後始末屋の特異点   作:緋寺

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膠着

 特異点を仮想敵とした演習は、特異点チームが海の中に押し込まれている状況で続いていた。

 海上での煙幕を磯風の『空冷』で吹き飛ばすこともあり、煙幕も何も使えない状態を作られる上に、高火力の長門もいるため、潜らざるを得ない。そこから、改二護改装を施された加賀と、オーバークロックによる超スピードを扱う時雨が、爆雷による絨毯爆撃を海中にばら撒くため、煙幕によって防御を繰り出す以外に選択肢がなくなり、それすらも海上で海流を起こして掻き回される。

 

「うっそだろ、ここまで届くのかよ……っ」

 

 その海流の中、爆雷のように散らされることなく真っ直ぐ深雪に向かってくる対潜魚雷。このままでは直撃ルートであり、煙幕による防御も間に合いそうにない。

 それならば素直に回避をするのが一般的だろうが、かなりスピードが乗っており、避けるにしても紙一重。そして、困ったことに同じ射線上には電もいる。

 

「電……!」

 

 ここで深雪は何を思ったか、避けることもなく電と手を繋いだ。煙幕の出力を上げる手段ではあるが、ここまで来ると煙幕も何もあったモノではない。

 だとしても、特異点として、ここでやれることをやろうとすると、使われるのはやはり煙幕。そして、深雪が何をするかといえば──

 

「出力上げてくれ!」

「な、なのです!」

 

 2人がかりの煙幕を主砲に乗せて、迫り来る対潜魚雷を撃ち抜くこと。

 

 海中での砲撃は支えもないので反動の軽減も出来ず、威力も間違いなく落ちる。そもそも、海中で撃つなんて主砲そのものにも大きな負担がかかるだろう。

 それらを煙幕の力によって全て関係なくしてしまっている。身を守るため、確実な破壊を目指して、その1発に賭ける。

 

「ってーっ!」

 

 放たれた1発は、真っ直ぐ向かってくる対潜魚雷を見事に撃ち抜く。反動はそのまま身体にのしかかり、電と共に海の中を錐揉み回転しながら漂うことになる。

 さらには、対潜魚雷が爆発し、その衝撃がモロに襲いかかり、ダメージは軽減出来ても、もみくちゃにされるのは回避出来なかった。

 

「っぶねぇ!」

「な、なんとかなったのです……!」

 

 ほぼノーダメージで乗り切ったことにホッとする2人。しかし、演習はまだまだ終わらない。終わるわけがない、一息なんて吐かせる余裕を与えない。

 ここで海上から、追加の爆雷投射が開始。乗り切ったと思ったら数を増すという悪夢。煙幕によって止めようと思っても、やはり海流がそれを邪魔する。対潜魚雷の爆発が引き起こした海流もあるため、余計に煙幕が散らされる状況に。

 

「まだ来るかよ!」

「海底まで行くべきかもしれないのです」

「だな、これは逃げるしかねぇよ」

 

 この絨毯爆撃を回避するために、深雪と電は海をより深く潜っていく。反撃が出来るくらいだった位置にいても、それが出来ないくらいに降り注ぐのだから、流石に逃げざるを得ない。

 反撃は不可能になるが、少なくとも負けることはなくなる。時間がかかるのは致し方なし。

 

 それに、深く潜ることすらも、妙高の想定通り。しかし、想定は出来ても、今の状況でそれを崩す手段があるかというのは話が変わる。

 

「煙幕がここまで届かないくらいまで潜りましたね。こうなると、こちらからも攻撃の手立てが極端に少なくなります。海流も底までは届かない。海の底で煙幕を張られてじっとされたら、そのまま勝ち目が無くなります」

「でも、負けも無さそうじゃないかい?」

「それはそうですね。このまま膠着して、何も起きないまま無駄な時間を過ごすだけになります。それはとてもよろしくない」

 

 今は演習という都合上、こうなっていればお互いに何も出来ないで終わる。だが、決戦ではその戦場が襟帆鎮守府の近海だ。海底から鎮守府に戻って補給を受けて、全回復してまた出撃なんてことだって可能。

 逃げ道を作るということは、ホームで戦っているカテゴリーK達の方が有利に決まっているのだ。その逃げた先が自分達の拠点なのだから。

 

「じゃあ、どうするっぽい?」

「釣るしかありませんね。爆雷が海底まで届かないわけではありませんが、やればやるほど無駄弾になります。なので、()()()()()()()()()()

 

 妙高としても、本来なら海底に追撃をしたいところ。しかし、海上の部隊ではそれが出来ない。潜水艦の誰かがいれば、確実に追撃をしてもらうだろうが、こうなってしまうと割と厳しい。故に、攻撃の手を完全に止めることにした。

 一方的に攻撃をしていたかと思えば、今度は全く攻撃せずに受けに回る。緩急が激しい。

 

「一つ学べましたね。海上の部隊だけでは、ひたすら潜られるだけで仕切り直しにされる。海底まで届いて、もっと狙いが定められるような対潜兵装が欲しいところです」

「だが、あちら側の連中は全員が同じことが出来るのだろう?」

「そうです。私の予想では、それを多用することもありえるでしょう」

 

 自分達に有利な戦場を維持し続けるのも戦術だ。相手の攻撃が届かないところから一方的に攻撃出来るのがベストなのは百も承知。卑怯でも何でもない、可能ならば誰だって選択する手段である。

 海上も海中も自由自在に動けるのならば、いくらでも選択する。将棋盤に自分しか入ることが出来ない10マス目があるというのなら、そこに駒を逃げ込ませることは当たり前だと妙高は語る。

 

「ここからは千日手になりそうです。深雪さん達が浮上してきたら、我々は先程のように爆雷をばら撒く。そしてまた海底に逃げられる。この繰り返しです。強いて言えば、我々には弾薬の制限がある。爆雷だって無尽蔵ではありません」

 

 最終的にはそれを誘われて、守る手段が無くなったところで海中から攻撃をし続ければいい。『ジャミング』も突破されている今、深雪も電も最終的には一方的に叩く手段を使うだけだ。

 弾切れこそ一番の敵。ならば、この状況では()()()()()がベスト。

 

「静かな海となれば、また攻撃を始めてくれるでしょう。波もない、煙幕もない、ただ私達がここにおり、ひたすら睨み合いとなってしまった場合、ただこのまま時間が流れるだけです」

「どうにかする方法はないっぽい?」

「あちらの出方次第です。海底を陣取り続けるなら、どうにもなりません。この演習は引き分けになるでしょうね。お互いに突破方法はありませんでしたということで」

 

 潜水艦隊がいれば話は変わるだろうが、今はそれがいないのだから、妙高はこうして何もせずに痺れを切らすのを待っているのみ。

 

 ただし、カテゴリーKがどうであるかはさておき、深雪も電もここで痺れを切らして浮上してくるということはおそらく無い。あちらもこの状況をどう打開しようか考えているだろうが、勝ち筋が見つかるまではじっとしているだろう。

 

「……どうするよ、電」

「どう、しましょう……」

 

 妙高の予想通り、海底に足をつけ、海上を見つめながら、ここからどうするかを考えている深雪と電。ただ浮上するだけでは、先程の同じことになって、またこの場所に戻ってくるだけ。

 ちまちま爆雷を投げ込まれても、ここならば見てからでも避けられるくらいには距離がある。爆雷を誘い出して弾切れを狙うというのもあるが、それでは明確な勝利とは言えないだろう。

 カテゴリーK、別個体の黒深雪に敗北を認めさせるには、時間切れ、弾切れの勝利は勝利ではない。言い訳の余地を与えてしまってはダメだ。命は取らず、しかし戦闘不能にまで追い込むこと。それが確実な勝利条件。

 

「やるしかないよな。やれることを」

「なのです」

 

 考えれば何かが思いつくかもしれない。そのため、やれることをまずは口に出していく。幸い、今は膠着状態。作戦会議の余裕はある。

 

「昨日みたいに一気に浮上してみるか?」

「人数差が厳しいと思うのです。何処に浮上するかもありますが、ただ上がるだけだと、数で迎撃されておしまいなのです」

「だよなぁ……長門さんもいるし」

「ここから砲撃は出来るでしょうか」

「煙幕乗せりゃ出来るだろうけど、威力は落ちてそうだよな。見てからでも避けられそうだし」

 

 案を出しては難しいかと却下し、次の案を出す。砲撃も雷撃もキツい、直接近付くのも至難の業、あと出来ることといえば──

 

「……艦載機」

 

 電の持つ艦載機。深海棲艦の仕様となっているそれは、今ならば海中からでも発艦出来るのではないか。そう思い至った。

 

「試してみるか?」

「なのです」

 

 思い立ったが吉日。電は早速艦載機を発艦してみる。勿論、煙幕の加護もつけて。

 時雨と夕立相手に使った時は、多少潜ってはいたが、その時には既に発艦済みだった。そのため、上空で待機させておき、頃合いを見て爆撃を開始したが、今回は発艦する余裕すら無かったため、全機手元にある。

 

「だ、出せたのです」

 

 その艦載機は、まるで海中を空のように飛ぶことが出来ていた。煙幕の加護も効いているからかもしれない。

 

「なら、こいつで奇襲は仕掛けられるな。やってみるか」

「なのです。もしかしたら、今度の敵も、同じことをやってくるかもですし」

「ああ、つーかやれるだろうよ。艦種詐欺っつってんだから、これくらい」

 

 敵を過小評価しない。故に慢心もない。深雪も電も、それだけは絶対に崩さない。自分達が出来ることはあちらも出来るのだと思いながら、それを突破するための手段を考えていくのだ。

 

 

 

 

「よし、じゃあ、行こうぜ電」

「なのです。これで、反撃開始なのです!」

 

 海底からの艦載機発艦。これが打開策となるか否か。

 




実際、カテゴリーKは全員が潜っていて浮上すらしないはあり得る話。
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