深雪と時雨の演習は、最後は時雨の自爆というとんでもない決着で幕を閉じた。
深雪と時雨は爆雷の爆発を間近で受けたことで、仮想空間内では死んだこととなり、改めて再生成される。一瞬目の前が真っ暗になり、ブツンと世界が消えたかと思えば、改めてこの仮想の海の上で立っていた。
「……時雨、それはお前負けだろ」
「お互いにこうなったんだから引き分けだね。僕は負けてない」
「負け惜しみがすぎるだろ……自爆してんじゃねぇよ」
敗北を回避するための自爆。深雪の一撃に合わせる瞬間に、その選択が出来たという時点で、時雨はある程度冷静に考えて、それが最善だと判断し、実行に移したと言えるだろう。その選択肢が正しいかは置いておくとして。
ここが現実ではなく仮想空間だから可能な選択。そこまでして時雨は負けたという事実を回避したかったのかと、深雪は少し疑問に思う。現実でこんなことは絶対にしないだろうが、だとしても、この場でその選択を出来てしまったことがよろしくないこと。
「時雨の反則負けー。深雪の勝ちー」
と言ったのは夕立である。子日やZ1もそれに同意するように頷いた。
「負けじゃあないだろう」
「ううん、負け。というか、負けだと思ったから自爆したんでしょ。だから時雨の負け。心が負けてる。はい残念」
夕立から
「仮想空間だからこういうことをやったんだけどね。深雪、敵はこういうことをしてくるかもしれないんだ。出洲の目論見を達成させるため、特異点を何としてでも始末するため、自爆覚悟で突っ込んでくる可能性もあるんだ」
「……まあ、無いとは言えないだろうな。一度死んだヤツがもう一度命を粗末にするようなことをするかは知らねぇけど」
「
それには深雪も理解は示す。出洲の狙いはあくまでも特異点を始末すること。何としてでも、命を懸けてでも斃せと指示を出して、それを実行しようとするのならば、こういうこともあり得そうである。
出洲自身、カテゴリーKに対しては慈悲の心を以て蘇らせているということもあるので、その命を再び失うことは良しとは思っていなそうではある。黒深雪の覚悟を汲んでそれを良しとはしているが、強要はしていないし、死ねだなんて口が裂けても言えないと、自分から言っていたくらいである。
そんな出洲が、蘇らせたカテゴリーKを自爆させるような真似をするだろうか。自らそうすると言い出したら受け入れるだろうが、出洲からは言わなそうである。
結局そこは、カテゴリーK達の覚悟のキマり方次第。出洲のためにと思って、命を賭して相討ちを狙ったならば、この結末もあり得ること。再度の死を許容出来るかはわからないが。
「とりあえず時雨は論外っぽい。これ現実でやったらこれじゃ済まないっぽい。ここが仮想空間だってわかってたとしても、やっていいことと悪いことがあるっぽい」
「……夕立、何だか今日はヤケに来るね」
「当たり前っぽい。何も無いってわかってても、躊躇しないでこんなことやれるヤツってのは、何処か狂ってるっぽい。何それ、カテゴリーMだから? 同じカテゴリーMでも、白雲は同じことをしないっぽい」
今回の夕立はかなり強めに時雨に念を押してくる。今ここにおらず、舞台装置の管理をしながらも観戦に努めている白雲の名前を出すほどに。
『はい、この白雲、お姉様を残して自爆など考えませぬ。死が確定してしまったならば、1人でも悪しき者を巻き込んで命を散らす可能性が無いとは限りませぬが、極力そんなことはしませぬ。お姉様と、皆様とそんなカタチで離れるのは嫌でございますから』
「だよね。やった後に残されるヒトのこと考えられてるっぽい。呪いがあっても」
夕立から振られたので、天の声として意思を伝える白雲。先程の時雨と同じ状況になったとして、そこで完全に命が潰えるというのならば爆雷による自爆を選択しているかもしれないが、躊躇は流石にする。
「白雲は呪いで苦しんでるだけっぽい。でも、時雨は違う、本当に狂ってる。深雪に負けたくないからっていう
夕立とは思えない、真剣な説教。誰も口を挟まない。時雨のことを本気で心配しているような、そんな口振り。
「またあんなことしたら、お笑い要員以下になるから。というか、これまでで結構負けてるのに、ここで心まで負けたら、勝ち目無くなるっぽい。言い訳出来ないくらいに」
最後の抵抗として、深雪に勝ちをつけさせないため、時雨は自爆を選んだわけだが、夕立からはそれを心でも負けていると断言された。
「それに、そんな時雨に負けた夕立がすごく無様になるっぽい。夕立のお姉ちゃんでいたいなら、そんなバカなことしないでほしい」
「……君、僕のことをちゃんと姉として見ていたかい?」
「艦としてならね。夕立の方がいっぱい生きてるから、どちらかといえば手のかかるバカな妹なイメージだけど」
「僕としても、夕立に妹扱いされるのは癪だな……。あとバカなとは何さ」
「負けたくないから自爆するなんてバカのやることだから」
ここまで断言されると否定するのも難しいことである。時雨はひたすら溜息しか出てこなかった。
「深雪ちゃん、大丈夫なのです?」
一方深雪の方には電が駆け寄っていた。仮想空間であるため、何をどうされても身体には影響はないが、目の前で爆発されて自分すら命を落とすという経験を体験した心への影響はわからない。
「……正直、仮想空間で良かったって思うぜ。ありゃダメだ。二度と同じことは体験したくねぇよ」
「やっぱり、怖いですよね……」
「前にこの中で演習して何回かやられてっけど、やっぱ慣れることは出来ねぇよ。だって死にたくねぇもん。死んだら終わりなんだから。この中でも、なるべくなら死にたくないもんだぜ」
深雪は笑いながら話しているが、内心では本当にあんなことは二度とごめんだと思っている。ただやられるだけではない。目の前で、誰かが命を爆発させながら自分を殺しに来たのだ。時雨が自爆によって凄惨な結末を迎えたのも眼前で見る羽目になったのだ。
全員を救いたいという思いを強く持っている深雪にとって、一番心に来るのは自分が死ぬことよりも、目の前の相手が自ら死を選んだことである。なので、あの行動は敵だけでなく味方であってもやってほしくない。
「グレカーレ、時雨にお仕置きお願いっぽーい」
『はいよー。さっきのはいただけないからねぇ、ちょっと反省を促しまーす』
夕立に言われてグレカーレがちょいちょいとコンソールを弄ると、時雨の身体が途端に動かなくなる。仮想空間だからこそ出来る、その行動に対しての外部からの干渉。
時雨はその場に正座させられたかと思うと、首からプラカードがぶら下げられた。そこには、『僕は深雪に負けたくない一心で自爆して、無様な結末を迎えました』と書かれていた。
『本当は服装をマイクロビキニに替えて間抜けなポーズ取らせようとも思ったけど、とりあえずそれだけにしといたよ』
「それは勘弁しておくれよ」
『次やったら容赦無く行くから』
グレカーレの声色にも真面目な雰囲気が混じっていた。時雨の今回の行いは、グレカーレにも少々嫌な思いをさせていたようである。
「ナイスっぽーい。今の時雨には死ぬより恥ずかしいことやらせた方がいいと思うけど、今回は初犯だからこれくらいで勘弁してやるっぽい。これでも反省しなかったら、一度ボスのお説教っぽい」
「ボスって、雪……丹陽かい? アレに叱られるのはちょっと嫌かな……」
「それくらいのことしたって自覚するっぽい。特にボスは、
『お、任せてよー。あたしが完璧な時雨を作り上げちゃうよん。プライドへし折ることくらい簡単なんだから。嫌なことだっていくらでもしてあげちゃうからね』
グレカーレにそれをさせたら、本当にうみどりでの生活が難しいモノになりかねなかった。既に先程、服装をマイクロビキニに替えると口走っているのだ。それ以上のことをやろうとしたならば、それこそ裸踊りでもさせられそうである。
「はぁ……わかったよ。反省するさ」
「口だけならいくらでも言えるっぽい。しばらくそうしてるか、ここから出てグレカーレか白雲と交代がいいっぽい」
「考えておくよ」
まだ反省しているようには思えないが、夕立から説教されるというレアな体験は、時雨の心にもしっかりと刺さったようである。いつも破天荒で能天気な妹に、ここまで心配されているのだから。
「さ、ここからは演習を続けるよー。時雨ちゃんは一回抜きにしてね」
「おう、あたしも底上げしたいからな。電と組んで2対2とか出来るか?」
「オッケー。子日とレーベちゃんが相手しちゃうね!」
「えっ、夕立もやりたいっぽい!」
「夕立ちゃんは時雨ちゃんの見張りね。子日達もただ入ってきたわけじゃないからね」
「ごめんねユーダチ、貧乏籤引かせちゃって」
「うー、これも時雨のせいっぽい! 後から滅多打ちにしてやるっぽい」
「逆恨みじゃないかな」
仮想空間での演習は、まだまだ続く。
間抜けなポーズといえば、グレートサイヤマンの決めポーズかな?
記念すべき1100話目に時雨が説教される話とかどうなってんだ。