後始末屋の特異点   作:緋寺

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決戦前夜

 各々自由に決戦に向けての準備をしていき、時間は夕暮れ時、そして夜になっていく。泣いても笑っても、明日には決戦の火蓋が切られるのだ。夕食時の食堂も、少しずつ緊張感が漂い始めている。

 現在の航行速度からして、襟帆鎮守府近海に到着するのは明日の午前中。朝食くらいは食べられそうではある。余裕があるとは言わないが、何かあっては困るため、この食堂で最後のブリーフィングとなる。

 

 食事を美味しく食べた後、伊豆提督が艦娘達の前に立った。

 

「さて、みんな、明日はついに……決着の時よ」

 

 伊豆提督の言葉に、息が詰まるような雰囲気。今でこそこうして団欒の時を迎えているが、明日は血で血を洗うような激戦が繰り広げられる可能性が非常に高いのだ。こうしてみんな揃って食事をするのも、下手をしたら最後になってしまうかもしれない。そんなことにならないように、あらゆる準備を進めているが、未だわからないことばかりであることは間違いではないため、最悪を意識しつつも、前を向いて挑む。

 

「明日の朝に余裕がないかもしれないから、今このタイミングで話をさせてもらうわね。貴女達なら、必ず勝利することが出来るんだから」

 

 伊豆提督は常に否定的なことは言わない。士気を下げるようなことは絶対にしない。むしろ、どんなことがあってもポジティブに進めるように、笑顔を絶やさずに語っていく。

 

「この後話すことは、戦いにはとても重要なコト。アタシ達もいろいろと作戦を立ててみたんだけれど、やっぱり出洲がどう出てくるかわからないの。だから、出来ることを一通り、本当に全部考えてみたわ」

 

 こう来たらこう返す、というのを何パターンも考えてきたという伊豆提督。そもそも襟帆鎮守府の海域に到着した時点で待ち構えているかもしれなければ、向かったところで海中に潜んでいるかもしれない。挟撃もあり得るし、むしろ到着前に奇襲だってあり得る。

 どんな手段で来ても、そうされるかもしれないという可能性が尽きない。出洲の言動が支離滅裂だからこそ、その恐れが払拭出来ないのだ。

 

「ちょっと覚えてもらうことが多くなるかもしれないけれど、ひとまず全部話すわね。最終的にはその場で考えることになるとは思うけれど、大まかな行動指針があった方がやりやすいと思うわ。とはいえ、アタシ達の考えた策が必ずしも正しいとは限らない。ダメだと思ったらすぐに撤回してくれて構わないから」

 

 現場にいるわけでもない者が考えた作戦が、絶対に上手く行くとは思っていない。それが常識的なことであればいいのだが、今回は常識で考えてはいけないルートが盛り沢山すぎて、提督という立場であっても判断が難しく、絶対と言えないことばかり。

 何より、あちらの戦力が未だに全容が解明されているわけでもないのが苦しいところである。艦種詐欺をして、さらに艤装が改造されているという情報は手に入っていても、それ以外にも何かしてこないとは限らない。

 

「アタシ達も当然、戦況を見ながら逐一やれそうなことは考えていくわ。見なくちゃわからないことも沢山あると思う。そんな状況で戦ってもらうのはごめんなさいね」

 

 伊豆提督の謝罪に艦娘達は少し慌てたが、しかし伊豆提督は作戦前にはこういうことをよく言う人だ。一旦騒ぐのは控える。

 

「キーパーソンとなるのは、どうしても深雪ちゃんと電ちゃんとなってしまうわ。特異点の力に頼り切ることはなくても、あちらが狙ってくるのは間違いなく特異点だもの。ある意味では囮にもなる。戦いの中心にいるのは、貴女達になるわ」

「そう、だよな。あいつらはあたしを狙ってんだよな。最初の時もそうだったけどさ」

「特異点は生きているだけで罪だなんて妄言をしているんだもの。この決戦も、それが目当て。むしろ、真っ先に深雪ちゃんだけを狙ってくることも考えられるわ」

 

 その深雪は、今回は基本海中での戦いを考えている。しかし、出洲や黒深雪が海上で何かをするのならば、そちらを優先する可能性は高め。海中にいれば、あちらから深雪の方に寄ってきそうではあるのだが、戦いやすさだけで言うなら海上の方が間違いない。

 今回の戦いは襟帆鎮守府の襲撃ではあるが、本題は出洲の撃破だ。それでこれまでのことは全て終わる。無論、カテゴリーKの対処も残るし、各地に点在するであろう出洲の仲間達もどうにかしなくてはならないが、大きな障害はそれで取り除かれるはず。

 

「あたしは少ない海の中の戦力で行くつもりなんだけどさ、ハルカちゃんの策だとどんな感じかな」

「アタシとしてもそちらの方面よ。あちら側のカテゴリーKが全員潜水出来るも聞いているから、海中の戦力を強めた方がいいとは思っていたわ。むしろ、襟帆鎮守府のカテゴリーC、普通の艦娘は潜れないのだから、そちらを囮にして海上の艦娘を狙うというのも考えているくらいよ」

 

 味方を犠牲にしてまで攻撃してくるかどうかはわからないが、戦略としてそういうことが出来るという時点で視野には入れておかねばならない。変なところで正々堂々と向かってくることを考えると、人質を取るようなことはしなそうだが、それが全員の意思かもわからないし、心変わりをするかもしれない。何せ、特異点の始末のために手段を選ばないところもある。その割には、阿手との戦いで後ろから刺すような真似もしなければ、潜水艦隊に手出しすらしなかった。本当に何を考えているかわからない。

 

「これはアタシのエゴかもしれないけれど、あちらには狡い手段は使えない。鬼の首を取ったかのように文句が言えるでしょう。だから、あくまでも正々堂々よ」

 

 これは満場一致。阿手達は特にその傾向があったので、出洲に無いとしてもやり方自体はそれを守る方針。

 特異点は卑怯だという言い訳をさせないためにも、これは必要なこと。嫌な縛りを課せられるが、それも仕方ない。そもそも、卑怯な真似などするつもりもないのだが。

 

「それじゃあ、これから話せることは全部話すわ。最終的には臨機応変、よろしくお願いするわね」

 

 艦娘達の気持ちは一つだ。明日からの戦い、必ず勝利して終わらせてやると。

 

 

 

 

 伊豆提督の組み立てた作戦を一通り聞き、最後の夜。長風呂に興じる者もいれば、もう寝てしまおうと自室に戻っている者もいる。

 深雪はといえば、風呂上がりにデッキへと上がっていた。夜の闇の中、駆けるうみどりの風を受けながら身体を冷まし、明日への決意を固める時間にする。

 隣には当然、電もいるし、グレカーレや白雲もお供していた。最後はやはり、この仲間達でこのひと時を過ごす。

 

「泣いても笑っても、明日でおしまいだ。ハルカちゃんの作戦、全部詰め込んだか?」

「なのです。おおよそは覚えたので大丈夫なのです」

「ミユキはどうなのさー」

「あたしがやるべきことは少ないから、ちゃんと覚えてるぜ」

「流石はお姉様。明日も期待できますね」

 

 何の気ない話であっても、やはり少しは緊張を孕んでいるのは間違いなかった。先延ばしにしていたわけではなくても、ズルズルと後になっていった出洲との決着。島の後始末や軍港での最後の仕上げなどもあり、時間がかかりにかかったその時。だが、ついにそれが、明日に迫ってきているのだ。

 

「……勝てると思うか?」

 

 深雪にしては少し弱気な言葉が出る。

 

「正直、わからないのです」

 

 電はそうとしか返せない。自分達の勝利を信じることはまだ難しい。敵が未知数であることが、そこに繋がる。

 そもそも深雪と電は、一度完敗を喫しているのだ。その時は未熟であったし、深雪が初めて特異点の力に覚醒したことでギリギリ撤退を選ばせたくらい。あのまま続いていたら確実に負けていたし、うみどり自体も潰されていた可能性がある。

 深雪にも電にも、その時の印象が深く刻まれていた。島の地下で再会した時には戦うこともなかったが、やはり戦闘は避けたいと思えるほどだった。あの伊203ですら、余計なことをしないでおこうと判断したくらいだ。

 

「でも、勝たなくちゃダメだよね」

「グレ様の仰る通り、彼奴が強大な力を持っていようが、我々のやることは変わりはしません」

「そうそう。島のババアみたいなクソザコと違うのはわかるけどさ、でも、あたし達は相手が何であろうが関係ないよ」

 

 印象がまだ薄いグレカーレと白雲は、真っ直ぐそう言ってのける。そんな言葉に、深雪も電も少し胸を撫で下ろした。

 自分達が自信を持てないだけで、周りはやる気満々だ。恐ろしい敵であっても、ここまでずっと向き合い、立ち向かい、そして打ち勝ってきた。

 

 関係ない。ただ、いつも通りやるだけ。

 

「だよな、うん、そうだそうだ。弱音は吐きたくねぇけどさ、やっぱアイツはわかんねぇことばっかだから、マジで勝てるか不安ではあったんだよ。でも、大丈夫だ大丈夫。やってやるぜ」

「……なのです。みんなと一緒なら、やれるのです。電1人で戦うわけじゃない、深雪ちゃんも、みんなもいるのです。だから、全力で、全身全霊で、立ち向かうのです」

「特異点だから死ねだなんて、もう二度と言わせねぇ」

 

 笑顔で、拳を突き上げる。夜風で冷やされた身体が、別の理由で火照ってきたようだった。

 

 

 

 

 夜は更け、その時が近付く。眠れないだなんて繊細な者はもういない。ただ、勝つのみ。

 




次回より、ついに始まります。最終章、出洲決戦編です。
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