休暇を満喫し、心が癒されたまま眠りについた一同。そして翌朝。決戦までの1週間、4日目。折り返し地点となる。
本日は既に全員に通達が行っているように、丸一日を演習で使う。決戦に備えての最後の日と言ってもいい。
この演習で、仮想空間での演習では出来ない、特殊な力まで込みにした戦い。敵はこれまでの阿手達のような特殊な力を使ってくることは無さそうではあるのだが、艦種詐欺を当たり前のようにやってくるような相手である。それを考えた行動が今回は必要とし、今ここにいる者で唯一それが出来る者、電を相手にする。
また、どうしても厄介な黒の特異点の煙幕に対しても対策を取らなくてはならない。そのために、オリジナルの特異点である深雪が一肌脱ぐこととなった。
「はい、みんな集まったわね。では、今日の趣旨について話をさせてもらうわ」
軍港鎮守府の工廠に集まった艦娘達の前に、伊豆提督とイリス、そして情報を持ってきた昼目提督と鳥海が立った。
「昨日の夜にも話した通り、今回は仮想敵として深雪ちゃんと電ちゃんを相手にしてもらうことになるわ。深雪ちゃんは勿論、黒の特異点と戦う場合の対策を考えるため、電ちゃんはあらゆる装備が出来ることから、敵カテゴリーKの艦種詐欺を再現するためね」
「オレの方でも細かく情報を持ってきた。ハルカ先輩から聞いてる限り、電が出来ることが一番敵に近いことだ。相手にするには一番だと判断してる」
提督2人からのご指名に、前以て聞いていても電には緊張が走る。仲間のための責任重大な立ち位置だ。
「敵鎮守府に潜入しているうちの精鋭からの情報から、カテゴリーKは9人だ。戦艦1、空母1、巡洋艦2、駆逐艦3、潜水艦1、補助艦艇1。この中でも特に厄介なのは、駆逐艦の3人。深雪、雷、漣だ」
ここからは昼目提督がわかっている限りの詳細を伝えていく。人数から艦種の詳細。そして、
駆逐艦は一同も知っているメッセンジャー、黒の特異点である深雪と雷に加えて、漣。おそらく襟帆鎮守府の初期艦──鎮守府設立当初から存在する、
「戦艦は霧島。高速の戦艦だな。空母は瑞鶴。装甲空母だからとにかく硬い。巡洋艦は、火力が高い重巡の足柄と、対潜技術を兼ね備える軽巡の五十鈴だ。纏めてこられると隙が無ぇ」
ここまでが厄介な海上艦。直接戦うことにもなるであろう7人。
「潜水艦は伊36。潜水空母だからな、多少なり艦載機が使える。浮上した時には要注意だが、それ以上のモノもあるだろう。で、補助艦艇は速吸……補給艦だ。むしろ、一番まずいのがコイツだな」
これまで出てきていた艦娘の中でも、昼目提督はこの速吸に対しても最も強い警戒をしていた。その理由は、すぐに明かされる。
「カテゴリーKの弱点は、やたらと燃費が悪いことだ。好き勝手出来る代償ってヤツだな。戦闘を少しでも長引かせりゃ、ガス欠を起こしかねねぇ。島の時やら、特異点Wの時、無闇に戦闘を仕掛けてこなかったのはそこだろう。負担を考えりゃ、勝ち目がある戦いの時でなけりゃ全力なんて出さねぇ」
「でも、そこに補給艦が加わったら話が変わるってわけね」
「そういうことっスね。足りない燃費を無理矢理補完出来ちまう。その補給艦自体がカテゴリーK、滅茶苦茶な装備も可能ってなっているなら尚更。本来持てる量以上の補給物資を持ってる可能性もある。その上、カテゴリーKに使われる補給は、普通の艦娘にするそれとはちょいと違う。深海の技術まで入れてやがるからな」
どのように補給するかはわからない。しかし、諜報妖精さんが手に入れてきた情報の中には、かなり気になるモノがあったようだ。それが、カテゴリーKへの補給。
艦娘のように燃料や弾薬を工廠で補給するだけではなく、深海棲艦の要素、穢れが混ざり合ったような、少し違う燃料も加えているという。ハイブリッド型の艤装であるため、艦娘用と深海棲艦用の両方が必要となるのはわからなくもないことである。
そしてその燃料、少量で爆発的な出力を引き出すモノらしく、燃費の悪さをそういう点でも解消出来ていた。艦娘の艤装との反発があるため、その出力をしっかりコントロールしないと、逆に艤装がイカれてしまうというデメリットもあるのだが、カテゴリーK達がそれを怠っているとは思えない。
「ともかく、見えているのは、普通の艦娘とは比べ物にならない万能性と火力を持ってるってことだ。一番非力そうな駆逐艦の漣の装備も、駆逐艦に見えて火力は巡洋艦……いや、戦艦並みと考えてもいい。じゃあ元から戦艦である霧島はどうなんだって話だ」
「考えたくもないわね……一撃一撃が致命的って考えてもいいんだもの」
「掠っても危ないっスね。艤装に直撃しようモノなら、航行も出来るかどうか」
そして、ここまで話されているのは、あくまでも襟帆鎮守府に所属するカテゴリーKの話である。実際はそこに、出洲とその仲間達まで加わる。中柄は特にその力を見せており、第三の腕という奥の手によって神風に瀕死の重傷を負わせることまで出来てしまっているのだ。
そのような、深海棲艦由来の無茶をしてくる可能性が、艦娘側にもあり得る。艤装自体は深海も混ざっているのだから。
「今、うちの精鋭は敵鎮守府に整備員として潜入してる。だから、艤装の詳細は事あるごとに送ってもらえたんだ。わかることがあれば、まだまだ教えられる。今はこの辺りって感じなだけだな」
「ありがとう、マークちゃん。充分心構えが出来るってものよ。知っておくべき情報は沢山あったわ」
「調査隊ですから、これくらいは調べられねぇと。ただ、まだ危険であることにゃ変わりねぇです。万全を期して、考えられることは考えていきましょ」
敵戦力がいろいろと見えてきたことで、次はそれを意識した演習の開始である。なんでも出来る、火力も高い、これを複数人相手にする。やれること、考えられることは、どんなことでもいいから出力して、全員に共有し、そして全員がそれを身につけておきたい。
演習の準備として、やらねばならないのは、電の装備である。仮想敵とするため、その装備はこれまでとは違う非常に攻撃的なモノとなっていた。
「あ、あのー、これは流石に持ち上がらないのですー……」
現在電に装備させられているのは、戦艦が扱う大口径主砲、空母が扱う艦上爆撃機、潜水艦が扱う魚雷である。駆逐艦が装備するにはあまりにも無理がありすぎる選定であり、それを装備した状態で立ち上がり、歩くだけでも一苦労。
これには深雪がどうこうしてあげることも出来ず、倒れないことヒヤヒヤしたいる。煙幕で支えるとか、そう言ったことはまた少し違うため、大丈夫だろうかと近くで手を出そうかどうしようかとハラハラしているほど。
「大丈夫です。電さん、そのまま深海棲艦化してください」
それをサポートしているのは明石……ではなく、丹陽である。明石は工廠の奥で彼岸花と被験体の調査をしているため、ただ装備をさせるだけなら丹陽の指示でもどうとでも出来た。
丹陽に言われるがまま、電は深海棲艦化のトリガー、髪を束ねるバレッタを取り払った。すると、その身体は溢れ出す煙幕と共に成長し、深海の姫へと姿を変える。合わせて、艤装も深海化し、装備されていた主砲やら艦載機やらもすべて深海仕様へと変化した。
軍港鎮守府には、この変化を初めて目の当たりにする者もいるため、少し声が上がった。物珍しいとかそういうモノでもない。ここでしか見られない、特異点ならではの超常的な力。
「あ、これなら確かに持ち上げられるのです」
「電さんの身体は、そちらだと戦艦クラスですからね。なんでも使えるっていうのは、むしろそちらの身体に一番適してますよ」
装備も相まって、今の電は完全に深海棲艦の戦艦。駆逐艦の時と比べて耐久力も上がり、非常に高い攻撃性能を有するに至った。
ちなみに、自然発生する深海棲艦の姫は、稀にこれ以上のことをしてくるのだから油断出来ない。今の電は一芸特化ではなく、やれることが何でもやれる万能型となっているため、尖った性能を持たずに全体的なスペックの向上を目的としている。
「電、身体の調子は悪くないか?」
「はい、大丈夫なのです。深海棲艦の身体も、島の後始末の時にいっぱいやったので、慣れたモノなのです」
「よかった。あたしも充分慣れているけど、電は戦闘で使うのは殆どやってないからな。むしろ、今日でその身体での戦い方に慣れた方がいいかもな」
安心した深雪は、電に追従するカタチで深海棲艦化。こちらはもう熟れたモノで、さらっと変化し、電と並び立つ。
かつて魔王と魔妃と言われた通り、この2人の姿は、何処か神々しさまで感じるほど様になっていた。知る者も知らぬ者も、この2人を相手に演習が出来ることに対して、喜びがあったり恐怖があったりと様々である。
「あたしは今回は煙幕を普通に使ってもいいんだよな?」
「はい、むしろバンバン使ってください。あちらの深雪さんが何処まで特異点の力を使いこなせるかはわかりませんが、無闇矢鱈に使い続けることだって考えられます。そこにどんな力が乗っているかもわかりません」
「だな。じゃあ、あたしはあたしがやれる戦術を全部やっていこう。突破されたらされたで、こっちもそれ以上の戦術を考えないとダメだし」
「ですね。私も見に回りますので、何かわかることがあったら助言しますよ」
「助かる」
特異点2人の準備はこれで出来た。ここからが演習である。
ここで学びを得ることが、決戦でどう役に立ってくれるか。
メモ書き程度に、カテゴリーK部隊の一覧をば。
戦艦:霧島
空母:瑞鶴
重巡:足柄
軽巡:五十鈴
駆逐:深雪、雷、漣
潜水:伊36
補給:速吸