後始末屋の特異点   作:緋寺

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決戦当日

 翌朝、天気予想で言われていた通りの曇り空。外を見てみても、陽の光など見えず、雲で空は覆われていた。雨が降るかもわからない微妙な天気は、眩しさで視界を遮ることはなくても、煙幕を使うとなるとまた話が変わってくる環境。

 うみどりはまだ航行中。既に到着しているというわけでもなく、やはり午前中という範囲で少しブレている到着時間となっている。

 

 深雪は総員起こしよりも前に目が覚めた。電もほぼ同じタイミングだった。お互い向かい合い、その時が来たのだと実感して、二度寝など考えることなく、準備を始めた。

 

「来たな、ついに」

「もう、先延ばしにも出来ないのです」

 

 制服に着替えながら、気合を入れていく。運命の日とも言えるような今日、まともに乗り越えて、明日を迎えることが一番の目的。

 勿論勝ちたいし、黒深雪を筆頭にしたカテゴリーK達もどうにかしたい。救えるモノなら救いたいし、そうでなくても止めたい。その全てを、この1日でこなさなくてはいけない。

 プレッシャーはなかなかのモノだ。負けが許されないのはいつものことだが、阿手の時と同様、それが直接世界に繋がる。背負うモノが大きすぎて、緊張感が半端ではない。

 

「やれるよ、あたし達なら」

「なのです」

 

 だが、2人はこれまでとは変わらない。特異点からというわけではない。後始末屋だから、ここで過去の亡霊を片付けなければならないという使命がある。嫌でやっているわけではない。やりたいと思っているからやる。そうしなければ世界が破滅に向かうのもわかっているのだから。

 これまでの努力は無駄にならない。勝つためにここまで用意してきたのだ。だから、あとは全てを出し尽くして、ぶつけるだけ。

 

 しっかり整えて、あとは向かうのみ。その前に、部屋に飾られた枯れない彼岸花と杏のお守りに目を向ける。ただそこにあるだけでも、何処か力強く背中を押してくれるような存在感だった。

 

「行くか」

「なのです!」

 

 心の中で、行ってくると彼岸花とお守りに伝え、部屋を後にする。またこの部屋に帰ってくるのだという気持ちを胸に。

 

 

 

 

 朝食の場は、神妙な面持ちの者ばかり──というわけではなく、皆がいつものようにワイワイと食事をする風景であった。今日は大変な作業なのだから、力を付けなくちゃいけないと、セレスは少しだけ多めの料理を用意し、それに舌鼓を打つ。

 食べ過ぎたら動けないし、少なすぎるとガス欠を起こす。その丁度いい塩梅を用意し、提供するところが、セレスの探究者としての腕。

 

「あれ、ミユキ、まだ深海棲艦になってないの?」

 

 食べながら聞くグレカーレ。

 

「ギリギリで変わるつもりだ。昨日まで慣らしてきたけど、やっぱ消耗が激しいからな。今は抑えてんだよ」

「省エネってことね。あんまり長期戦にならないといいねぇ」

「まぁな。ただ、ハルカちゃんが言ってたろ、あっちは最初から長期戦狙いで来るかもしれねぇって」

 

 それは、伊豆提督が考えていた、あちらがやりそうな作戦の1つ、消耗を狙った長期戦。襟帆鎮守府からしてみれば籠城戦である。

 あちらはすぐそこに拠点があるため、補給しながらの戦いが可能である。うみどりも似たようなモノだが、海の上にあるという点から、陸にある鎮守府と比べれば防衛能力が格段に低い。人数差でどうにか出来るかもわからない時点で、そこが不利なところがある。

 そこから、補給をし続けながらの長期戦でうみどりを消耗させていき、そのままジリ貧に持っていくという戦術。最初は襟帆鎮守府の艦娘のみと戦っている中でも、途中から出洲本人が登場して、少し消耗したところからひっくり返そうとする、みたいなことだって考えられるのだ。

 それを考えると、少しだけでも消耗が抑えられる手段を取るべき。一度深海棲艦化したら、そこからは勝利まで艦娘には戻らないだろう。だが、その姿を取るタイミングは、本当にギリギリまで控えることとした。電は装備の都合上、待機場所も変える。

 

「逆に、短期決戦で来た場合でも、変身はすぐに出来るのです。ご飯を食べ終えたら、工廠で待機することになるのです」

「なるほど、鎮守府に到着する前に襲撃を受ける可能性も充分ございます。これもまた、昨日に伝えられた敵の取り得る策。何事も万全でなければなりませぬ」

 

 待ちに徹するのとは逆に、準備をさせる間もなく攻めてくるという可能性も考えて、食事後はすぐに準備に入る。それもあるため、満腹という状態にはしない。

 

 特に恐ろしいのは、海域に機雷がばら撒かれているなどの危険性。準備期間を相手に渡しているということもあるため、それくらいの準備は余裕にある。そもそもうみどりを近付けさせない、

 そうなった場合、そこからの出撃、もしくは機雷の撤去が最優先となる。その間に襲撃されるなんて策を取られる可能性もあるのだ。

 

「真正面から戦うっつっても、それくらいの罠は仕掛けててもおかしくないよな。それは正攻法だ。あたしらを悪と言うなら、それもやるべきことだろうよ」

「まぁねぇ。こっちは動いてるからそういうこと仕掛けられないけど、向こうは陸上の拠点だからねぇ。やれるならやっちゃうなぁ」

「そうならないことを祈るしかないのです。最悪は……煙幕で全部無力化……なのです?」

「それはお姉様と電様の消耗に繋がるでしょう。むしろ、それが狙いともなりますか。いざとなれば、この白雲が全てを凍らせてしまいましょう」

 

 機雷の設置に関しても既に伊豆提督は先読みしている。撤去の手段は、深雪達に頼るモノではなく、地道な手作業となるのだが、そこは後始末屋、爆発物の撤去もお手の物である。

 しかし、それがただの機雷であるならば。遠隔操作可能で近付いたら爆発するなんてことがあったら困る。その場合を考えると、機雷拾いの一手目は、おそらく夕立である。

 

 いいように使われてるっぽい! と悲鳴が聞こえそうだが、本人は胸を張っていそうである。

 

「っし、ごちそうさん、やっぱセレスの飯は気合が入るぜ」

「気持ちも充分入ったのです。セレスさん、お昼ご飯もよろしくお願いするのです」

「エエ、頑張ッテラッシャイ。私ハココデ、貴女達ノ帰リヲ、オ昼御飯ヲ作ッテ待ッテルワ。食材ヲ無駄ニシナイデチョウダイネ」

 

 セレスらしい激励。また食べに来い、つまりは生きて帰ってこいと伝えた。当たり前だと笑顔で返して、深雪達は工廠へと向かう。その背を追うセレスの目に、心配事なんて一つも無かった。

 

 

 

 

 工廠では、決戦の最後の準備が行われている。特に電の艤装には、本来扱いが難しいような兵装もしっかり装備されていた。

 いろいろ考えた結果、死角をなるべく少なくしつつ、取り回しやすくした中口径の主砲を装備。だがそれは、最高峰とも言える20.3cm連装砲、その試製4号砲である。三隈の得意兵装だが、電用に緊急で開発改造までしてのけていた。明石の『工廠』としての力を最大限発揮させた、渾身の逸品。

 

「今すぐは持てないので、ギリギリまでここで待機するのです」

「まずはあたしが行くから、電はゆっくり準備してから来てくれりゃいいぜ」

「はい、それで大丈夫です。すぐに特異点の力が必要になるかもわかりませんしね」

 

 電はどうしても準備に時間がかかるため、何かあっても先行するのは深雪。後から追うカタチとなる。電もそれを良しとしており、艤装のすぐ近くには主任と丹陽が控えている。

 丹陽は全員の出撃を見届けた後、明石に造ってもらった専用の作戦指令室のような場所へ。空母隊の艦載機に搭載した戦況を監視するカメラを伊豆提督と共に確認し、可能な限りの指示を出すことに専念する。

 最後まで艤装は? と言い続けていたようだが、本人としてもそれは冗談のように使っており、明石はまるでボケ老人を遇らうかのように、もう使えないでしょうとさらっと流していた。そんなやりとりも仲のいい証拠でもあるのだが。

 

 深雪は先んじて艤装を装備。深海棲艦化のみを後に回して、仲間達と同じように、いつでも出撃出来るように準備万端。一度息を落ち着けて、その時を待つ。

 

「……アイツが先陣切ってくんのかな」

 

 気になるのは、やはり黒深雪。出洲か黒深雪かで言えば、おそらく後者の方が先に来る可能性は高い。囮に使われているとかではなく、本人が望んで、真っ先に決着をつけに来る。

 

「かも、しれないのです。でも」

「ああ、アイツの事情は考えねぇよ。あたしがやりたいようにやって、救えるなら救ってやるさ」

 

 改めて決意を固めて、その時を待った。

 

 

 

 

 そして──

 

『襟帆鎮守府が視界に入ったわ。うみどりはここで停まるから、みんな、準備して』

 

 イリスの放送により、その時がやってきた。

 




待ち構えているようなことはなかったけど、まだわからない。
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