綾波暁コンビとの演習中、特異点としての力の弱点を痛感した深雪。猛攻を受けてしまうと、煙幕を出す余裕すら無くなってしまう。少し出したとしても、行動が止められない限り、敵の攻撃や自分の動きさえもが煙幕を散らす原因となってしまう。
そこで一考し、その隙を無くした煙幕を、弾丸のように発射し、兵装にその力を付与する煙幕。元々煙幕ブーストがかかっていた白雲の鎖をその煙幕で撃ち抜いた瞬間、拡張された力がさらに拡張され、綾波が踏み出すことを躊躇する程の凍結が発生した。
「……っ、これか!」
深雪は確かな手応えを感じた。僅かな隙があれば扱える煙幕で、瞬間的なブーストがかけられるというのならば、活用しない理由がない。
しかし、それはそれで心配しなくてはならないこともある。それは、白雲の力を無理矢理引き出してしまっているのではないかということだ。
特異点の力を特異点が使うのならば何も問題はないだろう。しかし、白雲は特機を寄生させているとはいえ、特異点ではない。力が強すぎるのも毒になりかねないのだ。
「白雲、行けそうか!?」
「まだ大丈夫です。ですが、多用は禁物かと」
「悪い!」
白雲がこう言う程だ。身体への負荷はそれ相応ということに他ならない。いきなり力を引き出されて、今をどうにか出来たとしても、その後に動けなくなったら意味がない。深雪の扱えるコンバート改装による回復ほどの消耗は無くても、多用は出来ないだろう。
煙幕ブーストとの併用がそれを生んでいる可能性もあるため、こればかりは短い時間で試していくしかない。
「なるほどぉ、瞬間的な追加ブーストですかぁ。確かに何度も使えなそうですねぇ」
そしてそれは、目の前でされた綾波にも筒抜け。白雲の消耗も見ているため、なるほどと納得した後、何処をどう狙えばいいのかをすぐさま計算する。
暁も同様である。凄まじい範囲の凍結は先程の一瞬だけ。もう今ならば攻撃は通る。
弾丸の煙幕はあくまでも瞬間的な出力を一気に上げるモノ。そして受けた者の消耗はそれ相応。多用出来ないブーストなら、その時その時を注意すればいいだけ。
「綾波、まだ攻めてもいいわ」
「はぁい♪」
攻めを止める必要はない。ブーストがかかった瞬間にだけ注意すればいいだけ。ならば、猛攻に猛攻を続けて、弾丸の煙幕を誘発させ、消耗を加速させる。それだけで勝てる戦いではある。
だが当然、暁は別の脅威も考えてはいる。深雪がそれに気付けるかどうかだが、気付かなければこのまま押し込めるだろう。気付いた場合は、綾波が余計に興奮してしまうんだろうなぁと内心溜息を吐いていた。
それだけは暁でも、綾波ですら止められないだろう。そして、暁的にはあまりやってもらいたくない。
「マジでさぁ、お前さぁ、なんで止まらないんだよ!」
「楽しいからでぇす♪」
「さっきまでずっと演習やってたよな!?」
「楽しいからでぇす♪」
「怖ぇよ!」
綾波は煙幕を使う深雪を優先して狙う。深雪自身も煙幕ブーストをかけているため、なんとか綾波の猛攻に耐えられているが、かなりジリ貧だ。砲撃を仕掛けようとしても、それを封じるように先んじて砲撃を放たれる。避けながら撃とうとしても、魚雷まで絡ませてくる。足下に視線を落とせば、急に近付いてきて殴りかかってくる始末。
近接戦闘も砲雷撃戦も、さも当然のように繰り出してくる姿に、深雪は若干恐怖を感じる。しかもそれを楽しいの一点張りで押し通してくるのだから、正直出洲より怖い。
この演習でメンタル面の強化までしてもらえているような気がしている。綾波以上に怖い相手はいないのではとすら思える。
「お姉様!」
「ダメよ、綾波にやらせるから」
そして白雲は暁が完全に止め続けていた。一度の凍りつきにより魚雷も効かなくなった瞬間があったが、それでも綾波の猛攻が一時止まったところで合流が上手くいかなかった時点で、暁は白雲を止め続けることを優先した。
もう一度あの激しいブーストをされると、今度こそ厳しい。初めてだったから上手くいかなかっただけで、2回3回とやれば確実に慣れる。白雲の消耗を考えると多用は出来ないが、チャンスさえあれば確実にやるだろう。深雪自身の消耗はほとんどないのだから。
「くっそ、引き剥がせねぇ……!」
綾波の猛攻により煙幕が使えない。一度出来た弾丸の煙幕をするにしても、白雲の消耗を考えると使えない。そもそも、綾波と暁が邪魔をしてそれも封じられている。
ここで深雪は考える。弾丸の煙幕は隙を見せずに撃ち込めるし、瞬間的なブーストがかけられる。ならば、
「綾波」
「はぁい♪」
「
ここで機転を利かせた深雪の秘策、一か八かの大勝負。弾丸の煙幕を、
綾波もそれは避けられなかった。砲撃を放たれたわけでもない。構えもただ手を出しただけ。通常の砲撃よりも速い、回避も難しい一撃。ダメージは無いのだが、その未知の力は綾波も知らない。
「えっ」
綾波はこれまでにない声が出た。戦闘中にそんな声を上げることはないのだが、それを知ってしまったから、そんな反応をしてしまった。
猛攻は止まらない、いや、
そのせいで、綾波の動きが逆にしどろもどろに一瞬だけなった。異常に動ける綾波ですら、
「綾波!」
暁が危惧していたのは、まさにコレだった。弾丸の煙幕によるブーストを、仲間ではなく敵にかけること。白雲に撃ち込んだ場合は一時的なメリットを享受させるため。しかし、敵に撃ち込んだ場合は──
「あっ、な、なるほど……」
綾波の身体から、急激に力が抜ける。ブーストの代償、消耗のデメリット。白雲は飄々としていたが、それはあくまでも
特機は自己修復の力も与える。急激な消耗はあるかもしれないが、それを補完するだけのシステムも搭載しているのだ。
なにより、特機自体が特異点の力で生まれた存在。元はどうであれ、今は特異点の力を享受出来る貴重な存在なのだ。
ならば、何もない、特異点の恩恵を全く受けていない綾波が受けたならばどうなるか。
「やっぱりな、お前には二度目は効かないだろうけど、今ならすげぇ効くだろ」
続けて弾丸の煙幕2回目。消耗しているところにさらに撃ち込む。綾波は再びブーストがかけられる。ふらつきが無くなり、視野が拡がるような、すぐにでも戦えそうなくらいに力が湧く。
だが、瞬間的なブーストは、そのままデメリットに繋がる。連続使用は毒であることを、綾波は身を以て知ることになった。消耗が激しすぎる。身体を痛めつけるようなトレーニングを長時間繰り返したような、身体中の力が抜けるような感覚に陥った。自分の身体を支えるのも苦しい。傷も何もついていないのに、重症な病気に罹ったかのような感覚。
そしてついに、綾波が膝をついた。
はずだった。
「楽しいですねぇっ」
ダンと、海面を踏み締めて、崩れ落ちるのを耐える綾波は、深雪にとってただひたすら怖いだけだった。まだ倒れないのかよと、普通に驚きで動きを止めてしまいかねなかった。
だが、ここで怯んでいてはダメだ。暁が間違いなく追撃をしてくる。それを防がなくてはならない。綾波をここで終わらせておかないと、さらに詰められる可能性がある。
「あたしは怖かったよマジで」
故に、綾波がちゃんと立ち上がらないうちに、深雪は確実に撃った。一撃で終わらせるために、ヘッドショット。
「まだ、終わりませんよぉ♪」
しかし、綾波は避ける。消耗に消耗を重ねたはずなのに、まだ砲撃を避けるだけの余力を持っている。
いや、これは本能的に動いているだけだ。見ていればわかる。綾波の闘争本能が、あまりにも異常なだけ。
「お前マジか」
「大マジですよ。まだ、倒れていませんから」
「じゃあ、終わってくれよ。あたしも流石に連射はキツいってわかったからな」
さらに砲撃。砲撃。砲撃。合間を縫って、弾丸の煙幕。そして砲撃。一切の容赦無く、綾波を斃すため、何度も何度も撃つ。
ここまでしなければ斃れない。綾波の本当の恐ろしさを間近で見せられることになった。
「はぁ〜……流石に、無理ですねぇ……」
これだけ撃ち込まれれば、綾波もついに倒れた。満面の笑みで、敗北すらも楽しむように。
「暁様、この白雲に構っておいででよろしいのですか?」
「あー……うん、白旗。ここから2人に勝てるビジョンが今すぐには見えないわ」
そして、暁もここでリタイアを選択。演習ではなかったらもっと粘っていたかもしれないが、やりたいことは出来たようなものだ。
演習が終わり、わっと歓声が上がった。あの綾波に、ハッキリと勝ちを取ったのは、初めてのようなものだった。
メリットを味方に、デメリットを敵に。煙幕ブーストの使い方を深雪は学びました。