子日Z1組との演習は、完膚なきまでの敗北で終了。これまで特殊な戦闘ばかりだったところから、本来の普通な海戦となったことで、熟練者の経験値が勝ったと言える演習となった。
負けた後は感想戦。何処が良かったか、何処がダメだったかを語り合う時間。これもまた、艦娘としての先輩からのありがたいお言葉を受けることが出来る。
「戦い方は良かったと思うけど、やっぱりちょっと庇い過ぎかも。深雪ちゃん、1対1の時と動き全然違ったよ?」
「そ、そうか?」
「電ちゃんのこと、意識しすぎてないかな。前を向いてるようで、意識は電ちゃんの方にかなり行ってるよね」
深雪に対して、子日はそう指摘する。言われてみれば確かに、と深雪は腕を組んで天を見上げた。
演習に勝つことも考えていたが、隣に電がいることで、護らなくてはという気持ちがかなり強めに働いていた。それこそ、無意識に。
電のことを信用していないわけではない。むしろ、今では電だって1人で充分戦えるくらいには成長している。深雪にとって、頼もしい仲間であり、信頼出来る相棒だ。だが、それでも意識が向いてしまう。
「イナヅマも同じかな。ミユキのこと、かなり見てるよね」
「あ、そうかも……なのです」
「戦いやすいようにって意識することは大切だけど、自分が前に行くことも大事だよ」
Z1からは電へ、深雪と同じことを伝える。互いに互いを意識し過ぎて、攻撃の隙がわかりやすいと。
互いを守る時は迅速に行動出来ていた。だが、攻撃はかなり単調。攻めより守りに重点を置いているような動き。それなら、押して押して押しまくる攻めをすれば、勝手にジリ貧になってくれる、余裕が無くなる。
いつもならば、お互いに煙幕を使って場所の把握も出来るし、緊急時にはその煙幕が壁の役割も持ってくれる。そして今ならば深海棲艦化という裏技もあるため、出力を全て上げることすら出来る。
この演習はその全てが取り除かれているのだ。となると、2人とも慎重になるのはわからなくもない。そして、慎重になり過ぎて、お互いを見続けている。大胆な行動が出来ていない。
「怪我する覚悟で進めとは言わないけど、もう少し前進することを意識しないとね」
「つってもなぁ、レーベの砲撃、前に進むの止めてきたろ」
「だったら、イナヅマが僕を攻撃するべきだよね。あの時の僕は障害だったわけだし」
「う……前に進む方法より、進まなくても戦える方法ばかり考えていたのです」
「堅実だけど、進めないよねー」
勝つ戦いより、負けない戦いを優先した結果起きた事故のようなモノ。ちゃんと防ぎ切れるならそれでもいいが、今回はそれで防ぎ切れなかったために、敗北を喫している。
カテゴリーKとの戦いでは、もしかしたら煙幕を使えなくなるかもしれない。実力のみで戦う必要が出てくるかもしれない。そうなった時には、今回のようなことが起きるかもしれない。
「でも、お互いに守り合う戦い方はすごく上手かったと思う」
「うん、子日もそれは一緒かなー。連携自体は凄く良かったよね、今回は後ろ向きだったけど」
これは事実。2人のタッグは、非常に息があっていた。阿吽の呼吸といっても差し支えがないくらいには、タイミングなども非常に良かった。しかし、戦況的にそれが上手く噛み合わなかったとも考えられる。
その時々で息の合わせ方は変わってくるだろう。守りの連携ばかりでなく、攻めの連携でなければ、勝てるものも勝てない。
「もっと押せ押せでやってみない? ここは演習だし、やられても痛くも痒くもないからさ、電ちゃんも、深雪ちゃんの背中をグーッと押すみたいに」
「うん、ミユキも電に背中を預ける感じで、振り向かないようにやってみたらどうかな」
早くも次の演習の話が出始めている。深雪も電も、そのアドバイスを受けて顔を見合わせた。
互いに信頼しているが、互いに過保護のような動きをし過ぎていたかもしれない。自分よりも弱いなんて考えていないし、むしろ自分より強いとすら思っている。なのに、失うのが怖いから、護らなくてはと無意識に考えてしまう。
護らなくてはいけないほど弱くない。ならば、要所要所で手を入れて、基本は前に進むように動く。これを試してみたい。
「ああ、ちょいやってみたいな。演習なんだ、試せることは何でも試したい」
「なのです。前に進ませる援護、特異点の力無しでも、やれるようにしなくちゃなのです」
「あたし、自分の力に頼り過ぎてたな。今回ですげぇよくわかったぜ」
特異点故に、ここまでの特殊な戦闘ではその力を存分に発揮し続けていたわけだが、その弊害がここでよく見えた。
地力を上げるという点では、この仮想空間での特殊能力禁止演習が非常に有効。実際の戦闘でも間違いなく役に立つ。地力が上がった状態で、そこから特異点の力が使えるのならば、尚強く戦えるだろう。
「グレカーレ、白雲、お前達からも、あたし達の悪いところ見えてないか?」
天の声に質問をする深雪。今の自分達の戦い方を改善するためにも、聞ける者達からはいくらでも聞く。深雪はそこにプライドなんて持っていない。かつて響から聞いた、不必要なプライドであると切り捨てている。
『そうだねぇ、第三者な視点からすると、やっぱ2人はくっつきすぎかな。ネノヒとレーベの連携とはちょっと違うねぇ』
『はい、グレ様の言う通り、お姉様と電様は、互いを意識しておられるため、距離がかなり近いかと。守るための行動は取りやすいとは思いますが』
『そりゃあ飛び込んで抱き着くことも出来るってもんだよね。うん、あたし的には眼福だったけど、戦場でそれは危ないと思うよ』
少し欲が出たものの、行動そのものが危険だと言われれば、そこが改善ポイントだとわかるというもの。
『ほら、レーベの動き考えると結構わかりやすくない? 最後の。連携だけど、ネノヒとは大きく離れてたでしょ』
「確かにな。子日の攻撃を防ぐために動いたら、子日に目が行ってレーベが死角に回り込んでたの気付かなかった」
『死角を作って攻撃しやすくするのも連携だってことだね。くっついてることが連携ってわけじゃないんだよ』
確かになと深雪は納得。一緒に行動するだけが連携ではない。時には離れて、互いの場所を把握しながら、敵の死角を作り出し、相方の攻撃をしやすくする。隙を作って攻撃しやすくするのも立派な連携。
お互いに信頼しているのだから、離れていたってそれくらいは出来るのではないだろうか。ならば、やってみようとなる。
「よし、もう一戦いいか?」
「いいよー。相手はこのままで良かった?」
「ちょっと待ったーっ! 夕立もやるっぽい!」
ここで、時雨を見張っていた夕立がうずうずしながら演習参加を宣言。見ているだけでは足りなくなったようだ。
一方、時雨は無言でじっと見ているだけ。反省しているのかは見てわかるものではないものの、この演習に参加するとは言っていないようだ。
「じゃあ子日が交代ね。夕立ちゃんとレーベちゃんでやってみよう」
「ユーダチって合わせにくいんだよね……」
「おい夕立、仲間から苦言があるみたいだぞ」
「まあまあ任せてほしいっぽい。こういう連携もあるんだぞって知ってもらうから」
「振り回すことは連携じゃないからね?」
Z1は一度夕立に振り回されていることもあり、ここでの連携は少々不安があるようである。
しかし、戦場では誰と組むことになるかなんて想像出来ない。突発的なタッグは普通にあり得る話である。
「つーか、夕立にはあたし達、借りがあるからな」
「綾波ちゃんと組んで演習した時、負けてますしね」
「おう。なら、今回は勝ちてぇ。あの時の演習と違って、今回は守るモンもないしな」
前回夕立綾波コンビと戦った時は、ケッコンカッコカリの直後の慣らし運転の時。その時は大発動艇にグレカーレを乗せた状態で、守りながらの戦いだった。その時は見事に敗北を喫してしまったが、今回はまた状況が違う。
「ぽい! 今回も負けないっぽい!」
「先輩として、まだ負けるつもりはないよ」
「おう、負けっぱなしも癪だからな。次こそは勝ってやらぁ」
「なのです!」
ということで、深雪と電の演習は、そのまま引き続き夕立Z1組との戦いとなる。先程とはまた違った戦い方になるだろう。子日のトリッキーな戦いと大きく違う、ダイナミックで野生的な戦い方を相手取ることになるのだから。
それはそれで大きな学びとなるだろう。夕立のやり方もそうだが、そこに合わせるZ1の動きも、知っておきたいことが沢山ありそうだ。
とはいえ、夕立も30年選手。Z1と同様、熟練者である。これまでの戦場では、調子に乗って失敗なんてことも度々あったが、今回のような何も都合が悪くなることがない戦いならば、緊張感もなくやり合える。元々夕立に緊張感というモノがあるかはさておき。
「っしゃあ、じゃあ早速やろうぜ」
「ぽい!」
やる気満々の深雪と夕立、その後ろで言葉にはしないもののグッと力を込めている電とZ1。次の演習も、実りのあるモノにしようと、強く気持ちを入れていた。
「時雨ちゃん、反省した?」
それを見つめている時雨に、一度演習から外れた子日が駆け寄る。1人で放置しておくのも可哀想ということもあり、夕立に代わって監視役を買って出ていた。
「してるさ。というかね」
「ん?」
時雨の言葉に、子日が首を傾げる。
「あの時は、アレが最善だと思ったんだ。でも、こうして一度離れて、考えていく内に、僕としてもおかしいと思い始めてきてる」
「まぁ、うん、やったことはおかしいね」
「深雪に負けたくない気持ちは本当さ。でも、だからといって、負けを回避するために僕は自爆した。今考えてみれば、あれは、おかしい」
時雨の表情が険しくなる。そして、小さく溜息を吐く。
「……言い訳にしか聞こえないかもしれないけれど、いいかな」
「何かあった?」
「ああ、あの時の僕は……何か違った気がするんだ。深雪に対してだけ、行動がおかしくなったような……そんな感覚が今更ながらしてる。でも、その時は何も感じなかった。それが当たり前だと思っていたんだ」
子日はより首を傾げることになる。
「……深雪に嫉妬することくらいあるさ。でも、だからと言って、あんなことをするのは、やっぱりおかしい。まるで……
「え、じゃあ、時雨ちゃん」
「ああ、客観視して気付けることもある。おそらく僕は……」
確信を持ったかのような発言。
「あの黒い煙幕を受けたことで、何かされたんだ」
悪いな夕立、お前の演習は、ナレーションベースだ。