後始末屋の特異点   作:緋寺

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分かれる戦場

 深雪と電のタッグによる演習はまだ続く。時雨と夕立の猛攻、夕立が大袈裟に動き回り囮となりつつ、時雨がオーバークロックにより回り込むという戦術を披露したが、演習開始前に艤装に纏わせた煙幕により、死角である背後への接近を感知出来るようにしていたおかげで、電は即対処。それでもオーバークロックされている砲撃には難しかったが、そこは深雪の弾丸の煙幕が咄嗟に放たれたことでギリギリ押しのけた。

 咄嗟に放ったこと、出力が一瞬バグったことで、深雪は少しだけ眩暈を感じるような消耗をしたが、それはすぐに治る。これ一回で戦えなくなるようなことはない。

 

「本当に煙幕背後厄介だね。まさか僕の速さについてこれるとは思わなかったよ」

 

 時雨は心底嫌そうな顔を見せつつも、オーバークロックでまたもやその場から離れる。死角を取ったにもかかわらず、今の段階での接近を諦めた。

 これもまた、黒深雪想定の戦闘方法。煙幕に触れないような戦い方を意識したモノ。無理して近づいたら、精神操作の力を持つ黒い煙幕をまた吸ってしまいかねない。それだけは絶対に避けなくてはならないことである。

 特に時雨は、それによって大きな屈辱を受けている。二度とごめんだという気持ちが、この慎重さに結びついていた。深雪の煙幕なのだから悪影響はないとわかっているので、大胆に攻めてもいいのだが、それに慣れてしまうと黒深雪との戦闘でも煙幕を気にせずに突撃してしまいかねない。

 

「随分と控えめなのな」

「煙幕が厄介だからね。吸わないように進めてるのさ」

「なるほどな、アイツにはそんなに突っ込めないか」

 

 深雪もそれには納得。時雨もここで黒の特異点との戦闘をどうしていけばいいのかを考えながら戦っているようで、どうしても慎重になるようだ。

 深雪としては、仮想敵として、この状況を利用すべきであろう。時雨のためにもなるし、自分の戦い方にも拡がりが見えるようになる。

 何より、時雨が仮想敵としての戦い方を全うしろと念を押してきたようなモノだ。ここで手を抜くわけには行かない。

 

「なら、それを利用させてもらうぜ」

 

 すぐさま深雪は煙幕を放つ。手を振るい、真正面に吐き出すように。その効果は、時雨にはわからない。ただの煙幕かもしれないし、何かしらの願いが込められているかもしれない。

 少なからず、今の時雨は電に近い。それもあるため、まずは『離れろ』という力が働いてそうではある。

 

 時雨は言われるまでもなく電から離れた。煙幕に当たりたくないというのもあるが、一気に近付いて掻き回すことは出来たのだから、もう一度間合いを取り直す。

 そうなれば、次の一手は時雨ではなく──

 

「ぽーい!」

 

 時雨のこれまでの行動を囮にした、夕立の特攻。そして、夕立にしか出来ない煙幕の対応法まで披露した。

 その手段とは、自らの真後ろに魚雷を放り投げ、自ら爆発させることで風圧を背に速度を上げること。

 

 夕立の艤装には、帆がある。風を受けることで前進や後退をサポートすることが出来る独自の装備だ。それを利用して、わざと自分の背に大きな風を起こして加速、さらにはその風によってある程度の煙幕を吹き飛ばし、それを吸うようなことも無くす。

 

「あ、相変わらず無茶苦茶なのです!」

 

 そんな戦い方は夕立にしか出来ない。普通の艦娘なら、そんなことをやったら爆風の余波で艤装は破損するわ身体にも傷を負うわでとんでもないことになるのだが、『ダメコン』によってそのあたりは何も気にしていない。

 

 驚きを余所に、夕立は煙幕すら気にせずに真正面から突撃する。風を背にしているため、電が煙幕を放とうとしても、すぐに散らされてしまう。夕立は、止められない。

 

「なら、撃つしかないのです!」

 

 故に煙幕はすぐに考えないことにして、せっかく持っている戦艦主砲を夕立に向ける。少なくとも砲撃によってその足を止めることが出来るはずだと考えて。

 

 電は無理矢理の突撃にはどうしても恐れが出てしまう。小心者の気質が嫌でも出てきてしまう。それを振り払うためにも、電は勇気を持って砲撃を開始。戦艦主砲を装備しているだけあって、一撃一撃がやたらと重い。

 夕立だって、それを撃たれたならば回避を考える。考えるはずだ。電はそう考えた。

 

 

 

 

 夕立でなければ、避けていただろう。

 

「ぽい!」

 

 しかし、夕立は普通に頭がおかしい。真正面から飛んでくる戦艦主砲を、素手で、『ダメコン』ありきで、()()()()()()()()()()()()

 

「はっ!?」

 

 電ですらこの反応である。『ダメコン』の使い方を、綾波との演習で熟知し、その壊れていると言ってもいいくらいの度胸と重ね合わせ、恐れすら抱くことなく突撃を続ける。

 

「やべっ、電!」

 

 時雨に構うことになっていた深雪は、ここでの夕立の猛攻に身体がついていっていない。時雨の囮としての効果は絶大に出ていた。

 

「なるほど、ここか」

 

 時雨もそれに気付き、夕立の猛攻を通すために再度オーバークロック。深雪が電を助けにいくことを妨害するため、接近ではなく、視界を塞ぐために眼前にまで移動。顔面に爆雷を置いて離脱。

 深雪としても、意識外から突然目の前に爆雷が現れたことに驚きを隠せず、そして爆発されたら困るために、またもや咄嗟の対応に出る。

 深雪は被害がないようにと願いながら、煙幕を纏った手で爆雷を払い除けた。煙幕は爆雷にも纏わりつき、その効果を確実に発生、本来ならば爆発するであろう時間が経過しても、爆雷が爆発することはなかった。『被害が出ないように』という願いは叶えられ、そのままぽちゃんと海中へ。

 

 だが、この時間稼ぎはあまりにも有効だった。夕立は確実に電への接近を進め、砲撃をしようが雷撃をしようがお構いなしに突撃。ついには電を完全に間合いに捉えた。

 

「とった……!」

 

 夕立はそこで、次の攻撃の命中を確信した。完全に近付くこともなく、しかし、砲撃が連射出来ないタイミングを狙い、確実な隙として考えられるところで、主砲を構えた。

 撃てば当たる。避けられない。この速さに反応は出来ない。煙幕だって、まだ風が残っている。そして、回避のために身を捻ったとしても、その艤装に薙ぎ払われることはないくらいに距離はとっている。これなら行ける。

 

 そう思っていた。

 

「っ……()!」

 

 だが、電も特異点、海上で戦う者には出来ない、三次元の回避が可能。深雪との演習でも繰り出した、()()()()()()

 今の自分の艤装の重さも利用して、浮力をカットした瞬間、真下に瞬時に潜る。落とし穴でも開いたかのようにズボンと。

 

「うぇっ!?」

 

 その避け方は夕立も予想していなかったようだ。出来るとわかっていても、どうしてもそれは意識から抜ける。海上での戦いで、急に海中まで意識を向けるのはかなり難しい。何故なら、あまりにも普通ならないから。

 

「そ、それはズルいっぽい!」

 

 とはいえ、夕立も手練れ。動揺しつつもすぐに自分を取り戻し、海中の電に目を向ける。そして、あろうことか対潜掃討として、爆雷ではなく砲撃を海中に放った。

 それは殆ど無意味なモノ。だが、急に飛んでくる砲弾は、電にとっては驚きに繋がる。咄嗟に海中に潜ったが、ここからどうすれば勝ちに繋がるか考える時間も与えず、砲撃という手段を敢行してこられたことに回避を否応なしに選択させられ、海中を潜りながらも夕立から離れた。

 

「まぁ、あちらももしかしたら海の中に逃げることはあるかもしれないさ。艦種詐欺をしてくるんだから、中には潜水艦の力を持ってる輩もいるかもしれない」

「むー……そうかもしれないけど」

 

 時雨に宥められ、夕立は一旦海中への砲撃は止める。無駄弾になるだろうし、何をしても今は簡単に対処は出来ない。

 

「悪いな、あたしも一旦海の中に行かせてもらうぜ」

 

 深雪も電に倣って海中へと潜る。こればかりは、オーバークロックがあっても止められないし。時雨も夕立も、海の中に入ることは出来ないのだ。

 

「時間を稼がれるってことがわかっただけでも良しとしよう。ここからどう対策するかだよ」

「ぽい。対潜掃討は夕立も苦手じゃないっぽいから、爆雷ぽいぽいするっぽい」

「ちゃんとタイミングを見計らってだよ」

「当然っぽい」

 

 こうなると、時雨と夕立は次にどう出るかを考えさせられることになる。オーバークロックをしての爆雷投擲は、したからと言って早く爆雷が爆発してくれるかと言われればそうではない。やはり海中退避は鬼門だとわからされた。

 

 

 

 

「さて、どうするよ」

 

 電と無事合流した深雪は、今ならば海中が安全であることを利用して、電と出方を相談する。

 

「真下から突撃……は危ないのです」

「だな。爆雷放られるだけでおしまいだ」

「少し離れますか」

「それが良さそうだけど、さっきの焼き増しになりかねないな。しっかり作戦を練ろうぜ」

 

 海中で移動すると、時雨と夕立もゆるりと追ってきている。距離を保ったまま、浮上するタイミングを見計らっているのだろう。

 仕切り直しには都合がいいことにはなったが、決着をつけるにはまだ難しい状態にはなっている。

 

「このまま逃げ切るとかはないよな。決戦には時間制限なんてないんだ」

「なのです。でも、どう攻めるのです?」

「そこなんだよな……ただ突っ込むだけじゃあ、ダメだろうな」

 

 なかなか思いつかないモノだが、ここでうまく行かないならば、決戦でもうまく行かないだろう。

 それは時雨と夕立も同じ。どちらが勝っても学びになる戦い。どう来られてもいいように、今相談しているところか。

 

 

 

 

 海上と海中、双方に分かれたこの戦い。どちらから手を出すか。

 




特異点の利点、海中への退避
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