後始末屋の特異点   作:緋寺

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自信持たせる一撃

 時雨と夕立による爆雷を煙幕によって爆発させている時、このままではジリ貧だと考えた深雪。

 爆雷を全て乗り切ることは出来るだろう。だが、結局は前に出られず、時間がただただ経過していくだけ。決戦の場でそんなことをしていたら、敵の撤退を許しかねない。

 

 そこでどうにか突破する方法を考える。爆雷が全て処理出来た瞬間を狙って、急浮上から不意打ち気味に攻撃出来るのが一番いい。

 時雨のことだから、全て破壊したというタイミングでもう一発入れてくるくらいはしてくるだろう。それも処理したところで、一気に浮上、そして攻撃。これがやりたい。

 

「深雪ちゃん、そろそろ全部壊せるのです」

 

 電の言う通り、海中に漂わせた煙幕によって、浮上出来なくなる程にばら撒かれた爆雷がほとんど無くなっていた。最初にいくつばら撒かれたかはカウント出来ていないが、感覚的にそれくらいだとわかるくらいに。

 電の手はまだ深雪の背に。艤装は触れ合ってしまっているが、電はもう今は気にしていない。冷静でいることが出来れば、ここから振り回してしまって深雪を薙ぎ倒すようなことはしないのだから。

 

「電、そこで一気に上がりてぇ。時雨か夕立、どちらかに一発ぶちかます方法、なんかあるか」

「えっ、えーっと……」

 

 深雪は電に問う。この状況を進展させるために、どうすれば急浮上出来るか。

 電はここから勢いよく海上まで向かう方法を考えた。時間は無い、手っ取り早く上まで弾き飛ばすように持っていく方法。

 その中で、電は意識せずに選択肢から省いていた手段に、深雪はすっと思いつく。それは、電のトラウマを刺激するかもしれないが、トラウマを乗り越える一手にもなりそうなモノ。

 

「……電、聞いておいて何だけど、あたしは1つ思いついた。ただ、電にはキツイかもしれねぇ」

「ど、どんな方法なのです?」

「電は海の底に向けて砲撃してくれ。海の中だから威力とかは無いだろうけど、衝撃だけは残るだろ。結構激しいのが。それを使って、あたしが海の上まで行く」

 

 つまり、電の艤装にわざと衝突して、その衝撃を利用して浮上しようというのだ。

 海中で身を捻って放たれる遠心力では、深雪をそこまで持ち上げることは出来ないだろう。だが、戦艦主砲の反動を使えば、あの事故以上の衝撃が作り出せるのではないか。

 海上で放つならば体幹で反動を抑えられるが、海中で放つとなると、いくら深海棲艦の身体を持っていようが、その反動を抑えることは出来ない。純粋な深海棲艦であっても、海中に潜む者達は砲撃を放ってこないのだから、それは暗黙の了解と言えるのだろう。

 

「えっ、で、でも」

 

 当然、電はそれを躊躇う。失敗したらまた大事故に繋がる。

 

「行ける。絶対に。今度は不意打ちでもない。準備して、そうやろうとして、あたしの意思でやるんだ。だから、協力してくれ」

 

 深雪の決意は固かった。電の力を借りなければ不可能。電でなければ出来ない手段。電の躊躇いはわかるが、それでもここで勝つためには必要不可欠。

 そして、ここで勝てる手段を作ることは、決戦でも活用出来る戦術を編み出すことにも繋がる。それをトラウマで躊躇うことは、そのまま仲間の命にも繋がる可能性があるのだ。

 深雪はそこまで深く考えていないかもしれないが、電のメンタルを刺激してしまっていることは理解している。でも、やらなければならない。そんな時に、一歩でも前に進むことが出来るように、今を乗り越えたい。

 

 深雪の真剣な眼差しに、電は息を呑む。深雪のお願いを叶えたいという気持ちはあるが、失敗したら深雪は再び大怪我を負うことになるだろう。それを電は耐えられない。

 

「怪我したとしても、電には何の責任は無ぇよ。あたしが案を出して、あたしが指示して、あたしが実行した。電は言われるがままにやっただけだ。電のせいじゃない。それに、失敗するつもりなんて毛頭無ぇよ。全部考えてっからな。だから、頼む」

 

 ここまで深雪に詰められたら、電ももう何も言えなかった。やらずにいて結局負けましたでは、学びにもならない。深雪に責任を押し付けるわけではないが、深雪がここまで言うのだからという、ほんの少しの逃げ道は用意されている。

 

「……わかったのです。やって、みるのです」

 

 怖い。でも、深雪は自信満々だ。もう、やってみるしか無い。

 

 電が肯定したことで、深雪は小さく頷き、すぐさま準備をする。電は海底に身体を向けてもらい砲撃を準備。深雪は電の艤装を踏みつけるカタチになってしまうことを謝りながら、脚に煙幕を纏わせた。

 込められた願いは、『壊れないこと』。自分の脚の強度を上げ、電の艤装の強度を上げ、電自身の心を支えられるように。

 

「頼むぜ、電!」

「な、なのですっ、それじゃあ……撃つのです!」

 

 それは、夕立の放った爆雷が、触覚のある煙幕に触れて爆発した瞬間、つまり、最後の爆雷が失われた瞬間に、電は渾身の砲撃を放った。

 足が地についていない状態での砲撃であるため、その大きな衝撃を支えることが出来ず、大きく弾き飛ばされるように後ろに跳ねる。その衝撃は深雪の脚に伝わり、推進力へと変換。さらに脚を伸ばすことでさらに加速して、それこそ弾丸のようなスピードで一気に浮上することとなった。

 

「っ、やっぱ、結構な衝撃だな……っ」

 

 煙幕のおかげで脚は痛くも痒くもない。ひたすら衝撃を受けただけ。そして、これまでに無いほどのスピードでの浮上によって顔が歪む。しかし、深雪は成功を確信して突撃を敢行した。

 

 

 

 

 その結果が、夕立を蹴り飛ばし、完全に浮上した深雪の姿である。

 

「んじゃあ、改めて始めっぞ」

 

 夕立は浮いている。時雨はこの派手な登場に目を見開いている。慣れていないことをされてしまっては、冷静さを維持出来ない。

 

「まずは、夕立だ」

 

 浮いているということは、避けられない。いくら『ダメコン』があっても、砲弾の直撃を受ければそのまま吹き飛ばされるのみ。

 しかも深雪は容赦なく消し飛ばす砲撃を放った。駆逐艦の主砲から繰り出される、戦艦主砲を凌駕した火力。『ダメコン』によりダメージを受けないことは確認済みであり、演習中にそれを使ったところで、夕立にだけはその火力を無力化されることは理解している。その上で放ったのは当然、夕立をこの場から退場させるため。

 

「ぽっ!?」

 

 夕立が姿勢を戻すことが出来ずとも反撃しようと主砲を構えるが、それは間に合わず。深雪が放った砲撃の方がずっと速く、夕立を確実に捉えた。『ダメコン』により傷は付かなかったが、強烈すぎる衝撃で海面を転がされることになる。さらにもう1発追加の砲撃で、夕立は一旦退場させた。

 

「普通ならこれで終わりなんだけどな。次は時雨、お前だぞ」

「そう簡単には終わらないさ。オーバークロック」

 

 ここで時雨、夕立と合流を狙うためにオーバークロックを使う。1対1で深雪と戦うより、夕立と共に戦った方が確実であると考えたからだ。

 

 しかし、それがミスであることをすぐに気付かされる。何せ、今目の前にいたのは深雪()()。電の動向が読めていないのだから。

 

「っ」

 

 気付いた時には遅かった。吹き飛ばされた夕立の真上。先んじて発艦させていた電の艦載機が、猛烈な爆撃を開始していたのだ。

 夕立をその場に足止めするため。『ダメコン』を使ったまま、その場に縫い付けるために。

 

「近付けない……っ」

「流石は電だぜ。そこでこれがやれるってのが頼れるってもんだ」

 

 オーバークロックを使ったというのに、目的を達成出来ない。先んじて封じられては、速いとかそういう問題では無くなる。

 

「時雨、来いよ、こっちに」

「それしか無いね。夕立、そこで頑張って耐えてて」

「ぽーい! 時雨、気をつけないとダメっぽい! ()……っ」

 

 夕立はもうそうなるのを予想していた。時雨も予想はしている。しかし、深雪から目が離せなかったのも事実である。

 自身に煙幕を纏わせながら突撃する深雪。そちらから目を離せば、煙幕と攻撃の餌食になる。仮想敵として考えるなら、煙幕だけは受けられない。となると、近付かせることがよろしくない。

 しかし、夕立の言った通り、下。そこが一番の盲点となる。

 

「オーバークロッ」

「ダメなのです」

 

 海中から忍び寄った電が、時雨の足を掴んでいた。潜水艦なら可能な、死ぬわけでは無いが、死に直結させるためのサポート行動。それにより、足を海中に引き摺り込み、すぐに動けないようにする。

 こうなると、オーバークロックでどうにかなるものではない。速く動けたところで、まず足を抜かねばならないのだが、それが電の戦艦の膂力で掴まれていては、ほぼ無理といってもいい。

 

「電……っ」

「そっちに目ェやってていいのか? よくねぇよなぁ!」

 

 その時にはもう、深雪は触れられる位置にまで接近していた。先程脚に纏わせた煙幕は、ここでブーストの役割も持っていた。オーバークロックとまでは行かずとも、速力増強にも繋がっていたのだ。

 

「さぁ、殴り合いだ。いいよな!」

「……ああ、かかって」

 

 殴り合いを想定していた時雨、深雪もそのつもりで立ち向かっていた。

 

 だが、

 

「なのです!」

 

 ここで最高のタイミングの不意打ち。艦載機による爆撃を止めることなく、電が時雨の脚を極めた。

 

「いっ、いなづ」

「なのです!」

「ぎゃああっ!?」

 

 身体の硬い時雨に、電のサブミッションはあまりにも効きすぎる。あまりにも綺麗なアングルロックに、深雪は殴りかかるのをやめ、そのまま演習が終わるのを待つこととなった。

 

 

 

 

 ある意味壮絶な最後となった演習。しかし、学びは多いモノとなる。特に電は、また少し前を向くことが出来そうだった。

 




久しぶりに決まった『なのです!』は、やはり硬い奴を極めるに限る。
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