後始末屋の特異点   作:緋寺

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不運な実力者

 続いての演習は、1対1ではなく2対2。深雪と電は共に戦うことも多いだろうから、ここで改めてタッグを組んだ戦いを慣らしていく。深海棲艦化という裏技を手に入れた電だが、それが使えなかった時のことを考えて、素のスペックでの戦い方はちゃんと刻んでおく必要はあるだろう。

 

 対するのは子日とZ1。子日の器用さとトリッキーな戦術は、深雪も電もしっかり理解している。目の前で見ているのだから、尚のことわかっているというもの。

 だが、Z1の方が少々未知数だったりする。2人の目の前で戦った時は、状況起因の不運が重なることが多く、特に目立ったことが出来ていなかった。

 Z3の出来損ないを相手したことで心の調子を崩したり、『量産』を受けてしまったり、夕立に振り回されたりと、列挙するだけでも少々残念である。

 それでも、Z1も他の元潜水艦勢と同様、30年選手の純粋種だ。かつての第二次深海戦争を生き残るくらいの練度は持っている。

 

 故に、誰もZ1のことを下に見ていることはなく、深雪も電も、こうして演習相手として対面したことで、警戒を強く持っていた。まともに見ていないからこそ、何をされるかわからないのだから。

 そういう意味では、Z1との演習は、今後のカテゴリーKとの戦いの前哨戦としては抜群かもしれない。

 

「っし、電、一緒にやるぞ」

「なのです!」

 

 ただ艦娘として並んで戦うことは、深雪と電は意外と出来ていないことが多い。要所要所では並び立つが、つい最近の島での戦いでは深海棲艦化をしており、その前は自分達が戦うというよりは仲間と協力しての戦いが続いた。陸戦だったということもあり、こうして海の上で組むのは随分と久しぶりな感じがしていた。

 

「よーし、レーベちゃん、頑張ろうね!」

「うん、一応僕も先輩だからね……ちゃんと見せられるといいな」

 

 一方、子日とZ1もやる気満々である。子日は楽しげに、そしてZ1はこれまであまり見せてこれなかった先輩としての戦いを深雪達に見せられるようにと、少々意気込んで演習に向かう。

 

『はーい、準備出来たねー。条件とか増やしてないから、海のど真ん中で殴り合ってもらうよー』

『子日様の奇抜な戦術は使いづらいかと思いますが、決戦の場で起こり得るであろう戦場の再現故』

『そゆこと。海戦は基本こうだからね。そんじゃあ、始めちゃおっか』

 

 グレカーレと白雲の声が響き渡り、演習が始まろうとしている。

 その光景を、正座させられながら眺めている時雨と、その隣で腕を組んで見ている夕立。

 

「……時雨、本当に反省してるっぽい?」

「してるさ」

「……ふぅん」

 

 夕立は時雨を懐疑的な視線で見ている。アレだけ言ってもまだ考え方が変わっていないような気がして、自然と心配が先立つようになっていた。

 

 

 

 

 空にブザーが鳴り響くと、真っ先に動き出したのは子日である。真正面からの突撃。障害物も何もないため、搦め手なんて使わず、まずはガチンコの戦いを挑んできた。

 深雪もそれには真っ向勝負。電を後ろにつけて、子日に対して正面から立ち向かう。このまま撃ち合うでもいいのだが、子日側も同じことを考えているようで、ギリギリまで引きつけて撃とうとしていた。

 

「ネノヒ、springen」

「ほいっ」

 

 そこで、後ろからZ1がボソッと指示を出した。今回の演習もお互いの声が聞こえる状況でやっているため、深雪と電にもこの指示は聞こえている。しかし、ここで言語が違うため、何を指示したのかは深雪にも電にも見当がつかなかった。

 

 子日が実行したのは、軽いジャンプ。すると、子日の足下からいきなり魚雷が向かってきた。子日の後ろでZ1が魚雷を放っていたらしい。()()()()()()()()。ジャンプさせること前提の戦術。

 

「うおっ!?」

 

 Z1は子日の真後ろに陣取り、自分の行動を悟られないように行動している。電がそちらの方を見ようとしていたのだが、立ち位置が絶妙で、魚雷を放った瞬間が判断出来なかった程である。

 

 素っ頓狂な声をあげてしまったものの、冷静に魚雷を回避。直線的な魚雷の挙動は見てからでも避けられるところ。

 しかし、あちらもわかっていてやっているだろう。ならば、避けること前提の戦術をそこから繰り出してくるのではないだろうか。深雪は真正面で見てくれているのだから、電がそこを割り出す。

 

「子日ちゃんに撃たれるのです!」

「だよなっ」

 

 避けさせること前提ならば、回避先を狙うのは当然のこと。問題は、()()()()()()()()

 子日は両手を主砲で包み込んでいる少々特殊な形状をしたモノ。やれることは盛り沢山。主砲として放つ、ワイヤーを使って主砲を投げる、主砲を拳として殴る、他にも何か出来るかもしれない。

 とはいえ、今は距離があるため、砲撃くらいしか考えられない。そこは無難に来るだろうと予測する。

 

「ほいっと!」

 

 しかし、ここでもまた別の手段を繰り出された。子日は確かに砲撃を放ったが、撃ったのは深雪でも電でもない、Z1が放った魚雷である。

 回避行動を取った直後に魚雷が爆発して水柱が昇った。視界が一瞬塞がれる。だが、深雪も電も徹底して回避を選択した。魚雷が無くなったからといって、そこに留まるなんてことはしない。身を隠すということは、あちらも見えないということだ。そこは、子日の姿だけでも視界に収めておかなければ、次の行動が見えない。

 

「撃つのです!」

 

 そこで電は、水柱をいち早く無くすために砲撃。ど真ん中を撃ち抜いたことで、水柱は水飛沫へと変化して弾け飛んだ。

 

 だが、もう子日の行動は次の段階に。恐ろしいことに、子日は深雪に背を向けていた。

 理由は非常に簡単である。子日は今、()()()()()()()()()

 

「にゃっほーい!」

 

 身体を回して振りかぶった瞬間、片手の主砲が手から外れ、猛烈な勢いで飛んできていた。まるでハンマー投げ。ブゥンと凄まじい空を切る音を起こしながら、グルリと回って電の方への向かっていた。

 いくらマルチツールを持っているからと言っても、この一撃を受け止められるバルジを備えているわけではない。直撃は流石に致命傷になりかねない。

 

「電!」

「避けるの、ですっ!」

 

 かなり無理矢理な体勢ではあったものの、その一撃を紙一重で避けた。かなり強引なバックステップであり、現実でやったら腰を壊してしまいかねない動き。電も思わず顔を顰めた。

 

 その攻撃はグーンと伸びて深雪の方にも向かっていく。当たり前だが、直撃は致命傷。深雪は電より頑丈かもしれないが、受け止められるほど強くもない。回避が確実である。

 当然、前に避けるのはダメ。ワイヤーがあるのだから、それが絡みついて行動不能になる。最悪、ワイヤーに刻まれることにもなり得る。かつて戦った深海千島棲姫を思い出しつつも、その主砲に砲撃を重ねようと深雪もバックステップ。

 砲撃が当たることは無かったが、砲撃を放ったことが功を奏して、ステップが速くなった。

 

「leg es zurück」

「了解だよっ」

 

 Z1の指示を受けて、子日はワイヤーを戻す。それが隙になる。むしろ、隙を()()()。ここで攻撃してこいと、誘われている。

 わざわざ乗ってやる必要もないのだが、攻撃するチャンスでもあるため、数瞬思考を巡らせて、深雪は数歩前に出た。ここで行かなければ、勝ちを掴むことは難しくなる。

 

「だよね、来るよね。レーベちゃん!」

「Feuer!」

 

 当然迎え討つ。子日の隙を埋めるようにZ1が砲撃を放ち、深雪の足を止めにかかる。その砲撃を放つ場所が絶妙。撃ってほしくない、爪先辺りを狙ってくるため、深雪は思わずつんのめりそうになる。動かなかったら当たらないのに、動くと当たる位置ばかりを常に狙ってきているのだ。

 その絶妙な砲撃に深雪は感心しながらも、前に進む手段を模索する。勿論、電も。前には進ませてくれない。しかし、進まなければ子日が準備完了する。ならば、進まなくても戦える手段で進めるしかない。

 

「砲撃するのです!」

 

 それが出来るのは、砲撃くらい。その場から進まずに攻撃を繰り出す。が、それも読まれていた。

 

「einen Schritt zurücktreten」

 

 これまで進行を止めていたZ1の砲撃が、徐々に足から脛、腰、胴と狙う場所を上げてきていた。深雪と電に下がれと言っているかのようである。子日の準備を邪魔させない。子日を引き立てるための動きが非常に上手い。

 

「くっそ、電、ちょい下がるぞ!」

「なのです!」

 

 砲撃に続いて雷撃まで飛んできたため、避けるのではなく下がる選択をする。強いられたようなモノなのだが、一度ここで仕切り直しとした。

 

「1対1ならまだやりようがあるけど、タッグだとこうも変わるか」

「そーゆーものだよー。タイマンに横槍が入るんだからねっ」

「レーベちゃん、上手なのです……!」

「イナヅマこそ。ちゃんとわかってる動きだよ。すごいね」

 

 4人が4人、この演習でいろいろと掴んできている。久しぶりの海戦は、血湧き肉躍るモノとなってきた。

 命の取り合いを模してはいるが、実際に失われることのない試合。お互いにお互いを知り、そして更なる高みのために頑張っていた。

 

 

 

 

 その光景を眺めている時雨が、小さく顔を顰めていた。夕立はそれを見逃していない。

 

「……嫉妬?」

 

 夕立の問いに、時雨は答えなかった。

 




レーベの上手さが出始めている。不運な実力者は、まだまだやれる。
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