綾波に誘われたことで、軍港鎮守府最強のコンビと演習を行うこととなった深雪。電がまだメンタル的に戦えないため、今回のコンビは白雲である。
綾波の猛攻、暁の分析に対抗するために、真っ先に実行した煙幕の吸引。周囲に撒き散らそうとしても、暁が即座に対応して、魚雷を爆発させることで風を起こしてきているので、身体強化のために敢行。そしてそれを初めて特異点以外の者、白雲にも施した。
その結果、『冷却』の出力がとんでもないことになった。鎖を居合抜きの要領で振り回した結果、氷の礫を放つつもりが、氷の壁が出来上がるほどに一気に凍り付かさせることが可能となる。
「そう易々とはやられませぬ。この白雲の力、まだまだこれでは終わりませぬよ」
深雪の力を借り、強烈な冷気を散らしながら舞い踊る白雲。鎖を振るうたびに海面が凍結し、氷の結晶がキラキラと舞い散る。これがただの演出ではなく、近付くことで身体を冷やし、その行動力を強く制限するという技だ。
接近戦を仕掛けなければいいだけではあるのだが、白雲の鎖はそれなりに長く、ただ振り回しているわけでもない。鞭のように振るい、敵の身体に打ち付ければ、さらにそこから凍りつき始める。その射程に入った時点で、冷気からは逃げられなくなる。
「近付けませんねぇ、でもそれは、遠くから撃つだけでも問題ないですよぉ?」
「白雲が動かないわけがありませぬ」
綾波は暁と共に遠距離での攻防に出ようとする。近付いたら厄介なら離れていればいい。
故に、白雲もその状態で前進。綾波が遠近共に強力な戦闘力を持っていることは百も承知。それでも、これまで以上の出力が出ている今ならば、多少は強気に前進しても問題ないと判断した。むしろ、それで何処まで通用するのかを確認するのがこの演習だ。
「凍らせると言っても、海の上だけよね。なら、海の中は関係ないわ」
そこで暁が魚雷によって白雲の行動を止めようと動き出す。舞い散る氷と、凍りつく海面があったとしても、それは表面上である。多少はその重みで海中にも氷塊が沈んできていても、魚雷ならばその下を潜り抜けることは可能かもしれない。試すには充分すぎる手段。
綾波もそれに合わせるように魚雷主体の戦い方に変更。砲撃が氷の壁と煙幕に阻まれるのならば、煙の届かない海中を狙うのがいいと、暁に指示されずともすぐにそこに意識を動かした。
「魚雷とて、今の白雲ならば」
煙幕ブーストのかかった白雲はそこでも一味違う。鎖を魚雷に向けて叩きつけるように海面を這わせた。その瞬間、白雲から鎖の一直線上がバキバキと凍りつく。横に払って壁を作るのとは違う、縦に向けての氷の波。
海中を走る魚雷をも凍らせるような一撃に、暁はマジかと目を見開き、綾波はマジかと目を輝かせる。
魚雷をこんなカタチで対処するなんて見たことがない。これが特異点の力によるブースト。そもそも特殊な力を持っていることが異例なのだが、それ以上に出力が狂っている。
「なんて、なんて楽しい戦いでしょう! こんな戦い、やったことがありませんよ!」
綾波が目を爛々と輝かせながら、凍りついた海面を駆け抜ける。縦に氷の波を作られるのならば、壁よりも避けやすい。そして、避けながら砲撃することも可能。雷撃がそんなカタチで止められるのならば、砲撃も何か違うことをしてくるはずと、綾波は次の一手をどう出してくるかと楽しみにしていた。
それを放つのが、深雪。
「白雲、『冷却』借りるぜ」
「承知。お姉様、存分にお使いくださいませ」
白雲の陰、深雪はその冷却の少し向こう側から、深雪の煙幕を纏わせた砲弾が放たれる。
ブーストがかかった白雲の『冷却』を、砲撃に含まれた煙幕が絡みとり、その砲撃は特異点の力によって『冷却』の砲撃と化す。
煌めく砲弾は真っ直ぐ綾波に飛んでいく。綾波は直感的に、これは紙一重で避けるのは良くないと判断した。よって、綾波も大きく回避する。
深雪の砲撃は回避されたことで海面に突き刺さるように着弾する。瞬間、その海面が音を立てて凍りついた。
大きく舞い上がった水飛沫が全て凍結することで、煌びやかな風景が作り出される。
「かすめてもダメですねぇそれ。なら、そのように戦うだけですし、多少は自分の身を削っていくことも考えていきますよぉ♪」
そんな光景を見ても関係ない。綾波はより強く闘争心を燃やして突撃してくる。深雪はそんな綾波に引き攣った笑みを浮かべて、そりゃそうだろうなと迎撃の準備を始める。
白雲も、その前進を食い止めるため、鎖を振り、舞い踊る。前方に対して氷を散らし、足下に障害物を作ることで、綾波の動きを制限しようとした。
だが、そんなことで止まる綾波ではない。氷塊の隙間をさも当然のように選択し、着実に、そして素早く一歩ずつ前に踏み出してくる。それも、ただ駆けてくるのと同等か、下手したら速い。
「マジかアイツ!」
「止められませぬ……!」
時には氷を蹴り、時には急に横に避け、この現実の演習の中でも仮想空間の戦いと同じような戦いを仕掛けてくる。どのような戦場でも、当たり前のように前進してくるのが恐ろしい。
「止めさせませんよぉ♪」
「止まってもらうんだよ!」
ここで深雪はやはり煙幕を放つ。扱うのは、綾波だけでなく、全員がその姿を見失う原初の煙幕。綾波とて、それを喰らえば深雪を直前でも見失うだろう。
そして、綾波はそんなこと理解しているのだ。やることなんて当然、煙幕を散らすこと。咄嗟の判断が異常なほど早いこともあり、煙幕のために手を動かした時には、綾波はもう行動を終えていた。
「ダメでぇす♪」
深雪の顔面に向けての砲撃。煙幕を止めるのではなく、
「このっ」
流石にそれに当たるわけにはいかないと、深雪はすぐさま回避。
「お姉様!」
同時に白雲も砲撃。鎖を振り回しながらも、砲撃は可能。もう片方の手に握り締めた主砲を即座に放ち、綾波の行動を封じにかかる。
「ふふふ、ですよねぇ。でも、煙幕は止まりますよね?」
白雲の砲撃を避けながらも、綾波は確実に深雪を狙って連射する。それは当てることを目的としていない。ひたすらに砲撃をすることによって、深雪の周りにのみ風を起こしているのだ。
深雪の煙幕は風に弱い。それは自他共に認めている弱点。そして、風を起こす方法を綾波はずっと考えていた。
その手段こそが、この力押し。砲撃はよくも悪くも風が起きるのだから、深雪を撃ち続ければ煙幕は防ぐことが出来る。また、深雪自身も動き続けるのだから、その分煙幕はブレるのだ。まともに煙幕を使わせないのならば、ひたすら動かし続けることが一番早い。
「止まっているのなら、綾波だけじゃなくても戦えるんですよぉ」
「ええ、暁もいるんだから」
そして、暁も白雲の凍結を掻い潜って攻撃を始める。砲撃と雷撃を重ね合わせることで、氷の壁も既に順応し、白雲にも回避を優先させるように出来ていた。
その結果、綾波が深雪に徐々に近付いてきているという状況を作り出せている。暁が万全なサポートをしながら、綾波のやりたいことのために背中を押し続ける。
「本当にヤベェなお前ら!」
「褒め言葉ですよね?」
「当然だろ!」
綾波の猛攻によって、煙幕が張れない。それだけで、深雪はただの艦娘になってしまう。煙幕があるから、特異点としての力を存分に発揮出来るのだが、それが止められてしまっているのだ。
となると、仮想空間での戦いと全く同じになってしまう。それでは確実に勝ち目がない。
ここで深雪は、特異点として新たな局面を迎えている。今出来ることだけでなく、これからやらねばならないことを考えねばならない。
「白雲、まだ折れてねぇよな!」
「無論でございます。この程度で折れるほど、この白雲、柔ではございませぬ」
「ならいい! 合流すっぞ!」
ここでやはり頼るのは仲間の力。白雲を強化し、白雲の力を利用してきたのだから、まだ先に進むためには自分の力だけでは無理。
「やらせませんねぇ」
その合流を阻止しようと、綾波の猛攻は止まらない。勿論手段は力押し。息の根を止めれば合流は出来ないというわかりやすい手段。さらには、間に入ろうと突っ込んでくる。
暁も合流だけは許さないと、白雲に対しての攻撃を緩めない。砲撃と雷撃の重ね技は、もう氷の壁など作らせず、白雲に鎖を振るう隙も与えない。
特異点の弱点は、猛攻。隙さえ与えなければ、特異点は特異点ではなくなる。ただそれだけ。
特異点同士の演習は、お互いの強みを知り、それを押し出そうとしていたから、煙幕合戦に行ったが、煙幕を使えない者ならば、徹底的に煙幕潰しに走るのみ。
「いや、やるんだよ、ここで!」
煙幕を晴らす砲撃では晴らしきれないように、速く、そして鋭く煙幕を放つ。弾丸のように放たれたそれは、白雲の鎖を撃ち抜いた。
その瞬間、鎖に纏わせられた『冷却』の力が一気に拡張される。それにより生み出されたのは、間に入ってきた綾波を妨害するほどの力の拡張。鎖を前に出しただけでも海面をバキバキに凍らせ、飛び越えられるようなものではない範囲が凍りつく。
流石に綾波もこれには踏み込むのを躊躇した。踏み込んだら、足ごと凍らされそうだったから。
暁は魚雷によって破壊できるかと考えたが、放ってからわかる。今のあの凍結は、白雲のそれに特異点の力がダイレクトに伝わったモノ。普通とは違う規模である。
そのせいで、魚雷が辿り着く前に凍りつくという凄まじい冷却力を見せつけられた。
ここに来て、深雪は新たな戦い方を学ぶ。それは、仲間を利用すると言ってしまえば聞こえが悪いが、仲間との絆が生んだ、その力を数倍にまで引き上げる力。
連携をより強く発揮させる力。白雲ならば、特に増幅可能でしょう。