後始末屋の特異点   作:緋寺

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異常なる性能

 その日は終わり、そして一晩が経過。決戦までの1週間、3日目。

 うみどりは朝イチには軍港に到着しており、隣におおわしとこだかもあることが、窓の外を見ればわかった。おおわしとの久しぶりの合流。ここからついに、決戦に向けての作戦会議も始まる。

 

 まずは全員が移動開始。荷物などを降ろすことはなく、単純に軍港鎮守府への滞在のため。相変わらず艦娘達を一目見ようと一般市民達、そしてたまたま軍港都市に遊びに来ていた外部の一般人達がその様子を観に来るが、やはりそこでの行儀はとても良い。

 これがあると、軍港に戻ってきたんだなと実感が出来る。平和な街を目の当たりにして、人間達のこういう日常を守っているのだなと。達成感すら覚える程である。

 

「やっぱ、平和なのを見るのが一番癒しになるよな」

「なのです。賑やかで楽しそうだから、平和と感じるのです」

 

 そう思いながらも、深雪も電も少しだけ思うところがあった。そんな平和な街に脅威が紛れ込み、そして大きな戦いがあったこと。戦いではないが、この街で交流した相手が、決戦で雌雄を決する敵であること。平和の裏側には、いくらでも闇があることを、嫌というほど思い知らされている。

 だからこそ、この平和を維持したい。ここでは誰も泣いてはいけない。他でなら泣いていいというわけではないが、それでも、せめて手が届く範囲の平和は守りたい。

 

「今日一日は休みなんだよな。鎮守府で一度腰を落ち着けたら、また散策に行こうぜ。ここに来たら、やっぱりな」

「なのです。まずは心を休めなくちゃいけないのです」

 

 残す時間は指折り数えることが出来る程になってしまっているが、その僅かな時間でも有意義に過ごしたい。ならば、やることは一つ。軍港鎮守府で手続きが終わって、自由な時間が与えられたら、そのまま遊びに繰り出すのだ。

 

 それを誰かが咎めることなんてない。むしろ推奨される行動である。今日のうみどりの面々は、パァーッと遊ぶ。ただそれだけで時間を使うのだ。

 

 

 

 

 鎮守府では、改めて提督陣が集まっていた。こうして全員で顔を合わせるのはいつぶりだったかと懐かしみながらも、すぐに決戦について話が始まる。

 

「うみどりがここに滞在するのは、今日を含めて3日。今日はみんなの心の休息に使わせてもらうとして、明日と明後日の午前は、演習を組ませてもらう。それで良かったかしら」

「ああ、それでいい。こちらもちゃんと準備はしておく。忠犬、お前のところもそれで良かったか?」

「うす。大丈夫っす。こちらも手に入れた情報を纏めて、ハルカ先輩に渡しておかないといけないっすから、時間が貰えるのはありがてぇっす」

 

 最後の準備として、対応策の確認と実証、実戦形式で理解する時間を与える。今日は休息として、翌日からその辺りをみっちりと。伊豆提督を筆頭とした提督陣は、ここで艦娘達のために出来ることを目一杯進めていくことになる。

 

 その中でも知っておかなければならないことは幾つもあるのだが、特に知らなくてはいけないのは、襟帆鎮守府のこと。ここからは、現在進行形で調査中のおおわしから語られる。

 

「敵として認定されている襟帆鎮守府ですけども、その中でもカテゴリーK、出洲一派の尖兵である艦娘の情報です」

「今もまだ潜入工作をしているのよね」

「はい。脱出は難しく、あちらでの協力者はいても、なかなか戻ってくることは出来ないみたいです。神通も近場で待機してんですがね。拾いに行くことも難しいらしいっす」

 

 襟帆鎮守府に潜入している諜報妖精さんは、荷物に紛れて内部へ潜入することは出来ているが、そこから抜け出すのはかなり難しいという。荷物に紛れて外に出るなんてことは出来ない。むしろ、襟帆鎮守府から外に向けて荷物を出すなんてことがない。したとしても、出洲のいる島に向けてくらいである。

 となると、自分の足で鎮守府を立ち去ることくらいしかないのだが、それはそれで不自然である。いくら自由な行動を取る妖精さんだとしても、単独で鎮守府から抜け出そうなんてことをするのは、違和感しか覚えない。

 そして、襟帆鎮守府の困ったところが、内部から外部に向かおうとする者に対しては、非常に厳しく取り締まっているというところにある。出洲と組んでいることを徹底して情報封鎖しているため、それこそネズミ1匹逃がさない。諜報妖精さんは鎮守府内部で誕生した工廠妖精さんとしてそこにいるので、まだあちらには受け入れられているのだが。

 

「襟帆鎮守府との戦闘になったとしたら、その時に拾うしかないわね。出来るかしら」

「やりますよ。今、それだけ危険な任務についてんですから」

「そうよね。なら、可能なら襟帆提督とも協力して、内外から救出を手助けしてやりたいところです」

 

 そんな諜報妖精さんから定期的に来る通信で手に入れた情報を並べていく。

 

「決戦の日時が決まったことで、向こうもしっかりその日に向けて準備をしているみたいですね。残り……5日でしたっけ。そのタイミングに合わせて、艦娘なら艤装のメンテナンスをしているようです」

「そうよね、抜き打ちじゃあないんだもの。アタシ達だって急じゃなければ万全にするわ」

「艦娘と艤装を馴染ませるメンテナンス、艤装は万全にして、艦娘達のメンタルケアもバッチリだとか。まぁ、時間が経てば安定しなくはなるので、今日も明日もメンテ続きでしょうけど」

 

 どうであれ、メンテナンスは完璧に仕上げてくる。うみどり側もそうしていくのだから、あちらがそうしない理由がない。

 それも踏まえて、敵の弱点や特徴を知っている限り話していく昼目提督。

 

「ハルカ先輩には先んじて話していますが、奴らにはブロックワードっつー暴走を呼び起こす言葉があります。そいつの死にまつわる言葉が耳に入ると、そのまま狂っちまうって奴ですね」

「ええ、聞いているわ。アタシ達は、それを使わない方針で行くけれど」

「わかってますよ。正々堂々正面からっつーことですよね。アイツらに揚げ足を取られないようにするために、勝ちを文句無しにするために」

 

 出洲は阿手程そういうことを言ってくる相手では無さそうだが、だとしても、何をしたところで特異点が悪いと言ってくるような相手だ。そういうことは無しにしても、何かあれば特異点のせいでこんなことになったと宣い、負けを認めず、自分が正しいを貫き通すことだろう。

 それを無くすためにも、言い訳なんてさせないような戦い方を選択する。出洲一派と真正面から戦うだけ。一部、普通の海戦では使わないような力の応酬があるだろうが、そこはお互い様である。

 

「で、ちょいと困ったことに、カテゴリーKの艤装は普通のそれとは違います。結構前に、艦種詐欺な深海棲艦が現れたじゃないですか。奴らもそれと同じっすね。後から全員分を纏めておきますが、例えば駆逐艦が艦載機を使ってきたりします。やりたい放題っすね」

「ええ、電ちゃんが全装備を扱えるっていうこともあって、あちらにも似たようなことがあるのは予想出来るもの」

 

 そこは特に気にしておかねばならないことかもしれない。固定観念に囚われていると、足を掬われる。やってこないと思ったことをやってくることで、正面から不意打ちをしてくるようなもの。

 

「あとは、出力の問題があります。そこは深海棲艦準拠になるようで、見た目からは考えられない火力が出るみたいです。メンテナンスに参加しているからこそわかったようで」

 

 諜報妖精さんが工廠妖精さんとしてカテゴリーKの艤装に触れているからこそわかること。駆逐艦でも下手をしたら戦艦並みの火力を出してくることもあったり、速力が異常に高かったりと、何かしらの力を使っているわけでもなく、単純にスペックが高いということがあるらしい。

 その代わり、燃費がかなり悪いというのもあるようだが。黒深雪や電が、島や特異点Wで戦闘行為を行なわなかったのは、そこもあるからのようである。あの場で全力の戦闘をしようものなら、ガス欠を起こして帰ることが出来なくなる。

 そして、黒深雪の煙幕は、それとはまた別枠になっているようだ。艤装の燃費ではなく、本人の燃費。特異点の煙幕なのだから、艤装云々は無関係。いつでもどのタイミングでも出せると考えた方がいい。

 

「なので、見た目は艦娘でも、スペックは姫と考えるべきです。深海の要素があるんですから、それはそうなんすけどね」

「まぁ、深雪ちゃんも電ちゃんも姫の姿になれるんだから、カテゴリーKは全員似たようなモノと思う方がいいかしらね。特異点ではないけれど」

「ぶっちゃけ、阿手の使ってた連中と近しいっすね。特殊な力ってよりは、純粋な力に振り分けてるイメージっす」

 

 曲解を使わない代わりに、極端な行動が可能になった、と考えるのが良いと昼目提督は考えた。やれ姿を消すだとか、やれ増殖してくるだとか、そういった超常現象じみたことは一切してこない。代わりに、あらゆるスペックが普通より上。かつ、改造によって本来出来ない艦種の行動も出来るようになっている()()

 

「それって、あれか、アイツら全員が戦艦レ級だとか駆逐ラ級だとかになってるってことでいいのか?」

「ああ、その表現いいっすね。その考え方でいいと思います。トシパイセンの言う通り、全員それ。スペック激高、やれそうなことは全部やる、見た目と艦種は当てにならない、それがズラリと並ぶ感じです。まぁ、実力まで考えると、その連中よりも数倍やれるって感じですがね」

 

 そうやって言葉にされると、伊豆提督も保前提督もうわと声が漏れた。

 

 うみどりの面々は、これまでの戦いのせいで、本来相手にする深海棲艦とは比べ物にならないバケモノを相手することにも慣れている。しかし、単純にスペックが高いとなると話が変わってくる。

 苦戦しないとは言わない。むしろ、妙な力を使うだけで、それ以外のスペックが普通であるなら、その力さえ解決してしまえば余裕まであるのだが、単純な力押しが出来る上に、一般人を改造して戦わせているわけでもない、ガチガチの艦娘がそれならば、この戦いは苦戦を強いられるだろう。

 

 

 

 

「それも踏まえて、作戦会議になるわね」

「うす」

 

 どうしていけば勝てるかの算段を今のうちからつけていきたい。力押しには力押しになりそうではあるが、相手はあの神風を下した中柄まで含まれているのだ。考えねばならないことは、沢山である。

 




レ級だラ級だ言っても、ここの面々にはあまり大したことなさそうに思える。でも、世の提督達にはトラウマにしかならない。ラ級4体とかあったね……。
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