後始末屋の特異点   作:緋寺

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先輩の意地

 深雪と電のチームは、子日とZ1のチームと2対2の仮想空間での演習中。なかなか前に進むことは出来ず、子日とZ1の連携に苦戦を強いられる。子日が砲撃とワイヤーアクションを組み込んだ前衛として動き、それを絶妙なタイミングで的確にサポートするZ1によって、そう簡単には越えられない壁として立ち塞がっていた。

 

「ここから撃っても避けられるだけだよな」

「なのです。でも、近付いたら追い返されるのです」

 

 子日の砲撃とワイヤーもそうだが、射程に入った途端、Z1からの激しいサポートが始まる。本人を狙わず、足元を狙うような砲撃に、合間に繰り出される雷撃での回避方向の強制化など、本当に絶妙なタイミングで攻撃を仕掛けてくるため、攻めるにしても踏み出すことが出来ない。

 なら遠くから撃てばいいのかと言われれば、そうでもない。射程外から無理矢理届かせようとするなら、あちらに簡単に避けられる。攻撃の意味が無いまであり得るので、無駄な攻撃はやめようと状況把握に努めた。

 

 ただし、子日もZ1もただ待ってくれるわけがない。間合いを取ったなら、今度は間合いを詰めてくる。近付いたら追い返されるから近付かないとしたら、向こうから近付いてくるため、考えを纏めさせないという意思が見えている。

 

「考えさせてくれよなっ」

 

 まずはそれを止めるために深雪が雷撃。直線的な攻撃なので避けやすく、子日もZ1も当たり前のようにさらっと避けた。全く同じタイミングで、全く同じ方向に。

 

「それなら、こうするのです!」

 

 ならばと、電は深雪の魚雷を自ら撃ち抜き、大きな水柱を作り出す。避けられた後ではあるので視界を遮るようなことは出来なかったが、電の考えはそこでは無い。

 

「深雪ちゃん、あの水柱に身を隠すのです!」

「あいよっ」

 

 一度攻撃の手を止めるため、視界から逃れるように水柱の陰に移動。そこで一度立て直そうと画策した。水柱なんていつまでもあるわけでは無いのだが、一拍置けば、戦況が変えられることもある。

 

 だから、子日もZ1もそれを許さない。視界から逃れる先に、Z1は既に魚雷を放っていた。移動を封じる。目の前から逃がさない。

 

「うおっと!?」

 

 足下を掠めかけ、深雪は直撃を回避するためにジャンプ。絶妙に嫌なタイミングの雷撃に、深雪はZ1の恐ろしさを理解した。

 

 基本に忠実。そして、戦況をよく見ており、目立たないように立ち回る。子日がわかりやすく派手に動いて、その陰から確実な攻撃を放ってくる。

 子日を盾にしているように見えるが、むしろ子日はZ1の矛だ。攻めに転じるための武器であり、Z1は直接的な一撃を控えつつ、矛の攻撃を通すための行動をメインにしている。

 

「ほい隙あり!」

 

 ジャンプするということは、その間は無防備であるということに他ならない。子日はその瞬間を狙って砲撃を放つ。着水の瞬間に直撃を狙って。

 

「深雪ちゃん!」

 

 だが、そこは電の援護が光る。マルチツールから水上機を発艦させ、その砲撃から深雪を守った。勢いで押し込まれそうにはなったが、何とか直後には免れる。水上機はそれだけで消耗し、深雪が撃たれることはなかったが、次はないという状況に。

 実戦でこんなことが起きてしまったらもっと危険ではあろうが、今は演習。出来ることは全てやっていかねばならない。

 

「悪い!」

「大丈夫なのです!」

 

 深雪がサムズアップを見せて、電が大きく頷く。水上機をこんなことに使うのはよろしくないとは思いつつも、仮想とはいえ深雪の命をしっかり守れたことを誇り、次の一手、最善の手段を探し出す。

 

 が、その暇は簡単には与えられない。子日はもう次の攻撃、主砲そのものの投擲のモーションへと入っていた。

 水柱はもう無くなっている。障害物もない、ただ広い海で、子日の渾身の一撃が放たれようとしていた。

 

「させないのです!」

 

 そこに電はすぐさま反応。子日に向けて主砲を構えた。だが──

 

「Nein, das taugt nichts」

 

 Z1はそれに合わせて魚雷を放ち、さらには自らその魚雷を撃ち抜いた。

 途端に作り出される水柱の防壁。電はいきなり子日が視界から消え、驚いたことで砲撃を上手く放つことが出来なかった。

 

 そしてその水柱の向こうから、空を切って飛んでくる子日の主砲。このままだと電に直撃となってしまう。

 

「電!」

 

 深雪はもう殆ど無意識に動いていた。子日の主砲が何処にあるかはわかっている。電に向かっているのだから、どの高さに、どの距離に、何処にそれがあるかはピンときていた。

 あとは精度だけだが、それを補うためになるべく近付いた。盾になるのは間に合わない。電に触れることもままならない。ならば、()()()()()()

 

 近付いてからの砲撃は、深雪の中ではベストショットだった。完璧なタイミング、完璧な精度。しかし、そうされることを読んでいたかのように、Z1が動いていたのだ。

 

「狙う場所がわかってるなら、僕も少しはやれるよ。Feuer!」

 

 Z1から放たれた砲撃は、深雪も電も狙っていない。狙ったのは、()()()()()。その砲撃は主砲に当たり、その勢いを砲撃の分強くして、速度が速まったことで、深雪の妨害の砲撃をすり抜けるように数歩前に進むこととなった。

 

 加速したことに電も追いつくことが出来ず、これは避けられないと理解した。ならば、必要最小限にダメージを抑え込まなければならない。

 そこでやったのは、その攻撃に背を向けること。身体に当たるよりは艤装に当たった方がダメージが少ないはずだと踏んで、基部の一番大事なところに当たらないようにしつつ、どうにか調整した。

 

「ううっ!?」

 

 バギッと嫌な音と共に、電の艤装に直撃する。その衝撃は相当なモノで、電はそこに立っていられずに、軽く吹っ飛ばされる。

 判定としては中破といったところ。電のダメージコントロールが上手くいった結果となる。しかし、この中波のせいで、電は確実に速力を落とすことになる。

 

「電、大丈夫か!?」

「致命傷じゃあないのです!」

 

 一拍遅れて、深雪は電の傍へと辿り着く。終わっていないからいいものの、下手をしたら電はここで退場だった。ホッとしつつも、子日とZ1の連携の突破方法をすぐにでも考えなくてはならない。

 子日は振り回していた主砲を手元に戻しており、砲撃の体勢になっていた。駆け寄ったことで的が大きくなったと言っても過言では無い。あとは狙いをつけて撃っていけば、そのまま勝利に向かえると判断した。

 Z1も今は集中砲火で問題ないと思いつつ、雷撃だけは欠かさず放っていた。右にも左にもいけない状態にしつつ、子日の砲撃から避けるルートを潰してそのまま押し込もうと。

 

「容赦ねぇなぁチクショウ!」

「演習だからねーっ」

 

 ここで深雪も賭けに出た。本来この状況に陥ったら、特異点の煙幕を使って回避していただろう。だが、今は特異点の力無しだ。この状況で普通の煙幕を出したところで、何も起きないどころか不利に向かうまである。

 だからこそ、空中で砲撃同士が直撃し合うことを意識して、深雪はその主砲を放った。止めてくれと願いながら。

 

 子日がそのように狙ってくることはすぐにわかる。故に、そこに砲撃を被せるだけで何とかなるはずだった。

 

 そう、()()()()()のだ。

 

「Es tut mir Leid」

 

 砲撃は確かに放たれた。深雪の砲撃は、これまででも類を見ない程に完璧な砲撃だった。狙い通り、願い通り、砲撃と砲撃が重なり合い、その勢いを互いに失わせ、自分達へと向かってくる攻撃を奇跡的に食い止めることが出来たのだ。

 だが、Z1の二の矢が放たれていたことには気付かなかった。砲撃同士が直撃したその真下。さも当然のように向かってくる魚雷。

 

 基本に忠実。仲間の攻撃に、自分の攻撃を重ねる。質の違う攻撃を織り交ぜ、攻撃を確実なモノとする。Z1は、それを淡々と行なったに過ぎない。

 

「ま、マジかよ……っ」

 

 深雪は電をどうにか抱き抱えて、その場から離れようと動き出す。が、それもまた読まれていた通り。

 

「マジだよーっ」

 

 避けた方には、もう避けられないくらいの場所に子日の主砲があった。眼前、その瞬間がスローモーションにすら見えそうな、そんな感覚を得た深雪は、これはダメかと思いつつ、しかし抗おうと、電を抱きかかえるようにしてしゃがみ込んだ。

 

 子日の主砲は、深雪の艤装に直撃。身体に当たらなかっただけマシなのだが、これもやはり中破相当のダメージに繋がる。

 

「深雪ちゃん!?」

「大丈夫だっ、まだあたしはやれ──」

 

 艤装が大きく凹んだが、それで終わりではないと、電の無事を確認しつつ立ちあがろうとしたその瞬間、深雪は横からの砲撃に見事に吹っ飛ばされることになる。

 

 子日の主砲が直撃した時、Z1が既に移動しており、死角から砲撃を放っていたのだ。

 

「……やれねぇ!」

「み、深雪ちゃーん!?」

「まだ負けるわけにはいかないんだ」

 

 そして、電も撃たれることで、それが致命傷となり、大破、いや、()()()()となってしまった。

 深雪と電は、これにて敗北。演習は、子日とZ1のチームの勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 

 先輩としての技量を見せつけることに成功したZ1は、ホッと安心したように息を吐く。そして、子日とハイタッチ。

 実際、この演習のおかげで、少し失われそうになっていた自信を取り戻すことも出来ていた。それを口にも態度にも出すことは無かったのだが。

 




例外が起きなければ淡々と仕事が出来る感じ。
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