後始末屋の特異点   作:緋寺

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間合い

 深雪と時雨の演習は、まずは一進一退のデッドヒート。自分の有利な距離を保つように後退しつつも攻撃を繰り返す時雨に、得意距離にまで詰めるために動く深雪。まだどちらもダメージはなく、消耗も見られないが、しかし緊張感だけはずっと続いている。

 

「近付かせてくれねぇのな」

「当然だろう。君に忖度してあげる筋合いもないからね」

「あたしもそうだな。当然のことだ」

 

 そんなあまり意味のない言葉を交わしつつも、深雪は時雨の隙を探し出そうとしていた。ムキになって突っ込んだら時雨の思うツボ。こちらが隙だらけの姿を見せることになってしまう。

 よく周りを見て、正面を見て、時雨の顔を見る。本来の間合いまで詰めることは出来ないが、少なくとも時雨の目論見は看破していきたいところ。

 

 時雨は定期的に砲撃を放ちつつ、雷撃を織り交ぜることで深雪の接近を防いでいる。

 ここでムキになったら、雷撃を飛び越えてでも前に向かおうとするだろうが、そんなことをしたら狙ってくださいと言っているようなモノ。時雨も流石に深雪がそこまで短絡的なことをしてくるとは思っていないが、やってくれればラッキーくらいには思っていた。

 

「時間だけが過ぎるんじゃないかい?」

「何言われても慎重に行かせてもらうぜ」

「あちらの深雪とは違うか」

 

 黒深雪なら煽れば向かってくるのではとは思っているらしい。深雪はそこまで甘くは見ていない。メッセンジャーとして島に来た時に、アレだけ煽られ説教され文句まで言われたのに暴力沙汰になっていないのだから、ある程度はメンタルの強さは持っていると思う。

 

 時雨には隙が見えない。こうして戦っている中で対話を挟まれても、調子が崩れるわけでもなく、むしろこの対話自体が安定させているまである。

 カテゴリーMだからこそ、こういう若干煽りを含めた言葉を口にしながら自分のペースを維持しているようだった。悪く言えば性格が悪い。良く言えば自分のことがよくわかっている。呪いと向き合い、それを受け入れ、しかしうみどりでの生活でその呪いの発散口を見つけたことで本来の在り方を少し思い出しつつも、呪い自体は無くなっていないからこういうカタチで吐き出していく。

 

「つっても、近付けないのは確かだな……ダラダラやってるだけじゃ埒が明かねぇ」

 

 事実、近付くことが出来ていないため、時雨に致命的な一撃を当てることは出来ていない。本来の射程ではないこともあり、一撃一撃がどうしても軽い。簡単に避けられてしまう。

 

「なら、ちょいと攻めるか。実際の戦いでも、控えめにいすぎても意味ないだろ」

「へぇ、どうするつもりだい」

「こうすんだ、よっ!」

 

 ここで深雪が繰り出したのは、煙幕。特異点の煙幕ではなく、あくまでも()()()煙幕である。時雨の視界を塞ぎ、正常な判断を少しだけでも削る一手。

 特殊な煙幕ではないため、当然この戦場が煙に包まれたら、時雨はおろか深雪だって何も見えなくなる。この戦いを観戦している者達だって、2人が何をしているのかがわからない。

 

「小手先」

「だろうな」

 

 だが、深雪の煙幕は今回は非常に控えめ。時雨の視界()()を塞ぐように正面にだけ煙を放ち、少しだけでも狙いを甘くする策。

 

「でも、君のことだから」

 

 時雨はその煙幕に向けて砲撃を放つ。深雪の煙幕は基本牽制。特異点の力が含まれていないなら尚更だ。目隠しをしつつも、正面から煙を突っ切って飛び込んでくると考えた。故に、煙を晴らすことも意識しながら攻撃に及んだ。

 

 事実、深雪は煙幕と同時に正面に走り出そうとしてはいた。一瞬でも隙が出来れば、そこから間合いを詰めることが出来ると。

 だが、それを許してもらえなかったのが、合間合間に放たれている時雨の雷撃である。正面から向かいたくても魚雷が邪魔をして進めない。跳び越えてでも進むことは出来たが、深雪はあえてそれをしなかった。やはり、跳んでいる間無防備になるのがよろしくない。

 

「っぶね……正解選んだな」

 

 煙幕は晴らされるが、そこに深雪の姿は無い。煙幕に紛れて、時雨の考えていた方とは別の方へと移動していた。()()()()()()()()。それによって、雷撃を回避しつつタイミングをズラした。

 

「でも今なら行けるなっ」

 

 そのズレたタイミングを見計らって、ワンテンポ遅れての突撃。魚雷も一時的に無くなり、砲撃の隙間を突くことで、距離を一気に詰める。

 

「近付かせたく、ないねっ」

 

 時雨もすぐさま反応。砲撃と雷撃の隙間を突かれたならば、自分が下がればいいだけ。あくまでも自分の間合いを維持し続けることが勝利の鍵と理解している。

 また、下がりながらも背部大口径主砲を展開し、改めて握った。小口径主砲を放ったところで、今のタイミングでは避けられて近付かれる。魚雷も使えそうだったが、それだけでは牽制にならない。故に、大口径主砲。

 本来の射程よりは短いが、威力は折り紙付きである。牽制で放ったとしても、深雪のその足は止められるはず。近付けば近付くほど、危険度は上がるが大きな効果は得られるだろう。

 

「撃たせねぇよ!」

 

 だが、深雪はそれを少しだけ読んでいた。下がりながらも何かしてくるのではないかと。結果、ほとんど無意識に、被せるように深雪も砲撃を放っていた。

 

 時雨の大口径主砲は通常の主砲より隙が大きい。大火力のためのデメリットなのだが、それでもこのタイミングなら時雨は手元の小口径よりそちらを選ぶのではと、何となく感じていた。一度大きく間合いを取りたい。今ならばそう考えるのが妥当ではないかと、深雪は思ったからだ。

 

「……っ」

 

 時雨が息を呑むのがわかった。その深雪の砲撃は、咄嗟の割には精度がかなりよく、時雨の大口径主砲の片方を確実に破壊するところに放たれていたのだ。

 それを見せられては、時雨も回避行動を取らざるを得ない。ここで大口径主砲が破壊されてしまっては、手数が減らされて押し込まれる可能性が激増するだろう。

 

「もいっぱーつっ!」

 

 更に深雪が使ってきたのは、簡易爆雷である。近付きながら、それを手に取り時雨に放り投げた。

 ただ石を投げられたようなモノなのだが、来ると思っていないモノが突如目の前に現れると、思考が一瞬でも真っ白になる。ほんの一瞬、いや、それよりも短い刹那の時間、時雨はそれの対処法を考えてしまった。避ければいいだけなのに。

 

 その時間が、深雪には大きな時間。

 

「来たぜ、あたしの間合い」

 

 一気に近付き、主砲を構える。これまでの砲撃とは違う、時雨の胴を狙った渾身の一撃。

 深雪の間合いに入ったのは、時雨もわかっている。展開している大口径主砲ならば、この深雪に対して砲撃も放てる。しかし、それは自分へのダメージ覚悟の一撃になるだろう。

 

 これは演習である。死ぬことはない。直撃したところで命に何の影響もない。だが、実戦でこうなった時、どの選択が正しいのか。死なず、継戦可能な最善の選択肢はどれか。考え始めたらキリがない。

 

「いいさ、ここからは君の間合いだ。でも、それなら」

 

 2人の砲撃はほぼ同時だった。そして、回避しながらの砲撃は、運悪く弾同士が直撃してしまう。そうなると、時雨の一撃の方が重い。深雪の砲撃は弾き飛ばされてしまうだろう。

 ここに特異点の力が乗っていれば、逆に深雪の方が押し勝っていた。消し飛ばす砲撃というインチキが加わるのだから。だが今回はそれも無い。見た目通りのスペックになる。

 

「っ……やっぱそれ、駆逐艦の火力じゃねぇよ!」

「僕の取り柄さ。悔しかったら君も装備すればいい」

「出来ねぇこと言いやがっ……っ」

 

 時雨が取った策。それは、間合いが詰められたならばと、逆にさらに詰めることで、深雪の混乱を誘ったもの。

 深雪もそうだが、時雨だって近接戦闘は可能。本来ならば先に深雪が仕掛けそうなモノだが、それを逆に時雨が仕掛けた。

 

 深雪もこれは予想していなかった。あくまでも間合いを保ち続けるものだとばかり思っていたから、どうにか隙を突いて接近しようと画策していたのだが、自分の思ったタイミングでは無いところで距離を詰められると、一瞬思考が停止する。

 

「撃てないだろう?」

 

 深雪の目の前には、時雨の足があった。『タービン』の力、オーバークロックは使えないのに、時雨のスピードは思っていた以上だった。自分が近付こうとしていたところに、下がっていた相手が詰め寄ってきたのだから、体感が倍速くらいになっていた。

 

「っぶね!?」

 

 しかし、深雪はその時雨の渾身の一撃、蹴りを紙一重で避ける。時雨は勢いそのまま深雪の少し後ろに着水。そして、小回りの利く小口径主砲に持ち替えて、すぐに振り向いて深雪を狙いに行く。

 深雪も当然即座に判断。撃たれてはまずいと身体を時雨に向けて、主砲を突き出す。

 

「お前、よくそこまで脚が上がったな!」

「その分跳んでるさ。君を踏みつけるためにもね」

「あ、硬いのはそのままなのな」

「うるさいよ」

 

 そして、同時に砲撃。これはお互いに当たることはないが、ジュッと嫌な音を上げながら腕を掠めた。痛みは無くとも、互いにダメージが入ったことを知る。

 

「まだまだ!」

「当然さ、これじゃあ終わらないよ」

「殴り合いなら、あたしに分があるぜ」

「どうだか。慢心していてくれれば戦いやすいけれど?」

「慢心なんてしねぇよ。お前、普通に強いからな」

 

 次の瞬間、ゴギッと嫌な音が鳴る。同時に主砲を持つ手で殴りかかったようで、主砲同士がぶつかり合って鈍い音に繋がった。

 

「考えること同じかよ」

「癪だけど、ここからはもう砲撃なんて言っていられない」

「おう、殴り合いだ。文字通りな!」

 

 さらにガキッと嫌な音。互いのローキックがぶつかり合った。

 

 

 

 

 深雪と時雨が笑みを浮かべる。砲雷撃戦は一旦鳴りを潜め、ここからは近接戦闘となりそうだった。海の上での近接戦闘も、次の戦いではあり得る話。ここで、演習というカタチで、身体に刻んでおくことも必要だ。

 




地力での砲雷撃戦では互角。
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