またもや仕切り直しとなった深雪と電の演習。舞台を海中へと変えた後、激しい猛攻を経て、すぐにまた浮上して向かい合った状態となった。
この時には煙幕も大分晴れてきており、視界も良好。とはいえ、深雪も電も、ここから攻めるならば、やはり煙幕を使った行動に出ることとなるだろう。
「追加の強化だ。そろそろ決着つけようぜ」
「なのです」
再び煙幕を吸い、身体能力を強化。深雪も電も、体内でその力を活性化させる。
「ふぅ……じゃあ……やるぞ」
「なのですっ」
お互いに息を吐いたところで、砲撃が再開の合図となった。身体能力を強化した2人には、声が聞こえる程の至近距離からの砲撃であっても、余裕とは言わないがしっかり回避が可能。
砲雷撃戦、海中戦と続いたため、ここからは近接戦闘が始まった。砲撃を潜り抜けた深雪は電を掴むことが出来る距離まで詰め寄る。しかし、電はグラップラー、逆に掴まれた場合、痛手を負う可能性も充分にある。
事実、電は近付かれたらその身体を掴んでいくつもりで待ち構えていたのだ。拳を突き出されたら、それを掴んで投げるなり絞めるなり出来る。脚も同じだ。
深雪もそれは理解している。故に、接近戦を仕掛けるといっても殴りかかるわけではない。時雨との演習でも行なった、主砲を使った格闘。殴りかかりつつも、ゼロ距離の砲撃も絡めて射程を伸ばす。
「させないのですっ」
主砲を持っている方の腕が前に出てくると思った時には、電は自ら前進していた。いくら射程が短い駆逐艦主砲であっても、それ以上に近付いた場合は撃つに撃てない。むしろ、方向を一気に変えづらくされたことで、深雪はその腕を迎撃に使わざるを得なくなる。
「離れさせないのです!」
しかも、体勢を低くし、レスリングのタックルの体勢で下半身を狙った。深雪は砲雷撃戦の最中の波でほんの少し体勢を崩したこともあり、体幹はあれどまだ足下に難があるとわかっていたからだ。
そして、今の電ならば、この行動が別の効果を齎す。急にしゃがみ込んだ時、深雪の目の前に現れるのは、艤装に接続されている大口径主砲だ。いきなりそれが自分の眼前に来るのだから、嫌でもビクッと身体が反応する。
「隙ありなのです!」
「だったらよぉ!」
電のそのタックルに下半身を掴まれる前、深雪はさらに一歩前に出た。事もあろうか、深雪は電の思い通りになる前に、眼前に現れた主砲を無理矢理掴む。勿論、砲撃をされたとしても直撃などしないような位置を見計らって。
そして、電の手が届かないうちに全力を以て払い除ける。だが、一歩近付いたということは、電のタックルはそのまま不恰好だが成功するということにもなる。
「うえっ!?」
「いっ!?」
深雪は足下を払われたかのように体勢を崩し、電は本来やりたい方向にはいけなくなって、海面に転がってしまった。掴もうとしても、その衝撃で手が離れている。
「っぶねぇ!」
すぐにそこから切り返したのは深雪。体勢は崩れたものの、電のように転がるところまではいかない。電の方へと向き直り、主砲を構える。
だが、電は
海面を転がったというタイミングで、即座に潜航。海中を経由して近付き、体勢を整えた深雪の足下から現れて、再度下半身に向けてタックルを決めた。
瞬時の判断力、それを実行するための瞬発力は、煙幕による身体強化の賜物。相手が深雪であろうとも、今はとても頭が冴えている。視界も良好、完全に脚を取ることが出来たことで、電のペースになる。
「なのです!」
そして、無理矢理押し倒した。海中経由の移動で勢いもつき、深雪であってもその体勢を維持出来るようなことは出来なくなる。
脚を取られ、体勢も崩され、押し倒されてしまったのならば、深雪はそこから動くことは出来なくなる。
逆に電は、ここからなんでも出来る。そして、脚に対してやるのならば、やることはほぼ決まっているようなモノ。そう、アンクルホールドである。
「離れてくれよ、なっ」
しかし、それはお互いに艤装を持っていないこと前提だ。今の深雪には主砲がある。しかも、電とは違って取り回しのいい駆逐艦の主砲が。
脚をロックされる前に、電に向けて主砲を構え、回避の隙も与えずに砲撃を仕掛けた。
電本体を狙うことが出来ればなお良かったのだが、そう出来ない理由がある。どうしても電の艤装が邪魔になるのだ。
故に、ほぼゼロ距離に近いところから、艤装を撃った。演習でなければ艤装が壊れてもおかしくないような状況。深海棲艦化により、艤装そのものが強化されていたとしても、それは深雪も同じことだ。
「あうっ!?」
それを電が予想していないわけがない。自分は撃たれなくとも、艤装は撃たれる。だが、ここで使えるのが特異点の力、煙幕。深雪を掴んだ状態で、原初の煙幕を発生させることで、砲撃のみを逸らすという荒業に出た。
それは間違ってはいない。超至近距離でもお互いを認識出来なくなるのが特異点の煙幕だ。ただし、触れているのだから話は大きく変わる。完全な回避など出来るわけがなく、砲撃は電の艤装の基部より少し逸れ、主砲の根元辺りに直撃。
その衝撃は体勢を崩すには充分である。脚をしっかり掴んでいたとしても、それによって少しだけロックが崩れる。
「おらっ!」
そこに深雪は更なる煙幕を放つ。それは、特異点の力が入っているようなモノではない、単純な
それを顔面にぶつけられた途端、電は目が染みるような痛みを感じる。特異点の煙幕ならばそんなことはないのだが、普通の煙幕ならばその成分がまとも。何かを燃やしたような匂いもすることから、直撃を受ければ一瞬だけでも目が潰れる。
「いっ!?」
これによってロックは余計に緩んだ。深雪はその隙をついて電から離れようと、いや、電を引き剥がそうと、思い切り脚を振り上げた。
それが功を奏した。電の身体が浮いたのだ。今の深雪の膂力は戦艦と同等。相手も戦艦相当だとしても、それくらいの重さならば、軽々と言わずとも持ち上げることは出来る。それが、腕よりも強い力が発揮出来る脚ならば尚更だ。
電はその衝撃で完全に脚から手を離してしまう。それによって、電の身体は深雪に触れていない状態が作られる。
「終わりだっ」
そして、深雪はそこに砲撃を重ねた。狙うは電の胴体。離れているのなら、ここで確実に狙える。
「やらせないのですぅっ!」
危ないと思ったからこそ、電は無理矢理にでも身を捻った。そう、
電はその砲撃を艤装で受けようとしたのだろう。咄嗟に、ほとんど意識せず、
「おぶっ!?」
艤装が、深雪の身体に直撃する。ゴギッと、あまり聞きたくない音と共に。
深雪の放った砲撃は、ギリギリのところで艤装を掠めるのみにまで逸らされてしまい、深雪自身は大きなダメージを受けてしまった。演習とは思えないような痛み。
さらに、深雪はそれによって吹き飛ばされ、海面をゴロゴロと転がされる羽目になる。電のその行動は、咄嗟ということもあり、力加減が全くされていない強烈なモノだった。
「えっ!?」
そもそも電自身が相当に驚いている。上手く切り返そうとした行動が、この演習を終わらせるに等しい一撃となったのだから。
だが、それが最終的には命取りになる。電の弱点が露呈した瞬間だった。
予想外のことが起きるのは、戦場ではいつものこと。自分の行動がそれを巻き起こすとしても、それは仕方がない。しかも、今回は深雪が演習相手として、敵としてそこに立ってくれていたのだ。ここで深雪が傷ついたことで思考停止しているのはよろしくない。
「ってぇ……電すげぇな、ありゃ予想出来なかったぜ……」
深雪は転がりながらも、最後の一手を放っていた。砲撃も難しいのならば、魚雷を放てばいい。
電自身、無理な身体の捻り方をしたため、深雪がいなくなった海面にそのまま落ちることとなっていた。深雪は、そこに魚雷を放っていたのだ。
沈んでいなければ、まだ攻撃は出来る。演習とはいえ、執念を見せた攻撃。相手が電であっても、手を抜くこと自体が失礼だと思っているから、ここでちゃんと終わらせに行った。
「あ」
ここで電は、魚雷に気付いた。すぐに立ち上がろうと思っても、体勢が崩れているせいで、もたついてしまう。ならば先程のように潜って回避するということも考えられたが、深雪の魚雷は普通のそれより数段階速く向かってきていたのだ。
電が放った煙幕を纏わせてホーミングさせる魚雷を真似て、深雪はその速度を上げるために煙幕を纏わせた。煙幕が後ろから魚雷を押しているのだ。その結果、電に潜る暇すら与えなかった。
「あたしの、勝ちだ」
魚雷がぶつかり、大きな水柱となる。電はそれをまともに受けてしまい、その一撃で大破、轟沈判定。
最終的には、深雪の勝利で幕を閉じることとなった。
この特異点同士の演習は、凄まじいモノとなった。参考になるかならないかと言われれば、おそらく全員、口を揃えて参考にならないと証言するだろう。
だが、決戦ではこれくらいのことが当たり前のように起きるだろう。そういう意味では、参考にはなったと言えるのかもしれない。
そもそも、演習とはいえ艤装を持った状態で絞め技はよろしくないのでしょう。そういう意味でも、電はサポートに徹した方が良さそうですね。