後始末屋の特異点   作:緋寺

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因縁ある者

 翌日は丸一日が自由時間であり、身体を整えるためにも、過剰なトレーニングなどは禁止。多少身体を動かすことは良いが、疲れが残るようなことはないように限度を決めて。

 それに備えて、本日の就寝は少し早め。ゆっくり休むことも仕事であり、休める時に休むのも仕事である。

 

「夜にいきなり攻撃受けるってこともあるかもしれないしな」

「なのです。今日は演習もいっぱいやりましたし、すぐに寝ちゃいましょう」

「夜中に起きるってこともなさそうだ」

 

 深雪も電も、なんだかんだ午前中は演習尽くし。身体は休息を望んでいる。綾波からのアドバイスは明日の朝見るということにして、その日はもう休むことにした。

 万全の状態で望むことが勝利への一歩目。具合が悪いだなんて言っていられない。言い訳にもならない。

 

「……最近は野良の深海棲艦も見ないしな」

「なんというか、空気を読んでくれているというか」

「ありがたいけどな。余計な戦いが起きないのは」

 

 こうやって航行しているならば、野良の深海棲艦の襲撃を受けてもおかしくはない。海を駆け回っているのだから、そうなる確率は他より高いはず。それなのに、ここ最近は余計な戦闘が無い。

 決戦に集中出来ることはいいことだ。むしろ、野良の深海棲艦すらも、この戦いを後押ししてくれているかのように思える。

 

 実際、何も起きてほしくないという願いはある。その優しい願いが叶っていると考えれば納得は出来る。

 

「じゃあ、おやすみ電。明日もまた頑張ろうな」

「なのです。おやすみなさい深雪ちゃん」

 

 まだ心は落ち着いている。徐々に緊張感は拡がりつつあるが。

 

 

 

 

 翌日。決戦までの1週間、6日目。決戦を控えた最後の1日。気持ちよく眠れた深雪と電は、いつも通り制服に着替えて食堂へ。グレカーレと白雲もいつもの調子であり、残り1日を有意義に過ごそうと、普段通りにしている。

 食堂で顔を合わせる艦娘達も、今日という1日を大切に使うため、何も変わらずそこにいる。

 

 一部を除いて、だが。

 

「なんか暗い顔してるのがちらほらと」

 

 グレカーレが言うのも無理はない。どうしても緊張に呑まれてしまう者というのはいる。神経質というわけでなくても、思うところがあるのならば、それか気になって夜も眠れないなんてことはある。

 そのうちの1人が、翔鶴である。

 

「眠れなかったの?」

「……はい、あまり深く眠れませんでした……」

 

 加賀と祥鳳に心配されている翔鶴だが、空元気を出すように笑みを浮かべた。

 

 気にしているのは、やはりカテゴリーKのこと。あちら側の空母は、瑞鶴──翔鶴の妹である。姉妹で戦うということは無いとは言えないだろう。演習なら普通ならあり得ることであり、第二世代も艦娘同士の演習で切磋琢磨していた。しかし、命の奪い合いとなったら話が変わる。

 相手は第三世代をさらに改造している存在。元人間であり、あくまでも瑞鶴の魂から力を借りているだけ。実の姉妹のようで、実際は話が変わる。だとしても、その魂を持っているのだから、妹は妹である。

 そんな瑞鶴が望んでいる平和のために、自分と敵対するという事実。面と向かったら殺し合いが始まるような戦いを間近にして、翔鶴はどうしてもストレスを感じていたようである。

 

「気持ちはわかるわ。身近な誰かが敵になっているなんて考えたくないもの。しかも、自分の意思で」

「ですよね……私も、敵に瑞鳳がいたらと思うと、翔鶴さんの気持ちは痛いほどわかります」

 

 姉妹艦がカテゴリーKにいるというのは、それだけでもストレスになりそうなモノ。

 

「瑞鶴は、主砲も使ってくるような改造を受けているんですよね……海中から忍び寄ってくるというのも」

「ええ、そういう話ね。私達だと手を焼くことになるかもしれないわ」

「……鶴棲姫の姿であればまだ戦いやすいと思います。ですが、瑞鶴そのものの姿で来る……それが、たまらなく不安で」

 

 正直に心境を語る翔鶴。やはり、妹と戦うという事実が、大きな負担となっているようだ。

 

 カテゴリーKはそれも狙っているのではないかと思えてしまう。普通の鎮守府に潜むための艦娘の姿というのもあるが、いざ敵対した時に、艦娘を相手にするストレスを与えて本来の力を発揮させなくするような。

 出洲はその辺りまで考えてはいないかもしれないが、結果的にそのように思えるようなやり方にはなっている。

 

「翔鶴、明日の決戦、無理はしない方がいいわ。苦しいのならバックアップに徹してくれればいいの」

「必ず向かい合わなくてはならないわけじゃありませんからね。翔鶴さんは、うみどりの防衛に参加するでもいいと思います」

「……そう、ですね。無理をして足を引っ張るくらいなら、最初から後衛でいた方がいいかもしれません」

 

 加賀はしっかりと向かい合って続ける。

 

「私はそれを逃げとは思わないわ。むしろ、その選択が出来ることが強み。ムキになって突っ込むのも、狂乱して周りに迷惑をかけるのも、自分の意思で回避しようとしているんだもの」

 

 勇気ある撤退である。それは褒められることはあっても、後ろ指差されるようなことはない。そんなことをされる筋合いもない。

 

「……ありがとうございます、加賀さん。第二世代の加賀さんだったら、お小言があってもおかしくなかったんですが……」

「純粋種の私は、それでも貴女のことを思って、でも不器用な言葉しかかけられなかったんじゃないかしら。一航戦の威厳とか考えてしまって。でも私は、加賀であり一航戦であっても、元は人間。それに、貴女達の後輩なんだもの。素直に称賛はするわ」

「……不器用……そうだったのかもしれませんね。あの頃の加賀さん、言われてみればそう感じるところが多かった気がします」

 

 カテゴリーBとカテゴリーCでは、同じ艦娘でも大きく変わることはあるだろう。今ですら個体差があるのだから、過去にだってあってもおかしくない。

 

「改めて、ありがとうございます、加賀さん。今日1日、しっかり考えてみます。一番いい方法を見つけてら明日はそれを実践出来るように」

「ええ、それがいいわ。時間が無いわけじゃないもの。考えましょう。何かあったら、私達も力になるわ」

「はい、翔鶴さんの最善を見つけましょう」

 

 空母達は翔鶴の苦しみをきっかけに、より絆を深めるに至った。

 

 では、同じように姉妹が敵にいる妙高はというと。あちらの重巡洋艦が足柄であると聞いても、その姉である妙高はそのような雰囲気は出していない。いつも通り冷静。表に出していないだけかもしれないが、だとしても精神的に強いところを見せている。

 

「妙高さん、今度の敵に姉妹艦がいるんですよねぇ……飄々としてますねぇ」

 

 そんな妙高を見て驚いているのは梅である。今回の戦いでは『解体』の力を使うかはわからないが、大発動艇が扱えるという点から前線に立つ可能性がそこそこある梅は、敵に姉妹がいなくても少しストレスを感じてしまっているようだった。故に、姉妹艦がいることで自分よりも確実に負担が大きそうな妙高が何も気にしていない姿を見せていることに、素直に感心している。

 

「相手が姉妹艦であれどうであれ、敵対していることには変わりないですからね。それでも、命を奪うことは勿論抵抗があります。ですが、それは相手が妹であろうがなかろうが同じこと。なら、やることも変わりません。その顔を武器にしてこようが、私は確実に叩きますよ」

 

 あくまでも敵は敵と割り切っているのが妙高だ。カテゴリーCといえど、魂で姉妹艦には姉妹としての情が出てしまうモノなのだが、妙高はそれを完全に割り切ってしまっている。非情かもしれないが、今回の戦いでは最も必要な冷静さである。

 

「それに、むしろその顔で非道を働くなら、より説教が必要でしょう。戦いたくないという感情より、それが先んじました。どのような歴があるとしても、そこからの行動に難があるならば、キチンと言葉にしてやらなければなりませんから」

「はぁ……本当にすごいですねぇ……」

 

 もうそうとしか言えなくなっていた梅は、苦笑するしか出来なかった。

 

「ですが、辛くないといえば嘘になります。私も今は、どうにか割り切っているだけです。人間としては無関係な相手でも、艦娘としては親族。私の中にある、艦娘妙高の魂は、この事実を悲観しています」

「そう、なんです?」

「ええ。ですが、悲観しているだけで、向かい合おうともしています。それだけで充分です。とはいえ、その場で辛くなったら皆さんに任せて撤退するかもしれない。口先だけになってしまいますが、でも苦しいものは苦しい」

「ですよね……今はまだわかりませんもんねぇ」

「実際に顔を合わせてから決めるでも、充分だと私は思います。悪いことではない。それに、ここにはこんなにも頼れる仲間がいるんですから」

 

 辛いと思ったならば、仲間に頼ってしまえばいい。うみどりは、これまでそうやって前に進んできたのだ。

 

「だから私は、梅さんにだって頼りますよ?」

「うえっ!?」

「仲間なんですから」

 

 クスリと笑みを浮かべて、妙高は全員が頼れる仲間だと締めた。

 

 

 

 

 因縁を持つ者は、それ相応に考えねばならないことが増えている。だが、うみどりはそんな仲間を優しく包み込む場所。どうあっても、その戦いからは逃げることは無い。

 




翔鶴はこういう時にメンタルに悪影響ありそうなイメージ。
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