後始末屋の特異点   作:緋寺

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嫉妬心

 深雪と電が夕立とZ1のチームと演習をしようとしている中、それを正座させられながら見る羽目になっている時雨が、自分の中に起きているイベントを子日に話す。

 いくらなんでも、深雪に負けたくないからと言って自爆するのは流石におかしい。ただでさえ、時雨は敵の自爆で痛い目に遭っているのだ。本来ならば選択肢にも入らないだろう。

 しかし、深雪に負けたくないという一心で出てきたのが()()()だ。本来の時雨ならば、同じ共倒れでも、ある程度は勝ち目がありそうなクロスカウンターを狙ってそうなところだが、爆雷を使うという暴挙に出た。

 

「それで、あの煙幕を受けたからそうなったって?」

「そうに違いない……とは言い切れないけれど、僕としてもあの時の行動はおかしいと思えるんだ」

「まぁ、うん、そうだね」

 

 子日も考えてみれば確かにと腕を組んで考え始める。深雪にライバル心を持っていることは自他共に認める事実。隠そうともしていない。なのに、それが今回は良くない方に発揮されていると。

 

 うみどりに所属することになった時期も、おおよそ同じくらい。本来ならば敵対の意思を見せた時点で、心苦しいが沈めるという選択を取ることになるはずだったが、時雨は深雪──特異点との出会いで、それを回避することになった。

 そこからはお互いに切磋琢磨し、仲間が増えてきたら直接的な関わり合いが減ったものの、それでも互いに仲間と認め、追い越し追い越されのライバル関係だと、口には出さずとも自負はしていた。

 そんな相手に負けたくないと考えるのは当然と言えば当然。しかも最初はカテゴリーMの特性もあって時雨の方が強かったまであるので、互角、それ以上の戦いを繰り広げられたら、負けたくないという強い対抗心を持つのは誰だってそうである。

 

 だとしても、あの結末は、その負けたくないという気持ちから離れた何かにしか思えない。時雨はその時だけは最善だと思った、()()()()()行動は、意地でもなんでもない、自棄である。

 

「時雨ちゃん、割と性格悪いところあるけど」

「子日からもそう思われてたのかい僕は」

「でも、負けないために引き分け狙うようなヒトじゃないよね。むしろ、ボロボロになりながらも立ち上がってくるような気がする」

 

 子日からの印象がそれだったという事実が時雨の心を若干抉るが、それはそれで呪いのせいだからと言い訳は出来る。話はそれ以降の部分。時雨ならば、爆雷による自爆を狙うより、深雪からの攻撃を受けた後、効いていないぞと立ち上がり、それでも攻撃を仕掛けるように思えた。

 とはいえ、あの選択を取るくらいに負けず嫌いな部分も見えたりしそうなので、ここにいる誰もが、時雨のあの行動に違和感を覚えなかったというのが事実なのだが。

 

「でも、あの後に深雪ちゃんから煙幕かけてもらわなかった?」

「……そこなんだ。僕は念の為と思って、深雪に特異点の煙幕を使ってもらってる。でも、今回のことが起きた。深雪の力が届いていないのか、それとも、あっちの深雪の力が強いのか」

 

 そこが謎である。何かあっては困ると、その時に処置をしてもらっていてコレなのだ。そういうこともあるので、今回の選択は時雨自身の選択なのではと思えてしまうのだ。

 

 ただし、あの黒煙はこういう点、精神性にだけは深雪のそれ以上に効果的であるということはあり得る。何せ、特異点の力は未だ未知数な部分が多い、多すぎる程なのだ。特異点自身が把握し切っていないほどに。

 

「……ともかく、今の僕は何かおかしい。と僕自身が言っても意味がないかもしれないけれど」

「うーん……どうなんだろう。あ、グレカーレちゃん、白雲ちゃん、今の時雨ちゃんの話、聞いてた?」

 

 深雪達の演習が始まってからでは天の声との話は出来なそうではあるため、子日は今の段階で一旦聞いてみる。

 

『ん、一応聞いてたよ。シグレの頭がおかしくされてるんだっけ?』

「もう少し歯に衣着せてもいいんだよ」

『実際頭おかしいことやったじゃん』

「否定はしないけど」

 

 グレカーレからの辛辣な言葉も、今の時雨にはそう言われてもおかしくないと感じることは出来ている。ムキになって否定することもなければ、あの時の自分はおかしかったと客観視出来るようにもなっている。

 

『シグレってさ、ミユキに対して結構強めにライバル心持ってるっしょ』

「まぁ、ね。同期に近いくらいだから、負けたくはないよ」

『それが悪い方向に持っていかれたってことだよね。例えばさ、あの別個体と同じ感情にあの時だけなったとか』

 

 黒深雪も、深雪に対してはいろいろと思うところはありそうである。特異点のオリジナルと模造品。目的を果たすためには邪魔な存在だが、それ以上に、その存在が模造品としては目の上のたんこぶにも見えているのかもしれない。

 ライバルというよりは、オリジナルという存在に対しての妬み嫉み。自分がこんな目に遭っているのに、オリジナルは悠々自適にこの世界を満喫し、あまつさえ今の状況に満足までしている。そんな存在に対しての、激しい嫉妬心。そんな奴に絶対負けたくないという敵愾心。対抗意識があまりにも強すぎる上に、舌戦ですら敗北していることもある。

 

 グレカーレは、そこから1つの結論を導き出した。あの黒い煙幕を浴びた者は、黒深雪と同じ感情、それに近い感情を持った時、同じようになりふり構わなくなるのではないかと。

 

 時雨に深雪に対して嫉妬心があったことは、ついさっき夕立が看破している。その嫉妬が深雪の何に対してかは、時雨自身がおそらく最もわかっている。

 

「……ああ、そうか。僕はあの別個体に、認識を歪まされているのか。()()()()に」

『んー? どう歪んだのかなー?』

「楽しそうにするんじゃないよ」

『ちゃんとシグレの口から聞かないとさぁ、アレもシグレの本心でやった行動って思っちゃうからねぇ。あたしとしては、そこまで大きな違和感なかったし』

「君も僕のことをそういう目で見てるのかい」

『そりゃあまぁ、シグレには呪いがあるんだから。シラクモみたいにミユキと一緒に居続けて変わったわけじゃあないんだからさ、何か突然爆発するようなモンでもなさそうでしょ』

 

 白雲の持つ呪いは、常日頃から深雪と共に行動していることもあり、大きく鳴りを潜めている。人間に対しての感情も随分と穏やかになっており、深雪に害を為さなければ、始末する必要も無いと納得もしている。

 それが深雪のためにも繋がり、呪いよりも強い、この繋がりを失いたくないという気持ちになっている。そこから親友と言える仲となったグレカーレの存在が出来たことで、周囲にもより良く接することが出来る、本来の白雲を取り戻したと言えるだろう。呪いと共存しつつも、それを表に出すことはもう無いと確信出来る。

 

 しかし、時雨に関してはまだ危ういところが少しは見えた。それが、本来とは少々離れた、この皮肉屋で斜に構えるような性格。人に害を与えるようなことはせずとも、その時の感情をハッキリと声に出すし、悪意を持った言葉でもそこまで躊躇せずに口に出来る。

 島での戦いでは黒井母との、後始末の間では黒深雪や出洲との舌戦で、その部分はより顕著に現れている。本来の時雨ならば、あそこまで激しく言わない。怒りと憎しみを口にすることで、スッキリするような感覚を得るようなこともない。

 この時雨は、そこが大きく違う。明らかに呪いの影響であり、白雲と違って修正の機会があったわけでもない。これがうみどりの時雨の持ち味というカタチで受け入れられている。深雪ですら、時雨とはこういうモノであると納得してしまっている程である。

 

「全く、カテゴリーMというのも厄介なモノだよ」

『シラクモはシグレとは違うけどね。まぁいいや、その辺は。で、シグレ的には、呪いがどうこうって感じではないんだよね。すっごく自然に、あのバカな手段を一番の選択だと思ったわけだ。で、どう歪んだのさ。ちゃんと言わないと』

「……そうだね、言わないと先に進まないか」

 

 時雨は諦めたように溜息を吐き、言葉を紡ぎ出した。

 

「正直、深雪があそこまで強くなってると思っていなかった。特異点の力無しで、近接戦闘でもなく砲雷撃戦でだ。僕だって、これまで結構鍛えてきたつもりさ。深雪に負けるわけにはいかないってね」

『でも、追いつかれたね』

「ああ。そこで、僕は戦いながらも、少し感じてしまったんだ。深雪の才能を。特異点だからなのか、本来の力なのか、深雪はやたらと成長する。きっかけがあれば、突然、何段も飛ばして。僕の1段は、深雪の3段じゃないかと思えるくらいにね」

 

 実際はそうではないはずなのだが、既にある程度育っている者の成長幅と、真っ白な状態からの成長幅は、大きく変化するモノだろう。時雨はカテゴリーMの特性で、最初から実戦に耐えられる程の実力を有して生まれているが、深雪はカテゴリーWということもあるからか、海上移動が出来ないような、本当に真っ白な状態からここまで来ている。短時間で互角になったというところも、その大きな伸び代のおかげである。

 それを時雨からしてみれば、自分よりも成長が恐ろしく早い、才能の塊だと感じるところがあったのだろう。黒深雪の煙幕を受ける前から。

 

「正直、そこを嫉妬したんだ。強くなることを実感出来て、本当に強くなって、前とは比べ物にならないくらいに戦えてる。特異点の補正がない、この場でも。さっきは先輩達にボコボコにされたようだけれど、それもいずれ……いや、下手をしたらもうすぐにでも払拭するよ。きっと、深雪なら」

『あるかもねぇ。ミユキ、そういうところですごい力発揮するし。何よりやる気があるもんねぇ』

「羨ましいとすら感じたさ。それ以上に、負けたくないってね。そうしたら……コレだよ。僕では認識出来ない歪みがあった。今なら、そう思う」

 

 正直にその気持ちに向かい合った時雨の言葉は、聞いている皆に伝わった。深雪の伸び代に対しての嫉妬。それが、黒深雪の持つ別の嫉妬とリンクしてしまい、時雨はその瞬間のみ歪んだ。

 その結果が、負けていないという現実を作るための自爆。夕立から敗北を突きつけられてはいるが、あくまでも納得していないような言動ではあった。反省を促されても、本当に反省しているかわからないような。

 

「……困ったね。深雪の煙幕を受けたのに、僕にもわからないところに何かを刻まれてる。どうにか出来ないなら、僕は次の戦いには参加出来ないだろうさ。下手したら、深雪を後ろから刺すよ」

「それはダメだねぇ。うん、ダメだよ。なら、解決の方法探さないと」

「ああ、そうだね、そうなんだけど、どうするべきかな」

『とりあえずミユキに頼ったら? ちゃんと正直に話して、もう一度燻ってくれって頼めばいいでしょ』

「……そう、なるか」

 

 ここに抵抗が出ている時点で、時雨には深雪に対してのほんの少しの劣等感がある。そこも、黒深雪と絶妙にリンクしてしまっているところがありそうである。

 

 

 

 

 時雨は、黒深雪と相性が良すぎるのだ。

 




黒深雪の感情と、これほど相性のいい者は、うみどりの中にもそうそういないでしょう。あとはスキャンプとかになるかな?
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