深雪と電のタッグでの演習は、海中で砲撃を放つという荒業によって急速浮上をした深雪により夕立が戦場から離され、残された時雨は夕立と合流することを封じられた挙句、電が海中から忍び寄って脚にサブミッションをかけるという、こちらも荒業で終了。
そもそも身体が硬い時雨にとって、関節技はそれだけで致命的。足を掴まれた時点でほぼ終わりみたいなモノだった。夕立は爆撃の雨を受け続けており、最後はギブアップを導き出されることとなった。
「電、ありがとな! 完璧だったぜ!」
「深雪ちゃんこそ、凄かったのです。上手く行って、本当に良かったのです」
足を極められて倒れる時雨を横目に、深雪と電はハイタッチで勝利を讃え合う。
この成功体験は、電のネガティブな心を溶かし、大きな艤装を使ってもそれを上手く利用出来るという経験に繋がった。まだ不意打ちを決めてしまった場合のことは考えられてはいないが、艤装に対しての不安などは幾分か薄れ、戦場でも深雪と共にいれば、上手く行くと思えていた。
「電ー、そろそろ爆撃やめてほしいっぽい。ギブでいいから」
「あっ、ご、ごめんなさい、今止めますっ」
時雨にはギブアップを言わせたが、夕立は『ダメコン』を使わせ続けることで食い止めていただけ。今も爆撃の雨に襲われており、時雨を終わらせる邪魔をさせないようにされている。
時雨が負けたのなら、夕立もこれ以上はいいかということで、演習を終わらせる方向に持っていく。夕立からしても、今の状況はジリ貧。爆撃を受けながらも深雪がフリーになってしまっているのだから、弱点である衝撃を何度も何度も撃ち込まれることは考えずともわかる。
これが決戦本番ならば夕立はさらに粘るのだろうが、今は演習だ。むしろ今はここで終わっておいて、さらに手札を切らせる方が今後のためになる。ここで出来たこと以上を引き出して、より他の仲間達の知識にした方がいい。
「酷い目に遭ったっぽい」
「あんだけやっても傷一つないのが夕立だよな……。トラとやっても同じになんのかな」
「なるっぽい。夕立とトラで演習したら、ジリ貧も無くてズルズル時間だけがかかったっぽい」
「そりゃあ面倒臭ぇ。その時は絞め落としゃいいか」
「んー、多分それが一番の弱点なんだよね。ダメージは無しに出来るけど、首絞められたら普通に効くから」
そういう意味では、夕立に有利に運べるのは電ということになりかねない。しかし、夕立は絞め技に対して、『ダメコン』を利用した無敵自爆という裏技が存在する。自分が傷つかないことをいいことに、魚雷だろうが爆雷だろうが、自分の胸の中で爆発させるまである。ついさっきも魚雷を背後で爆発させて加速するという荒業を披露しているのだ。そういう意味では、夕立はある意味無敵に近い。死なないと言ってもいいくらいである。
ただし、深雪と電は夕立に対してとんでもない有利がつく裏技もある。それが、そもそも寄生している特機を引き抜くということ。『ダメコン』封じは、たったそれだけで完了してしまうのだ。
「あ、深雪、もしかして夕立から特機簡単に抜けたりする?」
「出来るとは思うぜ。そもそもあたしの腕には特機が寄生してっからな。やろうと思えば、あいつらの触手も出せるぜ?」
言いながら手のひらを夕立に翳すと、それに呼応するように手のひらから特機の触手がニュルリと生えてきた。
今の深雪は、両腕を特機に補完してもらっている状態。裏切り者鎮守府との戦いの時に、両腕ともに『解体』を受けてしまった影響が未だ残っているため、特機が無ければ動かない状態になってしまっている。
だが逆に言えば、深雪の両手は特機と同等のこともやろうと思えばやれるのだ。もし、特機のように敵の中に何か引っこ抜かなければならないモノがあるのならば、それを使って弄ることは可能。むしろ、深雪は特機1号も連れているため、大概のことは可能である。
「夕立みたいに後付けで力を貰ってるのは、大概特異点に弱いっぽい。で、ちょっと面倒そうなのが、あっちの黒い深雪も同じようなこと出来たらどうしようって」
「あいつには特機も忌雷もないぜ?」
「でも、煙幕があるっぽい。深雪みたいに燻されて、なんか違うモノ作られたら、厄介通り越してめんどいっぽい」
夕立に言われ、確かにと納得する。特機そのものは無くても、燻すことで変質させることが出来るというのは、深雪と同等に使うことが可能と考えた方がいい。
決戦で特機を出すことは無いとは思うが、それこそ特機だけでなく、仲間を煙に巻くようなことをした時に、時雨のように悪影響を及ぼしながら燻すということだってあり得てしまうのだ。
「やっぱり煙幕には当たらないに越したことはないっぽいね」
「だな。今回はあたし達も使い方をいろいろ考えてたんだけどよ、時雨は滅茶苦茶警戒してたな」
「当たり前だろうに。僕はアレで本当に嫌な思いをさせられたんだ」
ようやく足首の痛みから戻ってきた時雨が立ち上がった。電のアンクルロックがあまりにも綺麗に入ってしまっていたため、相当にダメージを受けていた模様。だがこれも、特機寄生による擬似カテゴリーW化で得た自己修復のおかげで、もうスッキリ完治である。
「夕立にしか出来ない追い風を起こすやり方は、決して悪い戦術では無さそうだね。誰にも真似は出来ないけど」
「ありゃあ無茶苦茶すぎるぜ。自分の後ろで魚雷爆発させるとか、下手すりゃ死ぬぞ」
「『ダメコン』頼りすぎるよ全く。だったら磯風に頼んだ方がまだマシさ」
煙幕対策というのを徹底的に考えていたが、やはり手っ取り早いのは風だ。黒深雪対策はやはり、風がお手軽に起こせる磯風が必要不可欠であると実感させられた。
そもそも魚雷爆発の風だけでも煙幕が飛ばされているくらいなのだ。明確に風を起こせるというのは、対特異点としては抜群に有効。それはこれまでの戦いの中でもさんざんわからされていることではあるのだが。
「次は磯風とやってみたらどうだい?」
「いいかもな。基本が海ン中になっちまいそうだけど」
「風が効かないようにする手段があるのはインチキっぽい」
結局、特異点の脅威はまだまだあるということ。敵に回るとここまで面倒臭いことになるのだと、改めて実感させられた。
特異点を仮想敵とした演習をこのまま続けていく方針であるため、深雪と電は連戦となる。しかし、綾波のように延々と演習を続けるわけにもいかないので、ここで10分ほど休憩。その間に、今回の演習を見た者からの見解を聞きながら次の演習に向けて進めていく。
次の相手を決めるのもこのタイミングで。時雨が言っていた通り、磯風のように明確な特異点への対策が出来る者を採用した戦いを次は考える。
深雪と電には選択肢はない。ただ出てきた者達を相手取るのみ。特異点に必要なのは、今はどちらかと言えば臨機応変に対応出来る瞬発力。
「お疲れ様、少しだけ休憩よね」
神風がドリンクを2人に差し出した。深雪も電もそれをありがたく受け取り、ゴクゴクと飲んで一服。
「神風から見たら、今回のあたし達、何処か粗があったか?」
「自分達だとわからないところがあるのです。教えてほしいのです」
その時は必死に考えて編み出した戦術でも、見る者が見れば粗が見つかるかもしれない。今回は上手く行ったとしても、次はないような戦術なら見直しが必要。それを、達人である神風に問うのは当然のことである。
しかし、対する回答は少しだけ違ったモノである。聞けばそりゃそうだと納得出来るモノではあるのだが。
「海の中でやってたことはわからないわ。そっちは後からフーミィに聞いておきなさい。だから、私は海の上でやってたことだけになるわよ」
電の自信を取り戻すための行動は神風の目には入らない場所で行なわれたことである。そこに粗があったとしても、なにも口出しは出来ない。実際はもう少しスマートに出来たかもしれないが、神風でも出来る口出しと出来ない口出しがある。
「その上で言えば……そうね、やっぱり電はまだ前を向けてないところがわかったわ。とはいえ、今回の演習でまた変わったみたいだし、及第点ってところかしら。深雪は煙幕の出力をもう少し意識するべきね。咄嗟でもある程度節約出来ないとダメよ。少しだけふらついたわよね」
2人とも、その言葉にうっと言葉を詰まらせる。特に深雪は、煙幕の出力に関してはもう少し考えたいところである。
無意識に出力を上げてしまう点は、すぐにはどうしようもない。常にやるかもしれないと意識しないといけないが、そうすると精神的に疲れてしまいそうである。
「難しいとは思うけど、次はもう少し意識をして行った方がいいわね」
「わかった。いつでも出せるように意識はしておく。使わないなら使わない方がいいけどな」
「勿論その通りよ。ただ、決戦ではそんなこと言ってられないと思うしね。仮想敵の黒い深雪は、何も考えずに撒き散らしてくるとも思うわ。そうなれば、貴女も煙幕をフルで使わないといけなくなる」
「だよな……今更だけど、もうちょい地力上げたいな」
煙幕と直結する、深雪の地力。充分あると思っていても、足りないと思えるくらいには敵の脅威は続いている。最終決戦だとしても、まだまだ。
慢心出来ない環境であることは悪いことではない。気を張り続けるのもいいことではないが。
演習は続く。そして、決戦の時も近付く。
次からはナレーションベースの演習になると思います。