後始末屋の特異点   作:緋寺

1145 / 1163
咄嗟の出力

 深雪と電のタッグでの演習は、時雨と夕立を相手取ることで開始された。

 

 時雨のオーバークロックから始まったその戦いは、深雪に超接近をしたところで、電の煙幕ブーストによって増強された瞬発力で対応。時雨はそこで踏み込むことなく、一旦深雪から離れた。

 うみどりの深雪を、カテゴリーKの黒深雪と想定した動きを考えた場合、どんなタイミングであの煙幕を溢れさせるかわからないため、無理な接近は控えるようにしている。アレが無ければ接近戦だって視野に入れていたのだが、やはり一度喰らって厄介なことになっているということもあり、時雨とて慎重である。

 

「僕が先行させてもらったけど、わかってるよね」

「おう、これは2対2だ。それに、あたしは仮想敵としてやってやらないとな」

「わかってるならいいさ。電にばかりかまけていないでおくれよ」

 

 深雪も電のことはかなり気にかけている。距離感もそうだが、電の方が狙われる可能性を考えて、いつでもカバー出来るように視界に入れているのだ。

 前に出るようで、後ろも気にして、戦う相手である時雨と夕立を疎かにするなんてことはないように、時雨から釘を刺されたわけだが、深雪自身、そういうことはないようにも心掛けている。

 電にある程度は任せ、少しはそちらに目を向けながらも電ならやってくれると信じる。時雨と夕立は片手間に勝てるような相手ではないのだ。むしろ、そんな相手はここに誰もいない。真剣に立ち回らないと、あっという間に呑み込まれる。

 

 間合いを取り直した時雨は、当然のように凄まじいスピードで動くが、一旦間合いを取り直したら通常のスピードに戻っている。

 オーバークロックで激しい負荷がかかるというわけではないが、今は夕立とのタッグ戦。個人技ではない。それに、時雨だって夕立を頼るところはいくらでもある。自分の『タービン』ばかりを目立たせるつもりは毛頭ないのだ。

 

「夕立がなかなか追いついてくれないからね」

「時雨が速すぎるだけっぽい!」

 

 ここで夕立も追いついてくる。オーバークロックに追いつけるわけがないのだが、それでも接近がかなり早い方である。

 時雨が先行して視線を釘付けにしている間に、夕立が少しだけ回り込み、雷撃を繰り出しながらも電に近付いていた。

 

 夕立は『ダメコン』だけで戦術が大きく拡がるわけではない。砲雷撃戦でやることは大概同じ。本格的に変化するのは、あちらから攻撃が始まってからである。

 

「手ぇ出すんじゃねぇぞ!」

 

 電に接近する夕立の姿を確認したことで、深雪がカバーして早速砲撃。咄嗟に放った時の精度は電の方が上ではあるのだが、牽制としては問題なく機能する。

 電は下がる時雨を注視していたため、ここでのカバーは大助かり。内心で御礼を言いつつも、ここで夕立も視野に入れた。

 

 だが、夕立の真骨頂はここで始まる。『ダメコン』の使い方を熟知してきているが故の、本来ならあり得ない手段。

 

「止まらないっぽい!」

 

 深雪の牽制の砲撃を、避けるどころか突っ込んでくる夕立。普通ならばそんなことやったら牽制の意味すら無くなり、直撃してそのまま退場となりかねない。しかし夕立ならその心配は全くないのだ。

 

 何故なら、深雪の砲撃であろうが関係なく、その細腕で払い飛ばしてしまうのだから。

 

「流石に夕立もここまで何度も演習してるから慣れてきてるっぽい! 綾波が馬鹿みたいに撃ってきたから、タイミングも合わせられるっぽーい!」

「お前バカだろ!」

「バカでも勝てればいいっぽい! 夕立が官軍!」

 

 流石にこの夕立の行動は電も目を見開いた。そういうことも出来るだろうとは思っていても、いざ目の前でやられると驚いてしまうモノ。自ら地雷を踏みながら空高く跳ぶなんて芸当までやってのける異常者(勇気ある者)は、こういう時の度胸が違う。

 

「近付かないでください!」

「ノーサンキューっぽーい!」

 

 夕立からの雷撃を避けつつ、電も迎撃の雷撃を放つが、夕立はそれを()()()()。魚雷をわざと踏み、爆散させ、それを自分の速力に変えてくるまである。『ダメコン』ありきの凄まじい戦術だ。

 夕立の進行を止めることはよほど不可能。衝撃に弱いという弱点があるのはわかっているが、深雪と電が都合よく同じ場所を撃ち抜くことなんていうのは、なかなか出来ないモノである。

 

 とはいえ、電の今装備しているのは戦艦主砲。砲撃の威力は駆逐艦の比ではない。そして、深雪には消し飛ばす砲撃という最高火力の手段があるのだ。

 夕立はそれを使わないと止められない。そして、綾波達との演習によって、その辺りも克服しようとしている。

 

「電、合わせるぞ!」

「なのです!」

 

 同じ場所に同じタイミングで撃ち込むことは出来ないが、同時に放てばある程度の衝撃が夕立に与えられるだろう。

 

 しかし、夕立ばかりを見ていたらダメなのはわかっている。よって、電は深雪の合図に応えながらも、周囲に目を配り続ける。

 最初に大きく目立って目を引き、その後夕立の異常性を前面に押し出し、今視線の陰に完全に隠れた時雨が何処にいるか。

 夕立が魚雷を踏み潰しながら来るため、爆発と水柱で視認性が非常に悪くされているため、さらに見つからない。

 

「艦載機!」

 

 電は砲撃と同時に艦載機を発艦。爆撃機であっても、俯瞰で戦場を見られるようになる。

 

「オーバークロック」

 

 だが、時雨はこのタイミングを待っていたかのように『タービン』を起動、オーバークロックによって一気に速さを増し、電の真後ろについていた。

 無敵の『ダメコン』を扱える夕立に派手に立ち回らせておきながら、目立たないところでそのスピードにモノを言わせる。

 

 電の艤装が大きすぎるため、真後ろは見えない。そこで後ろを取ることは、勝ちに直結するような戦術だ。深雪の視線すら考えて、電の陰に隠れるような場所まで陣取った辺りは抜け目ない。

 

「死角、取っ」

「見えているのです!」

 

 時雨の目論見は外れる。時雨が真後ろに立った瞬間、電は時雨に対応するように振り向いた。艤装が振り回されたようになり、その風圧は相当なモノ。時雨はそうされることを想定していなかったので、オーバークロックのまま、即座に間合いを取る。

 

「後ろは見えないんじゃなかったのかい?」

「先に煙幕を仕込んでますから!」

 

 そう、深雪の考えた作戦というのはコレだ。煙幕ブーストとして自分で吸っておくだけでは終わらせず、艤装側にも最初から纏わせておく。それを見えないように内側に。電の艤装は自分が後ろを見ることが出来ないように、正面からそれが仕込まれているところが見えない。

 

 そして、その煙幕は触覚のある煙幕。そこに誰かが来たならば、すぐさま反応出来る、電探以上の精度を誇る、特異点の扱える最上級の探知機。

 艤装の中に留めているだけでなく、後ろ側に少し多めに散らしているおかげで、回り込んできた時雨の位置は手に取るようにわかる。よって、即振り向くことが出来たのだ。

 

「撃つのです!」

「それは流石に喰らえない」

 

 夕立ではなく時雨に向けて砲撃を放つ。かなり近い位置であるため、回避は難しいものではあるのだが、そこは時雨のオーバークロックがモノを言う。撃とうとした瞬間から砲撃の方向までを全て把握して、見てからすら避けることが出来る。

 オーバークロック中は、時雨にとって周りが全てスローだ。放たれた弾丸も、呼吸も、波すらも、ゆっくりと流れる。その中で時雨だけが通常のスピードで動き、そして攻撃も回避も可能とする。

 今ならば完全に回避を狙うだろう。しかし、それだけでは終わらない。電に向けて、手に持つ小口径主砲を放っていた。周りがスローでも、時雨だけは通常、それは砲撃にも適用され、本来1発しか撃てない時間で3発は放っていた。

 

 直撃すれば電は終わるだろう。当然、狙いは急所一点。

 

「電!」

 

 しかし、そこに間に合わせるのが特異点である。時雨が電に回り込んでいたのを知った時点で、身体が咄嗟に動いていた。

 新たに放てるようになった弾丸の煙幕。白雲と組んでいた時は、ブーストを外から後付けして大きく消耗させるモノだったが、今回は電を救うための咄嗟の一発。

 

 そこに含まれた願いは、『電の無事』。時雨のオーバークロックに間に合うかはわからない。だが、叶えと思った優しい願いは、少なくともいい方向に向かう。

 

「なっ」

 

 時雨は息を呑んだ。オーバークロック中、自分だけが速い世界で、深雪の煙幕は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。完全に追い付いていた。

 

 その結果、電への砲撃は纏めて紙一重の場所を通過する。完全に食い止めることが出来なくても、逸らすことが出来ればそれでいい。

 

「特異点の力はそこまで来るのかい……っ」

「出来ちまったからなぁ!」

 

 深雪もやはり驚いている。咄嗟とはいえ、かなり強引なやり方だったが、ここまで上手くいくとは思っていなかった。

 最近の特異点の力はいつもこうなのだが、深雪が想像した効果の上を行く。こうなって欲しいを、ギリギリ最善のカタチで叶える。完璧ではない辺りが有情なのだが、当然それは深雪にだって負荷がかかる。

 

「っ……やっぱり咄嗟に出すと少しは消耗するっぽいな」

 

 一瞬クラリと眩暈がしたが、すぐに治った。本当に一瞬、消耗を実感させるための眩暈。

 咄嗟は自分で出力が決められないため、本来以上に力を入れてしまうのだろう。深雪は今ここでそれをよく理解させられた。

 

 

 

 

 戦いはまだ続く。この時も、学びの時間となっていくだろう。

 




事故りかけて思い切りブレーキ踏み込むようなモノですからね。消耗はそりゃ激しいのです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。