この日の演習は終了する。深雪と電は、休憩を含めながらもずっと出ずっぱりとなっており、演習終了時にはヘトヘトになっていた。
小休憩があるにしても、特異点の力で深海棲艦化しているにしても、延々と戦い続け、かつ毎回違う戦術を出されて頭を使い続けていれば、嫌でも疲労は溜まるというモノである。
「さ、流石に疲れたぜ……」
「なのです……」
艤装を下ろして、深海棲艦化を解除すると、2人同時にふらついてしまう。電は思わず深雪の方へと足を滑らせてしまうが、深雪はこれを優しく受け止め、しかし普通に疲労が溜まっているために膝をついた。
「大丈夫か、電」
「は、はい、電は大丈夫なのです。深雪ちゃん、また衝突……」
「これくらい衝突でもなんでもねぇよ。ふらついたの支えただけだ。あたしが同じようなことになっても、電が受け止めてくれるだろ」
「勿論なのです。でも、電の力で支えられるかはわかりませんが……」
「はは、確かに。そん時はまぁ、一緒に倒れてもらうことになっちまうな」
そんなことを話しながらも、やはり疲れはかなり溜まっているのがわかる。しかし、この演習が本当に有意義なモノとなったことを実感していた。
まず、磯風とフレッチャーによる『空冷』の風で煙幕を対策しつつ、対潜能力の高いフレッチャーで海中への退避を逆に優位に持っていこうという策。それに対して、深雪と電は、煙幕ブーストをかけた単純な能力で押し潰すことにした。
経緯が経緯であるフレッチャーはともかく、磯風は洗脳されていたとはいえ、深雪や磯風よりも艦娘としての歴が長いため、戦闘経験は多い。だとしても、深雪と電の経験してきた、あまりにも濃厚すぎる戦闘経験は、それに匹敵する程のモノとなっており、真正面からのぶつかり合いでも後れを取ることはなかった。
結果、海中に潜ることもせずのガチンコ勝負で、単純な火力勝ちを収めている。戦艦の火力と膂力を持つようになっているのは大きく、煙幕を風で止められているだけであるならば、それでそのまま勝ちにまで持っていくことが出来た。
磯風がやられてしまうと、フレッチャーのみなら相手が途端に難しくなってしまう。対潜意識で潜られなかったら、どうしても装備の差なども出てきてしまうため、勝ち筋が薄くなってしまうというものである。
次に相手をしたのは三隈と那珂という組み合わせ。こちらも海中に潜られても対潜能力の高さから対策が取れる。また、三隈からの申し出であり、実際に戦って勝っても負けても次に繋ぎたいというモノ。相方として選ばれた那珂も、実戦でどのように戦えるかを知っておきたいというところから。
この場合はどちらも特機を寄生させていない、純粋な艦娘でどこまで相手が出来るかという調査も含まれている。頭脳派、軍師である三隈と、無尽蔵のスタミナとバケモノのメンタルを誇るアイドルがどう戦うか。
その結果は、特異点チームの辛勝である。煙幕を封じられることなく扱えるのは良かったのだが、単純な経験の差が大きく出ており、特異点の力によるインチキを実力で乗り越えようとする。特に三隈は、煙幕を使われたとしても、艦載機を発艦させて小さくでも風を起こし、自分達の周りだけでも特異点の力を発揮させないように振る舞っている。また、弾丸の煙幕に関しては、その視線と手の動きから完全に予測され、消耗狙いの撃ち込みは全て避けられる始末。
最終的には、煙幕を完全に自分達の周りにのみばら撒いて目隠しした状態として、そのタイミングだけ潜水して対潜させないように接近してからの一撃。ここでもやはり、電の戦艦主砲は役に立った。
さらに違うタイプの戦闘ということでスキャンプと伊26との演習も繰り広げられた。伊203は最終手段として控えられており、この2人でどこまで行けるかの調査。なお、伊203は海上の者達にも状況が伝えられるようにと、特殊なカメラを携帯していた。
海中の煙幕は海上のそれより拡がりが悪いこと、スキャンプの『スクリュー』による水流で散らされることもあって、ある意味『空冷』の風で散らされるのと同様の効果を見ることが出来ている。海上から潜らないとしても、それでは海中から魚雷で狙い撃ちされるという状況となり、非常に戦いにくい相手である。
とはいえ、深雪も電も深海棲艦化する前ならば駆逐艦。装備据え置きの部分があるので簡易爆雷くらいは持っている。それに、海中でのガチンコという流れも経験しておく必要があったため、割と早々に潜り、煙幕ブーストをかけた状態での殴り合いが始まった。伊26は逃げ回りながら、スキャンプは逆に迎え撃ちながら、2人の特異点といい勝負を繰り広げる。やはり海中は海上とは勝手が違うと、深雪と電も実感させられた。
その結果はこちらも特異点チームの辛勝。スキャンプの『スクリュー』で海中の煙幕を散らされたとしても、煙幕ブーストが相当な力の増強になっており、真正面からの殴り合いが真っ当に行なえてしまった。深雪とスキャンプによる久しぶりの喧嘩が、なんとほぼ相討ちという結果に終わった。スキャンプが意地を見せたと大盛り上がり。しかし、電が伊26を仕留めたことで、特異点チームの勝利となっている。
そして、神風と伊203のコンビとの演習という、綾波くらいしか喜ばないような演習も行われた。これに関しては、見ている者達にも何も参考にならないだろうと、やっている者達ですら感じていた戦いである。
結論、神風と伊203のスピードと技量に追いつくことが出来なかった。時雨のオーバークロックを対策した煙幕による感知も、この2人には無力に近い。特に、海中から同じように動いてくる伊203があまりにも異常すぎ、海中に引き摺り込まれたところで活動は出来るモノの、海上と同じレベルで接近戦が出来る伊203には、ただひたすら圧倒されるのみ。海上でも神風の高すぎる技量によって砲撃も雷撃も通用せず、接近戦はその刀によって神風の得意な距離から詰められず。煙幕も居合によって吹き飛ばされてしまい、何すりゃいいんだと深雪が愚痴を吐いた程である。
結論から言えば、如何に特異点であっても、超人達には勝てなかったということ。全く参考にならない演習となった。とはいえ、神風は黒深雪と戦うことはおそらくない。中柄との戦いまで温存するためだ。
「いろいろやったけど、なんだかんだ大体勝てたな」
「なのです。でも、決戦ではこれ以上のことも起きそうなのです」
「だな。まだまだ未知数だもんな」
特異点に勝つことが出来るかという点では、まだ課題が残り続けている状態。深雪に勝てないということは、黒深雪とぶつかり合った時にも勝ち目が薄いということになりかねない。
特異点として未熟であっても、命懸けで、命を賭すことに躊躇がないような特異点ならば、限界を優に超えて深雪や電以上の力を発揮しかねないのだ。
そう考えると、もっと確実にやれる手段を考えねばならないだろう。演習が終わった後も、うみどりきっての軍師達、妙高と三隈によるデブリーフィングが繰り広げられている。
深雪達はあえてそれを聞いていない。自分達の弱点、負け筋を、知らぬところで調べてもらい、最終的には実戦でそれを教えてもらう。明日もまだ時間はあるため、そこで知ることが出来れば良し。敗北もまた学びになる。
「うわ、大丈夫? 立てそう?」
「お姉様、疲労が溜まっておられる様子。我々が肩を貸しましょう」
消耗が酷い深雪と電のところにやってきたグレカーレと白雲が、すぐに移動出来るように肩を貸した。
「洗浄は?」
「艤装下ろす時にやってる。それもあって疲れが半端ねぇや」
「ご飯食べるのもしんどそうだねぇ。あーんしてあげよっか」
「歩くのがしんどいだけだ。食堂に運んでくれりゃ自分で食える」
グレカーレの下心ありありな言葉を華麗にスルーしつつ、深雪と電は素直に頼って食堂へと向かった。
「お前達、割とずっとあたし達の演習見てたよな。ぶっちゃけ、どうだったよ」
そこは素直に聞く深雪。自分にはどのような負け要素があるか、客観的に見て隙は何処にあるか、それを知っておきたいと。
すると、白雲が口を開く。
「物量に押される演習をしておりませぬ。こちらの方が数が多いとはいえ、いざ決戦の際に我々の知らぬ戦力が投じられた場合、その数に圧倒される可能性は大いにあり得ることかと」
「それはあるね。絶対に同じ数同士で戦うことなんてないもんね。あたし達だって、やれるなら1人を5人くらいで囲んでボコりたいし。文句言われたら、命の取り合いで何言ってんだって説教してやんだから」
多勢に無勢の状況で戦う。それは今のところやっていない。それこそ、あちらの策略で、深雪と電相手にカテゴリーKを全て投入してくる、なんてことが無いとは言えないのだ。
当然そうならないように気をつけるだろうが、万が一を考えたら、そこはちゃんと経験をしておくべきだろう。
「明日の午前中に一回はやっておくか……6人くらい相手にする感じで」
「それがよろしいかと。いくら特異点とはいえ、お姉様も電様も、今こうして疲労を感じている身。我々も同じなのです。取れる対策は全て取るべきでしょう」
「だな。やっぱ、自分達じゃあ気付けないなそういうところは」
特異点とて、同じようにこの世界を生きる者。長所も短所も同じなのだ。
この日はこれで終わる。決戦までの短い時間で、やれることは大分やれている。
翌日の最後の演習で詰められるところは詰めて、そして最後の戦いへと向かいたいところである。
長い演習の1日が終わり、決戦は間近に。