2対6の変則演習が開始される。磯風の『空冷』によって、真っ先に煙幕封じを行なわれたが、それを見越していた深雪と電は、すぐさま海中へと潜水。
殆ど体当たりに近い時雨のオーバークロックも回避することとなり事無きを得るものの、時雨はそれも予想しており爆雷を大量に投下。海中での煙幕の使用を無理に引き出し、その範囲外からダメージを与えるために、改二護改装を行なっている加賀が追撃の対潜空襲を放つ。
深雪と電は、その空襲に対しても盾の煙幕を放つことで、真横からの衝撃を全て受け止め、なんとかダメージを回避することは成功した。
「初っ端からヤバいことされたぞ……」
「先制攻撃も、人数差がハッキリ出たのです……」
一旦海面から離れて、より深いところにまで退避。考える時間も与えられないとなるのは拙い。
時雨の爆雷と加賀の空襲から逃れたことで、ひとまず落ち着けるようにはなるが、ここからどうするというのは簡単には出てこない。だが、いろいろと試してみないと出来ることもわからないので、まずは深雪が海上に向かって魚雷を放ってみる。
「逸れてる……よな」
「なのです」
しかし、その雷撃は狙いを定めた方向とはまるで違う方へと向かっていった。妙高の『ジャミング』が海中であってもしっかり効いていることの示唆。確かに狙いを定めたはずなのに、最終的には見当違いのところで海面に到達する。
海上にいる部隊は、海面に現れた魚雷に驚きつつも、的確に処理。当たらないとはいえ、そこに在られることの方が厄介。自分から当たりに行くようなことはしないだろうが、不意に踏みつけるなどしてしまうのは良くない。
「妙高さんのをどうにかしないとダメだ。やっぱり、全体的に煙幕ぶちまけるしかないよな」
「それしか今は思いつかないのです。深雪ちゃん、やってみましょう」
待っているだけでは決着はつかない。そのため、出来そうなことは即実行。深雪と電は再び手を繋いで煙幕を溢れさせていく。ゆっくりとだが確実に拡がるモヤは、自分達を守るためではなく、広範囲をその効果の影響下に置くため。
込められた願いは、『一時的な能力無効化』。荒れる戦いを鎮静化するための、平等化を目的としたモノ。実際、力無しの実力勝負となった場合は、それこそ数の暴力で不利になるのだが、『ジャミング』だけはどうにかしないと先に進めない。圧倒的不利が不利になるならば、まだマシと言えよう。
だが、この手段は海上の面々も考えていたこと。煙幕を散らして、海を全体的にその効果範囲にしようとすることは、特異点でなくても考える。その願い、効果は何で来るかはさておき。
「おそらく『ジャミング』封じです。そもそも攻撃が当たらないのでは、あちらの勝ちは無くなりますので」
妙高が的確に読んでいた。だが、海上の煙幕ならばまだしも、海中の煙幕、モヤは、海上からどうにか出来るモノではない。ただでさえ深いところに潜られているのだ。海面まで来た上澄み部分を処理したところで、次から次へと溢れさせてくるだろう。
だが、煙幕の展開を止めることは至難の業だ。爆雷を投射することくらいしか海中への攻撃手段が無いのだから、それだけでどうにかしなくてはならない。
「ひとまず爆雷使っておくっぽい?」
「そうですね、それと磯風さん、波を作るように風を起こしてください。少しでも散るでしょう」
「了解だ。少し強めに吹かせる」
海中を攻撃出来る夕立は、装備してきた爆雷を深雪と電がいるであろう場所に投射。当たらずとも、今回はその煙幕展開に対して邪魔をするために、届かずとも爆発させる。
ついさっきの煙幕と違い、力を封じるための煙幕は爆雷の爆発を抑えることは出来ない。きちんと爆発して、モヤを散らす。
そこに磯風の『空冷』だ。海面を動かすような風を吹かせることで波が起き始め、それが自ずと海流へと変わる。海上まで届かせたいモヤは、その海流によって本来届く場所から大きく逸れるカタチとなるだろう。
夕立の投射した爆雷もその海流を大きく動かすのに貢献しており、届かずに爆発させて、より海の中をぐちゃぐちゃに掻き回す。
「長門さん、少し危険ですが、海中に向けて砲撃を。戦艦主砲の威力なら、あの煙幕はより強く散るかと思います」
「わかった、少し離れるぞ」
そしてダメ押しに、長門の砲撃を海中に撃ち込む。当然その砲撃が届くわけがないのだが、狙いは届かせることではなく、海流をより強く動かすことだ。爆雷の爆発をさらに誘発させて、そこにはもう渦が出来そうなくらいの激しい流れが出来始めていた。
自分達の航行にも少し難が出るが、荒れた海での後始末もやってきたのだから、長門達はその程度ではびくともしない。後から後始末屋に加わった者達には少々大変なのだが。
「風と砲撃で上が大荒れだぞ」
「でも、煙幕が届かなくなっているのです!」
海中にも確実に影響が出ていた。海流は海中の深いところにまではそこまで大きく届いていないのだが、海面を目指していた煙幕は確実に霧散している。その効果は完全に失われており、妙高の『ジャミング』は確実なモノとなっている。
そこにすかさず加賀の空襲が再び襲いかかる。爆発を止めていない煙幕なのだからり今ならば確実に通るだろう。夕立の爆雷とは違う、より深いところを狙った爆雷による空襲は、確実に深雪と電の効能範囲を狭めていく。
「やっべ」
「盾なのです!」
無力化の煙幕と共に、空襲から身を守るための盾の煙幕。爆発を受けても衝撃を散らしてノーダメージに抑え込むことは出来るが、このままではジリ貧。
「上に行くのは……やめた方がよさそうだよな」
「なのです……妙高さんの力がどうにもなりません。そもそも近付けませんから」
「……いや、例えばさ、島でやったアレなら」
島でやったこと──煙幕を吸い込み、自分達だけは敵の力の影響範囲外に逃れる力。あの時は『磁力』を受けないようにしていたが、今回は『ジャミング』を受けないようにする。
煙幕で全体的な効果を目指したが、それが無理なのならば、今は自分達だけでも回避出来るようにするのが手っ取り早い。
特異点2人で戦っていても、周りに気を回すことが視野を狭める要因とはなってしまう。だが、時には自分のみにその力を使ってもいい。
「よし、これなら」
「行けるのです」
改めて『ジャミング』関係なしに攻撃に入る。まずは妙高をどうにかしなければならないと実感し、雷撃をこれでもかと言うほど放った。
その魚雷には煙幕を纏わせ、海流に巻き込まれて方向がおかしくなることがないようにまで仕立て上げる。
本当ならば追尾の性能まで付けられたはずなのだが、海流で煙幕が散らされることはわかっていたため、必要最低限の貫通力を持たせるに至った。
「崩されましたね。では、回避に専念しましょう」
深雪と電の行動が変わったことで、妙高は自分の『ジャミング』が効かなくなったと確信。当然ながら、島での戦いで何があったかは頭の中に入れているため、深雪と電が相手の力の範囲外に逃れることが出来ることくらいは把握している。いつそれをしてくるかを見計らっていただけ。
ここで妙高は守りとしてはお役御免だと考え、回避に専念し続けることに。海中は攻撃出来ないのだから、そうせざるを得ない。
「時雨さん、夕立さん、磯風さん、全力で対潜を」
「浮上させないとどうにもならないからね。なら、耐えられないくらいばら撒くさ」
「ぽい! 時雨、もっかいいっぱいやってやるっぽい!」
「言われずとも。オーバークロック」
対潜の量と質を一気に上げる、時雨のオーバークロック。全ての動きを速くして、深雪の真上を爆雷で埋め尽くした。深くにいたとしても、数で押す。
瞬間的に面の範囲で爆雷が投射されるため、海中にいる深雪は目を見開き、そしてすぐに真上に向けて煙幕を放つ。昨日にも使った、即座に爆発させる触れる煙幕。大量に投射された場合は、これが一番確実に自分達を守ることが出来る。
「んな……っ」
だが、それが必ず上手く行くとは限らない。現在、海面の辺りには無理矢理作った海流がある。時雨がばら撒いた爆雷すら、その海流の影響を受けて、真下には落ちることは無かったくらいだ。
魚雷には貫通力を与えたが、いざ守りに使おうとすると、途端に煙幕の脆さ、急激な運動で霧散することに影響を受ける。
爆雷はランダムに散り、煙幕の盾は効果を失って霧散する。戦艦主砲の威力と、『空冷』による風を利用した、攻防一体の対潜掃討。妙高の考えた、海中に潜る特異点への対策は、まさにこれだった。
難点とすれば、爆雷の爆発する場所が完全なランダムになってしまうというところ。狙ってダメージを与えることは出来ない。ただし、そこは時雨のオーバークロックがある程度カバー出来る。1人で投射出来る量を、1人だけ早回しで動くという力業で数倍に膨らませることが可能だからだ。
さらには、ここに加賀の空爆まで追加される。海上は海流によって航行が難しくなるだけ。だが海中は海流と爆雷でてんやわんやになるという寸法。いくら身体能力が上がっても、『ジャミング』が回避出来るようになっても、妙高と同じように
「潜れ潜れ!」
「こ、これ、まずいのです!?」
それを回避するには、もう海底にくらいまで逃げるしか無かった。煙幕で守ることもやめ、単純に距離を取る。仕切り直しにしては、あまりにも雑で、しかし確実な手段を選択せざるを得ない。戦いが長引くのはわかっていたが、こればっかりはどうしようもない。
「磯風さん、装備していましたね?」
「ああ、風が使えなくなった時のために、な」
だが、妙高は当然、それも読んでいる。だからこそ、対潜技術がまだ並な方の磯風に、とっておきを装備させていた。対潜魚雷、潜水艦へ向けて放たれる、海中に潜る爆雷のような魚雷。
それを、深くに潜る深雪に向けて放った。これは海流の影響も殆ど受けることなく、一直線に深雪に向かっていく。
「うっそだろ、ここまで届くのかよ……っ」
虎の子の対潜魚雷が、眼前にまで迫ってきていた。
妙高の策がまたしても炸裂しました。