朽化により存続が難しいとなったモノを解体することで、広場などを造っている。遊具などもそのうち造られるだろう。民間企業妖精さんと、それを率いる社長が。

 

「……なんか、夜を見るたびに同じこと言ってる気がするな」

「なのです。でも、それだけ感慨深いということなのです」

「だな。最初と比べたら、全然違うんだもんな、ココ」

 

 海の清掃以上に、今回の後始末はその結果が目に見えてわかりやすいモノだ。海賊船の片付けもそうだが、散乱しているモノが失われるというのは成果が見えるモノだが、この島はそれ以上にわかりやすい。

 

「でも、これでお別れだ。明日はもう、次の戦いだ」

「その戦いの後、またここに来たいのです」

「だな。あたしもそれを願ってる。全部終わらせて、重い荷物が無くなったら、またここに来て少しの間のんびりしようぜ」

 

 この島の存在は、次の戦いに勝たねばならないという決意に繋がった。またここに来るために、勝利を渇望する。

 

 

 

 

 翌朝、終わったとはいえ、後始末25日目、最終日。決戦までの1週間の1日目。

 打ち上げで使われた港は、既に綺麗に片付けられており、ゴミ一つ落ちていない。ラ級姉妹の店に仕舞われたり、飲み食いで発生したゴミなども全て完璧に掃除されている。

 

 そんな港に、打ち上げではなく最後の挨拶のために全員が揃っていた。今回ばかりはみずなぎとうみねこも艦を移動させ、港に勢揃いである。

 

「後始末屋、貴様達ノオカゲデ、余ノ島ハ生マレ変ワルコトガ出来タ。何度デモ礼ヲ言ワセテモラオウ。アリガトウ、同志達ヨ!」

 

 島民を代表して、テミスが後始末屋の代表達に頭を下げた。王ではあっても民であるため、恩義に対して頭を下げることに躊躇が無い。いらないプライドは持たず、相手がそうしてほしいことをキチンとやり遂げるのがこの王である。

 

「我々ハ、貴様達ノ再来ヲ、心カラ待ッテイル。特ニこだかノ者達ヨ。戦イガ終ワッタラ、コノ島ニ住マウト言ッテイタナ。貴様達ガ使ウ集落モ、今ヲ維持シテオコウ。イツデモ来ルガイイ」

「うん、よろしくお願いするよ。ボスの隠居先としても、ここは本当にいい場所だと思うからね」

「隠居、まぁ、そうですね。私もこの場所なら穏やかに暮らすことが出来るでしょう。全てが終わったら、ここに来ます」

 

 純粋種の定住先とさせてもらうことを約束しているのもあり、またこの島には必ず戻ってくる。未来を先んじて決めておけば、そこに向かって頑張ろうと思える。

 

「みずなぎ、うみねこ、貴様達ニモ感謝シテイル。住ム海ガ違ウヨウダガ、マタ来テクレ。ドウニカ時間ヲ作ッテナ。歓迎シヨウ」

「にゃん。戦いが終われば自由になれるし、その時に来るにゃあ」

「勿論。また歌姫の歌を聴きに来なくちゃいけないからね」

 

 うみどりほど大掛かりに貢献したというわけではないかもしれないが、基本に忠実に後始末を続けてくれたおかげで、陸の掃除は劇的に早く終わっている。この2つの後始末屋にも、大きな感謝を見せた。

 うみねこは、本当に縁の下の力持ちを実現しているような組織だった。あまり他の者達が触れていないところでローラーをかけて、島で亡くなった者達が埋められている場所を発見していたりと、目立つことなく活躍するタイプ。

 みずなぎはさらに基本に忠実。岩礁帯などの後始末が難しい場所を徹底的に掃除し、そのまま陸の鬱蒼とした森の中すらも完璧に仕上げてくれた。これが無ければ、陸の終わりは見えてこなかっただろう。

 

「ソシテ、うみどり。貴様達ニハ、本当ニ感謝シテイル。貴様達ノオカゲデ、我々ハ力ト心ヲ合ワセテ、コノ島ヲ復興サセルコトガ出来タノダ。文化ヲ取リ入レルコトモナ」

「どういたしまして。教えることはしたけれど、受け入れたのはアナタ達よ。アナタ達がそう在りたいと思ったから、今があるの」

「ウム、ソウ言ッテモラエルノナラバ、喜バシイモノダ。我々ハ、今ノコノ平和ヲ受ケ入レ、ヨリ良イ島ヘト歩ミヲ進メテイクコトトナルダロウ。キッカケハ貴様達ダ。改メテ、礼ヲ言ワセテクレ。アリガトウ、後始末屋」

 

 これが、最後の挨拶となる。各々、艦に乗り込んでいき、出発の準備。デッキには艦娘一同が並び立ち、港の方を見ていた。

 新たに生まれた深海棲艦に、元々いたカテゴリーY。ずらりと並べば、なかなか圧巻だった。

 

 その中でも、この島に残ることを決めた、うみどりに保護された者達は、少し前に出て手を振っていた。

 

「また来てくださいね!」

「私達は、ここで平和に暮らすわ。治療方法がわかったら、是非来てね」

「事前に連絡ちょうだいよー。いきなり来られてもだるいだけだからー」

 

 各々好き勝手言っているようだが、それは必ずまた来いと催促しているようなもの。ここで今生の別れだなんて思いたくないと。

 カテゴリーYだけではない。ここで生まれた深海棲艦達も、各々再会の時を願って手を振っている。ヌ級に至っては、踊るように身体を蠢かせていた。それに釣られて、大きく肥大化した深海忌雷や、イロハ級の面々も、同じような身体を揺らす。

 

 別れは寂しいものだけれど、全員笑顔で見送ってくれていた。この期待に応えないわけにはいかない。必ずここに戻ってくる。再会しなければ、次の戦いが終わったとは言えない。

 

「また来るぜ! 次に来る時は、勝利の凱旋だ!」

 

 拳を突き上げ、深雪は叫ぶ。仲間達も、島の者達に向けて拳を突き上げた後、作業の終わりを示すように、一斉に敬礼をした。

 

 ついに終わりを迎えた島の後始末。ここからの島は、何処よりも綺麗で、平和で、楽しい場所となるだろう。

 

 

 

 

 うみどりの次の目的地は、一度有道鎮守府に向かってから、一部の艦娘を下ろして、そのまま軍港である。

 これまでのこと、これからのことを考え、最高最善の策を考え、それを達成するために動く。

 

 残された時間は1週間。そうしたら、出洲との決戦である。

 




阿手との決着がついた後、おおよそ240話くらいかけて、島の復興が終わりました。ついに次の章、最終決戦編へと入ることが出来ます。
……240話!? 普通の話ならまともに1本や2本終わっとるわ!
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