後始末屋の特異点   作:緋寺

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有意義な残り時間

 軍港まではおおよそ2日無いくらい。それまでの間はうみどりで過ごすことになるのだが、そこでやることとなると、訓練か休息。

 軍港都市でリフレッシュ出来ることを考えると、今のうちに少しでも強くなっておきたいという気持ちが出てくるというモノである。

 

「で、こうなると」

 

 深雪も納得の光景を作っていたのが、うみどりのトレーニングルーム。この部屋の主となっている長門を筆頭に、少しでも基礎能力を上げるためと筋トレをする者達で賑わっていた。

 深雪達もそうするかと考えたわけだが、この状況ならみんな同じことを考えるというものである。

 

「そりゃあそうだよな。あたしだってやるかと思ったし」

「みんな考えることは同じなのです」

 

 ちなみに、深雪と電は艦娘姿ではなく深海棲艦姿である、こちらの姿でのトレーニングはほとんどやったことがないということもあり、深海棲艦姿での基礎能力を改めて測って、どの程度のものなのかは知っておきたかった。

 そのため、いつもとは違う雰囲気に、後ろについてきているグレカーレと白雲もニコニコである。大人の姿でトレーニングウェアを纏っているのだから無理もない。

 

「那珂ならばレクリエーションルームでやっているぞ。やる気を出した者が、彼女のレッスンを受けている」

 

 深雪達に気付いた長門がそう説明してくれた。トレーニングルームで出来るのはあくまでも筋トレ。あとはジムでやれそうなトレーニング各種である。

 それ以上の成果が出るかもしれないのが、那珂によるアイドル活動。かなりハードではあるのだが、こちらも基礎体力から瞬発力などなどが鍛え上げることが出来る。今の深雪ならば倒れることはないだろうが、それでも相当身体を酷使することが予想出来た。

 

 今はそのレッスンが非常に人気のようで、残された時間、休息の前に思い切り自分を鍛えようと、そのレッスンに乗った者達が沢山いたようだ。

 それでもトレーニングルームにかなりの人数が集まっている辺り、今日は誰も休もうとは思っていない。動いていないと気が済まないという感じだろうか。

 

「VRの方は誰か行ってんの?」

「ああ、神風と時雨、夕立、あとは綾波だな。相変わらずだ」

「アヤナミ、カミカゼとやり合える時間が少ないから、ここぞとばかりに行ったんだねぇ。ホント、好きだねぇ」

 

 トレーニングルームの奥にある仮想空間による訓練場には、神風を筆頭に技術を磨きたい者が向かっている。さらには、その神風と戦いたい綾波も。

 綾波は次の軍港でうみどりを降りるのだから、残り少ないうみどりでの時間を有意義に過ごすために、ここでトレーニングを兼ねた戦いを挑んだようである。

 

「まぁ、場所が空いてないわけじゃあないし、ちょいとここでいろいろやらせてもらうか。柔軟とかも大事な訓練だ」

「なのです。特に電は、こっち側の身体にもっと慣れておかないといけないのです」

「だな。海ン中に潜るのはこっちでやったけど、この姿で戦うことも多分あるだろうしな」

「うむ、ならば、また私が見てやろう。子供の身体ではなく大人の身体でのストレッチ、あとは体幹トレーニングだな、そちらを教えようか」

「そりゃあありがたい。頼むぜ長門さん」

 

 こういう時こそ協力である。やれることはここで全部やる。

 

「……そういえば、時雨と演習するって話をしてたな。また今度やるか。時間はまだあるしな」

 

 仮想空間の部屋をチラリと眺めつつ、深雪は長門に教えられて基礎をより深く学んでいく。この期に及んで、なんてことはない。やれることは全てやっていく。

 時雨の時間が空いたなら、またトレーニングを兼ねた演習をすることになるだろう。それこそ、軍港鎮守府でそれをやってもいい。

 

 

 

 

 全員が全員、トレーニングに勤しんでいるわけではない。しかし、休息を選択している者は僅かである。

 ならば何をしているのかというと、工廠での作業である。

 

「彼岸花はそれなりにお土産として貰いました。研究材料はそれなりに多めです。ここから、治療法を編み出したいですね」

 

 明石による特異点の彼岸花の研究。穢れを取るという力から、深海棲艦化させられてしまったカテゴリーY達の身体を元に戻すための研究は続いている。

 島にあった穢れ混じりの土も回収してきているので、実験材料には事欠かない。それを使って、どれだけの効能を確実に引き出せるかを実感し続ける。

 

 それを手伝っているのは、主任と丹陽。主任はいつも通りであり、丹陽は暇だから……というよりは、前からこの実験には付き合っているから、これからも同じように進めていく。

 

「花びらと茎を同時に使わなくてはならない。片方だけでは何も起きない。形状に関しては、それなりに崩せる。そこまではわかりましたね」

「はい、潰して混ぜ合わせても効果があることはわかりました。なので、新たな薬剤として使うことも出来なくはありません」

 

 花弁と茎のペーストを土の上に置いても、その穢れを失わせることに成功している。つまり、特異点の彼岸花は、どのような形状であれ、花弁と茎を同時に使うことが絶対条件であり、揃っていればどうされていても効果を発揮するということになる。

 とはいえ、花を潰すという行為には少々後ろめたさはある。せっかくの特異点の彼岸花、実験のためとはいえ、それをグチャグチャにするのは、厚意を無下にするような感覚がある。

 

「薬にして飲んでもらうというのは、実際厳しいかもしれません。ペースト状にした彼岸花は穢れを取り除いてはくれますが、それを完全に無効化することは出来ていません」

「ペーストの中に穢れが溜まってしまっていますからね。無害化するシステムは、潰してしまうと発揮されないということですね」

「そういうことです。茎は茎のまま、花びらは花びらのまま、カタチがあるからこそ、完璧な効果を得られるということですね」

 

 つまりどういうことかと言えば、彼岸花のカタチを崩すことなくカテゴリーYに処置を施さなければ、体内に蓄積した穢れは失われず、人間に戻ることが出来ないということ。

 そこで丹陽が提案したシステムというのが、

 

「こう、雑に相手に彼岸花を突き刺してしまえば、内側の穢れを全部吸い出してくれませんかね」

 

 カテゴリーYを()()()()()()()()()()、茎を身体の何処かに突き刺してやるという手段。根を張らずとも、茎が刺さっていれば穢れを吸い取ることは実験済み。茎と花弁が両方少しでもあれば吸えることも実験済み。ならばそれが一番手っ取り早い。

 

「彼岸花という時点で毒性があります。以前、主任にも毒性が()()()感じられないと調査結果を出してもらっていますからね。無いわけじゃないんですよ。だから、突き刺そうモノなら、そこから毒素が体内に入り込みます。流石に危険です」

「まぁそうですよね。そう簡単にはいかないですよね」

「それがやれるなら、彼岸花を咥えてもらいます。経口で穢れを吸い出してもらう……シャボン玉みたいに無害化した穢れが空気中に出されることになりますかね」

 

 突き刺すことも危険だが、口に入れることもあまりよろしくない。だからこの手段は除外している。

 

「なかなか、難儀な話ですねぇ」

「本当ですよ。不可逆を可逆にしようとしてるんですから。カフェオレから牛乳だけ取り出そうとしてるんですよ」

「そうやって聞くと、とんでもないことをしようとしてますねぇ」

 

 簡単には思いつかないようなことをやってみようとするが、当然そんな簡単な話ではない。明石は小さく溜息を吐き、しかし前向きに彼岸花と向き合った。

 

 

 

 

 艦娘達が各々やりたいことをやっている間に、伊豆提督とイリスは、いろいろと残された書類や、次にやらねばならないことを片付けていた。

 島での出来事は詳報として纏め上げ大本営に提出。軍港ではどれだけの補給が必要かを纏め、保前提督に連絡。現在調査を進めている調査隊の任務についても聞いており、今後どのように作戦を立てるかも考えている。

 

「まだまだやることはいっぱいね」

「ええ。でも、終わりに近付いているわ」

 

 伊豆提督もイリスも感慨深げに息を吐く。つい最近までは、窓から見える風景はひたすら島のみ。しかし今は、海を駆けている。島の後始末が終わり、次に向かって動き出しているのだ。

 時と共に、状況はしっかり動いている。終わらないなんてことは無い。

 

「みんなが頑張ってくれているんだもの。アタシ達も頑張らないとね」

「そうね。私達がバックアップして、十全に動ける環境を作ってあげないといけないもの」

「ええ、その通りよ。そのためには、不安になる要素は全部排除しなくちゃね」

「出洲が一番の不安要素だけれど」

「それはそう」

 

 艦娘達のために、出来る手段は全てやる。提督として、責任者として。

 

「やらなくちゃいけないことはいっぱいだし、考えなくちゃいけないこともいっぱい。ホント、頭を使うことばかりねぇ」

「ソンナ時コソ、甘イモノヨ」

 

 そんな中、執務室をノックする者。そして、応答を聞く前に入ってきたのはセレス。作業の効率化のためとして、簡単な甘いモノを持ってきてくれたようである。

 

「あら、ありがとうセレスちゃん。あらコレ、ココアね」

「エエ、ヨク練ッテオイタワ。ミルク、砂糖、アリアリヨ」

「すごく甘そう。でも、今はコレくらいの方が頭にキきそうね」

 

 セレスの用意したココアを口にして、糖分が頭を冴えさせるような感覚を味わう。作業中にあまり飲まないようなモノなので、それもまた新鮮でリフレッシュにもなった。

 

「ありがとうセレスちゃん。アナタがいてくれてよかったわ」

「私モ、うみどりヲ、後始末屋ヲ応援シテイルモノ。ダカラ、貴方達ノ心ノ余裕ハ、私ガ食デ作ッテアゲル。頑張ッテチョウダイネ」

 

 セレスからもそんなことを言われてしまったら、頑張らざるを得ない。笑顔を見せて、任せてと胸を張る。

 

「アナタの研究の環境も、潰されたら困るモノね。任せてちょうだい。必ず勝つから」

「エエ、期待シテイルワ」

 

 

 

 

 士気は非常に高い。やる気に満ち溢れたうみどりは、決戦に向けて直走る。

 




久しぶりのうみどりの日常。緊張感はあるけれど、みんな自由に過ごします。
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