最後の自由な一日を、軽めのトレーニングで過ごす深雪達。最初は伊203から潜水での活動の効率的な方法を聞きつつ、綾波に託されたアドバイスを読んで、今後の戦い方を学ぶ。丸一日は深海棲艦の姿で過ごすことで、決戦の際にも強く活動出来るように慣らしていくことに。
一昨日昨日と演習で基本は深海棲艦の姿であったことから、今の姿には大分慣れてはいる。しかし、それだけでは足りない。距離感、間合いなどをきちんと把握しておくことは重要であるため、限りある時間を有意義に使うためにも、やれることは全てやっておく。
昼食はいつも通り。何か特別なモノを食べるとか、そういうことはない。普段と同じ生活を続けることで、リズムを崩さずに決戦に挑む。
「あと半日か……綾波の助言は頭に叩き込むとして、筋トレをそこそこにやって、あとは……」
「ゆっくり休むのもいいかもしれないのです。疲れを残さないように」
「かもな。夜はしっかり寝るとして、昼からも休むのは全然アリか」
過剰に疲れようとは思ってはいない。グッスリ眠るために程よく疲れて、万全の状態を作っていきたい。
「そっちはどうよ」
「うん、イメトレもいい感じ。あっちがどう来るかわからなくても、やれそうなことはしっかりやっていこうって思ってね」
昼食を共にしているグレカーレと白雲も、最後にやれそうなことはしっかり出来ているようである。戦場でどう立ち回るか、何をされたらどうするかを先に考えておくことで、それをされた時にいち早く動けるようにしておこうというイメージトレーニングである。
グレカーレは特に、自分の持つ力が戦闘にはほぼ役に立たないことがわかっているため、全て実力で解決するためにも躍起である。
「演習でさ、イナヅマがいろいろ見せてくれたじゃん。だから、そこを考えて敵の行動パターンとか計算したりとかしてね」
「グレ様の計算は、白雲も目を見張るモノでございます。まさにそう来るのではと思えるような予想の数々は、素晴らしいという他ありませぬ」
白雲も絶賛。あとから共有しておこうとまで話すほどであった。
各々が自分のため、仲間のために準備を惜しまない。それは、戦場に出る者だけでなく、裏方として戦闘をサポートする者もである。
工廠では、冬月と涼月により提供された兵装アイディアをカタチにしたモノが次々と開発されていた。ある程度実現可能なモノ、運用が可能そうなモノを優先し、それを装備出来そうな者も見当をつけて、多少のテストもしつつ。
テストと言っても、航行中のうみどりの内部で出来ることは高が知れている。それを手にして行動が出来るか、運用に危険性が無いかどうかとなる。
「やはり、大発に搭載して、逐一使うというのがよさそうですね。サイズが大きすぎますし」
「ですね。重量問題はどうとでも出来るとはいえ、サイズがよろしくありません」
明石と丹陽がそれについては管理している。明石が開発しては、丹陽が適切な運用方法を考案し、誰に使ってもらうか、どのように使うかを決定していた。
だが、冬月考案の兵装は、威力などを考えるとどうしてもサイズが大きくなっていく。そのわかりやすい例が、超威力の爆雷だ。ドラム缶サイズの爆雷となると、どうしてもその重量は酷いモノとなってしまう。
「明石さん、それ持てます?」
「『工廠』として持ち上げることは出来ますけど、運用は出来ませんね。そもそも私、爆雷使えませんし」
「ですよね。兵装として使えるようにしても、扱えるかどうかは話が変わります。そういう点では、やはり適任は……」
ちらりと丹陽が目配せする先にいるのは、想定通りの艦娘、睦月。
「こ、これを睦月が使うにゃし?」
「はい、睦月さんでしか扱えません。『軽量化』、便利すぎますよ」
丹陽がニコニコしながら伝えると、睦月は少々青い顔をしていた。前線に出るのが初めてというわけではない。トーチカ攻略の際にはキーパーソンともなったのだから、度胸がないというわけでもない。
初めてなのは、この兵装。どう扱えばいいかはわかるが、本当にそうしていいかはその戦場の流れ次第。
「睦月さんには、ここで開発された兵装をコレでもかと詰め込んだ専用大発を装備してもらいます」
「専用大発……清霜ちゃんのアレみたいな?」
「ですね、かなり近いです。清霜さんの戦装大発は小型の戦艦みたいなモノです。駆逐艦の手で、戦艦の兵装を完全に取り回すための装備になります。アレは戦艦の知識を完璧に持っている必要があるので、清霜さんの専用機みたいなモノです。今回のモノは、新たな兵装を睦月さんが全て扱えるように仕込みます」
扱うモノに専門知識は必要ない。ただひたすら火力があるので重たいというだけである。
「ちなみに睦月さん、それ、持てますよね?」
「まぁ、これくらいなら余裕にゃし」
件のドラム缶サイズの爆雷は、睦月が片手で軽々持ち上げている。『軽量化』の力によって、睦月にとっては発泡スチロールで出来ているようなモノ。ただし、手を離したら重さは戻ってくるので、取り扱いは慎重に。
「持ちやすいように取っ手もつけておきました」
「うん、そのおかげでカバンでも持ってる感じなのね。で、これを海に放り投げろってことだよね?」
「はい、海中に潜まれても、これなら炙り出せるでしょう。それ相応に火力があります」
「うん、これ見ればわかるぞよ。そのまま爆発したら、爆雷何十個分の爆発が起きるのかなコレ……」
間近で爆発されたら、それこそ間違いのない死を与えられる程の超火力。洒落にならない威力なのは考えずともわかる。
「これ以外にも、大発を守るためのバルジで魚雷からの攻撃もある程度守ります。冬月さん発案でして、あらゆる兵装を搭載するために強度を上げる大発のための装甲ですね」
「装甲艇にゃ?」
「近いですが、運用方針が完全に違います。攻撃性能はありません。いや、その攻撃をするのは睦月さん本人なんですが」
それは『大装甲艇』と名付けられ、秘密兵器搭載型大発動艇として、決戦では重宝されることになる。
執務室では、戦闘環境の整理。襟帆鎮守府周辺の海域を調査し、より戦いやすい状況を考える。
「出洲の島はおそらくココね。地図に載っていない人工島とか作られていたら話が変わるけれど」
「襟帆鎮守府がグルになっているなら、隠蔽は余裕で出来るのよね。この辺りは島が多いように見えるわ」
「どれがそれと言えないのが恐ろしいわ。本拠地を強襲ということも難しそうよ」
伊豆提督とイリスが海図を見ながら話し合う。今恐れているのは、襟帆鎮守府のカテゴリーK、そして従わざるを得ないカテゴリーCとの戦闘中に、出洲からの挟撃を受けることである。
鎮守府から離れているとはいえ、離れ小島が多い地形ということは、何処からか突如向かってくる可能性は大いにあり得るのだ。
いつ戦うかを予告しているのだから、あちらだって準備万端。挟撃のタイミングだって測れる。もしかしたら、出洲自身が何かを隠すことなく真正面から待ち構えている可能性も無くは無いが、だとしたら他の面々が罠を仕掛けてくるかもしれない。
大ボスを囮にして、カテゴリーK達が海中から襲いかかる。それもまたあり得る話である。
「みんなが出撃している間に、うみどり本体を狙ってくるという可能性も視野に入れなくちゃいけないわ」
「タシュケントがそこをカバーしてくれると話しているけれど、その範囲の広さは大丈夫かしら。こちらからも防衛線は作るわよね」
「勿論。トラちゃんや、舞亞ちゃん、恵理ちゃんには、基本はうみどり防衛に徹してもらうわ。その上で、対潜技術の高い子にはいてもらわないといけないわよね」
それこそ、出洲が海中経由で真っ先にうみどりを狙うなんてことも考えられるのだから厄介である。海中から来れる者は誰1人として海上に上がらず、ひたすら海中から拠点を攻撃する。それもまた戦略であり、狡いとは言えない戦術だ。
可能ならば拠点から落とすというのは、伊豆提督だって考える。やるかやらないかは別としてだ。
海中からの攻撃が一番厄介となれば、対潜技術で拠点を守ることは必須。普通の鎮守府と違い、うみどりが艦であるという点が、明確なデメリットとなっている。
最悪、その場からうみどりだけを撤退させるということも考えられるのだが、大きな的であることには変わりなく、逃げ果せる余裕があるかと言われれば、そんなことはない。そうこうしているうちに攻撃を受け続けて沈められるのがオチである。
そうならないように、可能な限り対策は取っているのだが。
「真面目なのか狡猾なのかわからないのよね……出洲は。正々堂々を重んじている割には、いきなり仕掛けてきたりもするし、挨拶までしてくるのに、一方的な蹂躙をしようとするし」
「出来損ないを街中で自爆させもしたしね」
「ええ……阿手が噛んでた可能性もあるけれど、それでもね。だから、どんなカタチで来られても対応出来るように、考えられることは全部考えておかないとね」
昼目提督とも通信で話しながら、決戦での戦術を考えていくことになる。それが考えすぎに終わったとしても、やるべきことはやるのだ。
各々続けていく決戦への準備。それが功を奏するかは、今の段階ではわからない。
もうその時は近い