後始末屋の特異点   作:緋寺

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恐ろしき解析

 軍港鎮守府に到着後、余程の予定がない限りは、心の休息のために軍港都市を散策することになる。

 久しぶりの私服に着替えた深雪一行は、早速軍港都市へと繰り出していく。今日1日はパァーッとストレス発散に使おうと心に決めていた。

 

「やっぱまずは食べ歩きか?」

「それっしょ。ここに来たらまずクレープじゃない?」

「それで参りましょう」

 

 賑やかな街並み、既に漂う甘い香り、楽しそうな声。深雪達の知る中で、最初に、かつ最も印象深い平和。ここに来ると、自分達が守っているモノが何かをハッキリと自覚出来る。

 住人達の笑顔が力になるだなんていうのも、この場なら実感出来るというもの。ちょっとした喧騒も、平和だから出来ることだとわかる。

 

「あたし達はこうやって遊ばせてもらってるけどさ、ハルカちゃん達は今まさに作戦会議中なんだよな」

「なのです。少し申し訳ない気分になってしまうのです」

 

 手に入れた情報を使って、決戦でどのように立ち回っていくのがいいか。それを決めるのは艦娘達ではなく、責任者たる提督達である。

 とはいえ、現場判断というのはあるため、実際に決められるのは指針のみ。それはそれで、艦娘が知らない方がいい情報などが無ければ判断がつかない内容ばかりなので、結果的には任せ切るしかなくなる。

 

 自分達は戦うだけ。それを後押ししてくれるのが提督。深雪達は感謝しかない。

 

「なんか土産でも買っていきたいな。美味いモン、ここいっぱいあるし」

「なのです。お菓子とか買っていきましょう」

「だな」

 

 いつもの御礼にと、外出先でお土産を買って帰る者は多い。深雪達もそれに倣って、伊豆提督達に少しでも癒しを届けたいと考えた。それを探して回るのも、それはそれで心の休息になる。

 

「ああ、あと明石さんにもだな」

「そーいや、アカシも今は工廠でいろいろやってんだっけ」

「涼月と冬月に進捗を聞くんだって話だよな」

 

 提督だけが仕事を続けているわけではない。明石、うみどりの工廠組も、今回は重要な話がある。

 深海棲艦化させられた人間を元の姿に戻す研究。現在は各々で独自の調査をしているため、その現状を話し合い、何処まで出来ているか、何処まで出来そうかを話したいと、鎮守府に到着してすぐに工廠に向かった程である。

 

「ここで治せるようにしてあげたいのです。電達には何も出来ませんが……」

「白雲もそう思いますね。それが可能となれば、この白雲も艦娘としての姿を取り戻すことが出来るかもしれませぬ」

 

 白雲も被害者の1人。艦娘ではなく深海棲艦の姿をさせられている。こうして軍港都市を散策するには今のところは困らないものの、もし何かの弾みでバレてしまったらコトだ。

 とはいえ、戻れる手段が確立したとしても、今すぐ戻ろうとは思っていない。最低限、この戦いの間は、深海棲艦の強靭な身体を有意義に使わせてもらう。それでも苦戦するというのに、艦娘に戻ったら、まず慣らしから始めなくてはならないのだ。ならば、事が済むまではこのままというのが白雲の選択である。

 

「そこはあたし達もどうにも出来ねぇな。頼まれたら手ェ貸すってくらいで、口出すことなんて到底出来やしねぇや」

「なのです。お任せするしかないですから、せめてお土産でも買っていきたいですね」

 

 その前に、深雪達はこの休暇を存分に楽しむこととなる。決戦に向けた、数少ない癒しの時間を有意義に過ごすのだ。

 

 

 

 

「へっくし」

「大丈夫か。純粋種は風邪を引いたりするのか」

「少なくとも生まれてこの方30年は風邪を引いてませんね。誰かが噂でもしているのでしょう。さ、話を続けましょうか」

 

 噂をされたからか、クシャミをした明石。グシグシと鼻を擦りながらも、軍港鎮守府の工廠で、まさにその話をしている最中だった。

 

 明石は特異点の彼岸花を冬月と涼月に見せて、その効果などを語っている。穢れを取るためのアイテムであり、加工をしてもその力は失われていない。まだ深海棲艦化した人間には試していないが、体内に穢れが溜め込まれた状態でも、これまでに作った各種装置と組み合わせることで、穢れを排出、浄化出来ることは実証済みであると。

 島で黒い煙幕を受け、穢れが脳と肺に滞留してしまった時雨への治療。それについてのデータも事細かく分析して伝えた。それを聞くたび、冬月は興味深そうに目を細め、大袈裟な相槌を打つ。

 

「流石だな特異点の力は。それに頼らねばならないのは悔しいが、確実性のある治療法が出てきているということじゃないか」

「はい、ですが、やはりこの治療にもデメリットはあります。特機の特性というのにも繋がりますが」

 

 時雨の場合は脳に直接触れなければならなかったというところがあるため、施術後の負荷がかなり大きかった。純粋な艦娘、特機寄生によるカテゴリーW化を果たしていたとしても、ヒトの身体の中枢である脳に、安全な手段とはいえ特機を使ったのだ。施術後は少しの間動けなかった程であり、施術中も不快感やら快感やらが身体を襲い続けていた程。痛みが無いだけマシかもしれないが、それだけである。

 

「艦娘でそれです。人間相手にはどれほどの負荷になるか」

「確かにな。不可逆を取り除こうとしているのだから、当然相応に負荷がかかるだろう。後遺症が残るくらいには。何も考えずに脳に触れると壊れてしまうしな。うむ、それは()()()()だ」

 

 脳に触れて被験者を壊す。それを既に実証済みと言えてしまうのが非常に恐ろしいことなのだが、明石としてはこういう倫理観の外れた検証が出来ているのは割とありがたいことである。

 

「そちらはどうですか?」

「ああ、申し訳ないが、明石ほど明確に治療に近付くことは出来ていない。腹が立つ程に高度な技術を使っている。その割には、本当に必要なところで雑なんだ」

 

 ここからは冬月のターン。涼月がこれまでやってきたことに対して纏めた資料を持ってきて明石の前に置く。

 それは、あまり笑って話せるようなことではない、かなり残酷な実験の記録であった。

 

 被験者は既に死罪であることが決まっている、自ら身体を深海棲艦に変えたテロリスト。改心することもせず、被害者達に悪びれることすらしない。自分が正しいと信じてやまない、愚かな実験台(モルモット)達。

 

「まずあの生首相手にいろいろやらせてもらった。今は壊れて使い物にならなくなってしまったが、恐ろしいことにまだ生きている。その『修繕』の力には驚かされるばかりだ」

「壊れていながらも生きているというのは、本当に生き汚いというか」

「全くだ。しかも、すぐに治るから調査も一苦労だった。だから、追加で持ってきてもらえた実験台はありがたかったな」

 

 資料には、()()()()()から採取した細胞などと書かれている。本当に指を切り落として実験したらしい。なお、ここに連れてこられた阿手の側近達にも、原の生首ほどでは無いが自己修復はあるため、今は切り落とされた指も戻ってきているらしい。痛みは当然あるのだが。

 

「我々が確認した限りだが、やはり細胞の一つ一つに深海棲艦の細胞が絡み付いている。交互に折り重なるような入り込み方だ」

「確かに……完全な融合まではしていないようですが、限りなく薄く交互に畳まれているような感じですね」

「ああ、色違いの紙を交互に挟んでいるようにな。明石は知っているかは知らないが、これは人間の艦娘化の技術にかなり似ている」

 

 自分達にも使われていると冬月は自分から採取した細胞との差を見せた。艦娘の身体も、同じように人間の細胞と艦娘の細胞が折り重なるように交ざり合っている。

 

 艦娘化の技術は、これを自由に取り外し出来るモノである。艦娘の細胞は、人間の細胞と共存し、その治癒能力を高めたり、在り方を強靭にしたりと、強いサポートをしてくれていた。艤装への適性を与えるのもこちらの細胞である。

 そして、いざ解体となった際に、この艦娘の細胞は折り重なっていたとしても、特殊な手段を使えばするりと抜け出してくれる。故に、第三世代、カテゴリーCの艦娘は、人間に戻れるという仕組みとなっていた。

 

 しかし、深海棲艦の細胞はそうはいかない。人間の細胞との共存なんて考えておらず、一度折り重なったら噛み合ってしまったかのように動かない。まるで爪が引っかかっているかのように。これが不可逆の仕組みと言える。

 忌雷による深海棲艦化が治る理由はまだわかっていないが、仮説としてならば、忌雷はこのような細胞の折り重なりではなく、非常に小さく細かい触手を全身のあらゆる場所に伸ばしていることで、細胞との折り重なりを再現しているのではないかと、冬月は考えていた。故に、忌雷を取り除けば、全ての触手が一緒に抜けて、元の姿に戻れる。

 

「この深海棲艦の細胞が穢れと同質ならば、彼岸花によって除去出来るだろうが……どうなんだろうな。実験してみるか」

「実験、どうやって?」

「なに、そちらは穢れた土の浄化をすることで試してきたのだろう。こちらには、()()()()()がある。平和に貢献出来るのだから、奴らもさぞ嬉しかろう。涼、少し大きめに取ってこようか。肘から先くらいがちょうどいいか?」

「そうですね。太めの方がいいなら、ふくらはぎの方がいいかもしれません。膝から先を切り落としてみては」

「ああ、流石は涼だ。確かに腕より脚の方が彼岸花の実験はしやすいだろう。明石、それでよかったか?」

 

 さも当然のように話す冬月と涼月に、明石は顔には出さなかったがゾッとした。非人道的な実験が、大本営からも許されてしまっているということが、ここまでリミッターを外してしまう。元々がマッドな科学者だったことを考えると、こうなるのは当たり前だったのかもしれない。

 

「あー……その、お手柔らかに。被験体のことを心配しているのではなく、単純に私が耐えられるかわかりません」

「後始末屋の手伝いをしているのなら、それくらいなら見ていると思ったが、まぁそれはヒトそれぞれか。それに、いきなり大きく出るのは良くないかもしれない。やはり指から行くか」

「そういうわけではなく」

 

 

 

 

 

 ここの実験も、いろんな意味で前途多難である。主に、メンタルの方向で。

 




冬月も涼月も、提督直々にイカれてると言われてるだけあるのだった。この実験で胃を痛めるのは保前提督なんだけど、もうそろそろ慣れてきてそう。
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