決戦で戦う相手、襟帆鎮守府のカテゴリーKの詳細がわかり始めてきている。全員が潜水可能、艦種を超えた行動が可能、そして謎な存在まで完備。今こうして演習によって突飛な行動をする特異点の演習でも、その全てを補完することは出来ないかもしれないとすら感じる。
とはいえ、やらないよりはやった方がいい。特異点の力を使わずとも、潜って戦うというだけでも脅威となるのだ。深雪と電だけでなく、そういう戦い方をされるということを意識する演習をしておかねばならない。
「敵カテゴリーKの出来ることを再現出来るのはあたし達なんだよな。マジのガチで、みんなのために仮想敵が出来る」
「なのです。みんなが決戦で戦えるように、電も頑張るのです」
「だな。わかってることはあたし達がやってやろうぜ」
深雪と電は早速深海棲艦化。電の装備は昨日と同じ、超重武装である。砲撃と雷撃の威力、突発的に潜水出来ることも含めて、次の戦いに持ってこいな性能である。
「で、相手は……」
準備が出来た深雪達が目を向けた方には、今回の相手が準備をしていた。特異点2人に対して、相手は1部隊6人。それだけでも物量差というモノがあるのに、しっかり曲解持ちも使っているというなかなかの相手である。
その筆頭が、やはりいいところまで行った時雨と夕立、そこに煙幕封じの磯風。さらには、部隊として強力にするため、長門と加賀、さらには妙高まで注ぎ込んだ、万全に万全を重ねた部隊である。
「妙高さんまではやりすぎじゃね?」
「『ジャミング』って、どう超えましょう……」
「意図しない攻撃なら受けるんだよな……煙幕ぶちまけるしか」
「磯風ちゃんに吹き飛ばされるのです」
「海の中ならまだ行けるか。風もクソもないぜ」
「それしかないですけど、時雨ちゃんと夕立ちゃん、多分対潜装備入れてますよ。ほら」
考えながらも、電は時雨と夕立の装備に注目した。主砲を持ちながらも、ソナーと爆雷までしっかり完備。潜った深雪達を一方的に始末するための装備も万端である。
海上だと、『空冷』で煙幕を散らされつつ、攻撃は『ジャミング』で逸らされ、長門の火力で押し込まれる。そこに加賀艦載機による空襲で逃げ場すら塞がれるだろう。
「……詰みじゃね?」
「海の中も安全地帯というわけでは無さそうなのです」
「まだ対潜の方がマシか。避けに徹することは出来そうだよな」
それでも不安要素は多い。時雨と夕立がきっちり対潜を意識している辺り、追い詰める気満々である。
強いて言うなら、海中で直接攻撃してくるような者がいないくらい。6人のうちの1人が伊203やスキャンプだった場合は、海中すら安心出来ない場所になる。真正面からの戦いがかなり厳しい。
特にスキャンプは、海中での煙幕を散らしてくる『スクリュー』を持っていることもあり、煙幕対策としては抜群。今回の部隊に入っていないだけマシ。
「……なぁ、気のせいならでいいんだけどよ、加賀さん」
「対潜装備、してるのです……」
その上で、加賀の装備が普通とは違うことに気付いた。護衛艦装備、いわゆる改二護改装状態である。
普通の空襲も可能ながら、特筆すべきは正規空母であるにもかかわらず、対潜掃討にも参加することが出来ることだ。敵カテゴリーKが海中に潜ることが出来ると聞いたことで、加賀はそちらにコンバート改装を施されていた。
決戦を仮定するのならば、そこまで徹底した方がいいだろう。逃げ場を作らないように、駆逐艦達の対潜に加え、空母による徹底した対潜掃討まで加えることで、海中に逃げるという選択肢すら与えない。しかも、空母であれば煙幕の脅威からも離れた場所から攻撃も出来る。
特異点を保持するうみどりだからこそ考えられる、徹底した特異点対策。理解しているからこそ、出来る最大限の抵抗。
「あいつらもさ、あたし達に対してこれくらいしてくると思うか?」
「無いとは言えないのです。未知数なところはまだいっぱいあるので」
「なら、これくらい相手にしないとな」
ここで深雪達が勝てたなら、仲間達は決戦でもっと強く戦えるように策を練る必要がある。深雪達が負けたなら、逆に特異点サイドがそれを突破するために策を練る。
カテゴリーKがそこまでやれるかはわからない。想像以上のことをしてくるかもしれない。怖がっているだけでからっきしかもしれない。
どうであれ、悪い方向で考えて、今の自分達では勝てないという認識で鍛えていく方が、いざという時に動くことが出来るだろう。
常に最悪を想定して、より強い力を持ち、確実に後始末をする。それが、うみどりという後始末屋である。
部隊は所定の位置へ。昨日までは2対2で徹底していたが、今回は相手が6人。遠くであっても、少し圧を感じる程である。
「電、事前準備」
「なのです」
前以て、艤装の中に煙幕を漂わせておく。時雨のオーバークロックで回り込まれて死角に入られることを防ぐため、また、艤装そのものの強度を上げ、簡単には倒れなくするため。
本当なら自分達の周りにさっさと煙幕を漂わせておきたいのだが、そうなると演習の意味が無くなる。特異点に一気に有利になりすぎる。
「真っ先に来るのは、磯風だよな」
「そう思うのです。時雨ちゃんよりもすぐに風を使ってくるのです」
「なら、あたし達もまず潜るか」
「それで行きましょう」
少し意地が悪い戦法ではあるが、勝ちを狙うためにはそういうことも必要。むしろ、あちらは全員が全員潜れるのだから、それを再現するためにも潜水からの攻撃をするのも演習としては無くてはならない。
「よし、じゃあ……」
2人揃って潜水の準備。そして、演習開始のブザーが鳴り響いた瞬間、
「風来た!」
「潜るのです!」
予想通り、磯風の全力の突風で煙幕を封じに来たが、それを見越して海中へ避難。煙幕なども使うことなく、特異点の特性としての潜水を真っ先に実施。
そして、その時には今2人がいた場所に、オーバークロックによってスピードを上げた時雨がすっ飛んできていた。当然だが、もうそこには2人の姿はない。
「だろうと思ったよ。だから僕がここに真っ先に来たんだ」
しかし、時雨も負けてはいない。アレだけの対潜装備を見せているとはいえ、磯風がいるのならば煙幕を使えないのだから、有利に戦える海中を選択することは読める。
そのため、本来いたであろう場所にいち早く飛んできた。深雪と電が海中にいなかったら、衝突もかくやという勢いで。
そして、ここで時雨が何をしたいか。それは、今回はちゃんと装備してきた対潜兵装を徹底的にばら撒くこと。簡易爆雷ではない、強力な爆雷を手に、オーバークロックによる加速も含めて、深雪と電がいるその場所を埋め尽くすかの如く投射。
「やっべ、相変わらずだな時雨……!」
「前とは質も違うのです……!」
簡易爆雷とは違う、高性能な爆雷。威力も強く、当たれば間違いなく致命傷。それだけは避けなくてはならない。
「電!」
「深雪ちゃん!」
ここでやはりやらねばならないのは煙幕。深雪と電はその場ですぐに手を繋いで、揃って全力の煙幕を溢れさせる。海中で拡がる白いモヤは、降ってくる爆雷を一気に包み込む。
込められた願いは、『誰も傷付かない』である。そうしたことで、爆雷は本来爆発するであろうタイミングで、うんともすんとも言わなくなった。全てを不発弾に。ただ、傷がつかないことを優先した願い。
「相変わらず、本当にインチキだ。でも、
時雨がオーバークロックでその場からいなくなる。それが、次の攻撃の合図となる。
加賀による、護衛艦の対潜空襲。これもまた爆雷の投射ではあるのだが、ここで鍵となるのは加賀搭載数。
対潜可能な、高性能な艦載機を、最も搭載数の多いスロットに詰め込んで、矢として放っている。その結果が、時雨のばら撒いた爆雷を超える量の爆撃が空と海を埋めていく。
「ま、マジか、単純に押し潰しに来やがった……!」
「加賀さんの対潜掃討が多すぎなのです!」
その場から逃げなければ、爆発しないようにした爆雷であっても、行動が制限されてしまいかねない状況。あまりにも数が多すぎて、どう逃げるかも迷うレベル。
そして、海中での煙幕の弱点もここでわかる。海上で放つよりも、拡がる速度が確実に遅い。時雨からの爆雷は傘のように自分達の上から拡がるように展開したが、数が多くなりすぎると煙幕よりも遠い場所に投下された爆雷の処理が出来なくなる。
むしろ、それが加賀の狙い。時雨を完全に囮として、逃がす前に周囲に爆撃を決めて、煙幕の効果を受けるまでもなく先に爆発させるという滅茶苦茶な物量差。これでまずどこまで通るかを確認する。
「電、真横だ!」
「なのです!」
上からもそうだが、そこからの爆発による衝撃を抑え込まなければならない。もっと下へ下へと潜っていくことも必要かもしれないが、ここで逃げずに食い止める力も試しておかなければならない。
そして考えたのが、盾の煙幕。弾幕すらも食い止める煙幕を、海中で溢れさせ、爆雷の衝撃も全てカットしてやろうという魂胆。衝撃そのもので煙幕が散らされそうではあるのだが、一度耐えられればいい。まるで
実際、加賀からの爆雷による爆発は食い止められなかったが、煙幕によってその衝撃は完全に相殺。深雪と電は無傷でその爆撃を完全に防ぎ切った。
演習は始まったばかり。しかし、ここからも物量の差を嫌というほどわからされることになるのは、深雪も電ももう感じ取っていた。
数が違いすぎるのよ加賀改二護の対潜は