後始末屋の特異点   作:緋寺

1136 / 1166
まず知るべきは

 丹陽から話を聞き、電に必要なのは成功体験、そして、そこに辿り着くまでに繰り返しやることに意味があるのだと理解する。苦手を回数で乗り越えて、そして失敗したところで、みんながカバーしてくれる。成功するまで何度も何度もやっていい。

 電の引き起こしてしまった失敗は、そもそも明日は我が身のモノ。特に戦艦は、艤装自体が大きいため、その取り回しには細心の注意を払っている。自分達だけでなく、周りの言葉も聞いて成長していくべきだろう。

 

「あたし達だけで解決しないといけないってわけでもないんだ。みんなに話を聞いてみてもいいんじゃないか?」

「そう、ですね……」

 

 電の声はか細い。やはり、前を向く勇気がなかなか出ないようである。少しは出た方ではあるのだが、だがどうしても躊躇いが出てしまう。

 丹陽の話を聞いて、今では一騎当千の英雄、生ける伝説と称されていようが、最初は心身ともに未熟であり、誰にでも失敗があるということはわかった。

 電だって、これまで非常に濃厚な時間を過ごしてきたが、実際はまだまだ新人と言ってもいいくらいの期間しか生きていない。そう考えれば、早い段階でこの失敗を起こしているのは、逆に運が良かったと言えるかもしれない。

 

 それはうみどりの仲間、先輩達にも言えることだろう。失敗をしない者なんていない。なら、過去に同じような失敗をしたことがあるか、などを聞いて回るのもアリかもしれない。

 人の失敗談を聞くというのは趣味が悪いような気がしないでもないが、事情を話せば何かと教えてもらえそうである。

 

 

 

 

 そして戻ってきたら工廠。演習はまだまだ繰り広げられており、そして相変わらずの綾波無双中である。何処にそんな体力があるんだと呆れつつも、本人は非常に楽しそうなので、あまり深く追及することはやめておく。

 

「こういう話が聞きやすそうなのは……やっぱデカい艤装を持ってる人だよな」

 

 ということで、深雪のターゲットになったのは、何やら水浸しになった身体をタオルで拭いている長門。隣には清霜もおり、酷い目に遭ったと笑っていた。

 

 深雪と電が戻ってきており、自分達の方に向かってきていることを知ったことで、清霜は小さく手を振り、長門はどうしたんだと優しく問い掛けた。

 

「……なるほど、確かに私もやらかしたことはある」

 

 長門はしみじみと語る。やはり大きな艤装を取り扱うということで、その距離感が掴めず、艤装をぶつけてしまうことはよくあったと。清霜もうんうんと頷いていた。戦艦ではなくても、戦艦のことに対して深く知識を持っている清霜は、長門の持っていた悩みが手に取るようにわかるようだ。

 

「私の艤装は横に大きいだろう。幅が3倍くらいになるからな。何の気無しに歩いていて、隣にいる者の存在に気付いていても、不意に押してしまうことがあった」

「戦艦の艤装って、他の艦娘と違って、大きくてバランサーとかも必要だから、どうしても大きくて重くもなっちゃうみたい。長門さんのはこれでもコンパクトな方だったはず」

「うむ。最強と名高い大和と武蔵の艤装は私のそれよりさらに巨大だからな。火力に相応するサイズとなっている。慣れるのにも一苦労だろう」

 

 意識せず自分のサイズが大きくなっている、というのはやはり厄介なモノで、それこそ振り向こうとした時に、その艤装を振り回してしまうようだ。勢いがあると、それ相応に大きなダメージになってしまう。

 長門はそれを時間経過で慣らしていった。うみどりでは、戦闘よりも後始末の作業が重要。砲雷撃戦以上に、仲間達と近距離で作業をすることが多くなる。取り回しに気をつけないと、周囲に傷を負わせることにもなりかねない。

 

「電の悩みもわかるつもりだ。むしろ、その話なら清霜の方が詳しく話せるんじゃないか?」

「そうかも!」

 

 ここで清霜の戦艦知識が披露されることになる。だがその前に。

 

「電ちゃん、キツイかもしれないけど、()()()()艤装、装備してくれないかな。ちょっと見ておきたいことあるし」

「えっ、は、はい、わかったのです」

 

 清霜からの指示は、今一度深海棲艦化して同じ装備をすること。超攻撃的な装備となることで、どれほどのサイズ感になるのかを改めて近くで見ておきたい。

 

 電は言われるがまま、工廠の少し奥で装備を始める。電が戻ってきたということで、明石も再び例の装備一式──戦艦主砲に空母の艦載機、潜水艦の魚雷──を用意した。

 大丈夫かと心配そうにしていたものの、電はまだ少し俯いている。しかし、前に進むためには、一度清霜に見てもらう必要もあるため、電はまず1歩目の勇気を振り絞って、事故を起こした姿へと成った。

 

「おおーっ! やっぱりすごいサイズ感! 本来の駆逐艦の艤装が、そっちの姿になったら大きく変わるんだね! 装備してる主砲もそれに合わせて深海化してるし、そりゃあ火力も大きさも変わるよね!」

 

 大興奮の清霜である。これまでのデータには無い戦艦の姿ということもあり、新たな情報源に目をキラキラさせていた。

 

「電ちゃんの身体は、地中海弩級水姫の見た目をベースにしたモノだよね。でも、艤装のカタチはちょっと違う。あれはもっと大きくて、何処か蝶々に似てる艤装を持ってるんだけど、電ちゃんの場合は艦娘にかなり近いカタチしてる。長門さんのそれより少し横幅が大きいくらいかな。でも、電ちゃん自体が長門さんよりも小柄だから、余計にサイズが大きく見えてるね」

 

 周りをグルグル回りながら、指で尺を測ったりしておおよその大きさを計算している清霜。

 

「深雪ちゃんのもそうだけど、艤装まで深海棲艦化しても、見た目とは結構カタチが違うんだよね。深雪ちゃんのは南方棲戦姫のそれにかなり近いけど、主砲自体が駆逐艦のモノだから、それに合わせて大分サイズダウンしてる。身体は大きくなっても、艤装が小型だから、すごく取り回しは良さそう」

「そうだな、それはありがたいっちゃありがたい」

「深雪ちゃんは砲撃が駆逐艦だろうが戦艦だろうが関係ないもんね。だから多分それが一番使いやすいんだよ。でも、電ちゃんは何でも装備出来るから、それに合わせて艤装もちゃんと大きくなってる。ほら見てよこの主砲。これ長門さんの使う41cm砲だよね。でも、ちゃっかり深海の16inch砲に変化してる。うーわ、明石さんキレそう」

 

 センチからインチに変わっていることの比喩なのだが、明石はそこでどうこう言いませんよと苦笑。そもそも、電から外せば、本来の主砲に戻るのだから、そこを気にすることはない。

 

「で、本題だよね。えーっと、おおよその計算で、やっぱり長門さんより横幅が大きいから……電ちゃん、両手を横に伸ばして」

「こ、こうなのです?」

 

 言われるがまま、電は手を横に伸ばす。

 

「うん、艤装の先まで手が届いてないね。それだけ横幅があるってことだよ。あと後ろ側。基部も大きくなってるから、駆逐艦のそれとは全然違うね。電ちゃん、ここだよここ、背中側の一番奥は、ここまで届いてるよ」

 

 艤装の端をバンバン叩く、感覚が繋がっているわけではないため、そうされても何処まで届いているかはわからない。だが、清霜自身が真後ろにいるのに、声がほんの少しだけ遠くにあることはわかった。

 

「一度振り向いてみて」

「な、なのです」

 

 清霜に言われて、首だけでなく身体ごと振り向く。その時の艤装を動きからして、かなりの範囲に及んでいることがわかった。近くにいた清霜がバックステップで離れたくらいである。

 

「はい、これがまだわかってない距離感ね。取り回し的には、うん、武蔵さんのモノにかなり近いね。サイズ感も近いんじゃないかな。奥行きより横幅のほうが大きいから、真後ろにいる時に身体を捻ると、艤装の横端が真後ろの人に当たっちゃう。でもこれ、多分戦艦の主砲を装備してる時だけになるんじゃないかな」

 

 装備している兵装によって、艤装のサイズが変わるという特殊な事例。何でも装備出来るという電にのみ起きた、過去にあり得ない現象。

 

「サイズがわかりにくいなら、主砲のサイズとか下げた方がいいかも。金剛型とかの35.6cm砲とか。あと、副砲代わりに巡洋艦の主砲を装備する戦艦もいるから、そちらをメイン武装にしてみてもいいかもしれないよ?」

 

 距離感がわからないから事故が起きる。なら、まだわかりやすい装備で距離を縮めて、なるべく事故を起こさないように事前に対処する。それも清霜から案を出される。

 

「でも、やっぱり火力欲しい時もあるよねー。なら、この装備で動けるようにした方がいいよね。一番大きい状態で慣れれば、小さくなった時にも大丈夫になるし。大は小を兼ねるって言うしね」

 

 決戦の際にどのような装備配置で向かうかはまだ決まっているわけではない。だが、今回と同じ装備で向かう可能性を考えると、これで慣れておいた方がいいだろう。

 

「今日は一日、この装備の状態で過ごして、距離感を掴んだ方がいいんじゃないかな」

「な、なのです……?」

「だって、このサイズがわからなかったからぶつかっちゃったんでしょ? なら、サイズがわかるようになるまで、その状態でいた方がいいよ」

 

 これもまた、丹陽の話していた、上手く行くまで続けるということに等しい。この装備で事故を起こしてしまったから、この装備をもう二度としない、ではなく、慣れるまで使い続ける。時間は非常に少ないが、今日一日を今の身体で慣れることが大切。

 電は深雪よりも深海棲艦の身体に慣れていないのだ。決戦の際に、その慣れが勝敗に直結する可能性もあるのだから、まずは身体に慣れなくてはならないだろう。

 

「長門さんは、そんな感じに慣れたんじゃないの?」

「まぁ、近しいことはしたな。丸一日とは言わないが、時間がある時には装備して、艤装が届く範囲を把握した。改二改装の時にさらにサイズが上がったからな。その時にもやったぞ。作業中に事故を起こしかけてしまったからな……」

「長門さんも、なのです?」

「ああ、後始末の時に、大物を拾い上げてな、その時に横にいた大発を用意してくれていた睦月と衝突しかけたんだ」

 

 長門であっても、そういうことを起こしてしまう。艤装の急なサイズアップは事故の元であると、電は改めて理解した。

 

「……電、少しこの格好でやってみるのです」

「うん、それがいいよ。まずは慣れが必要だもんね」

 

 清霜が笑顔でサムズアップ。新たな戦艦の情報が手に入るということも、喜びに繋がったようである。

 

 

 

 

 

 ここから、電の努力が始まる。短期間ではあるが、やることに意味がある。

 




清霜「戦艦清霜はアレくらいのサイズになるかな……横幅が大きいから距離感が大事と……いやぁ知っておいてよかったなぁ。あとは特異点にお願いするだけで」
深雪「欲まみれの願いは叶わないからな」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。