後始末屋の特異点   作:緋寺

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三次元の戦い

 深雪と電の演習は、特異点の力を存分に使った、見る者には未知の戦いであった。

 砲撃を煙幕で弾き、魚雷を曲げてホーミングさせ、今は仕切り直しとして視認不可に持っていっている。

 

 やっていたことをやられると、逆にすぐ対策が思い浮かばないモノで、深雪は電の放った煙幕の中、どのようにして攻撃をしようかと考える。

 特異点の煙幕、しかも原初の認識不可の力は、真正面にいてもその存在を探れない。完全な不可侵を作り出すモノである。故に、次の攻撃のタイミングは、煙幕を放った電の手の上であると言っても過言ではない。

 

「こうなってんのか……自分のことってのはわからねぇもんだな」

 

 ならばと深雪は自分でも煙幕を放ち始めた。こちらは認識不可ではなく、触覚のある敵の位置を探る煙幕。一段階進化したモノ。

 何処にいるかわからないようにする中でも、同じ煙幕ならばその隙間を潜り込み、電の居場所を見つけ出せるのではないかと考えた。

 

「深雪ちゃんも、煙幕を出し始めたのです……? 多分、触れる煙……」

 

 電は深雪の次の行動を読んでいた。この状況ならば、自分でも触れる煙幕を使っている。見えない中でも相手を感知出来るのは、この煙幕だ。『迷彩』すらも関係無しに認識出来るのだから、煙幕の中でもお構いなしに場所を把握することが出来るだろうと。

 それならば、電も同じように煙幕の()を変える。原初の煙幕から、触れられる煙幕へ。お互い、見えていないのに相手の場所がわかるという状況へ。

 

 本来ならば、あちらからは見えず、自分だけが視える。しかし、お互いに同じ力を使っているのだから、お互いに見えていないが視えている状態となった。

 この状況下、砲撃などが通るかと言われれば、何とも言えないというのが実情。だが、2人は一切の迷いなく砲撃を放った。

 砲撃の爆風が煙幕を吹き飛ばす。それが少量であったとしても、それで多少は戦況が動くと思って。

 

「見えた……!」

 

 煙幕同士の干渉があるからこそ、同時の砲撃によって、お互いの場所が一瞬視認出来た。砲撃自体はあらぬ方向に飛んでいってしまうが、空気の流れは理想的なモノ。

 

「なら、コイツでどうだ!」

 

 煙幕の取り扱いは深雪の方が上。この一瞬の隙間を見抜いて、そこへ細かい煙幕を撃つように放った。

 

「あうっ!?」

 

 深雪の煙幕が電の顔面に直撃。痛みもなければ、目潰しのように後々効いてくるようなこともない。当然ながら、精神的な部分に作用することもない。だが、深雪の煙幕はまるで糸のように電と結びつき、完全に居場所を認識出来るようにした、繋がりの煙幕。

 

 触れられる煙幕の応用。ほとんど無意識に行なった、深雪の中の更なる進歩。この演習の中で芽生えた、先の力。どのような環境下であっても、その居場所を確実に理解する。

 

「見つけたぜ、電!」

 

 そして、その場所へと確実な砲撃を放った。見えている的に向けての砲撃は外さない。特異点だからとかそういうのでもない。単純な、艦娘としての技能だ。

 

 この砲撃が命中すれば、ヘッドショット成立。電の敗北が決定する。だが、電だってもう歴戦の特異点。顔に煙をぶつけられたことで、そのように狙われることは予想出来た。そして、深雪に見えているのは今そこだけということも。

 顔にぶつけられたから、狙いは頭のみ。ヘッドショットしか狙えないのなら、避けようがいくらでもある。だが、ただ避けるだけでは間に合わない。横に避けたら身体に当たりかねないのだから。

 

「こっち!」

 

 故に、電の見つけた回避方向は、()。潜水可能な深海棲艦状態なのだから、二次元ではなく三次元の動きが可能になる。知らない者からしたら、この回避が一番虚をつく。

 

「潜ったか! だったらあたしもだ!」

 

 電が下に避けたことは、繋がりの煙幕で把握済み。片方だけ海中にいる状況は、有利に転がるか不利に転がるかはわからない。深雪には対潜の技術もある。電には潜水の技術もある。

 電は潜水艦仕様の魚雷を装備していることもあり、海中での攻撃手段は深雪より多い。だが、同じ舞台へと降り立つため、深雪も潜水を開始。

 

 煙幕は海上にのみばら撒かれており、海中は綺麗なモノである。これまで最低の視認性だった戦場は、その全てがリセットされた全く違う世界からやり直しに。

 

「煙幕は海の中では意味が殆ど意味が無くなるのですね。後始末の時に使っていたそれとはやっぱり違うのです」

 

 海中での煙幕を経験していないわけではない。後始末の際に、罠がないかを探るために島の周囲にばら撒くことをしている。あの時にも、海の中に靄のように滞留し、どの場所に処置を施したかをわかりやすく表してくれていた。

 つい先程までの煙幕の応酬は、あくまでも海上での戦いのためのモノ。海上専用の挙動しかしないのは当然である。

 

 そして、その時にもう一つ理解していることがある。海中での煙幕ほ、海上での煙幕とは違い、蔓延に時間がかかるということ。一瞬で自分の周囲を覆い隠すことは出来ない。

 つまり、海中での戦いは単純な身体能力のみでの戦いがメインになるということ。煙幕が使えないというわけではないが、使っている余裕があるのなら、前に踏み出した方がおそらく勝ちが掴みやすい。

 

「第二回戦だ、行くぜ電!」

 

 これまでの煙幕が関係なくなった海中で、深雪は一気に電に突撃。この状況では砲撃を放つことも不可能であるため、攻撃手段は魚雷しか無くなる。だが、放っている暇があるのなら、近付いた方が早い。

 伊203のやり方に毒されているかもしれないと心の中で苦笑しながらも、深雪はそれが最善と信じた。

 

 とはいえ、深雪は電に完全に接近するのは危険だと理解している。電はグラップラー。掴みかかった場合、投げ技や絞め技でいきなり反撃を喰らうことになるのだから。オールラウンダーの深雪も、その辺りは出来る。しかし、技の精度で言うならば、電の方が上ではないかと考えている。

 そのため、近付きはするが、捕まらないように用心しながら、逆に掴みかかりたい。

 

「させないのです!」

 

 対する電、ここで使ったのはまたもや煙幕である。靄状になっても構わないと、向かってくる深雪に向けて煙を放った。その性質は、砲撃すら弾き飛ばす壁の煙幕。突撃を食い止めるための、最も手っ取り早い手段。

 

 その煙は、海中でほんの少し性質を変える。海上のように大きく散らばることなく、海中の目の前だけにばら撒かれたことで、より分厚い壁として成立してしまった。

 

「うおっ!?」

 

 その煙幕に阻まれた深雪は、硬い何かを殴ったわけではないのだが、それ以上前に進めなくなってしまった。柔らかい、クッションのような何かに殴りかかったかのような、不思議な妨害。

 

 そしてそれは、接近はしたもののペースを崩され、真正面の電に隙を見せるようなモノ。電の得意な距離、掴める距離でブレーキがかかってしまった。

 

「掴むのです!」

「させねぇ!」

 

 電の猛攻。深雪の腕を取ろうと手を伸ばしたのだが、それがまずいとわかっている深雪は、煙幕を吸い込んだことによる身体能力強化の効果を全力で使い、猛烈な速度で急速浮上。

 掴みかかった電の手は空を切り、深雪はもうそこにいなかった。しかも、その急速浮上の置き土産と言わんばかりに、電の目の前には爆雷が置かれていた。

 

 これは喰らったらダメだと電も瞬時に判断し、深雪を追うべく急速浮上。身体能力強化が深雪とは違う方向性で効いているため、判断は早かったが深雪に追いつくことは出来ない。

 

「あうっ!?」

 

 そうこうしているうちに爆雷が爆発。その余波を喰らうカタチで、電はその衝撃に押し出される。

 深雪も浮上しながら爆発の衝撃を足に受けるが、むしろ浮上をより速くしてくれると考えて、それに乗って一気に海上まで到着した。

 

 まだそこは煙幕が残っていたが、深雪が飛び出すように海面に出てきたことで風が起こり、残っていた煙が散らされていく。続いて電も浮上したことで、完全に煙は失われた。

 

「ふぅ……もう一度仕切り直しか?」

「なのです……でも」

 

 深雪はまだそれが見えていなかった。電は、浮上しながら魚雷も放っていたのだ。

 足下から迫り来る魚雷。直撃すればそれで演習は終わり。深雪は浮上しながら煙幕をばら撒くようなこともしていない。真っ直ぐ行けば、そのまま行ける。

 

 はずなのだが、お互いのことをよく理解しているというのは、ここでも大きい。

 

「電ならそうしてくると思ったぜ」

 

 深雪はすぐさまバックステップ。魚雷への接触を見ることなく回避した。

 

 深雪に向かっていった魚雷は、勢いよく海上へと跳ね上がる。深雪はそれを、何を思ったのか爆発前にキャッチ。そして、その勢いそのままに、身体を捻って電へと投擲した。

 

「無茶苦茶なのです!?」

 

 電とて深雪の理解者。口ではそう言いながらも、そうされるのではないかと何となく予想しており、難なく回避した。投げられた魚雷は、電の遥か後方へ。

 

「すげぇな、それ避けるか」

「深雪ちゃんはやりそうでしたから」

 

 もう言葉も交わせる程に近い距離。煙幕もない状態で、2度目の仕切り直しとなった。

 

 

 

 

 海上のみでなく、海中も使った三次元の演習。煙幕も駆使されることで、外部から見えることは殆どないと言ってもいいのだが、特異点同士の戦いというのは、そういうモノだろうと納得するしかなかった。

 




特異点にしか出来ないと言っても過言ではない、上も下も使う戦い。なお、観客のことは何も考えていない。
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