後始末屋の特異点   作:緋寺

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見えてきた内情

 午前中は深雪の予想通りの展開。深雪と電を相手に団体戦を仕掛けるという、特異点チームにはそこそこ苦行に付き合うことになる。

 とはいえ、深雪も電もこの演習は願ったり叶ったりである。白雲からも話されていた通り、団体を相手にすることも経験しておきたい所だったのだから。

 そもそも、この演習を発案したのは白雲であり、丹陽がそれを聞き入れて実際に行う方向に持っていった。当然、伊豆提督を筆頭とした提督陣の許可も得ている。

 

「6人相手にするんだよな。決戦の時にあたし達に群がってくる可能性もあるし」

「なのです。いくら特異点の力があっても、多勢に無勢は大変だと思うのです」

「だよな。2人相手でも結構しんどかったところはあったから、6人も集まられると、流石にきついな……頭使わないと勝てないか」

 

 元々それなりに頭を使っていたはずなのだが、辛勝で終わっていた戦いもある。そこに1人でも追加されるだけで、一気に勝ち目が薄くなるだろう。改めて考えないといけないこと、やらなくてはならないことが増える。

 煙幕対策を複数積まれて、さらに攻撃も耐えて、防御を突破しなければならない。2対2だからこそうまくいった戦法も、3人以上になると破綻する可能性が普通にある。

 

「相手次第というのもあるのです。磯風ちゃんに妨害されながら、時雨ちゃんと夕立ちゃんに襲われたら、流石に……」

「煙幕飛ばされながら時雨の速さと夕立の無敵に立ち向かうとかどんなイジメだよ。でも、実際そういう戦闘が無いとは言い切れないんだよな」

「なのです……島の戦いみたいな、よくわからない能力ばかりを使われる、なんてことは無い気がするのですけど、実力行使で、しかも命のことを考えないで突っ込んでこられるかもしれないのです」

 

 阿手一派との戦いとは違い、出洲一派は超常的な力を使うことはないと考えられている。それを覆すのが黒深雪の煙幕なのだが。

 

 

 

 

 演習前に、現在の調査状況と敵の能力の把握から。そこから演習の流れを考えていく。

 それを発表するのは、勿論伊豆提督と昼目提督である。

 

「決戦ももうすぐそこまで来ているけれど、ここで今のところまでで揃っている情報を開示させてもらうわね。みんなにも知ってもらわないといけないもの」

「艦種と誰がいるかはもう伝わってんな。だから今回は、そいつらが何をしてくるかに重点を置いて話すぜ」

 

 襟帆鎮守府に所属しているカテゴリーKは全部で9人。それが誰かは既に公開済み。ここから、カテゴリーKとしての性能で何が出来るか、何をしてくるかが調べられたため、ここで公開される。

 

「まず、全員に備わっている性能は、潜水。一部の深海棲艦と同じように、海上から海中に潜って奇襲を仕掛けることが出来るわ。そもそも潜水艦である伊36は、逆に海上での行動が出来る。つまり、全員が戦場を問わないということね」

 

 特異点も可能な行動、潜水。これを深海棲艦の能力を持っているということから可能にしている。非常にわかりやすい艦種詐欺。

 ここで恐ろしくなるのが、対潜技術に長けた五十鈴の存在である。海上でも対潜をしながら、自ら潜って海中も手中であるというのは、潜水艦に対しての行動が広いということに他ならない。

 

「次、共通武装だ。普通なら考えないところなんだろうが、ちゃんと隙を埋めてやがる。奴らは近接戦闘も可能にしてるんだとよ」

 

 神風や伊203のような特化したような行動は出来ないが、全員が多少なりの近接武器を持っている。そのため、深雪や電のような拳による接近戦を仕掛けようとした場合に返り討ちが予想される。ナイフのような小型武器でも、致命的な場所にダメージを与えれば、それで勝ちになるのだから。

 案の定、その近接戦闘というのはコンバットナイフなどの軽装の取り扱い。綾波が軍港都市内での戦いで見せたモノに近いと言えよう。若干心の傷を抉られた時雨は、わかりやすく溜息を吐いている。

 

「つーことは、だ。潜って接近、いきなり現れて腱やら何やらを切って撤退、なんてこともしてくるかもしれねぇ」

「実際にどう戦うのかは確認出来ていないの。でも、艤装の仕様とかで、そういうことが出来るということがわかったみたい」

 

 諜報妖精さんは、工廠からあまり外に出られないようで、カテゴリーK達が実際に演習をしている姿を見ることが出来ているわけではない。そのため、艤装の仕様からある程度の戦術を割り出しているに過ぎない。

 潜水出来るというのは、防水のシステムから潮抜きなどのメンテナンスでわかったこと。近接戦闘は、艤装にマウント可能なスペースが存在し、かつ実際にコンバットナイフのメンテナンスを行なったから。なお、そのコンバットナイフも深海棲艦の艤装の金属から作られている特別製。艦娘の艤装も膂力次第では切り裂くことが可能という珍品。

 

「それとここからは少し毛色が変わるけれど、まず敵特異点、いわゆる、黒深雪ちゃんと雷ちゃんのこと。こちらはアタシ達の前に出てきたけれど、ここまでの特性は全く見せてこなかった。ただ、見せなかっただけで、可能ではある。あの場で見せなかったのは、決戦の時に情報を出さないようにするためね。特異点Wでもおかしな動きはしていないのよね?」

「ああ、それはそうだぜ。ただ来て、言い負かされて帰ってった。戦うつもりはあったかもしれねぇけど、何も見せずに、精神的に割とボロボロなところは見せられた感じだった」

「決戦を間近にして、その辺りは弁えてるのかしらね。なら何で喧嘩を売ったのかって話だけれど」

 

 行き当たりばったりな行動は一度置いておいて、そういう場でも手の内を晒さないというのは、いろいろ考えてはいるようである。

 

「そんなだけれど、ちゃんと戦えるスペックは持っているわ。その上、黒の煙幕……精神に作用する、特異点に対して悪い感情を持ちやすくする力がある。あちらは無意識かもしれないけれど、感情が昂った時に勝手に発動するというのなら、戦闘中なんてずっと発動しているようなモノよ」

「やめてほしいね本当に。あんな屈辱的なのは二度とごめんだよ」

 

 時雨が吐き捨てるように言う。演習ですら深雪に負けていないことを選択するために自爆するような感覚を当たり前と思わされるのは気分が良くない。

 演習でそれなのだ。実戦では、本当に後ろから刺しかねない。しかも、時雨はオーバークロックという、容易に背後を取る手段を持っているのだ。

 決戦で黒深雪の感情次第で、その効果は良くも悪くもなりかねない。それこそ、煙幕が洗脳の効果を持ち始めてもおかしくはない。

 

「次に空母……瑞鶴ちゃんね。普通に主砲を使ってくるわ。鶴棲姫みたいなモノよ」

「……そう、なんですね」

 

 空母が瑞鶴であるということに一番ショックを受けているのは、実の姉となる翔鶴。あちらは元人間のカテゴリーKであり、自分は純粋種なので、明確な姉妹というわけではなくても、やはり瑞鶴の力を持った艦娘というだけで、嫌でも意識してしまうモノ。しかもそれが、成れの果てとすら言える深海鶴棲姫とほぼ同様の力を使ってくるとなれば尚更だ。

 そんな翔鶴の隣で、落ち込まないように肩に手を置く加賀。加賀には姉妹はいないが、同等かそれ以上の存在と言える赤城が同じような状態ならば、相応に落ち込んだりショックを受けたりするだろう。それを意識すると、翔鶴の気持ちも痛い程わかる。祥鳳も同じように翔鶴を慰めていた。

 

「戦艦の霧島ちゃんは、元々が魚雷を扱えるようになった高速戦艦だけれど、今はそれどころじゃないみたい。潜水艦用の魚雷まで扱える、高火力と高雷撃の艦娘になっているわ」

「電の装備と同じというわけか。近接戦闘では骨が折れそうだ」

 

 同じ戦艦として腕が鳴ると言わんばかりの長門。相当な武闘派な上に、火力が異常に高いとなれば、ガチの殴り合いでも苦戦は必至。

 

「重巡の足柄ちゃんは、本来出来ない艦載機の発艦ね。しかも、扱えるのは深海の艦載機、いわゆる『タコヤキ』ね」

「あの空中で旋回するヤツですね。大丈夫です、それなら墜とせます」

 

 艦載機と聞いてやる気を増す秋月。防空駆逐艦としての誇りを胸に、その全てを撃ち墜とすと決意する。

 そこには居相姉妹の姿も。秋月に扱かれて、島でも防空を一任されるほどまでに成長しているのだから、今回もうみどりを守るために出撃するだろう。もう素人なんて言わせない程だ。

 

「軽巡の五十鈴ちゃんは、主砲が戦艦並みになっているそうよ。砲撃がそれで、対潜技術も並以上……当然、対空も並以上。厄介極まりないわね」

「絞め落とすにしても、迎撃用のナイフがある。面倒」

 

 伊203もその能力には辟易しているようである。だが、面倒なだけで勝てないとは一言も言わないのが伊203である。最初から負けるつもりなんて無い。

 

「潜水艦の伊36、みぃむちゃんは、さっきも言った通り海上に上がれる。そして、主砲も対空もござれらしいわ。どのタイミングで海の上か中のどちらにいるかでスペックが大幅に変わると思った方がいいわね。あと……カツ車の存在が大きいわ」

「フーミィの予想通りになっちまうのか」

「何を話していたかはわからないけれど、深海の技術が取り込まれたカツ車があるらしいわ。挙動がまだわからないのが怖いところね」

 

 聞いている限り、伊36は相当厄介な存在であることは間違いない。

 

「補給艦の速吸ちゃん……ここが本当に厄介。本来低速艦のはずなのに、高速以上の速さで動き回れるみたい。タービンと缶が改造されてるようよ。その速さで補給を繰り返すとなると、真っ先にどうにかしなくちゃいけない存在ね」

 

 謎の補給艦、速吸。これに関しては、攻撃的な性能よりも、その場に残ろうとする性能の方が高くされている。これもまた、厄介極まりない。

 持久力に難があるのがカテゴリーKの大きな弱点なのに、それを補完することが出来るというのは、勝率に大きく影響を与えることになるだろう。

 

「そして、一番謎なのは、駆逐艦最後の1人、漣ちゃんよ。カテゴリーKであることは間違いないんだけれど、何かがおかしいみたいなのよね」

「どうおかしいんだ……?」

「特別な力があるわけでもない。でも、初期艦ということで、一番改造もされてる。何が出来るかが、見当がつかない。それが謎なの」

 

 漣だけは不明な点が多すぎるという様子。諜報妖精さんですら、探るのが難しいようである。

 

 

 

 

 敵の内情が少しずつわかってきた。しかし、それを突破出来るかは、まだわからない。

 




漣だけ相当ヤバそう
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