後始末屋の特異点   作:緋寺

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特機治療へ

 時雨の頭の中に蔓延る、黒い煙幕の影響を取り除くため、明石が奔走する。彼岸花の茎を使ったスライムを頭の中に流し込んで穢れを取るという手段を、安全に、かつ確実に実行出来る手段を、丹陽の助言によって見つけたからである。

 島での戦いでは重宝されていた、敵の忌雷を特異点の力で燻して誕生した特機。それにスライムの力を与えて、体内に入ってもらうことでその効果を安全に使うという、うみどりでしか出来ない裏技的な治療方法を利用するのだ。

 

 これをするには各方面に許可を貰わなければならない。まずは伊豆提督。うみどりの長、責任者として立つ者。

 

「明石ちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」

 

 執務室、作業中の伊豆提督とイリスが明石の慌てように少し驚いていた。執務室の扉を勢いよく開き、少し息を切らしていることも含めて、何があったと目を見開いている。

 

「ハルカちゃん、許可をいただきに来ました。時雨さんの煙幕のこともそうですが、穢れを安全に吸い出す方法、確立出来そうなんです」

 

 それを聞いて、伊豆提督もイリスもその場で立ち上がりそうになるくらいに驚く。

 

「えっ、ど、どうやって……」

「順に説明します。少し時間をください」

 

 これは最高の朗報が来たと、伊豆提督とイリスは改めて腰を据えて明石の話を聞き始める。

 

 事の発端は時雨に滞留する黒い煙幕の除去だ。イリスが彩の変化から特性を看破し、穢れを取るような処置をすれば治療が可能ではないかと考え、実際にそれが出来たところに由来する。吸入機などを使って肺の治療が出来たことを伝えられると、伊豆提督は大喜びしていた。

 そしてここからが本番。次の頭に蔓延る黒ずみを取るために考えられた、彼岸花の茎スライム。それにも花弁を乗せることで穢れが浄化されることが判明し、それを安全に体内に入れる方法を模索していたところで、これ以上ない一手が発案された。

 

「特機……! 人間以外なら順応出来るから、時雨ちゃんもだし、カテゴリーYのみんなにも使える!」

「はい、そういうことになります。少し怖いのは、カテゴリーYを治療するにあたって、体内に入り続けることが悪影響になりかねないので、治療しつつも特機自身に外に出てもらいながらというカタチにしないといけないことですが、それはまたおいおい。とにかく、特機なら安全に行けると思います」

「試す価値はありそうね。わかった、提督として、その実験は許可します」

 

 責任者からの保証が得られたので、明石はここから更に動けるようになる。

 

「で、なんですが、その特機を用意したいんです。そこで、深雪さんと高波さんに協力してもらおうかと」

「なるほど、深雪ちゃんは当然として、高波ちゃんに忌雷を提供してもらうってことね」

「はい。彼女の『増産』で増やされた忌雷を燻してもらって特機に変えます。本来の製法……妖精さんを使った忌雷ではなく、『増産』の忌雷になりますが、その性質が何も問題ないことは既に保証されています。いっそ、特機を寄生させて『増産』を得た方でやるのもいいかもしれませんが……」

 

 明石はここまで考えていたのだが、『増産』の特機か、『増産』された忌雷を深雪に燻してもらうかなら、後者を選択した。

 そこは少し深雪に頼っているところになるのだが、直に燻した特機の方が、スライムの定着が良いのではと考えたからだ。特異点の力がより濃い特機を使うことで、効果が強く出そうという、ちょっとした願掛け。

 

「なるほどね、アタシもそれでいいと思うわ。『増産』の忌雷にも意思はあるみたいだし、深雪ちゃんの煙幕を直に受けることで、より効果的になるかもというのは、アタシも納得出来るもの」

「ありがとうございます。深雪さんはVRですよね。高波さんは」

「ムーサちゃん達と食堂にいると思うわ。セレスちゃんのお手伝いかしらね」

「では、少し協力を仰いできます」

 

 頭を下げて、明石はすぐさま行動。善は急げ、思い立ったが吉日。時雨の状況が更に悪くなる可能性もある今、なるべくなら早く終わらせたい。

 

 

 

 

 トレーニングルームを抜け、VR訓練場へ。白雲が中に入っているため、外で管理しているのはグレカーレだけ。仮想空間ではまだまだ演習を繰り広げており、今はまた深雪と電が組んで、夕立と子日のペアと戦っていた。

 Z1の援護の方法を見ては、電がそれを実践する。白雲もそれを近くで見ることで、わかることを都度説明しながら、技術を高めているようである。そのおかげで、電の動きはさらに良くなっている。それでも夕立の突飛な動きに翻弄されることが多々あるようだが。

 

「あれ、アカシじゃん、珍しいねこんなところに来て」

「深雪さんに少し用がありまして」

「ミユキに?」

 

 グレカーレは仮想空間から目を離してはいないが、明石の話に耳を傾けていた。深雪が関係してくる工廠関連ということは、特異点の力がどうしても必要になったということ。そして、今工廠に向かったのは、おそらく時雨。その治療には特異点の力が関係しているということになるのだろう。

 

「この演習が終わったらちょっと話してみよっか。ミユキもその辺は気になると思うし」

「お願いします。時間に追われているわけではないですが、なるべくなら早く決着をつけたいところなので」

「シグレ、そんなに危険な状態なの?」

「そういうわけではないんですけど、イリスさんの言うには、頭の彩が黒ずんでいるのだと。実際、穢れの反応も見えています」

「うわ、そりゃ大変だ。彼岸花ぶっ刺してあげたら?」

 

 物騒なことを言っているものの、グレカーレはその本質自体は理解しているようである。彼岸花の効果を直接打ち込めば、時雨のあの奇行は治療されると。

 

「まぁでも、ミユキが必要ってことは、煙幕をどうにかこうにかするんだろうね。あ、終わったみたい」

 

 仮想空間の演習は、深雪と夕立がお互いに主砲を向け合い、そこに電と子日が切り込んで四つ巴状態で終わっていた。誰かが撃てば、誰かが撃ち返し、おそらく4人が一気にやられる状況。

 そして、その第一手を放つのはやはり夕立。ほぼ同時に深雪も放ち、子日と電もタイミングをずらして砲撃。結果、そこに最後に立っていたのは──子日だった。

 

「くっそーっ! あと少しだったのに!」

「惜しかったのです……!」

 

 リスポーンした深雪が悔しがり、電は満足げではあるが勝ちたかったと笑う。

 

「危なかったっぽい……夕立は相討ち取ったけど、子日が立ってなかったら負けてたっぽい……」

「電ちゃんの動きがすごく良かったもんね。次はこうはいかないかも」

「ぽい。でも、いい演習だったっぽーい!」

 

 夕立と子日は、深雪と電の成長を喜び、さぁ次の戦いだと進もうとするが、そこで天の声であるグレカーレからの放送が入る。

 

『ピンポンパンポーン。ちょっといいかな。アカシがミユキに用があるらしくてさ、ちょっと話聞いてもらえる?』

「ん、あたしにか?」

『演習中すみません、ちょっと急用というか、時雨さんのことでわかったことがあるのでお手伝いしてもらいたくて』

 

 時雨の名前が出た途端に、その場の空気が引き締まる。夕立も、あの時の時雨がおかしかったことは理解しており、仮想空間から抜けたというのもあって、対策を講じたのだろうと納得していた。

 しかも明石が出張ってきたくらいなのだから、いいも悪いも結果は出ている。深雪を求めてきているのならば尚更。

 

『時雨さんの治療に、特機を使うこととなりました。ですが、『増産』された特機ではなく、高波さんに『増産』してもらった忌雷を改めて燻して新規の特機を作ってもらいたいんです』

「特機をか。しかも、『増産』の特機で増やしたのじゃなくて、ちゃんと忌雷から作るんだな」

『はい、その方が今回やりたいことが上手く行く気がして。彼岸花の効果を与えるためですね』

「あたしが直にやった方が馴染みやすいとかあるのかな。まぁその辺はいいか。それで時雨が元に戻るなら手伝うよ」

 

 深雪も時雨のことは少し心配していた。あんな結末をよしとする奴ではないと深雪も認めており、何かあったのだろうとはずっと思っていたのだ。

 治療が必要な上に、特異点の力まで必要だというのだから、これは大事である。ならば手を貸さなければ。

 

『ありがとうございます、助かります』

「時雨、どんな感じだったっぽい?」

『深雪さんの煙幕で燻してもらっていても、肺に黒い煙幕が滞留していました。おそらくですが、黒い煙幕は吸い込んでしまいましたが、深雪さんの煙幕は息を止めてしまっていたのでしょう。咄嗟に喰らったモノと、自分から頼んだモノでは、対応が変わることはよくあります。そして、そのまま黒い煙幕の効果が頭に、脳にまで回ってしまっていました。そのせいで、思考に影響を与えられてしまっていると考えられます』

 

 話されても夕立はあまりピンと来ていないようだが、直感的に、黒深雪のせいでおかしくされた、というところは理解した様子。

 

「あたしの煙幕でも治せなかったってことだな。煙幕の悪いところ出たな……吸うか吸わないかでそこまで影響出ちまうのか」

「でも、治せそうなのはよかったのです。特機を使わないといけないくらいのことになってしまっていますし」

「だな」

『肺の方は特機を使わずともどうにか出来たのですが、脳は流石に無理でした。彼岸花を脳天に刺すのはいくら時雨さんでも』

 

 夕立がぶっふぉと噴き出した。その光景を想像してしまったのだろう。

 

「そ、それ、見たかったっぽい、時雨のアホ毛が、彼岸花になってる、ところ、あは、あっはははっ」

「わ、笑っちゃダメだよ、夕立ちゃん、子日も想像しちゃった、けど、あはは」

 

 ちょっとした笑いが起きてしまったが、時雨を元に戻せるのならそれでいいと、全員協力的だった。

 

 

 

 

 ここからは特機を使った治療方法の確立。これが上手く行けば、カテゴリーYの治療にも使える可能性が出てくる。

 




誰か時雨の脳天に彼岸花が咲いてる絵を描いてくれ
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