休暇は進み、正午を回って午後の時間。深雪達は休暇らしい有意義な時間を過ごしていた。休暇の軍港都市定番の出店のクレープから始まり、ウィンドウショッピングやゲームセンターなどを回り、今は有名店での昼食を終えたところである。
「ここには店がいろいろありすぎて、同じところで飯ってことにはならないよな」
「だよねー。艦娘としてカレーには舌が肥えてるかと思ってたけど、さっきのところでビックリしちゃったもん。鎮守府のカレーってさ、一般公開されるくらい有名なんだよ?」
「そうなんだな。じゃあさっきの店は」
「あたしの中ではそれ以上。ハナマル満点とか超えちゃってる。次来たいって思わせるのが上手いよ」
チェーン店ではない個人店だからこその味がーなどと話しているグレカーレ。深雪もそんな戦いとは離れた話題で盛り上がることが出来ることを喜んでいる。
これが平和な日常。戦いの隙間にこういうことがあるからこそ、平々凡々な時間でも光り輝いて見えるというモノ。
これが毎日続いたら退屈なのかもしれないが、むしろ退屈くらいが人間にはちょうどいいのだろう。新しいことをやろうと立ち上がることも出来るのだから。
その新しいことが平和を脅かすモノだったら困るのだが。
「深雪ちゃん、あっちにもいるのです」
「お、本当だ。すげぇ、本当にしっかり仕事してんだな。子供にも人気なんじゃね?」
電が話すそれは、この軍港都市を見回りしている者達。軍港鎮守府所属の艦娘ではなく、話すことは出来ないが自我が芽生えた艤装人間達である。
たまたま見かけたのは、ヘイウッド型のエド。腕に腕章、鎮守府所属の警備であることを示していた。
師匠が綾波ということがあるからか、街中ではしゃなりしゃなりと歩きながらも、笑顔で会釈しながら街の平和に貢献している。
艤装人間は今や、ありとあらゆる場面でその力を貸してくれている。軍港都市の平和のために動くことが多いが、その力を存分に発揮出来るのはむしろ鎮守府。蒼龍型のアズールが工廠の雑用を手伝う際に、艤装人間としての膂力などを存分に発揮していることから、全力で動けるのはここでは無い。
とはいえ、都市の平和を守るために最も必要なのは、最悪な事態でその力を発揮すること。それこそ綾波のように、この街の平和が脅かされた時に、一切の容赦無く悪漢を成敗するためには、常時艤装装備状態の力が使える艤装人間が都合が良かったりする。
観光客の中には態度が悪い者もいるが、艤装人間にとっては赤子も同然。この清楚さを表に出しているエドも、いざ戦闘になった場合は、相手がどんな者であってもあっという間に組み伏せて、笑顔で連行することだろう。
「すげぇよな、街も艤装人間を受け入れてんだ。正体を知ってるかは知らねぇけど」
「知っているのならもっとすごいのです。でも、平和ってそういうモノだと思うのです」
「だよな。種族とか関係なく一緒に生きていくことが一番の平和だ」
軍港都市もその域に達しようとしている。知ってか知らずが、複数の種族が当たり前のように共存する街。
「あの島みたいになってくれとは言わないけど、そのうちああいう深海棲艦も出てきたら、受け入れてもらえるんじゃねぇかな」
「正体を隠していれば、さも当然のように出歩くことも出来ます。この白雲のように」
「シラクモも小慣れたモンだよねー。角隠しのニットも見慣れてきたよあたし」
「ふふ、ありがとう存じます、グレ様。白雲も洒落っ気が出てきたのです」
この中ではカテゴリーMの呪いという深刻な問題を抱えている白雲だが、今や緩いと言ってもいいくらいに穏やかに生きている。勿論、人間に対しての感情が消えているわけでは無いのだが、それでも深雪と共にいれば、呪いによる憎悪には呑まれない。
これもまた共存の一環。平和な世界の象徴。誰もがこの気持ちのまま生活出来る世界が、真の平和と言えるだろう。深雪達はそう考えている。
絶対に罪を犯させないと、全てを手中に収めて管理するのは違う。人の意思を無くし、文化すら奪い、争いという争いを消し去ろうとするのは、人間を滅ぼしていないだけで、その個性を全て取り去るということに他ならない。
「やっぱ、平和ってのはこういうモンだな。こことか、島とか。あたし達、ちゃんといいモン見れてるな」
「なのです。目指す場所もわかってるのです」
「はい、まこと素晴らしい道の先でございます。お姉様が向かう道は、輝いておられますね」
「道を塞ぐ黒い煙も吹き飛ばせるっしょ。あたし達も全力でぶちのめすんだし」
4人が4人、同じ道の先が見えている。立ち塞がる敵、歪んだ平和を求める者を討ち倒し、光り輝く平和に少しでも近づくこと。それが、今願う特異点の平和である。
街の散策をしている中で、仲間達と顔を合わせることは多い。他の者達も、決戦前に与えられた少ない休暇を満喫していた。誰も難しい顔をしている者はいない。平和を享受し、全力で楽しむ。
「すげぇモン見せられたな……那珂ちゃんと舞風って、ゲームでもすげぇ動きするんだな」
「人だかり出来てたもんね。ダンスゲームってやつだっけ」
「流石アイドルだわ。ゲームやってるだけで拍手喝采ってすげぇよ」
たまたま通りかかったゲームセンターで、那珂と舞風がその身体能力を思う存分発揮して、ダンスゲームでスーパープレイを見せていたり、
「梅はやっぱり本屋にいたな」
「秋月様は手芸屋でしたね。やはり、趣味に興じるのも必要なことです」
「電もまた、写真集買っちゃったのです」
梅と秋月と顔を合わせて、趣味にお金を使ってみたり、
「セレスさん、今回も食べ歩いているのです」
「やっぱ戦艦なだけあるよな。滅茶苦茶食ってんのにケロッとしてんだから」
「ムーサとかもなんか付き人みたいになってたよ」
セレスを中心とした深海棲艦組が、食の探究のために食べ歩いていたり。
各々がやりたいことをやりたいようにやっていた。それは、決戦の後に残るようなこともだ。
次の戦いで先が無いだなんて、誰1人として考えていない。またここに来る。その後も楽しめる。自分の道は途絶えない。未来は必ずあるのだから、万が一なんて考えない。
4人はお茶をするために喫茶店に入った。紅茶やらジュースやらを注文して、ここまでの休暇を反芻する。
「もしも、なんて考えねぇよな。勝って次に行くだけだ。それが出洲だろうが、別個体だろうが、関係ねぇよ」
「なのです。負けたら、この平和だって無くなってしまうかもしれないのです。電は、それが許せません」
「白雲も同意いたします。この平和こそが、この世界に必要なモノでしょう」
「だよねー。アイツらがやってることって、これもぶっ壊すってことだもんね」
平和のために、争いを無くす。競い合うことすら許さないとなれば、ゲームも、趣味も、食ですら、激しく制限をかけることになるだろう。そんな浮き沈みのない世界を平和というのならば、それはもう無である。
「……別個体も、雷も、ここで遊んでたよな。あたし達だって一緒だった。でも、アイツらはこの平和を見て、自分達の目指す平和の方が正しいって、本気で思ったんだよな」
「なのです……ここを知って、それでも……自分達のやり方でないと平和にならないって、考えていたのです」
楽しいの裏側、光が強ければ、その分、強い影ができる。黒深雪も雷も、光を見ずに影ばかりを見ている。だから、この平和を素直に受け入れることが出来ない。知って尚、でも裏では辛い思いをしている者がいるのだと言い切る。
「アイツらは、なんか考え方が違うんだ。あたしはそう思う」
「だよねぇ。というかさ、平和ってのは、悪い方を良い方に合わせて救ってやることだと、あたし思うわけよ」
「確かにな。アイツらは、良い方を悪い方に合わせて、みんなで平等だって言ってる感じがしちまうな」
今楽しんでいるモノを全て奪い取って、これで平等だから争いは生まれないと言っているような出洲一派の求める平和。それに反発が起きても、力で圧をかけて黙らせるつもり満々なのだから、結局は平和にはならない。
どうしても差が出てきてしまうところはあるだろうが、それでも、今が悪い者達を救い、なるべく良い方に合わせてやりたい。みんなが楽しむことこそが平和ではないか。深雪達はその結論に達している。
「でも、雷ちゃん達は、その矛盾にも気付いているのです。それでも止められないって」
「……まこと、恩というものは、薬にも毒にもなるものでございます。彼奴等には、それが毒として作用してしまっている。白雲のように、恩が薬になることなく」
出洲に救われたから、その歪んだ平和を肯定してしまっている節がある。矛盾と理解していても、それを変えることが出来ない。救ってくれた人が望むのだから、恩を返すためにも、力になりたいと。
そして、自分達が非業の死を遂げているからこそ、その考え方に寄り添えてしまった。何故自分達だけがこんな目に。そんな気持ちが、求める平和を歪ませてしまっている可能性は充分にあった。
自分達と同じような存在が生まれないように、今のような幸せは誰も感じるべきではない、なんて考えてしまっているのか。
「決戦で、絶対に顔を合わせることになるんだ。問い質してやるさ」
「改心してくれるなら、それに越したことはないのです」
「だな。そしたら、あの島で暮らしてもらいたいな。あの王様なら、受け入れてくれるだろ。一度見放しても、心が変わったっていうなら、な」
深雪は黒深雪のことを救いたいと思っている。出洲の呪縛から解き放たれて、歪んでいない平和を知ってほしい。
休暇はこのまま夕暮れへと向かっていく。心は晴れやかに、そして、決意は強く。
那珂ちゃんと舞風は、多分ENDYMIONのDSPとかをパフェ取るくらいにはやってる。