電の技術向上を目的とした演習が始まる。深雪にはこれまで相手をしていたZ1が付き、夕立と子日のチームを相手取ることになるということで、作戦会議もそこそこに息を整えて立ち向かう。
夕立と子日はどちらも前衛タイプ。攻め込んでくるのならば、連携と言いつつもバラバラに好き勝手やってきそうだというのがZ1の予想。特に夕立は、子日のことを考えずに突っ込んでくる可能性が非常に高いと。
だが、夕立と子日は以前、裏切り者鎮守府で先行部隊として活躍している経歴もある。その時どのように戦っていたかは、深雪達は知る由もないのだが、少なくともその時のチームワークは抜群だったということがあるので、この演習でもその連携を見せてくれそうではある。
「ミユキ、最後に」
演習直前、Z1が深雪に1つだけ付け加えた。今ならば相談事も筒抜けではないため、この策についてはあちら側には聞こえていない。
「僕もちょっと無茶をするかもしれないけど、動じずにしていてくれると嬉しいな」
「わかった、大概のことは受け入れられるようにする。自爆とかじゃないだろ?」
「うん、その辺は大丈夫。ただ、ちょっと驚くことはするかも」
何をするかは細かくは伝えていなかったが、夕立や子日を止めるためには、普通の戦闘の中にも奇を衒ったような行動が必要だと考えていた。そしてそれは、深雪にも驚きに繋がるだろう。
「どんなことをするんだ?」
「えぇと……」
耳元でこっそりと伝える。まだ大丈夫な時間なので、それは深雪にしかわからないZ1からの作戦を伝えられ、深雪は目を見開いた。
「……マジで?」
「うん。大丈夫、ミユキには痛いことにならないから」
「レーベがそう言うならそうなんだろうな。わかった、じゃあ、覚悟決めておく」
事前に言われているのなら覚悟は決まるモノ。それが結構危険なサポートであっても、熟練者がやれると言うのならばやれるのだろう。
今回の演習は、Z1のその策を信じるところから始まる。背中を任せるというのは、無茶な作戦であっても、やれると言うのなら信じるところから始まる。
「失敗したらごめんね?」
「不安になること言うなよ!?」
「大丈夫、うん、大丈夫。Überlassen Sie es mir」
それでもこうやって言うのだから、自信があって言っているんだろうなと深雪は苦笑した。
『それじゃあ、演習開始ーっ』
グレカーレの天の声が響き、続いて演習開始のブザーも響き渡る。すると、ここはあまりにも予想通りな展開から始まった。
「行くっぽーい!」
「突撃ーっ」
真正面から突撃してくる夕立。それを追うように駆けてくる子日。どちらも前衛タイプであるため、どちらかが後方で控えるなんてこともしない様子。その場その場で最善の選択をするために、前後ではなく横並びになりながら向かってきていた。
深雪と電の時のような気に掛け方ではない。隣に戦友がいるのだから、逆サイドを任せ切っていることがよくわかる。心配すらしていない。
「まぁ、案の定だよな。レーベ、頼むぜ」
「Ja」
こちらは深雪が前衛、Z1が後衛という立ち位置を変えるつもりはない。ということは、深雪がまずこの2人を1人で受け止めなくてはならないということになる。
夕立はトリガーハッピーかと思えるほどに砲撃を放ってくるため、迎え討つのはかなり厳しい。そのため、やらねばならないことは、その砲撃を幾分か食い止めることとなる。
撃ってくる夕立に向けて、深雪も当然主砲を構えるわけだが、そうなると今度は子日の存在が大きなモノとなる。夕立の猪突猛進に加わるカタチで、深雪の最も来てほしくないところへと素早く移動して、砲撃、もしくは主砲そのものをぶつけてくるのだ。
「っしゃ、夕立、さっきやられたからな、次は負けねぇ!」
「ぽーい! こっちも負けるつもりはないっぽい!」
真正面からの撃ち合い。夕立は深雪の砲撃を紙一重で避けながら接近を続けてくるのが夕立。相手の行動をある程度予測して、野生の勘まで交えて、確実に前に向かって走ってくる。食い止めるということが出来ない。
「springen」
「っ、あいよ!」
ここでZ1からの合図。ジャンプしろと言われたことで、深雪は夕立の砲撃を避けながらその場でジャンプした。深雪は一度受けているから、夕立はそれを見ているからわかる。深雪の足下から魚雷が来ると。
「ほいっと!」
しかし、当然子日もそれを見ている。夕立の進行を邪魔させないようにと、恐ろしいことに深雪の真下に来た時点で破壊をしようと砲撃した。
深雪自身を狙えばいいのだろうが、それが出来なかったのにはわけがある。Z1が既に子日を狙って砲撃していたため、深雪を狙う余裕が無かったのだ。足下を狙えば魚雷には当たると見越して、咄嗟に放っていた。
しかし、魚雷は一向に来ず、子日の砲撃はただ海面に叩きつけられるだけとなる。
「Es war enttäuschend. 毎回やるわけじゃないよ」
深雪が跳べば、それが来ると思い込ませる、演習ならではのフェイント。深雪の足下が少し弾けただけ。その水飛沫は、水柱とまではいかないが、夕立の視界をほんの一瞬塞ぐ。
「ぽっ」
「っらっ!」
そこに深雪が砲撃を重ねた。夕立はそれでも避けると思っていたが、ここは距離を取るために必要だと判断。子日から狙われていることをここで知るモノの、背中をZ1に預けているということもあり、自分の視界に入っていない者は仲間がどうにかしてくれると信じて、正面の夕立だけを見据えた。
「避けるっぽい!」
「でも、間合いは出来たぜ」
夕立の回避も、流石に前に進みながらは出来ず。その隙に、深雪は着水後即座に雷撃を放ちつつ後退。夕立からより一層距離を取るため。
あのままだと夕立の得意距離、超至近距離にまで近付かれていた。だが、ここで少しでも離しておけば、得意距離にすぐには行かせないように出来る。
Z1が子日を食い止めてくれているおかげで、2人をまともに相手取ることはない。しかし、合間合間に手を出してくるのが子日だ。それをさせないためにも、Z1は全力でサポートしてくれていた。
「魚雷は、壊すっぽい!」
「お前本当に避けないよなっ」
深雪から放たれた魚雷を、夕立は間髪容れずに砲撃で破壊。お馴染み水柱がその場で大きく立つが、深雪は容赦なくその水柱に対して砲撃を放つ。
自分は正面だけを見る。もし夕立がそれを誘導に使って回り込んでくるにしても、そこはZ1に任せることが出来るのだから。
水柱が無くなれば、目隠しも無くなる。そして、そこに夕立の姿は既に無かった。
深雪の正面でも無ければ、Z1に邪魔をされる場所でもない、大回りを選択しつつも、確実に接近が出来るような迂回をして、深雪に一気に近付いた。
「springen」
「今かっ」
夕立の接近は防ぐことが出来ない。ならば、もうそれを活かしていくしかない。
子日には魚雷で牽制しつつ、Z1は2回目の合図をする。跳べと。夕立が近いところでジャンプとなれば、狙い撃たれる可能性がかなり上がる。だが、このタイミングを狙った。
言われた通り、Z1を信じて跳ぶ。どちらかといえば横に避けるようなステップを決めた。
夕立にとっては隙にしか見えない行動。しかし、Z1の声は夕立にも聞こえている。ならば、この隙を埋める何かが来る。だが先程は合図をしながらもそこに何も無かった。
完全な揺さぶり。深雪を利用した、思考を妨げる行動。早く判断しないと、先に進めない。
「おらっ!」
そして深雪は、ここで──子日を撃った。この時だけは周囲を見て、
「わっと!?」
「Danke, ミユキ。それじゃあ、決めに行くよ」
夕立の思考が揺さぶられた時には、Z1は動いている。子日から少しだけ離れて、夕立に接近して、わざと自ら深雪の足下……いや、
「ぽっ!?」
脚部艤装に直撃したことで、大きなダメージではなくても足払いとほぼ同様の効果を得られたことで、夕立は完全に体勢を崩した。
しかし同時に、とんでもない水飛沫が舞い散ることになる。深雪に事前に話しておいたのは、コレ。ジャンプで誘導して、わざと足を撃つ。まさか先に子日にやられるとは思っていなかったが、この水飛沫が来ることを事前にわかっていれば、体勢を崩すこともない。
「魚雷だけじゃないよ。ミユキ!」
「おうさ!」
着水した瞬間に、アイドルのステップで切り返して、深雪が一気に距離を詰める。夕立の得意距離からさらに近付き、砲撃だけでなく、手が届く程の距離にまで持っていった。
「夕立、隙あり、だぜ?」
勢いを殺さず、体勢を崩した夕立にケンカキックをぶちかます。腹ではなく胸に入ったが、それでも完全に当たり、夕立が初めてダメージを受けた。
さらに追い討ちで主砲を構える。放って、当たれば勝ち。
しかし、子日が黙っちゃいない。
「それはさせ──」
「ミユキは存在そのものが囮になるよね」
子日の思考をも揺さぶって、深雪を引き剥がそうとすることも囮にして、Z1の砲撃が、夕立の頭を撃ち抜いていた。
深雪なら子日の砲撃を避けられる。そう信じているからこそ、Z1は
深雪がニッと笑う。そして、子日からの横槍は、紙一重でどうにか避けた。足がもつれて転んでしまったモノの、回避は出来ている。
夕立がやられたことで、子日はあーあと苦笑して詰みと白旗。このまま2人がかりで押し込まれたら、傷を負わせることは出来るかもしれないが、ジリ貧でそのまま負けてしまうことを察したのだろう。
これが実戦ならば意地でも撤退ということをするだろうが、これは演習。降参というのが通用する世界。
Z1のサポートによって、深雪には勝利を齎された。そして、それを見続けていた電にも、サポーターとしての極意が何か見え始めていた。
相手にとって嫌なことをやり続けるのが最高の援護。