深雪と電、夕立とZ1の演習は、深雪チームの奮闘虚しく、敗北を喫してしまったことで幕を閉じていた。
一つ前の演習で指摘された距離感を意識し、お互いを信用し、深雪は振り向くことなく、電は深雪に指示を出すことなく合わせるように動くことで、守りではなく攻めの姿勢で進もうとしていた。
しかし、相手が夕立となると途端に分が悪くなる。深雪がやろうとしていること、相方に全幅の信頼を置いた状態で一切後ろを向かずに突撃してくるものだから、深雪は結果として防戦一方に持ち込まれ、それを電が援護して引き剥がそうとしても、Z1がそれをさせないように立ち回るため、まともに戦いが進められず、終始夕立のペースを維持されてしまっていた。
その結果、夕立の猛攻を止めることが出来なかった深雪がそのまま押し込まれてしまった。単純な近接戦闘なら勝てるだろうが、今回もやはり
「くっそ……夕立怖いモノ無しかよ。当たり前のように真っ直ぐ突っ込んできて」
「んー、怖いモノが無いことは無いっぽい。でも、自分の得意な距離はちゃんとわかってるつもり。夕立は、みんなより少し近いの。だから、嫌でも前に進みたいっぽい」
「主砲は同じモン使ってるよな……」
「狙い定めなくても当たるような間合いが一番っぽい」
それもまた夕立の特性と言えよう。近付けば当たるというのは自明の理。しかし、それを実際にしようとする者はそうそういない。何故なら、危ないから。
夕立はその危険を顧みずに突撃する。今回は頼れるサポーターであるZ1がいたのだから尚更振り向かない。
そういう戦い方をするため、Z1からは合わせづらいと思われているようだが。
「そういう意味では、お前『ダメコン』手に入ったのデカいな」
「本当にね。でも、次の戦いはそれに頼らないようにしようかなって思ってはいるっぽい」
「お、なんでだ?」
「あっちの深雪が、そういうところ消してきそうな気がするっぽい。深雪だって、敵の力消せるでしょ?」
夕立は夕立なりに考えていることがあった。それが、黒深雪が何処まで深雪と同じことが出来るか。
深海棲艦化してスペックを大幅に上げてくるようなことをしてくるかもしれないし、逆に曲解を身につけている夕立達のスペックを何も無かったモノにしてくるかもしれない。今この仮想空間でやっていることを、現実にも突きつけられる可能性があるのだ。
地力だけの戦いを強いられるのならば、『ダメコン』で盾になるようなことは出来なくなる。それに頼ってばかりではいられない。
「それこそ、うちにも叢雲がいるしな」
「夕立も流石に弁えるっぽい。知ってるなら対策くらいするっぽい」
「じゃあ、そういうこと無さそうだってわかったらどうすんだ?」
「それはもう、真正面からぽいぽいぽい」
だよなと深雪は苦笑する。今この場は曲解が完全に封じられた場だから弁えているだけ。全部使えるのなら、使わない理由がない。
「レーベちゃんも、援護が本当に上手なのです」
「かなりギリギリだったけどね。ユーダチ、本当に自由に動くから、作戦も何もあったモノじゃないし」
「それでも、合わせることが出来てましたよね」
「予想が出来ないから、それを邪魔させないことを念頭に置いていたんだ。ユーダチは、抑えてもらうより、好き勝手やってもらった方が強いからね」
Z1からサポートの秘訣を聞き出そうとしている電。相手の特性を見極めて、援護の仕方を変えているということがわかる。
子日の時は、声をかけながら自分の動いてほしいタイミングを伝えていた。そのおかげで、死角を作ったり、同時に攻撃したりと、その時々で最も厄介な行動を選択している。
夕立の時は、声すらかけずに自由に動かし、それを邪魔させないように攻撃を重ねていた。その結果、夕立は深雪との1対1を作り上げることに成功し、さらには電が援護出来ないように抑え込んでいた。
援護する者によって戦術を変える。それが熟練者のサポート。電には勉強になることばかりである。
そもそもZ1は特機を使ってもいないのだ。仮想空間でなくても、このサポートをすると考えてもいい。
「深雪ちゃんの場合は……どちらにも出来そうなのです」
「あ、そうだ。それじゃあ、今度は僕がミユキと組んでやってみるよ。ユーダチはネノヒと組んで相手をしてもらって、イナヅマは僕の援護の仕方を見てみるっていうのはどうかな」
「なるほど、それはいいですね。電も、他の人が深雪ちゃんと組んだ時にどう動くのか知りたいのです。知っておきたいことは沢山ありそうなので」
自分よりも上であるサポーターの動きを、学びのために取り入れたい。電もそこはやる気充分である。自分以外を深雪と組ませることに抵抗もない。以前ならそこに劣等感や嫉妬心が生まれていそうなものではあるが、今は決戦のための成長であると電も理解しているため、負の感情が生まれることなく、Z1に頼ることもする。
自分が持っていないモノを持っている者から学びを得ることに抵抗を持つのはナンセンスだ。過去にいろいろあった電だから、そこに躊躇いもない。
成長のために、仲間のために、深雪のために、貪欲に学びを得る。電は、精神面でもちゃんと成長していた。
未だ考えを纏めている時雨は、少し1人で考えたいということで、大分離れた位置に移動。その場所はグレカーレと白雲が管理しているから気にしなくていいよと任せるカタチに。
電はなるべく近くで見られるようにしたいが、邪魔にならないように少しだけ離れた場所に。仮想空間であることも利用し、近くに戦闘中の映像が見えやすいようにディスプレイを配備される配慮付き。
「それじゃあミユキ、作戦らしい作戦は無いんだけど、まずは上手く引き付けてくれるかな。自由に動いてくれていいよ」
「いいのか?」
「うん。ここまで2回、ミユキと相手してるから、多分行けるよ。ユーダチはそれでも自由すぎて合わせにくいんだけど、ミユキはまだやりやすい方だから」
Z1の中のやりやすいやりにくいの判断が何処から出てくるのかはわからないが、深雪はまだやりやすい方がという認識のようである。それが褒められているのかどうかは深雪としては何とも言えないところだが、サポーターにやりやすいと言われるのは、悪い気分ではなかった。
「子日の時みたいな掛け声とかは?」
「そうだね、それじゃあ、springenって言ったら、一拍置いてジャンプして。今回はそれだけで大丈夫」
「了解だ。跳んだら下から魚雷が走ってくかもしれないってことだな」
「それ以外にもあるよ。やることがあればだけど」
何が起きるのか少しわくわくしつつ、しかし初めてのZ1とのコンビというのは若干緊張してしまっていたりする。
共に並んで戦ったのは、それこそまともな戦いにならなかった海賊船の出来損ないとの戦いくらい。やられたらすぐに撤退という苦汁を嘗めさせられた。今回の演習でそんなことが起きるとは思えないが、チームワークのカケラもないみたいな動きになってしまうのは、少し怖い。
「ミユキ、一旦僕のことは忘れてくれていいからね。こんなこと言ったら良くないかもしれないけれど、自分の身は自分で守れるから。心配かもしれないけれど、後ろを向かない。
そこは念を押した。深雪は気にしすぎなのだと。
これまでの戦いでも、目を離した隙に何かをされるということが頻繁にあった。それ故に、深雪は周囲をどうしても見てしまう。仲間に意識を配りすぎる。それが電ならば尚更だった。
そのせいで攻撃が疎かになったら意味がない。特異点の力が使えるのならばまだしも、素の状態ではいくつも手段が遅れる。そして、前しか向いていない敵に押し込まれるのだ。夕立との演習はまさにそうだった。
大発動艇の演習の時にも意識はしていたが、結局はモノになっていないと痛感する。むしろあの時は守らなくてはいけないという意識があったからこそ、攻撃より迎撃の姿勢が強くなっている。
「というか、ユーダチもネノヒも、後ろを見ながら戦えないよ。特にユーダチね。関係無しに突撃してくるから」
「ああ、それは痛いほどわかってる。じゃあ、あたしの背中、完全に預けるぜ」
「Ja. Überlassen Sie es mir」
クスリと微笑んで、拳を突き合わせた。
深雪とZ1のコンビを見て、電は少しだけ深く息を吐く。本来ならば自分がZ1の位置にいるのだが、今は演習だからとその座を譲った。
それもこれも、自分のため。今後の戦いで深雪を守るため。
『イナヅマ、レーベに一回ミユキ貸し出してるけどさ、ミユキはちゃんとイナヅマのモノだよー』
グレカーレのお節介に、イナヅマは顔を赤らめる。グレカーレがニヤニヤしているのが、手に取るようにわかった。
『お姉様と最も上手く組むことが出来るのは電様ですよ。今はその距離感を理解するためにレーベ様のお力を借りるのです。この演習が終わった後は、また電様がお姉様の隣で、お姉様をお守りするのです。そして白雲とグレ様が、それを守ります故』
『そうそう。だから安心しなよ』
「はは、大丈夫なのです。これも、電のためなのですから」
『だね。あたし達にも学びになるかもね』
「いっぱい見させてもらって、電の糧にするのです」
笑顔で答える電に、グレカーレも白雲もほっこりしていた。
学びの演習は、まだ始まったばかりだ。
レーベの動きを見て、電はよりサポーターとして成長していきます。